ユーザー体験を形作るものは多くありますが、パフォーマンスが悪いWebサイトほどユーザーを取り逃がすものはありません。
私たちデザイナーは、自分自身をユーザー体験の守護者だと考えるのが好きです。ではなぜ、私たちはクライアントと話すときに、ユーザー体験に強い影響力がある非ビジュアル要素を無視してしまうのでしょうか。クライアントは美しい画像を好みます。デザイナーである私たちは、彼らを説得してそれをやめさせるようなことはしません。
事実、エンジニアはさまざまな形で、ユーザー体験に対してデザイナーよりも大きな影響を与えています。ユーザー体験におけるパフォーマンスの役割を考えればわかるでしょう。それでも私たちは、クライアントに対してそのような話をしません。私たちは、クライアントがパフォーマンスに興味をもたないことを知っています。そのため、パフォーマンスを気にするように説得することに対して、労力を割こうとしません。しかし、私たちは説得するべきなのです。
遅いWebサイトには、以下のような問題があります。
- ファインダビリティが下がる
- 作業を完了するのに時間がかかる
- ユーザーの満足度が減少する
- アクセシビリティに問題が生じる
- 製品やサービスが十分に理解されない
クライアントにパフォーマンスを強調することにまだ確信が持てないのなら、もう少し詳しく見ていきましょう。
1. ファインダビリティが下がる
Googleはサイトパフォーマンスについての立場を明らかにしました。早いサイトほど順位も上位になります。特にモバイルの場合はなおさらです。
ファインダビリティは、クライアントにパフォーマンスを説明する主張として説得力があります。クライアントは順位を気にします。一方で私たちは、ユーザーが必要なコンテンツを見つけられるかどうかを気にします。
しかしクライアントが気にするべきなのは、これだけが理由ではありません。
2. 作業を完了するのに時間がかかる
作業時間が長くかかるほど、ユーザーはその作業を諦める傾向にあります。このことはコンバージョン率に悪影響を及ぼします。
ローディングの時間が1秒遅れるとコンバージョン率が7%減少し、閲覧するページ数は11%減少します。実際に、ローディング時間が4秒以上かかるページでは、4人に1人がページを閉じてしまうでしょう。さらにモバイルの場合はもっと悪く、ローディング時間が5秒以上かかると、74%のユーザーが諦めます。(出典)
作業を完了するのにユーザーが訪れなければいけないページが増えるのは、ユーザーに新しい機会が提供されますが、この問題を悪化させるだけです。ユーザーはローディング時間に対して強い先入観を持っているため、スピードが最適化されたサイトは、競争優位を得ることができます。
しかしパフォーマンスが悪いことは、コンバージョンについてだけではなく、知覚の面でも問題になります。
3. ユーザーの満足度が減少する
ローディング時間が短いほど、ユーザーは好意的な印象をもちます。Webサイトの読み込みが早いと、ユーザーは作業が進んでいると感じることができます。ユーザーは、目的に向かって順調に進んでいると感じ、満足度が増します。満足度は、クライアントが考慮すべきもう1つの指標です。
ローディング時間が1秒長くなると、顧客満足度は約16%減少します。さらに悪いことに、パフォーマンスに満足できなかったユーザーの79%は、同じサイトでもう一度買い物をする可能性がほとんどありません。(出典)
パフォーマンスと満足度の低下は、顧客満足度を損なうだけではありません。それらは玉突きのように影響を及ぼし、ブランド自体を傷つけます。というのも、44%のユーザーは、ネットでの悪いユーザー体験を友人に語るからです。
もちろんこれらのことは、ユーザーがコンテンツにまったくアクセスできないのでは問題にすらなりません。
4. アクセシビリティに問題が生じる
パフォーマンスはコンバージョンだけの問題ではありません。ユーザーがイライラすること以上の問題があります。低いパフォーマンスは、ユーザーがコンテンツにアクセスする障害になるのです。パフォーマンスが低いWebサイトは、ページをローディングできずタイムアウトしてしまう可能性があります。WebのフォントやJavaScriptファイルの間違い1つで、コンテンツにアクセスできなくなるかもしれません。プログレッシブエンハンスメントについてはさまざまな議論がありますが、これらの失敗からこの考えが重要な理由がわかります。
編注:プログレッシブエンハンスメントとは、コンテンツに主軸を置き、ブラウザの環境によって情報の表現レベルを変えること。
携帯電話からの接続や発展途上国では、パフォーマンスは特に問題になります。ホテルのWi-Fiが弱かったり、田舎ではネットワークが遅かったりするでしょう。
また、スクリーンリーダーのような支援技術を用いている人々や、認識障害を抱えている人々も存在します。そのような人たちほど、パフォーマンスの議論には敏感です。このような人たちを除外したい気持ちもわかりますが、彼らにも大きな経済力があることを忘れてはいけません。
ある調査では、イギリスの販売業者はこれらの不自由なユーザーのニーズを無視しているために、117.5億ポンドもの売上を逃していると報告されています。これらのユーザーの4分の3近く(71%)が、ネットワーク環境が悪いのが原因でWebサイトが使いづらいと感じると、そのサイトを離れてしまいます。
しかしこれだけではありません。低いパフォーマンスの影響は、あなたの製品やサービスに対するユーザーの理解にまでおよびます。
5. 製品やサービスが十分に理解されない
Aberdeen Groupによると、ローディング時間が1秒長くなるごとに、ユーザーが閲覧するページ数は11%減少すると言います。訪れるページが少なくなるほど、製品やサービスに対するユーザーの理解も減ります。理解が乏しいことは、重要な情報を見逃すことにつながり、いつかさまざまな問題を生じることになるでしょう。
単に売上が減るという話をしているのではありません。たとえば、ユーザーに伝えようとしている重要な項目が見逃されると、サポートにかかる費用や返品の数が増えてしまうかもしれません。これらは純利益を減少させる要因になります。
この種の混乱は、玉突きのように問題を引き起こします。満足度をさらに低下させ、製品に関する間違った情報がサイトの外部で広まることになります。
パフォーマンスを無視するのはナンセンス
以上で、パフォーマンスに注目するメリットが明らかになったのではないでしょうか。ユーザー体験を向上させるだけでなく、健全なビジネスセンスも養います。実際、もしUIとパフォーマンスのどちらを改善させるか選べと言われたら、私はパフォーマンスを選びます。なぜなら、パフォーマンスが低いままでは、体験に関するあらゆる側面が台無しになる可能性があるからです。一方でUIは、主にユーザビリティやブランドの認知に注目するものです。
誤解しないでいただきたいのは、ビジュアルデザインはとても大切なものです。みなさんの中には私の主張に賛同しない人もいるでしょう。実際には、私が説明しているほど白黒はっきりつけられることでありません。私が本当に伝えたいのは、同じ方法で投資した時間の結果を見ることができないという理由だけで、パフォーマンスの重要性を下げて扱うべきでないということです。進行しているできごとの裏で起こっていることも、ビジュアルと同じくらい重要です。クライアントに対して、私たちはこれを説得する必要があります。