ほとんどの人は習慣に支配されています。私たちは、日々同じことを同じやり方ですることを好みます。研究者によれば、私たちは予測可能な行動しかせず、それほど自発的に行動することもありません。慣れ親しんでいるという感覚は、満足や安全、安心で満たされた価値のあるものです。
しかしもしそれを捨て、習慣や行動パターンに頼らず生きようとしてみたら何が起きるでしょうか?
では、以下の実験の結果を見てみましょう。
UXデザインパターンとは
簡単に言えば、「UXデザインパターン」とは、ユーザーがWebサイトに接するときの行動をデザイナーが予測して考え出したものです。
実例として、コンピュータのキーボードのレイアウトを考えてみてください。どこにどのキーがあるか予測のつくレイアウトになっていて、何十年も変わっていません。
WebデザイナーはよくWebサイトの訪問者にアクションを起こすことを求めます。このとき、アクションは簡単に達成できるものでなくてはなりません。求められるタスクには、サインアップ、ログイン、ログアウト、メールアドレスなどの重要な情報の入力などがあります。
もしこれまでにWebサイトを作成したことがあるなら、サイトのあらゆる要素が絡むユーザー体験の難しさをご存知でしょう。
ほとんどのインターネットユーザーは毎日いくつものWebアプリやモバイルアプリにアクセスしているので、個人情報を何度も入力する必要があると非常に面倒に感じます。一方で、このような課題は、UXデザインパターンを実装してプロセスをより簡単にする良い機会です。
UIはどのようにUXの影響を受けるか
UIとUXには微妙な違いがたくさんあります。
UIデザインは、Webサイトを訪れたときにユーザーが接するWebサイトの一部分です。ユーザー体験には、サイト全体や、ユーザーがサイトを見たときの感情や印象などの広い範囲が含まれています。
一般的に言えば、UIは形を扱い、UXは機能に重点を置きます。つまり、UXパターンとUIパターンは部分的に重なっていて、どちらも同じ意味を指すこともあるのです。デザイン理論の中には、UIはUXにとって不可欠な部分だとするものもあります。そのため、良質なUIがなければ、良質なUXは絶対に得られないと言えるでしょう。
UIライブラリには、ユーザーフローやデータが空状態のときの処理など、UXの問題を対象にしたアイデアや解決策が含まれているものもあります。一方、単に魅力的なUIを作るためのアイデアを並べているだけのライブラリもあります。
UXデザインパターンとUIデザインパターンについて簡単におさらいしたところで、両パターンの有用性をテストする実験を見てみましょう。
実験
とあるUXデザイナーと認知科学者は、混乱誘発型パターン(disruptive pattern)が作業能率にどのような影響を与えるのかを調べる実験を行いました。
直感的には、習慣から逸脱すると、私たちの生産性や反応時間、満足度に対して否定的な影響があるように思います。この実験の主要な疑問は、この違和感に普遍的な真理があるかどうかということです。
実験では、標準的な電話のキーパッドを習慣的なパターンとして用い、論理的に並べ替えたキーパッドを混乱誘発型パターンとして用いました。
標準的なキーパッドはボタン式電話すべてで使われているものなので、誰でもあまり労力や集中力を使うことなく操作できます。
しかし、混乱誘発型キーパッドの操作は認知機能を必要とします。ユーザーは混乱誘発型キーパッドの使い方にまったく慣れてないため、学習曲線に沿って操作を習得していきます。
もっとも重要な点は、混乱誘発型キーパッドは標準的なキーパッドと対立しているということです。標準的なキーパッドを使ってきた経験が、混乱誘発型キーパッドを同じように正確かつ器用に使えるようになることを邪魔するのです。
今回の実験のために、jQueryとMySQLを使いWebアプリが開発されました。被験者は10桁の電話番号を記憶して、最初は標準的キーパッド、次に混乱誘発型キーパッドで1回ずつ番号を入力します。
キーパッドが現れる前に3秒間のカウントダウン画面が設けられました。10桁の番号をダイヤルするのにかかる時間とバックスペースキーが押された回数を実験用Webアプリが計測して記録しました。
実験結果
サンプル数=130 | 操作時間(秒) | バックスペースキー操作回数 | ||
標準的キーパッド | 混乱誘発型キーパッド | 標準的キーパッド | 混乱誘発型キーパッド | |
平均値 | 8.11 | 10.94 | 0.31 | 0.76 |
中央値 | 6.50 | 10.00 | ||
標準偏差 | 4.28 | 5.34 | 0.97 | 2.28 |
実験は、AndroidとGoogle Chromeを使って、約150名の被験者に対して行われました。「12345」のような入力しやすい数字の組み合わせや、技術的問題のために生じた極端な外れ値は除外しています。そのため、最終的な有効サンプル数は130になりました。
上記の表によれば、混乱誘発型キーバッドで10桁をダイヤルするのに必要な時間の平均は標準的なキーパッドより35パーセント長くなりました。また、中央値は標準的なキーパッドよりも54パーセント長くなりました。
注目すべき興味深いことは、標準タイプと混乱誘発型の入力がまったく一致していなかったサンプルが28個あったことです。おそらく、標準的キーパッドでは正しく入力されたのですが、混乱誘発型キーパッドでは、間違えていることに気づかずに誤ったキーが押されていたのでしょう。
結論
UXパターンを使わないと大きな代償を払うことになります。
標準的でないデザインは操作速度を最大50パーセント低下させ、操作を間違える可能性が増加することが実験でわかりました。慣れ親しんだ慣習が失われると、ユーザビリティや機能、効率に重大な被害をもたらします。
この結果からわかるのは、私たちがパターンを好む傾向から逃れられないということだけではありません。すでに存在していて、うまく機能しているパターンを探したほうがいいということです。私たちは生まれつき、このやっかいなパターンとそれがもたらす規則を好んでいるのです。
ことわざにもあるように、「壊れていないものを直してはいけません」。