ゲームアバターから学ぶ、インターフェイスとユーザーの関係性

Jaime Banks

ウェストバージニア大学インタラクションラボのコミュニケーション研究における助教授。人とテクノロジーの関係性についての研究を専門とする。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Player and Avatar: Video Game Interactions For Web UX Designers

インターフェイスは、私たちのデジタルな生活において、ますます身近な存在となっています。インターフェイスは、技術の使い方やユーザー同士の交流のあり方に大きな影響を与えます。

私とNickは、ソーシャルな関係に長らく関心を寄せてきました。ウエストバージニア大学の研究者として、テーマの研究対象を探してきましたが、ゲームとアバターに着目して研究を行うことに決めました。

ゲームには、ゲーム世界の分身として、プレイヤーのアバターを作成するものが多くあります。こういったゲーム内でプレイヤーが、自分自身の個性を表現しようとアバターを(若干の装飾を加えて)作成するのは、自然なことでしょう。

初心者プレイヤーのNickは、アバターをゲームをプレイするための、単純なツールとして見ている。
ベテランプレイヤーのJamieは、アバターをそれぞれ特有の性格をもったものとしてとらえている。

社会科学者たちは、ゲームのプレイヤーは自分がゲームの世界の一員であるように感じており、心理学的には、アバターと自分自身を重ね合わせていると、長らく考えてきました。人気ゲームのほとんどのインターフェイスではこの効果が見られます。プレイヤーはアバターの見た目を多くの選択肢からカスタマイズし、アバターの行動をほぼ完全にコントロールできます。

これらの理由から、ゲームは効果的なUXデザインの、もっとも良いお手本の1つと、考えられています。私たちの研究では、ユーザーとテクノロジーの間の複雑なソーシャルな関係を理解するのに、ゲームが最良の環境の1つとなりうるのではないかと考えています。

プレイヤーとアバターの関係性

過去数年、私たちの研究チームは3,000人以上のゲームプレイヤーを対象に、インタビュー調査を行ってきました。その調査をもとにしたさまざまな研究では、カスタマイズ不可のアバターから完全にユーザーがカスタマイズできるアバターまで、プレイヤーとアバターの関係性の理解に焦点を当ててきました。

その結果、以下の4通りの基本的な関係性のタイプを発見しました。

  1. アバターを物体としてとらえる。プレイヤーはアバターを、勝利やゲームクリアを目的とした、ゲーム中の1つのツールとしてとらえています。良い例として、テトリスがあります。テトリスで、プレイヤーは落下してくるカラフルなブロックをコントロールし、ブロックがぴったりはまるように並べていきます。ブロックはプレイヤーの代わり、もしくはプレイヤーを拡張したものというよりは二次元的なピクセルで作成された単なる物体の集まりです。
  2. アバターを自分自身としてとらえる。プレイヤーはアバターを、ゲームにおいて友人や知らないユーザーと交流するためのプレイヤーの代わり、プレイヤーを拡張したものととらえています。Second Lifeの例を考えてみましょう。多くのプレイヤーが、デジタル世界において自分の代わりとなる人格をもった(理想的とさえ言えるかも知れません)存在を完璧に作りこむために緻密な設定をおこないます。
  3. アバターを共同作業者としてとらえる。プレイヤーは自身とアバターをゲーム中のチャレンジに立ち向かったり、問題を解決する、共に努力し合う共同作業者としてとらえます。たとえば、World of Warcraftのプレイヤーの中には、自分の性格やメンタルに関する問題対処するものとして、キャラクターを操作していると答えた人もいました。
  4. アバターを他者としてとらえる。プレイヤーはアバターを、ゲームをプレイする上でのパートナーであり、社会的な主体ととらえます。このタイプはゲームの世界により没頭する傾向にあります。インディーズゲームのSuper Meat Boyの例では、プレイヤーはMeat Boyを操作して(キューブ型のお肉のキャラクターです)、ガールフレンドのBandage Girlを救出します。プレイヤーは、アバターを操作しているのですが、そのキューブ型のモンスターのような外見と、人間のスキルを超越した能力、感情表現の描写などにより、プレイヤーはそのキャラクターが人間であるかのように認識します。


キューブの形をしたMeat Boy。この外見に関わらず、人間のように感じられる。

4つのタイプの順序とソーシャル性

これら4つのタイプの順序が重要です。上から順にプレイヤーとアバターの関係(または広義的に言えば、人間とテクノロジーの関係)のソーシャル性の度合いが増します。「もの」として関わる段階では、ソーシャル性はなく、感情や感覚の要素はほとんど存在しません。

逆に、「他者」として関わる段階では、アバター(またはテクノロジー)への感情移入の度合は増し、実社会におけるソーシャルな関わりと似たものになります。また、この「他者」の段階では、アバターが、プレイヤーが操作できる対象として認知されているという点でも注目すべきことです。

これは大変興味深いことで、この関係性は家族心理学者のMurray Bowenが提唱する自己分化の理論に大変近い性格をもっています。この自己分化とは、他者への共感と社会的結びつきに不可欠な、他者を自分とは異なる存在と認知する行為を指します。

テクノロジー(ここではアバター)と人間との関係性。プレイヤーが、どれほど気に入っているか、どれほど「人間」として見ているか、どれほど現実世界のもののように認識しているか、どれくらい使いこなしているかなどの評価点により、関係性が左右されます(より詳しく知りたい人は、 プレイヤーとアバターの関係性についての、最新の研究を読んでください)

インタラクションデザインにおける関係性のタイプ

それでは、デザインはどのようにソーシャル性に影響を与えるのでしょうか?

私たちのソーシャルメディアのアプリとデザインに関する著書の中でも事例をいくつか挙げましたが、ここでもその関係性について簡単に紹介します。

「もの」タイプのデザイン

デザイナーは、シンプルで無駄のないデザインを志向します。そこに、ソーシャル的な要素はほとんどありません。このインターフェイスの場合は、ベーシックなパスワード入力や、シンプルなデータベースの表示など、機能が前面に出たデザインになります。シンプルなデザインはユーザーにとって、より使いやすいものです。ユーザーは、キャラクターによって表示されるようなインターフェイスより、機能や効率性などの点を重視する傾向があります。通常、「もの」タイプのデザインは、短期間(または1回限りの使用で終わるような)のインタラクションに適用されます。

「自分自身」タイプのデザイン

デザイナーは、全体のユーザー体験をカスタマイズ可能にするべきです。つまり、ユーザーを特徴づけるためのデザインが重要となります。パーソナライズのための施策は、スクリーンの名前や画像の設定など基礎的なレベルから実行されます。さらに、ユーザーに考えさせることなくユーザーの傾向から、ユーザーの意図やユースケースを効果的に予測しオートメーション化することも含まれるでしょう。このタイプのインターフェイスは、ユーザーのパーソナリティの拡張であると解釈されるべきです。ユーザーのことを理解し、ユーザーに応じてカスタマイズされるものであるべきです。

「共同作業者」タイプのデザイン

効果的なテクノロジーとは、テクノロジーとユーザーの能力が交差する点に存在するのかもしれません。つまり、テクノロジーがユーザーの欠点(効率性、精密性、耐久性)を補完し、ユーザーがテクノロジーの欠点(創作力、危険の判断、共感能力など)を補完することが有用ではないかという意味です。たとえば、人間であるユーザーが得意としない作業(膨大なデータ量を扱う複雑な計算作業)をスムーズに処理するビッグデータ分析プラットフォームと、コンピューターが得意でない作業(データを特定の条件下で効果的なデータとして解釈する作業)を実行するツールとの組み合わせが想定できます。

「他者」タイプのデザイン

「他者」タイプのデザインには、人間による制御をなくした、まるで人間のようなインターフェースが要求されます。言い換えると、音声や表情・ジェスチャーによる表現方法、身体的な動き、自然言語処理、人工知能などで人間らしい特徴をデザインに加えるということです。こうすることで、ユーザーはテクノロジーに対してより自然に接し、感情移入したり協力的なやり取りをしたりするようになります。Siriのようなインターフェイスは、ユーザーがツールに対して親近感を持つ(それも異常なほどに)分かりやすい事例と言えます。

まとめ

デジタルテクノロジーに対して、私たちはたくさんの時間を費やすようになり、インターフェイスと日常生活の境界はあいまいになりつつあります。その結果、ユーザーとインターフェイスの関係は、以前では考えられなかったほど、ソーシャルになっています。

このようなソーシャルな関係の可能性を理解することは、デザイナーがよりよいUIやUXを作るための助けになるでしょう。

ソーシャルなデザインの最高のお手本としては、Appleが実施したSiriの回答に関する改良が挙げられます。ユーザーのDVや性的暴行に関する質問に対して、「私は理解できません」や「私はあなたが何を言ってるのか分かりません」と機械的だった回答をソーシャルな回答へと変更しました。ユーザーに対し同情を示したり、役立つ関連情報へ案内するようになったのです。

ソーシャルな関係性の可能性を探ることは、すべてのユーザーインターフェイスがソーシャルなものであるべきと解釈すべきではありません。最後にUXのデザイナーに対して、ソーシャルなデザインで考慮すべきことを提示し、記事を締めくくります。

  1. そのインターフェイスはソーシャルな関係を作る上で有益なものでしょうか? UXデザイナーは、人間らしい「感じ」を導入することで、エンゲージメントを獲得することが可能かどうか考慮する必要があります。音声認識のような人間的な要素を用いたインターフェイスが利益をもたらします。一方で、テキストのような情報量の少ない形式のインターフェイスは共感を得れないかも知れません。 
  2. いまの課題は、ソーシャルな関係が有益に働くものでしょうか? デザイナーは本質を知る必要があります。たとえばユーザーに信頼してもらう必要があるインターフェイスでは、ソーシャルな関係を活用することは有効だと言えます。しかし、たとえばガソリンや航空券の価格検索などのケースでは、ソーシャルな関係性を導入するのはちょっと過剰かもしれません。
  3. エンドユーザーが、ソーシャルな関係性から利益を得ることができるでしょうか? ほとんどの人は友人を持ち、会話を楽しむことを良しとしていると思います。しかし、すべてのユーザーが自分のことを愛していると言ってくれる人工知能に応答するのを心地よく感じるわけではないでしょう。

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