ユーザー体験のデザインは、大きな事業であり大きな収益をもたらします。Andrew Kucheriavy氏のForbesでのレポートによれば、ユーザー体験への投資収益率は平均して9,900%だそうです。簡単に言えば、1ドル投資するごとに100ドルもの収益を生み出すということです。
そのような数字を達成するためには、UXデザイナーとUIデザイナーは優れたユーザー体験を提供し続ける必要があります。そこで、UXの提案書が重要になるのです。UXの提案書(UX proposal)は、UXデザインに関する提案を補助するものであり、ステークホルダーにプロジェクトやその範囲を理解させるのに役立ちます。
デザイン主導のイノベーションが必要な場合は、UXの提案書を作成することに慣れてください。また、優れた提案書の作成には時間がかかります。急いではいけません。
この記事では、Justinmindチームが、UXの提案書の概要と書き方について説明します。
UXの提案書とは
UXデザインが気まぐれに作成されることは滅多にありません。優れたデザイナーであれば、自分たちの意思決定は、徹底した研究と調査によってしか生まれないと言うでしょう。WebサイトやモバイルアプリのUI要素に小さな変更を加えるときでさえ、数千ドルかそれ以上のコストがかかります。
以上のことを理解すれば、UXの提案書がデザインプロセスにおいて確かな役割を持つことは明らかでしょう。では、UXの提案書とは一体何なのでしょうか。
UXの提案書とは、モバイルアプリやWebサイト、製品のUXデザインの変更を提案する際の概要または計画です。提案書では問題をまとめ、その解決策を提示します。
UXデザイナーの仕事は、問題とそのソリューションの関係を提案書に記述し、できる限り優れた問題解決の方法を提供することです。
ここで言う変更には、UI要素の位置の調整から製品ページの全面的な見直しまで、すべて含まれます。
端的に言うと、最善の提案書とは短くまとめられたものです。Tomer Sharon氏は簡潔にするために1ページにまとめ切ることを推奨しています。
UXの提案書を書く理由
一見するとUXの提案書を書くのは大変な作業のように見えるかもしれません。しかし、デザイナーとステークホルダーの双方が同じ視点に立って、同じ問題を理解することは不可欠です。提案書は、プロジェクトに関わるすべての人にとって、そのプロジェクトの範囲の参考資料になります。
UXの提案書が便利なのは、UXデザインプロセスで何が起きるかを明確に定義し、プロジェクトが始まる前の期待値を揃えることができるからです。
UXデザインのROIは非常に高いにもかかわらず、そのメリットはまだ一般に認められてはいません。提案書を送る際には、UXのメリットを強調することで、ステークホルダーから承認を得られるでしょう。UXの提案書を書く利点は次のとおりです。
- 製品がよりよくなる
- ワークフローが合理化される
- リスクが軽減される
- インサイトが発見できる
UXの提案書を指す用語として、デザイナーやクライアントがデザインの要旨(design brief)という用語を使うこともあります。これらの用語は同じものなので、馴染みのある用語を使用してもらっても構いません。この記事ではUXの提案書と呼ぶことにします。
UXの提案書を作成するタイミング
UXデザイナーやUIデザイナーは、問題を特定して実用的なソリューションを届けることが大好きです。しかし、UXの提案書に集中して取り組み始める前に、最初にクライアントと話をしましょう。
営業部門では、店舗の営業担当者は近くの家を回って、人々に商品を買ってもらおうとします。この最初のやり取りは、見込み客を見つけて製品を紹介するのに利用されます。
その後、別の営業担当者が来て、営業を完了します。これが伝統的な営業プロセスの略説です。
UXデザイナーもこのプロセスと同様に、ステークホルダーとの足並みを整えてから提案書に着手する必要があります。その気があれば、プレゼンをしても良いでしょう。
UXデザインの提案書を書く最善のタイミングは、ステークホルダーが興味を持ったあとです。このようにアプローチすることで、UXに関する承認を得るのです。会議であろうと、カフェであろうと、ディナーの席であろうと、ステークホルダーに問題を説明する「場所」は、説明する「方法」ほど重要ではありません。
ステークホルダーと良好に会話を始めたいのであれば、オンボーディングが成功するようにタイプフォーム(Typeform)を作成しましょう。タイプフォームは、直接会うことができない場合に特に便利です。
問題をわかりやすく簡潔にまとめてから、問題のソリューションを提示してください。ここでは、ソリューションが彼らとビジネス全体の目標にどのように役立つかを説明することがきわめて重要です。
Nielsen Norman GroupのSusan Farrell氏によれば、このようにステークホルダーと早期から協力することで、デザイン上の問題を防ぎ、UXデザインの可視性を高めることができます。
営業の例に戻って、営業担当者が二重窓を販売しているとしましょう。人々は製品の特長ではなく、利益に反応するということを忘れないでください。顧客は必ずしも窓が二重であるという特徴を気にしません。そうではなく、彼らは暖房費が30%削減されるという利益に注目するのです。
ステークホルダーは利益を理解すると、UXの提案書に参加する可能性が高くなります。Whitney Hess氏は、ユーザーに奉仕するのと同じ思いやりとコミットメントをもってステークホルダーにも奉仕するよう徹底すべきだと主張します。
UXの提案書の作成方法
重要なステークホルダーから承認されたら、提案書を作り始めましょう。
どの提案書にも、プロジェクト名、日付、ステークホルダーが誰なのかといった詳細が必要となります。
では、UXの提案書を書く方法の手順を見ていきましょう。
問題を定義する
ここでは、目標に到達できない原因について述べます。問題を定義する際には、問題を解決できるように問題の原因を特定することが必要です。
Booking.comのUXデザイナーであるRichard Olomo氏は、この定義の段階は、散り散りになったアイデアを組み合わせて、より良いインサイトを得るのに役立つと書いています。
問題についての文章は、ビジネス目標、製品が使用されるコンテキスト、ユーザーの目標について理解することで書けるでしょう。これらの情報を知っていれば、提案したソリューションに事業価値を加えることができます。
そのような情報を入手するには、以下の方法で問題の影響を受ける人たちを巻き込む必要があります。
- インタビュー
- 実験
- 出来事の観察
- 調査
また、問題文を書くときは平易な言葉を使い、専門用語は避けましょう。
重要なステークホルダーと話をするとき、特に提案の初期段階では、Jeffrey Zeldman氏は中立的なリスニングをすすめています。つまり、問題を解決したい欲求を抑えて、ステークホルダーの意見を真摯に聞きましょう。結局、ステークホルダーも同じ人間なのです。
提案書の作成に役立つサービスがあります。 PandaDocのようなサービスは、ドラッグアンドドロップのインターフェイスが欲しいときに最適です。PandaDocのようなアプリの魅力は、コストやマージンの計算と支払期限を含めることができるということです。
背景情報を提供する
背景情報の掲示はなぜ必要なのでしょうか? UX提案書のこの部分では、このプランに至った概要を説明します。プロジェクトの歴史について自由に話してください。恐らく過去にも同じような問題にぶつかったことがあるでしょう。ここはそれらを表現する場所です。
目標と期待される成果を理解する
目標は、商品の買い物リストであってはなりません。数行の中で、提案書の目的を簡潔に説明しましょう。多くの目標があることが判明したら、複数の提案書を作成する必要があるかもしれません。一度にいくつかの問題だけに集中することで、誰も仕事に圧し潰されない、より快適なワークフローを生み出すことができます。
たとえば、次のような目標にしましょう。
このUXデザイン提案書の目標は、ランディングページの新しいデザインを実装し、新規登録のコンバージョンを促進することです。
これ以上複雑にする必要はありません。シンプルにするほど良くなります。
成果物を提案する
問題を説明し、ステークホルダーが理解できるようにしたら、いよいよ成功するために必要な成果物の概要を示すことでソリューションを提示しましょう。ほとんどのUXデザインプロジェクトには調査、デザイン、検証という段階が含まれているため、成果物について考えるときは提案書への記載を念頭に置いてください。
この段階で曖昧にならないようにしてください。 「全体的なUXを改善する」といったソリューションは、読む人によって多くの解釈が可能です。そこでKPIや指標が役立ちます。
成果物の定義は当面のプロジェクトに依りますが、上の例でいくと、成果物には次の要素を含める必要があります。
- 競合他社分析を実施する
- ペルソナを作る
- ユーザーフローを作る
- UXの要件を把握する
- アイディエーションをする
- ワイヤーフレームを作る
- インタラクティブなプロトタイプを作成する
- ユーザーテストをする
Nick Babich氏は、UXの成果物の完全なリストを作成しました。
UXの提案書にWebサイトをデザインし直すような全体的な見直しが含まれる場合、作業の範囲がそれほど膨大にならないよう、恐れずに成果物を段階やフェーズに分解しましょう。プロジェクトを細分化すると、タイムラインを簡単に見積もれるようになります。82%のUXの専門家が成果物を作成する際にほかのチームメンバーと協力していることを考えると、このプロセスに関わる重要なチームメンバーを獲得することは非常に重要です。
同様に、調査をすでにしている場合は、別の調査計画を実行する必要があることを忘れないでください。
仮説
仮説は、プロジェクトが終了するまでに発生すると予想される事象であり、多くの場合確証がないため、仮説という名前になっています。
プロジェクトについての仮説は、プロジェクトを前進できるように作る必要があります。プロジェクトを開始する前にすべての情報を明らかにすることはできません。そのため、仮説を立てることでプロセスを軌道に乗せ、不正確ですが変更可能な形にすることができます。
仮説は次のようになるでしょう。
プロトタイピング開発のフェーズは4週間以内に制限し、最大4回のリビジョンを行う。またはUXリサーチャーを利用できる場合には、調査は3週間の間、毎週金曜日に行う。
もちろん、仮説は覆されるかもしれません。しかし、仮説を確定する必要はないため、問題にはなりません。Rikke Dam氏は、より良いアイデアとイノベーションのために仮説に歯向かうことさえ言っています。
予想される期限と予算とは
時間を惜しまずに投入しましょう。締め切りを短くすると、ストレスや、質の低い仕事を生んでしまうかもしれません。プロジェクトがどのように展開されていくのかに対して寛大で現実的であれば、途中で起こるあらゆる誤解を避けることができます。
自分の手の加わっていない、あるいは外部の力に頼っているプロジェクトの部分があることを知っているのなら、それについて無視せず言及してください。
ガントチャートを使用してみるのも良いでしょう。ガントチャートは、プロジェクトのタイムラインを示し、期限を守り、重要な出来事を強調するのに役立ちます。ガントチャートとは、シンプルで読みやすい図で、プロジェクトの構造を分解してプロジェクトの計画とスケジュールを視覚的にわかりやすくするものです。
予算の面では、Quote Rollerが助けてくれるでしょう。Quote Rollerには価格設定の機能がたくさんあり、利益率を計算し、割引を適用することもできます。また、潜在的なクライアントがコメントを残すこともできるため、話が前後するのを回避することさえできます。Quote Rollerのすばらしい特徴は、顧客が好みに応じて商品を選ぶことができることです。
結論
良いUXデザインはビジネスに利益をもたらしますし、その点までは誰もが知るところです。しかし、ステークホルダーを巻き込めるかどうかはまったく別の問題です。UXデザイナーは、明確に定義され考え抜かれたUXの提案書を書くことで、ユーザー体験を成功させるために必要な承認や影響力、コントロールを得ることができるでしょう。