UXという考え方を組織に広めるために、試行錯誤されているデザイナーさんも多いのではないでしょうか?
今回は、スマートフォンケースのECサイトやプラットフォーム事業などを運営するHamee株式会社のデザイナーさんに、組織にデザイン意識を広めるために行ったことについてお伺いしました。
檜垣 和之 氏
Hamee株式会社 Product Creation UI/UXデザイナー
宮城県石巻市出身。Web制作会社やフリーランスで多くのプロジェクトに参画し、Webサイト、スマホアプリ、デジタルサイネージ等のオンスクリーン全般のデザインを経て、現職にジョイン。現在は主にWebやMobileアプリの開発・改善に携わる。
―最初に檜垣さんの仕事内容をお伺いしても良いでしょうか。
檜垣 和之 氏(以下、檜垣):弊社は、大きくコマース事業とプラットフォーム事業という2つに分かれています。僕はその中で、主にプラットフォーム事業でネクストエンジンというサービスやアプリなどのデザインを担当しています。
ネクストエンジン
Hameeが提供するeコマース運営を簡単・自動化するサービス。国内シェアNo.1、導入企業2400社以上。
http://next-engine.net/
―プラットフォーム事業では、UXデザインを担当しているのは檜垣さんだけですか?
檜垣:そうですね。
別にUXデザインのプロってわけではないですし、「UXが」とか言うのも恥ずかしいので嫌なんですけど(笑)。
最初はエンジニアだけのチームに中途入社でデザイナー1人で入り、まずはチームにユーザー目線を意識付けようと始めました。
感覚的なデザインを言語化する
―エンジニアだけのチームに、デザイナーひとりで入っていくと苦労もされていそうですね。
檜垣:そうですね。最初の頃、「デザイン的に普通こうするから」みたいなことを言ったら、一瞬ちょっと険悪な空気になったりとかありましたね。エンジニアだけのチームにデザイナーが急に入ってきたので、「なんだこいつ偉そうに。」となっていたと思います。
僕が入った頃は、エンジニアさんだけでサービスを作っていて、デザイン以前に情報設計や導線設計も考えられていない状態でした。なので、先生のように「この画面のボタン、自分たちはわかるかもしれないけれど、ユーザーさんが見たら何か理解できないかもしれないですよね」と丁寧に教えていくことから始めました。
―まずはデザインについて教えることを重視されたと。
檜垣:実際にデザインして見せることもできますが、それではデザインを意識するということに繋がらない。なので、まずは今のデザインではダメなんだと気づいてもらって、じゃあどうしたらいいのかという部分を噛み砕いて伝えてました。
デザイナー同士だったら共通言語でやり取りできたりする部分もエンジニアさんには伝わらないので、その点はかなり気をつけていました。
―なにか具体的な例はありますか?
檜垣:たとえば、ボタンのアイコンがテキストの右にあったり、左にあったりしてサービス内で統一されていなかったので、「メニューのアイコンは左にあるのが普通だから統一しよう。」と言ったことがあるんです。そしたらエンジニアの方に、「え、何で左なんですか?」と聞かれてしまいまして。
檜垣:今まで当たり前のこととしてやってきたことを聞かれるので、改めて「なんで左だったんだろう。」となり、感覚としてやっていたことを言語化していきました。ボタンのアイコンの場合は、「まず絵で視線を誘導してから、文字を読ませるために左側に配置する」みたいな感じですね。
エンジニアの方にも、「あ、そうだよな」って理解してもらえる形に落とし込んで説明すると、納得してもらえるんですよ。こういったことを最初の頃は繰り返しやってました。
「みんなのUX」をエンジニア向けに開催
―エンジニアの方に教える上で、デザインのマニュアルのようなものは用意されたのですか?
檜垣:僕は資料作りが苦手なので、業務の中でその都度、ひとりひとりに伝えていました。当たり前ですがこれだと全体にはそのノウハウが伝わらず、同じようなことを聞かれたりするの嫌だなと思い始め、「みんなのUX」っていう講座みたいなものを開きました。
檜垣:けど、エンジニアの方にUXって言うと、ちょっと身構えちゃうじゃないですか。「最先端の武器出してきたな!」みたいな。当時はエンジニアさんから、「デザイナーって何者なんだ? 黒船?」みたいに警戒されていたので、敵じゃないんだよと伝えるために、デザインも凝りすぎずないようにして、なるべく敷居を下げるようにしました。
あえて「いらすとや」の素材を使ったりして、緩い感じにしたり。僕的にはデザイナーは「いらすとや」を使っちゃだめだろって思ってるんですけど(笑)。
―最近、企業内でデザインガイドラインを作る事例とか増えてきていますよね。
檜垣:僕はガイドラインって考え方も良し悪しかなと思うんです。ガイドラインってこうしますって決めたものを与えるじゃないですか。そうすると、もらった方は考えないでこれが正義ってなっちゃう。
そうじゃなくて、何で駄目か自発的にわかって欲しいので、「みんなのUX」はガイドラインじゃなくて問題提起をする資料として作っています。気づいてもらう、意識してもらうことが目的ですね。
―確かに、「マニュアルを見れば良い」みたいに、思考停止になってしまうこともありますよね。
檜垣:みんなのUXって言うタイトルにはそれが込められているんですよ。与えられるのでなく、自分たちが考えてつくるから「みんなの」と付けました。
段階を踏んでデザインを変える
―「みんなのUX」には、どのようなことが書かれているのですか?
檜垣:アイコン揃えるとか、配色のルールとか初歩的なレベルのことについて書いています。
ほかにも、場所ごとにどのようなアイコンが適切かなどですね。これも書く上で、今まで何でそうしてたんだろうと立ち戻って考えて、アイコンのパターンは「操作内容」と「意味」の2つに分けられると整理したりしました。
たとえば、管理画面のUIに関するビフォーアフターなんかを載せているんですが、この例では別の機能を持つボタンがどっちもスパナのアイコンを使っています。これだとアイコンを使う意味がないですし、むしろ同じ機能性だと勘違いされてしまう。
檜垣:また、下記の画面では「受注CSVのダウンロード」って書いてあるんですけど、これを押すとファイルがダウンロードされるのではなく、ダウンロード方法の説明ページに遷移するんです。実際のダウンロードリンクはその下の「受注CSV項目と受注伝票項目」でして。これだと、ユーザーさんはわからないじゃないですか。
檜垣:情報設計や文言から変えることができれば良いけれど、昔からあるシステムなのですぐに大きな変更はできません。けれど、このアイコンを変えるだけでも、劇的に違うよねみたいな話をするとエンジニアさんにもわかってもらえる。
デザイナーだからといって、いきなりデザイン変えるのもダメだと思うんですよね。直せるところから直していって、最低限ここを改善したらユーザーさんを救えるということを理解してもらうんです。
これが上手くいけば、今度は文言変えようとか、レイアウトを見やすくしようと段階を踏んで改善していける。
―デザイナーだとこのデザインじゃ駄目だと言ってしまいがちですが、それだと反感を買うこともありますよね。
檜垣:ガラッと変えると、それなりにコストも期間もかかりますし。それだけ時間をかけたのにダメだったよねとなると、その6ヵ月が無駄だったじゃんとなったりするので。
小さな成功じゃないですけど、そういったことを積み重ねることによって、昔からあるシステムでも少しずつデザインを改善できるかなと。
組織のデザイン意識が向上
―「みんなのUX」を開催した効果はありましたか?
檜垣:そうですね。以前は初歩的なデザインの相談が多かったのですが、エンジニアさんが最初に相談にくるレベルが上がってきました。
あとは、個別に相談が来たときも答えを見せるのではなく、アドバイスをした上でもう一度考えてきてもらうようにして、UX、ユーザー目線といったデザインの意識付けを地道に行いました。そうすると、「相談しに行くのに、もっとちゃんと考えなきゃ」と思ってもらえるようになって、最近では「檜垣さん、こんな感じで考えたんですけど、ここはどうしたらいいですか?」と自分なりの考えを持って相談にきてくれるようになりました。
その結果、僕の労力を減らせてきたので、その辺は効果あったのかなと。
―教育者ですね。普通だったら、自分でやっちゃう人の方が多そうですが。
檜垣:もう3ヶ月くらいデザイン作業をしていなってときは、大丈夫かなと不安になりましたけど(笑)。
結局、僕の手が回らないので、それをなんとかしようとして試行錯誤した結果ですね。あと、実装は実際エンジニアがやる部分なので、考えながらやって欲しいなというのもありますね。
まとめ
今回は、デザイナーが少ないなかで、いかにエンジニアとコミュニケーションをしながら仕事を回していくかという実体験をお話してもらいました。以下の点は、多くのデザイナーさんにとっても役に立つポイントではないでしょうか。
- 感覚的な部分を言語化して説明する
- 段階を踏んでデザインを改善する
- 組織のデザイン意識を向上させる
普段からサービスのUXは毎日考えていても、チームにおけるコミュニケーションのUXはおろそかになってしまいがちなので気をつけていきたいなと感じました。
・・・
Hamee株式会社では、現在UI/UXデザイナーを募集しています。今ではエンジニアさんもみんなデザインを意識する環境になってきたそうで、これからさらにレベルを上げて今までできなかった改善にも着手していくそうです。
少しでも興味を持った人はまずはここから応募してみてください。
提供:Hamee株式会社
企画制作:UX MILK編集部