このケーススタディシリーズでは、すぐれたユーザー体験を持つアプリDuolingoとBumbleについて調べてきました。プラットフォームに欠陥がなかったわけではありませんが、両アプリは調査の結果、プラスの評価を得ました。
今日のテーマはそれとは違う話です。
ナショナルフットボールリーグ(NFL)のシーズンが開幕すると同時に、約3200万人のアメリカ人にとってはファンタジーフットボール(編注:フットボールのファンタジースポーツ)の開幕を意味します。ファンタジースポーツ業界(編注:お気に入りの選手を集めた空想のチームを作り対戦するゲーム)の市場規模は2013年に数十億ドル台に達し、しかもなお、デイリーファンタジー形式の人気の高まりによってさらに膨らんでいます。
CBSやYahooやNFL自身もファンタジーリーグを開催している一方で、ファンが自分たちのリーグを管理するためのポータルサイトとして、ESPNはもっとも人気を博しています。ESPNのファンタジーフットボールのモバイルアプリは数百万人のユーザー数を誇ります。これは驚くべきことです。このアプリのUXに欠陥があることを考えるとなおさらです。
今日はESPNファンタジーアプリを詳しく分析して、特徴と機能を調べ、弱点を診断し、成功を讃えたいと思います。
あなたはフットボールのファンではないですか? 大丈夫です。専門用語の知識も、ひいきの選手も、ファンタジーフットボールの基本的ルールの知識も必要ありません。ユーザー体験(UX)は普遍的な言語であり、そのためデザインのクオリティ(またはその欠落)を見分けるのは簡単ですから。
オンボーディング
いつものように、オンボーディングプロセスの評価から始めましょう。どのユーザー体験においても間違いなくもっとも重要な構成要素であるオンボーディングは、アプリのインターフェイスにユーザーを効率よく徐々に慣れさせながら、シームレスにアプリが使いこなせるようにしなければなりません。
ESPNの最初の画面は定型どおりです。白地にロゴと、標準的な「登録」ボタンと「ログイン」ボタン。さらに3番目の「あとで登録」ボタンもあります。これは興味深い賭けです。ユーザーにまずアカウントを作ってもらうのはある種の慣習となっていますが、私たちはすでに登録を先延ばしすることが有益だと知っています。
「あとで登録」を押すとすぐにアプリのホーム画面が表示されます。そこは、3個のボタンとスポーツのアイコンの並んだナビゲーションバー、バナー広告、ESPNの記事数点による「今日登録する」モジュールに埋め尽くされています。左上のメニューアイコンをクリックすると、それぞれ数千ドルの賞金を声高に叫ぶESPN提供の4種類のゲームが出迎えます。
情報が多すぎて圧倒されてしまいます。しかし、おそらくまだアカウント登録をしていないからでしょう。わたしは初期画面に戻って「登録」を選びます。
テキストの壁です。PRメールの送信についてお願いや、利用規約とプライバシーポリシーに関する免責条項、ふたつの「登録」オプションが表示されます。そうです。「登録」を押したあとにもう一度「登録」を押せるのです。メールでの登録ボタンをクリックすると、わたしがデータを入力しなければならないフォームで埋め尽くされた画面に連れていかれます。
ESPNがわたしの性別や誕生日を必要としている理由の説明がありませんが、まあいいでしょう。登録をすれば、インターフェイスが見やすくなるか、まず何をすべきかを教えてくれると良いなと思いながら登録を済ませます。
登録したあとに画面の貴重なスペースのほとんどを使って求められるのが……また登録?
先程の登録と同じものでしょうか。皆さん、そのとおりです。登録を2回しなければいけません。まずアカウントの作成のため、次に実際にリーグを作成したり参加するために。
わたしはファンタジーフットボールのファンになって長いので、このアプリを使ったことがありますし、インターフェイスにも慣れています。しかしはじめてのプレーヤーにとって、このオンボーディングプロセスは悪夢です。このアプリの使い方の案内はどこにも見つかりません。
これは驚きです。ファンタジーフットボールはかなりの数のフットボール初心者を魅了しています。たとえるなら、NCAAのマーチマッドネス(全米大学男子バスケットボールトーナメント)のようなものです。人々は少しばかりのお金を賭けたり、スポーツに「関わっている」ことの興奮を味わったり、友だちや同僚とリーグに参加して友情を楽しんだりするのです。
ESPNのファンタジーアプリにおいて、ファンタジーフットボールの初心者というユーザーペルソナは、完全に無視されているようです。
すばやく早送り
次に、チームを作ってみましょう。ファンタジーリーグをまとめるのは共同作業です(通常8〜12人が参加)。アプリ登録から選手を揃えるまでのジャーニーを念入りにしらみつぶしに調べたら何日もかかるでしょう。
ESPNファンタジーのわたしのホーム画面は今このようになっています。
リーグに参加してチームを編成し終えたので、役立つ情報が目立つように表示されるようになりました。今週の対戦相手、最新のスコアと予想ポイント、チームの何人が現在出ているかなどが含まれる。
2番目に大きいのは、どのESPNゲームにでも参加できるという「Pigskin Pick’em」の広告です。ゲームに必要なものを手短かに説明し、お金が獲得できる可能性を示しています。この広告が画面のほぼ25%のスペースを占めてしまっています。お世辞にもタイミングがいいとは言えません。
さらに悪いことに、グリーンのCTAが3個もあります。チームを1つ以上保有しているファンタジーユーザーがたくさんいることはわかりますが、それらのCTAをホーム画面で強調することと、CTAが何回アクセスされるかということが、同じ意味を持つのかはわたしにはわかりません。
左上のメニューボタンを選んだときも、たいして違いはありませんでした。イライラしたのは、メニューのほとんどがまたもや他のESPNゲームの販促に使われていることです。アプリのほかの使い方をクロスマーケティングする重要性は理解していますが、ここまで体験を損ねるのであればやめるべきでしょう。
「マイチーム」モジュール
左側のツールバーから「マイチーム(My Team)」を選ぶと、さらに長い2番目のメニューが開きます。このモジュールは、ユーザーがアプリ内で時間の大部分を過ごす場所です。アプリは去年から改善されてはいますが、いまだに窮屈です。
公平を期すためにいうと、ファンタジーフットボールは膨大な量の情報が必要です。オーナーは可能な限りのデータを要求し、週ごとの対戦で決着をつけるカギとなるかもしれない重要な数値を欲しています。ファンタジーフットボールでもっとも頻繁に訪れるモジュールが「マイチーム」なのです。
まだひどすぎます。前のバージョンはもっと混乱していたことを覚えてはいますが。今年のバージョンはすっきりとはしました。しかし問題がないというわけではありません。
「対戦統計(Matchup Stats)」を押すと、矢印が示しているように、ドロップダウンメニューが出ると思うでしょう。ところが実際は、チーム名の隣に出ている統計情報を変えるだけのために新しいページが開くのです。
このまぎらわしいデザインは好きではないのですが、どのような改善策が良いのかはわかりません。画面はすでにさまざまなボタンやアイコンでぎゅうぎゅう詰めなので、ポップアップやオーバーレイには賛成できません。「登録選手名簿(Roster)」にもどって、上のナビゲーションバー「登録選手ニュース(Roster News)」タブを押してみます。
「登録選手ニュース」タブについては迷っています。第1に、それが必要なのかさっぱりわかりません。同じ情報(とさらに多く)が「登録選手名簿(Roster)」タブの選手情報の次にある赤い新聞アイコンを押しても見られます。それと同時に、全選手のニュースは1つの場所に集中させるのがいいと思います。
最終判定
アプリの隅々まで総当たりすることはできませんが、ESPNファンタジーアプリを徹底的に調べれば調べるほど、いつもよりも早めにケーススタディを終えざるを得なくなってきました。私はフットボールファンでありUXファンでもあるので、このアプリに関してはこれ以上は書きたくありません。
ここまで読めばおわかりのように、ESPNファンタジーアプリに対するわたしの評価は高いものではありません。オンボーディングは混乱していて、非常に入り組んだインターフェイスをナビゲートする案内もなく、重要なユーザーのペルソナであるフットボール初心者を完全に無視しているようです。
劣悪なユーザー体験はアプリを確実に破滅させる方法であることをはわたしたちは何度も何度も教えられました。ですから、劣悪なUXデザインにもかかわらずESPNがもっとも人気のあるファンタジーフットボールアプリであり続けているのはなぜなのでしょう?
第1に、競合アプリもよくないからです。YahooとCBSのアプリもESPNと同様に多くのデザイン上の落とし穴と弱点に苦しんでいます。
2番目の理由は、ESPNファンタジーフットボールが失敗するには大きすぎるということです。わたしは何年ものあいだ、9月が近づくたびにESPNファンタジースポーツに戻って楽しんでいます。アプリは最低ですが、慣れてしまいました。ヒトは習慣の生き物です。ですから、わたしは人生の残された日々をESPNのUXに苦しんで過ごす運命にあるようです。
でもまだ希望はあります。ESPNにはUXデザインエージェンシーを雇ってプラットフォームをきちんと整理することができます。あるいは、ESPNと共催して、もっと整理された便利なユーザー体験を提供するファンタジーアプリを誰かがもってきてくれるかもしれません。
UXを考慮することは必要不可欠です。UXを考えずに済ますこともできるかもしれませんが、参加する人の役に立つアプリにはなりません。これでは意味がありません。しかも、オンボーディングはやっかいなのですから。