ケーススタディ:Acornsのモバイルアプリ

Sean McGowan

SeanはCodal社の技術ライターおよびリサーチャーです。UXデザインからIoTまで、様々な話題のブログを投稿しています。

この記事はUsabilityGeekからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

UX Case Study: Acorns Mobile App

CodalとUsabilityGeekで長期連載されているUXケーススタディシリーズの次のテーマを選ぶときになると、いつも私は同じ場所を探しています。目的もなくApp Storeをスワイプし、カテゴリをフリックして回り、ダウンロードチャートに目を向けます。また、同僚に「毎日使っているアプリ」、「好きなアプリ」を聞くこともあります。

しかし最近、UXのケーススタディにもっとも相応しい対象を選ぶためには、このいい加減な方法を変えるべきだと気がつきました。アプリをケーススタディ選びの対象として考えるべきではないのです。そうではなく、体験のユーザビリティをレビューする際には、私がレビューするのにもっとも相応しい対象であるようなアプリを選択するべきです。つまり、レビューするためには、私がアプリについてまったくの無知である必要があります。

UXデザイナーは、どんなに無知なユーザーであっても使用できるように、誰にでも操作できることを重要視します。

「こんにちは、Seanです。今回のケーススタディにおいて、私は恐らくもっとも無知なユーザーです。」といった具合に。

私は投資やアセットマネジメントについて何も知りません。私にファイナンスの洞察力はほとんどありませんし、世界経済やウォールストリート、ファイナンス部門の活動に対する理解も乏しいです。以上から、新しいUXのケースとしてAcornsが最適でした。

Acornsについて

Acornsは、余った釣銭を活用して長期的な資金を生み出すための小額投資サービスです。私はこれらの言葉を半分ほどGoogleで調べて、Acornsの主要目的が、本人が気づかないほど気軽に節約と投資をすることだとわかりました。

Acornsはこの目的を達成するために、ユーザーに銀行口座とデビットカードへのアクセスを求めます。カードを読み取り機に通すたびに、Acornsは購入金額をもっとも近いドルに切り上げ、その差額を取得して投資します。つまり、私が2.60ドルでコーヒーを買うと、Acornsは料金を3.00ドルに切り上げて、差額の40セントを賢く投資をするのです。

以上のすべてがバックグラウンドで行われるため、ユーザーはお金を使っている間に自動的に投資されていることに気づきさえしません。シームレスで楽なので、正直疑ってしまうほど良いアプリに思えます。そこで、iOS版のAcornsをダウンロードし、自動投資を開始し、何が起きるのか待ってみました。

オンボーディング

Acornsのユーザー体験についてまず気づくのは、UIがとにかく豪華だということです。主にバックグラウンドで動作するアプリのUIになぜこれほど多くの労力が費やされたのかわかりませんが、結果的には素晴らしい体験でした。すべての画面が鮮やかな2色のグラデーションになっていて、すっきりしたタイポグラフィや美しいイラスト、滑らかで鮮明なアニメーションを際立たせています。

以下に示したサインアップ機能を構成する5つの画面を見てください。画面が美しいので、前提や主な使用例、アプリ内で使用されるブランド独自の用語の説明に5画面も要していることなど忘れてしまうでしょう。

サインアップする前に、ユーザーは「Round-Ups」や「Found Money」といった用語を学ばなければなりません。しかし、これらの用語はAcornsのコピーがとてもわかりやすく説明しています。それぞれのコンセプトが端的な定義で紹介され、その後には「それが○○です!(That is X!)」という楽しそうな言葉が続きます。

一方で、必要以上に装飾されたデザインもあります。最初の画面ではイラストが回転していて、一緒に回転するテキストが非常に読みにくいです。それだけでなく、そのテキストはアプリが「カリフォルニア州ニューポートビーチ」で誕生したことを伝えています。わざわざ首をひねって回転するコピーを読んだにもかかわらず、役に立たない情報だと知りました。 これは少し自分勝手なユーザー体験であるという、Acorns全体の問題の小さな一例です。

Acornsのオンボーディングの核心へと進んでいく中で、私はフィンテックのサインアップに典型的な障害と出会いました。ユーザーはメールを認証し、銀行口座情報を入力し、投資口座を開設するために必要なすべての情報をAcornsに提供する必要があるのです。ただ、これは「必要悪」であり、Acornsもこの障害を仕組みによって解決しようとはしていません。

オンボーディングのプロセスをできるだけ短くしたほうが良いアプリも存在します。しかし、フィンテックは、このようなフリクション(摩擦)がユーザー体験にとってプラスになる稀なケースの1つです。金融系のプラットフォームのインターフェイスが簡単すぎると、プラットフォームが安全ではないという印象を与え兼ねません。

また、このフリクションはユーザーの間違いを減らし、ユーザーと提供者の両方にとって煩わしい状況を避ける助けになります。Venmoがユーザーに自分の行動を確かめさせるために、支払いプロセスのステップを追加した事例を思い出してください。ユーザビリティは低下しますが、Venmoのユーザーが間違った取引をするのを防ぐことができます。

そこで、Acornsはオンボーディングを短縮するのではなく、フォームやデータの入力に小さくとも効果的に手を加えて、長いプロセスをできるだけ単純でスムーズにしようとしています。

上の画面は、UXに細かく手を加えることの効果を実証しています。メールアドレスの入力を自動で完了する機能とパスワードを表示する機能があることに注目してください。さらに、私のメールとパスワードが必要基準を満たしていることを確認する動的なインジケータがあり、フォームを記入し終わると一番下のCTAが変わります。

Acornsの導入プロセスは長いかもしれませんが、ユーザー体験のデザインに意識的に投資しているおかげで、比較的苦痛を感じずに達成できました。

メインのインターフェイス

オンボーディングが完了したので、少し早送りしましょう。私はAcornsを使い、数か月に渡って何の意識的な財務決定もせずにゆっくり貯蓄と投資をしてきました。投資ノウハウがまったくない私でも、Acornsで資産を管理できるのかどうかを見てみましょう。

するとすぐに、我々はとても面白い構造を目にしました。Acornsはホーム画面を、過去(Past)、現在(Present)、潜在(Potential)という3つのタブに分割しています。従来のハンバーガーメニューアイコンが画面の左上にある以外にアイコンは存在せず、代わりに素人向けの言葉で書かれたわかりやすいラベルを利用しています。

「現在」のタブはデフォルトのホーム画面として機能していて、ファーストビューのスペースのほとんどは、アカウントの収支のバランスを端的に優しく伝えるために使われています。とても賢いUXの手法で、特に私のような経験の浅い投資家にはぴったりです。「現在」のタブを下にスクロールすると、カード型のデザイン私の資産に関する詳細な統計が個別に表示されます。

左にスワイプすると、「ポテンシャル(潜在)」のタブに移動します。このタブは、時間の経過とともに資産がどのように増加するかを示した1つの豪華なグラフでできています。非常に読みやすく理解しやすいグラフで、ユーザーは現在実行した小さな変化が将来的に大きな影響を持つことを知ることができます。 「未来を変える(Change My Future)」はコピーライターの私が最近見た中でも優れたCTAのテキストだと思います。

逆方向へスワイプすると、「過去」のタブになります。このタブは主に取引明細書であり、購入金額を切り上げて投資口座に入金したすべてを記録した台帳です。ほかのAcornsの要素と同じように、読みやすく理解しやすくなっています。Acornsは、モバイルにおけるフィンテックの理想的な見た目と雰囲気について完璧に理解していると言えます。

まとめ

Acornsのユーザー体験に関する、もっとも決定的な疑問についてまだ触れられていないことにお気づきかもしれません。それは、「このアプリは機能するのか?」という疑問です。Acornsは投資を紹介してくれるだけでなく、投資についての教育も提供してくれるという点で、私は非常に価値があると感じました。IRAや従来のポートフォリオに取って代わるものではありませんが、私のような初心者にとっては優れたスターターでした。

これまで、AcornsのUIについては散々話してきました。しかし、Acornsが私の経験上もっとも視覚的に魅力的なフィンテックアプリだということは、もう一度言及する価値があるでしょう。Acornsは、質素な美しさに偏重している飽和状態のモバイルフィンテック市場の中で際立っています。フィンテックアプリは必要最低限の実用性を重視しがちです。そのため、色やグラデーション、タイポグラフィが美しいAcornsは差別化できています。

このように、Acornsは視覚的にはフィンテックらしくありません。しかし、Acornsには、多くの優れたユーザビリティのモバイルファイナンシャルサービスで実証された特性が揃っています。たとえば、複雑な事象を理解しやすいように言い換えたり、適切な範囲でユーザーに摩擦を与えたりすることが挙げられます。このようなモバイルのファイナンスアプリ開発における教訓が、成功するアプリとそうでないものを分けるのです。


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