UXデザインにとって逃れられない課題の1つが、さまざまなユーザーの要求を満たすことです。UXの専門家がプラットフォームをデザインするときには、異なる種類のユーザーを考慮することが不可欠です。そこには、異なる種類の目的や期待に同時に応えるという難しいジレンマが存在します。すべてのユーザーに共通する普遍的な原則や、例外のないルールがあれば、すべての期待に応えることはとても簡単になるでしょう。
すべてのユーザーに共通する普遍的なものは存在します。問題は、その共通するものが、ほとんどのWebサイトにおいて不可避で嫌われがちな広告という存在であることです。
広告という必要悪を考慮してデザインしなければならない以上、UXの専門家のほとんどがネット広告と相容れないことはまったく当然です。個人的な意見ですが、不快なポップアップにしろ目障りなバナーにしろ、自動再生の動画にしろ、普段目にする広告のほとんどは、ユーザーフローを妨げます。つまり、広告とはユーザー体験を損なうものです。
しかし、広告の世界は変化しています。そしてその変化の先では、UXデザインとぶつかります。一見この2つは相容れないように見えますが、双方が協調する関係は見た目ほど実現不可能ではありません。
実際、この協力関係はただ便利なだけではなく、どちらの領域においても不可欠なのです。
広告の進化
これまでターゲットにあたる視聴者は、流れている広告に対して意見することができませんでした。テレビを視聴するとき、コマーシャルを避けることはできませんでしたし、Netflixのような広告がないストリーミングサービスも存在しませんでした。かつていたるところに普及していたネット広告は、広告を表示しないようにするプラグインやYouTubeの「スキップ」ボタンなどの広告を防ぐ手段が誕生したことによって大打撃を受けました。
これは、そもそもインターネットは広告がない領域であるという意味ではなく、むしろその逆です。しかし、広告に対してユーザーが持つコントロールは、飛躍的に増加しています。これはオンラインマーケティングにおいて、新たな問題になっています。宣伝する機会が減少する中で、ユーザーと関連性があり記憶に残る広告を確実に届けることが必要です。
「ユーザーと関連性があり記憶に残る体験を提供する」とは、まるでUXデザイナーの仕事を説明しているようではありませんか。マーケターがユーザーに合わせた広告を作成するとき、UXデザイナーはユーザーと関連性がある有意義な広告を活用して、ユーザー体験を向上させることができるでしょう。
このように、UXと広告が互いに協力すれば、ユーザーと実際に結び付いた広告を作成できるようになるでしょう。このデザイナーとマーケティングの共生関係は、比較的新しい現象ですが、決して一過性の流行ではありません。
共通の基盤を見つける
オンライン領域の真の番人ともいえるGoogleとFacebookは、広告とUXの共生関係に価値を置いています。どちらのWebサイトの広告のアルゴリズムも、高品質なユーザー体験を提供するブランドを強く好みます。特にGoogleは、暗号化された検索ランキングのアルゴリズムにおいて、より良いUXを提供する広告をもつサイトほどランキング上位に表示して強調しています。
UXデザインと広告の基盤にある性質を踏まえると、2つが交差することは決して驚くものではありません。交点となるそれぞれの部分は、完全に同じではありませんが似た問いに依拠しています。「誰のためのもので、どのような価値があるか?」という問いです。
これらは、ユーザーがもつ感情的なインサイトや共感に関する質問です。新しいキャンペーンやプラットフォームを作成するときは、広告の制作とUXデザインの両面からこれらの問いについて考えなければなりません。私が働いているUXデザインエージェンシーではデザインプロセスの大部分を「共感マップ」の制作に割いています。共感マップとは、異なるペルソナと、それぞれのペルソナがサイトのさまざまな部分を操作したときの感情や考え方、反応をまとめたダイアグラムです。
オンライン広告にUXを取り入れる
では現在、UXを向上する広告とはどんなものでしょうか? コンテンツに関して、ガイドラインはとてもシンプルです。理想的には、表示されるどの広告も、Webサイトのターゲットとなるユーザーに合わせた広告であるべきです。もう1つ有用なヒントとして、組織のコアバリューに合わない広告は避けましょう。
広告を表示する際には、最初の段階では見えないようにするのが恐らく簡単です。これは、絶え間なく表示されて、ユーザーのワークフローを妨げる無関係なポップアップ広告とは異なります(私が最近書いたBumbleのポップアップの記事を参照してください)。不適切なポップアップと同類のものではなく、ポップアンダー広告と呼ばれるものです。また、ユーザーがもっとも恐れている自動再生される動画ともまったく違います。コンテンツのスペースと広告スペースの間には、ある程度のバランスが維持されるべきです。
UXによって認知される広告は、直感的に認知されるものではありませんが、しっかりユーザーに気付かれるものです。ユーザーと強く関連するデータを基に働きます。つまり、閲覧履歴や習慣、ルーティーンなどに基づいてパーソナライズされたコンテンツを提供します。モバイルのプラットフォームでは、広告にインタラクション要素を組み込んで活用しているような企業もあります。Kohl’sの広告はこの例です。
もう1つの重要なガイドラインとして、記事広告は、それが広告だと明確に示すべきです。紹介しているものが実際には有料コンテンツであるときは、その製品を純粋に勧めているのだとユーザーを誤解させるようなことがあってはいけません。理想的には、広告の最後に小さなフォントで有料であることを知らせるような形は避けるべきです。
完璧なWebサイトを作る公式が存在しないのと同じように、完璧なネット広告を作る公式もまた、存在しません。ユーザーと感情的につながることができる製品を作るためには、UXデザイナーと広告クリエイターの双方が、リサーチとデザインを繰り返し行う必要があります。
UXと広告の今後
自身を「広告主」だと考えるUXデザイナーを私は知りませんが、実際にはUXの思想に肯定的な立場の広告会社はどんどん増加しています。中には「クリエイティブ・エンジニア」のような工学に特化した肩書きを設けているような企業も存在します。
名刺がどのようなものになっていようと、広告とユーザー体験との関係を認識することは重要です。この2つは一見両立しなそうですが、広告とユーザー体験の力が合われば、双方に利益をもたらします。マーケティングにとってはよりユーザーを引き付ける効果的な広告を作成でき、デザインにとってはより関連性のある便利なユーザー体験を提供できるでしょう。