思いやりのあるオフボーディングを考える

Sarah Khan

Sarah KhanはBaltimore社をベースに活動するUXのコンサルタント、ライター、編集者です。ワシントンポストやオーランド・センティネル、フェルミ国立加速器研究所に投稿しています。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Offboarding: How and How Not to End Relationships with Users
この記事は、過去に掲載した記事を再編集したものです。

「退会する私のことは、もういない人のように扱って欲しいのです。」

私がユーザーインタビューをしたAmanda Costello氏はこのように言いました。

「この世に存在しない人に対しては、このような対応はしないでしょう。」

Amandaは、信用組合(編注:Credit Union、非営利の金融機関)に口座を移行するために、国立銀行の口座を閉鎖しようとしていました。しかし、銀行は彼女を引き留めるべくあらゆる施策を行い、彼女の資金を銀行に留めようとしました。

Amandaが銀行に自動引き落としの解約を申し出たとき、銀行側は彼女の口座を再開設して彼女に支払い請求をし、さらに口座が解約され次第、数百ドルの当座貸越の支払い請求をすると伝えてきたそうです。また銀行側は、取引が中止されたあとも、Amandaの個人情報を保存することになると付け加えました。

その翌月もAmandaは、何度も手紙や電話で銀行側にそのようなことは望んでいないと伝えることになりました。その結果、銀行側が個人情報を消去したかどうかまでは確認できませんでしたが、銀行が口座の再開設をすることは阻止できました。

解約のためのオフボーディング

これは、ユーザーがサービスを解約するために行う「オフボーディング」の悪い事例です。私たちの多くが、多分同じような経験をしたことがあると思います。そして「一体なんでキャンセルや解約はこんなに大変なのだろうか?」と疑問に思うことでしょう。これは決して銀行特有のことではなく、オンラインの世界でもあることです。

では、なぜ悪いオフボーディングがビジネスにとっても良くなく、またそのプロセスがユーザーに配慮のないものであることが多いのかみてみましょう。サービスを解約するユーザーについて心理学の分野から分析し、良いオフボーディングの体験をデザインするためにはどうするべきかを解説します。

オフボーディングとは?

Tim Wright氏がFresh Tilled Soilにアップしたポッドキャストによると、顧客がオフボーディングを必要とする状況は数多くあるとのことです。たとえば、あるサービスに対し有益性を見いだせなくなったときや顧客が製品に満足していないとき、また単純にそれが必要でないときなどが挙げられます。

多くのビジネスリーダーは、このような理由があることには同意するかもしれませんが、簡単にサービス解約が行えるプロセスに対しては消極的です。これこそが決定的な判断の誤りとなります。悪いオフボーディングはユーザー体験全体に対する顧客の印象に影響し、製品の評判自体が損なわれかねません。また製品に対するユーザーの信頼が失墜し、ほぼ修復不可能となるでしょう。

多くの人が当たり前だと言うかもしれませんが、はっきり言っておかねばなりません。悪いオフボーディングは誰でも嫌な思いをして、そのときの経験を製品の潜在的なユーザーに対してもシェアしようとされることが考えられます。Timが詳しく説明するように、よりプロセスに時間がかかるほどストレスも増長します。そのとき企業の評判は危機的なものとなります。

ダークパターンの悪用

オフボーディングの中にはわざと悪く設計されているものもあり、これはユーザーを騙すダークパターンと同じです。ダークパターンとは企業の利益のためにユーザーを利用するデザインで、ビジュアル的に紛らわしいデザインや著作物を利用してユーザーが意図しない操作へと「誘導」します。

身に覚えはありませんか? 多くの製品がこのような手法を用いて、顧客をサービスにできるだけ長くとどめようとしています。

購読解除のために「購読する」のチェックを要求する例。このような例は、Redditでみることができます。

ユーザーを特定の作業に誘導するように、Webサイトやプロセスをデザインするのはとても簡単です。これは、ステークホルダーにとって魅力的な戦略にも映ります。しかし、顧客は意図的に誘導されたことをすぐに理解します。金銭が絡む場合は特にそうであり、失われた信頼をまた構築するのは大変困難(多くの場合は不可能)です。

悪いオフボーディングの事例

G2A Shieldのサイトは、たくさんの仕掛けを使ったサービスのわかりやすい事例です。ユーザーに罪悪感を抱かせたり不必要な作業を行わせたり、ダークパターンのデザインを利用したりして顧客をサイトに留めます(下のプロセスにおける最初の画面をみてください)。退会用リンクは一番下にグレイの文字でわかりにくく配置されています。グリーンのボタンで囲まれた「G2A Shieldをアクティブにする」のテキストは、「アカウントを残す」を遠回しにした言い方です。

あるとても不幸なユーザー。ソースのスレッドはRedditのもの

しかし、これはG2Aのだけのことではありません。Webサイトやサービスからアカウントを削除するには、たいてい時間や労力を要します。(中略)

思いやりのあるオフボーディングにするには

オフボーディングは簡単ではなく、特にビジネスのステークホルダーが消極的な場合はより困難となります。しかし、ユーザーの立場からみてこのソリューションを設計すべく、デザイナーは以下のステップに基づき作業を進めるようにしましょう。

ペルソナとユーザーストーリーを考える

あなたのサイトのペルソナは、どのようにサービスの解約手続きをするでしょうか? 解約のためのユーザーフローを組み立て、それに沿って考えることで、ネガティブな感情やストレスが発生する要因となる点を発見できます。

次にユーザーが解約したいと思う理由を特定し、解約の流れを決めるためにタスクフローを作成しましょう。顧客が作業に詰まる場所はあるでしょうか? 想定よりも作業時間が長くなっていないでしょうか?

カスタマージャーニーマップは、プロセス全体を通じた顧客の感情を理解するのにも役立ちます。どのポイントにおいて、顧客は製品を悪いと評価したり、友人たちに対して文句を言ったりしているでしょうか? どの点においてそれが起こっているかを見つけることで、最初の段階からそれらの問題が起こるのを未然に防ぐことが可能になります。

ユーザーに共感する

ユーザーストーリーやその他のシナリオは、オフボーディングのプロセスをユーザー寄りのものにするための手助けになります。ユーザーに対する共感をもち、デザイナーとして彼らのニーズをより意識した形でソリューションを作成しましょう。どのタイプのシナリオにおいて、ユーザーが解約したりサービスから離れたりするでしょうか? ユーザーへの共感でもまたペルソナは重要です。これは、ペルソナは実際の顧客そのものを代表する存在であり、顧客のニーズや生活を仮想するものだからです。

デザインプロセス全体においてユーザーへの共感は重要な事柄であり、悪いオフボーディングがユーザーにとって何を意味するのか正確に理解することにつながります。とくに個人情報が関わる場合は重大です。顧客との信頼関係は双方向性で成り立っています。顧客が企業との関係を終わらせたいとき、企業は個人情報という人質を抱えているという印象を与えてしまうことがよくあります。

手続きを短くする

Amandaは、銀行口座を閉鎖するのに何カ月もかかりました。このような頭を抱えるような体験は、顧客のエンゲージメントを高める効果が果たしてあるでしょうか? またそれだけの時間に見合うほどの潜在的な価値を顧客にもたらすでしょうか? むしろ潜在的にみて、製品の評判を損なうものでしょう。オフボーディングが完了するまでにかかる時間は重要なKPIであり、リデザインをするときなどは立ち戻って評価を行うべき項目です。

この指標は、顧客がストレスを感じ始めるときや製品の評判を攻撃しようとするとき、また競合製品へ流れてしまうときなどを把握する手がかりとなります。次のステップで、チームのリーダーに対して思いやりのあるオフボーディングの重要性を説明する際も、この指標が説明の指針となります。

ステークホルダーに納得してもらう

これは、非常に難しいことです。しかし実際には、手続きを長引かせることは、製品を絶望へとまっしぐらに向かわせるようなものです。Nielsen Norman Groupの記事によると、必要事項が多いWebサイトを好む人は存在しません。その記事では特にポップアップについて説明しており、オフボーディングに対しても厳密に応用すべきポイントが含まれます。ブランドの責任者は、ユーザーをWebサイトに括り付けて解放しないようにして、「見ないと絶対に損である」というようなメッセージを本当に伝えたがっているのでしょうか?

質的調査と一緒にABテストを実施して、オフボーディングのシナリオに対して顧客がどう感じているのか理解をすることができます。またデザイナーも部署をまたいでのミーティングの際に使う正しいデータを取得できます。これらの結果と企業の市場でのポジションを組み合わせて考えましょう。そうすることで、顧客との長い信頼関係を得るに値する企業であるという評判の重要性を知ることができるようになります。

良いオフボーディングは良い関係性をつくる

Timは、オフボーディングは遺言状みたいなものだと言います。だれもがその作業をやりたくないけれど、つねにその責任は生じています。

UX Magazineの記事では、心理学者Daniel Kahneman氏の著書『Thinking Fast and Slow』を参照して悪いオフボーディングに対する人間の反応について説明しています。同じ体験に対しても、体験しているその瞬間か記憶の中で振り返っているかで、感じ方に違いが生じることがあります。起きたあとに全体としてそれがどのようなものだったかを理解するほうが簡単であり、私たちには体験を熟考する時間があります。

Danielによると、私たちは自分の経験を、(ポジティブ、ネガティブのどちらのものでも)もっとも強烈な感情に基づいて判断するそうです。デザイナーもこのことをCostello氏やそのほかのシナリオに応用することができます。彼女の銀行での経験が過去にどんなによかったとしても、キャンセルの体験が最後の悪い印象を残してしまいました。

ユーザー視点で設計されたオフボーディングは、解約者の数が作為的に低く抑えられているものよりも、ユーザーからの印象が良くタイミングが合えばまたサイトに戻って来ることが見込めるようになります。

もう一度Amandaの話に戻ると、彼女は月一でサンプルを送る化粧品ボックスの会社に登録していたそうです。そのサービスは、ボックスが必要ないときにキャンセルするのは簡単で、また欲しくなったときにすぐに登録できて便利だと言います。Amandaはその化粧品が気に入っており、またお金に余裕ができたらそのサービスを利用しようと思うとのことです。

良いオフボーディングとは、企業と顧客という関係性を当たり前のものだと思わず、また顧客が欲する以上に関係性を求めようと思わないことです。良いオフボーディングがどのようなものか理解したときが、あなたの製品のソリューションをデザインするためのもう1つのステップです。


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