ユーザーリサーチにおいて多くを得るためには、より多くの投資をしなければならないこともありますが、方法によっては過度な出費を抑えることができます。例として、このGoogleの統計を見てください。アプリを使用しているたった5人のユーザーを観察すれば、核となるユーザビリティーの課題の85%を判断できることをご存知ですか?
限られたUX予算のもと短期間で作業を行う場合、ゲリラユーザビリティテストはユーザーの傾向を割り出し、ユーザの行動を観察し、UIを改善する安価で迅速な方法です。実際に、単純なゲリラ形式のユーザビリティテストで、コンバージョン率の向上や顧客満足度、継続率の改善、そしてメンテナンスとプロジェクトリスクの削減が可能であることが証明されています。
すぐにできる賢い調査方法を探しているのであれば、ゲリラアプローチを試してみるべきでしょう。この記事ではゲリラユーザビリティテストの基本をすべて紹介し、さらにこの業界におけるコツなどもお教えします。
ゲリラユーザビリティテストとは何か
そのほかのユーザビリティのテクニックと同様に、ゲリラユーザビリティテストは、ビジュアルデザインや機能、全体のメッセージなどを任意の参加者に対してテストします。そして、参加者の反応を記録することによって、インターフェイスの有効性を評価する方法です。
ゲリラユーザビリティテストの特徴は、参加者を事前に募集しないということです。代わりに、カフェや図書館、ショッピングモールなどの自然な環境で、普通に生活している一般人に対してアプローチします。
ゲリラユーザビリティテストは、ほぼ間違いなく迅速かつ安価にターゲットユーザーからフィードバックを集める手間の掛からない方法です。
ゲリラユーザビリティテストのプロセス
ゲリラユーザビリティ調査は、ユーザーリサーチにおける重要目標を中心に構成されています。それにもかかわらず、ゲリラユーザビリティ調査は通常の場合、ユーザーリサーチの進化に応じて調整できるように、十分な柔軟性を備えているのです。
一般的に、調査セッションは短いものであり、UX専門家のNick Babich氏によると10~15分程度がほとんどです。また、ゲリラユーザビリティテストはほかのタイプの調査よりも参加者数が少なく、Box UKのGavin Harris氏によると6~12人程度だそうです。そのため、時間が短くても各参加者の行動を徹底的に評価するのに十分な時間を割り当てることができます。
ゲリラユーザビリティテストは、比較的手間をかけずに済む方法でもあります。基本的な方法は、テスト参加者に一連のタスクを完了してもらい、リサーチチームがテスト中に発生した問題をすべて記録するというものです。
ゲリラユーザビリティテストを実行するのに、設備はあまり必要ありません。テストを実施するためのPCとモデレーター、観察してメモを取る人だけで良いです。また、リソースと時間の節約のためにスクリーンレコーダーを使用して参加者の反応を記録することもできます。しかし、テストの各所で参加者の反応やボディランゲージを観察する人がいるほうが好ましいでしょう。
テストでは、Justinmindのようなツールで作られたプロトタイプを使うと良いでしょう。プロトタイプを使うことで、テストをインタラクティブにすることができます。
ゲリラユーザビリティテストの成果
ゲリラユーザビリティテストの成果は、参加者を直接評価するため定量的ではなく定性的なものです。定性的な調査では、「何個か」か「どれくらいか」よりも「なぜ」と質問する傾向があります。このタイプのテストのゴールは、既存インタフェースのユーザビリティ評価というよりは、進行中のプロジェクトのユーザビリティ上の問題を特定することです。
調査結果と知見は、調査チームの参加者の反応に対する解釈に基づいています。Gavin Harris氏が提案する、ゲリラユーザビリティテスト実施後に期待されるいくつかの成果物を以下に示します。
- 所用時間と主目的を概説するテスト計画書
- PC画面と参加者の録音を組み合わせたビデオ
- 調査結果と次のステップをまとめた報告書
- 調査結果と今後のステップを説明するプレゼンテーション
ゲリラユーザビリティテストを実行するべきか
答えは「はい」です。ゲリラユーザビリティテストは、プロジェクトにおいて迅速かつ安価なテストが必要な場合に実施しましょう。プロジェクトのライフサイクルの早い段階でデザインの前提条件を検証する必要がある場合や、予算が少ないプロジェクトの場合などです。
アドホックなユーザーリサーチでは、遠方に住んでいたり、謝礼が必要な「特定」の参加者を避けます。What Users DoのElizabeth Chesters氏は、このタイプのテストでは、目の前に「はい」と言ってくれる人がいるため、すぐにデザインの基礎を設定して改善点を測定するもっとも効果的な方法だと言います。
しかし、アドホックなユーザーテストでは必ずしもターゲットのユーザー層を対象としているわけではないため、結果はあまり正確ではないことも覚えておいてください。実際に、製品や市場に新規ユーザーと既存ユーザーが混在する可能性があります。このことからゲリラユーザビリティテストは、特定のデバイスや機能に関して高度な知識を要さないユーザーリサーチに限定するのが良いでしょう。
ゲリラユーザビリティテストを始めるには
おわかりのように、ゲリラユーザビリティテストはUXデザインプロジェクトにおいて、ユーザーからフィードバックを得るための効果的な方法です。では、ゲリラユーザビリティ調査の始め方について見ていきましょう。
何をテストすべきか
前述したように、ゲリラユーザビリティテストは、プレッシャーが少ないアプローチのユーザーテストです。しかし、準備しなくても良いということを意味しているわけではありません。
わざわざ地元の喫茶店で人々に声をかける前に、製品がうまく機能している点や改善しなければならない点を定義したテスト計画を作成して、準備を整えましょう。
まず最初に、何をテストしようとしているか考えてみてください。ユーザーリサーチの範囲を確実に理解することは、ゲリラユーザビリティ調査を成功させる鍵となります。なので、ユーザができるようになってほしいことを見つけてください。もしかしたらニュースレターへの登録や、製品の機能について知ってもらうことかもしれません。ゴールが何であれ、具体的に書き留めましょう。
Googleアナリティクスやヒートマップ、A/Bテストを利用して、傾向を把握したり変更が必要な箇所を理解するのに役立てられるかもしれません。アナリティクスはうまく機能しない部分を示し、ユーザビリティテストはその理由を教えてくれます。
調査結果に基づいて、テスト参加者が行うタスクリストを作りましょう。たとえばECサイトの支払い体験を最適化したい場合、タスクリストは以下のようなものになるでしょう。
- カートに商品を追加する
- 追加の商品を探す
- 支払いページに移動する
- サインインする
- 配送先住所を変更する
- 支払いの詳細を確認する
- 支払確認を印刷する
- メールの受信トレイで支払承認についてのメールを見つける
タスクを思いついたらシナリオにまとめて、参加者が読んで把握できるよりアクセスしやすいものにしましょう。この記事では、シナリオの作成について詳しく説明していきます。
テストしてはいけないものとは
ユーザビリティテストを簡単にするためには、ユーザーリサーチの範囲を減らす必要があるでしょう。Stockwell Strategyの社長のAmanda Stockwell氏は、まず時間とリソースが無制限にある状態を想定して調査方法を策定することから始めます。
そして、逆に実際の予算で機能するように切り替えられるテストの要素を探していく作業をするのです。省略するために最初に見る場所は、リサーチの質問の範囲であると指摘しています。
先ほどの支払い体験の例では、以下のタスクを省略できました。
- 追加の商品を探す
- 配送先住所を変更する
- 支払確認を印刷する
また、テストの参加者数を減らしてワイヤーフレームを必要最小限にすることで、ユーザーリサーチの範囲を減らすこともできました。
いつテストするか
ユーザーリサーチでのよくある間違いは、デザインプロセスのかなり遅い段階でユーザービリティ調査を実行することです。初期段階のテストは、チームが構築に時間とリソースを費やす前に、チームのアイデアの検証を行うのに役立ちます。そして、長期的に見ると費用対効果が良いことが証明されています。
ユーザビリティ専門家のJakob Nielsen氏は、以下のように指摘しています。
ユーザートレーニングを1時間省略することができるというのは、生産的な業務にもう1時間を費やすことができ、指示者への支払いを1時間分減らすことができるということです。
低コストで易しいステップアップにより、ゲリラユーザビリティテストはデザインプロセスの早期段階で始めやすくなります。さらに、テスト媒体(紙、ワイヤーフレーム、プロトタイプなど)を柔軟に選択することができます。
また、ゲリラユーザビリティテストは、プロジェクトの開始に限定しなくても良いということを覚えておきましょう。実際には、早期段階でのエラー特定からアジャイルスプリントで繰り返しデザインテストを行う際まで、デザインプロセスのどの段階にも組み込むことができます。
どこでテストをするか
ユーザビリティ調査の場所は重要であり、テスト結果に直接的な影響を与える可能性があります。最高のフィードバックを得るためには、以下の項目に注意してください。
- パソコンを充電できる場所を選びましょう。セッションの途中で充電がなくなるようなことがあってはいけません。
- インターネットへのアクセスが必要な場合は、Wi-Fi環境のある場所を選びましょう。
- ユーザーが音声に対して反応する場合は、図書館では行わないようにしましょう。
UX BoothのDavid Peter Simon氏が示しているように、コンテキストが調査結果に影響を与えているのです。内容を考えて調査を進めてください。
どうやって適切な参加者を見つけるか
適切なフィードバックを得るためには、適切な参加者に参加してもらう必要があります。誰にアプローチするかを考えるときは、何よりも誰が製品を使用するのかを検討してください。
適切な参加者を探すときは、適切なタイミングで適切な場所にいるようにします。カフェで参加者を探している場合、人々が朝のコーヒーを手に取っているときに調査を実施するようにしましょう。
ヒント:人は金曜日になると友好的になる傾向があります。また、無料の食べ物があると良いでしょう。
UX-UIデザイナーのFlora Ganther氏は、間違った時間に間違った場所にいると悲惨な結果を招く可能性があるということを説明した、ゲリラユーザビリティテストの体験を教えてくれています。
どのようにテストするか
ゲリラユーザビリティ調査を開始するのは、誰かのところへ行って数分時間を割くことができるか尋ねるのと同じくらい簡単です。
誰かが参加を承諾してくれたら、テストの仕組みとどれくらい時間がかかるか説明します。できるだけ正直に言いましょう。たとえば15分かかるテストの場合、おそらく5分で終わるでしょうということは絶対に言ってはいけません。同様に、最初の説明に多くの時間をかけすぎないようにしましょう。
もっとも正確なフィードバックを収集するために、参加者には声に出して考えてもらいましょう。テスト中はずっと参加者に声に出して考えるよう促す必要があるかもしれません。
テストについて説明したら、テストを開始します。テスト中に参加者が発言したことをしっかりと記録しておいてください。各タスクをどれだけ簡単に達成できたか、タスクの達成にどれだけ時間がかかったか、何個エラーがあったかなどを記録する必要があります。
必要な場合を除いて話しかけないようにし、参加者に回答を考える時間を与えましょう。テストが完了したら、質問をしていきます。User BrainのMarkus Pirker氏は、運よくターゲットとなる参加者をテストする機会があれば、調査の一部を顧客インタビューに変えることを提案しています。参加者がテストについてどう思ったか、何を難しいと感じたか、インターフェイスに関する全般的な印象などを調べましょう。
ヒント:予算が許すのであれば、最初の1、2回のセッションは練習ラウンドとして扱い、精神的あるいは技術的な事故を許容するようにしましょう。
ゲリラユーザビリティ調査からの知見を活用する
ゲリラユーザビリティ調査が完了したら、データを収集し、使用パターンを特定して調査結果をチームと共有しましょう。デザイナーや開発者、ステークホルダーなどの受け手によって、調査結果の共有方法はさまざまです。
たとえば、報告書テンプレートを使用したり、関心を引く指標データを収集するためのチャートを作成したり、スクラムのバックログに調査結果を直接配置したりします。またハイライト付きの2~3分のビデオ映像(インタラクティブにして共感を得るのに最適)を作成するのも良いでしょう。
Airbnbはゲリラユーザビリティテストを実施したとき、予約やフィルター、検索、ナビゲーションに関するコメントの頻度のレベルで、ユーザのフィードバックを収集と依頼を行いました。
ゲリラユーザビリティテストの調査結果は、デザインの修正をどのように実装するかやリデザインの進め方、究極的にはユーザーがサイトやアプリをどのように受け取るかということに、直接影響するでしょう。
まとめ
ゲリラユーザビリティテストは、すべてのUXプロジェクトにとって最良の選択ではないかもしれません。しかし、インターフェイスに関してユーザーのことをより深く知るためには、迅速で効果的なアプローチになる可能性があります。
さらに、ユーザビリティテストはWebサイトやアプリの成功に不可欠であり、ユーザーからの手短なフィードバックであっても、何もないよりましであるということを忘れないでください。