2016年はチャットボットの年と言えました。Microsoft、Facebook、Google、Samsungがそろってチャットボットをリリースし、Webにおける人工知能の重要さを実証しました。
そもそも、チャットボットとは一体何のことで、何のために利用できるのでしょうか? Matt Schlicht氏の「Chatbot Magazine」では、「チャットボットとは、ユーザーとチャット・インターフェースを用いて対話するサービスです。フォームから機能を提供するものまで種類はさまざまであり、どんな主要なチャット製品にも実装できます。」と述べられています。
チャットボットの実用的な使用方法
計画を立てる
企画に携わるユーザーの中には、週ごとのスケジューリングがもっとも骨が折れる作業のひとつだと感じている人も多いでしょう。チャットボットは他の人やボットと調整してカレンダーシステムを自動化することができます。調整し終わると、ボットはその週のスケジュールをユーザーに送信します。ユーザーはチャットボットが忙しい時間帯を避けてスケジュールを立てられるように、その時間をブロックすることも可能です。
一例としてMeekanが挙げられます。Meekanはランチのスケジュールを立て、カレンダーを確認し、会議室の予約をし、飛行機を探すことができます。Slackや画面上でのMeekanは理想的な助手のようにみえます。
オンボーディング
チャットボットは、新規ユーザーに対するアプリやWebサイトのイントロダクションを簡単にすることができます。チャットボットが実装されていれば、ボットが即座に対応することができ、より優れたUXを提供できるでしょう。これによって、24時間体制で顧客サポートをすることなくビジネスを運営することができます。
Dolores Landinghamは、18F(編注:アメリカ共通役務庁付けのデザインオフィス)のSlackにおける社員向けのオンボーディングボットです。このボットはWest Wingのキャラクターにちなんで名づけられ、異なる時間帯にいるユーザーをサポートできるように作られています。ユーザーは「利益管理」か「法務担当」か選ぶことができるので、情報過多で手間取ることはないでしょう。Doloresがいれば、新しい仕事を始める際に、社員は何時間も対面トレーニングをしたり、山のような書類手続きをしたりする必要がなくなります。
Webサイトにユーザーを繋げる
チャットボットはプラットフォームに存在しているので、ユーザーの行動パターンを追跡することができます。連携しているWebサイトやSNSをおすすめとして提案してくれるので、ユーザーは似たようなサイトを見つけやすくなります。
Blairはシンガポールで作られた音声統合チャットボットで、Facebook Messenger上でレストランの推薦および予約ができます。Blairは、パーソナライズされたオンライン予約サイト「OpenTable」のようなものであり、今後レストランだけでなくワインバーやデザート店などの飲食サービスと提携できる可能性を秘めています。
広告
広告もまたチャットボットの台頭により恩恵を受けています。チャットボットはユーザーのショッピングの傾向を特定できます。その情報から、チャットボットはユーザーが楽しめるアイテムを提案することができます。ユーザー専属の店員のように振る舞うことも可能です。
ネットショッピングのスタートアップ企業であるSpringは、現在ユーザーのリクエストに24時間体制で応答する顧客サービスボットを運営しています。このチャットボットのおかげで、ユーザーはいつでも買い物をし、気に入ったものを保存し、フォローしているブランドからレコメンドされた商品について質問をすることができます。
モチベーション
新しい目標に挑戦するとき、人々は責任を持って目標を達成しようとしますが、結局目標を達成できなくなったりすることがあります。友人同士でお互いの目標に対し責任を持とうとすることもありますが、恥ずかしいと思ったり、その意図を伏せておきたい場合もあるでしょう。
チャットボットは、パーソナライズされた対話形式のメッセージを送ることで、ユーザーのモチベーションを引き出すことができます。また、ユーザーは自分の好きな間隔でリマインダーを設定することもできます。チャットボットは、ユーザーに対してパーソナライズされており、ユーザーの目標達成を促進することができます。
私はこのタイプのボットの試作品、BOTTRのOpalを試してみました。Opalはユーザーがクリック可能な応答をあらかじめ用意してあり、それをクリックするとOpalが返事をくれます。もし私が「元気がない」と送ったとしたら、Opalは元気づけるメッセージを返すでしょう。しかし、Opalは単純な判断しかできず、元気づけることができるだけで、私に仕事のモチベーションを起こさせることはできませんでした。
チャットボット体験に必要不可欠なこと
ユーザーの意図を予測できない
ボットにユーザーにパーソナライズされていないと、ユーザビリティの面で問題が発生します。チャットボットは普遍的な応答ではなく、ユーザーの名前を呼びユーザーが知りたい情報を提供するべきなのです。ボットは、それぞれのユーザーなりの質問や回答に対応できなければなりません。
MITのチャットボットであるElizaは1964年に初めてこの問題を実証しました。Elizaは心理療法士として普遍的な質問に沿った回答を返す機能を持っていました。もしユーザーがElizaの予測できないことをしようと考えて、Elizaが意図していたスクリプトから外れると、Elizaは応答できなくなります。
Elizaが抱えた問題は、今日でもまだ広く見られています。モチベーションを引き出すボットのOpalは、準備された回答にしか対応できませんでした。あらかじめ予測していないことには対応できず、モチベーションについて複雑な質問をしたときは応答できませんでした。ボットが対応できたのは幸福指数だけで、幸せと目標設定の両方を理解することはできなかったのです。
現在のボットは、パーソナライゼーションが改善されており、より良いUXを生み出しています。レストランを紹介してディナーを予約できるBlairは、提携した他のサービスを予約し、ユーザーのニーズを予測できるようになるでしょう。同様にSpringは買い物客の好みを予想し、デジタルでのユーザー専属の店員になると考えられています。
また、ボットは仕事の目標を手助けすることもできます。Dolores Landinghamは従業員それぞれに向けて、人事や書類に関する質問に指示することができます。将来Doloresはタイムシートやチェックイン、ベネフィットなどのややこしい書類手続きを自動化できるようになり、従業員は時間を節約して生産性を高めることができるでしょう。
ソリューション:ユーザーに寄り添った会話
チャットボットがユーザーに寄り添うためには、会話のデザインが必須です。会話をデザインするには、ボットが意図を持ち、言語パターンや声のトーン、やりとりなどを理解しなければなりません。デザインの例としては、スクリプトを考えることや、言語のマッピングを行うことなどがあります。
言語マップとは、文や単語によって分解された会話のことです。もっとも一般的なタイプは、構文解析でしょう。構文解析では、構文上の関係を判断するために単語の繋がりを分割していきます。
構文マップのおかげで、私たちは発言から異なる応答や意味を形成することができます。望みとあれば、ユーザーは複数の応答を作成したり、アイディアを複製したり、広義的に考えたり、特定の一般論に焦点を当てたりできるのです。
チャットボットでは、この構文マップが非常に役に立ちます。ユーザーが応答を予想できるようになり、スクリプトから外れたとしてもボットが会話を続けられるように代替案を作ることができるようになるのです。ユーザーのエラーを予測するのは難しいですが、チャットボットが代わりの対応パターンを作る性質も持つので、壊れることはなくなるでしょう。
エンゲージメント・ロス
ユーザーがチャットボットの初めから注目し続けるようにしなければなりません。一度ユーザーの集中が失われたら、ユーザーはチャットボットを閉じてしまいます。体験を通じてエンゲージメントが続かなければなりません。
前出のMeekanは、エンゲージメントが失われてしまっている例のひとつです。Meekanはサインアップのリンクを通じてカレンダーにアクセスする許可を得なければなりません。しかしながら、サインアップのリンクは使いにくく、ユーザーをSlackから別のページに移動させてしまいます。私はリンクを2、3回クリックしましたが、ボットにアクセスを許可させてもらえずMeekanは私を見失ってしまいました。4分間粘りましたが結局アクセス許可のページを通過できず、私は使用を諦めました。
エンゲージメント・ロスは、Opalを使用した際にも起こりました。Opalが私の複雑な質問に一度答えられなかっただけで私はボットに興味を失い、BOTTRを終了しました。「ああ、Opalは動作しないのか」と瞬時に判断したのです。
ソリューション:視覚要素を考える
チャットボットは人の目を引くものでなくてはなりませんが、もちろん本物の人間ではありません。ですので、デザイナーはチャットボットがロボットであることを伝えるための写真や会話を用意しなければなりません。CARLのボットをテストしたとき、ボットのアイコンはイラストであるほうが好まれることがわかりました。逆に人間の写真を使用すると、多くのユーザーが不快感を示したのです。
ユーザーは知らず知らずのうちにチャットボットを誰かと結び付けます。ユーザーはチャットボットにアイデンティティを与えるのです。 IDEOの研究で、監督のチャットボットに対して女性がどう反応するのか分析したところ、女性のユーザーはチャットボットに強引な男性のアイデンティティを投影しました。しかし実際には、ボットを操作するのは人間の女性でした。このように意図していなかったとしても、人はボットを慣れ親しんでいるものと繋げて擬人化するのです。
将来の可能性
チャットボットには、より優れたUXを生み出すポテンシャルがあります。チャットボットは素早く、応答性が高く、そして常に利用可能なのです。現在では、チャットボットはデジタルアシスタントとして働いています。チャットボットのおかげで、もはやハウスキーパーや秘書を見つけるためにあくせくする必要はなくなったのです。
さらに技術が発展すれば、チャットボットはもっとパーソナライズされたサービスを提供することができるようになるでしょう。対面のアシスタントはすべてチャットボットに代わり、ユーザーの生活はもっと楽になります。チャットボットには、より多くの音声統合、更なるユーザーへの特化、現在のニーズに対応するための記憶媒体など、多くの可能性が秘めているのです。