消費者にとって、音声によるUXの進化は好ましいことです。これは、音声プラットフォームやデバイスが普及しつつあり、音声操作に慣れた人が増えていることからも明らかです。
一方でデザイナーにとって、音声インタラクションの普及はタッチスクリーンの幕開け以来のUXにおける最大の挑戦となるでしょう。
音声の基本
いまでは、SiriやCortana、Bixby、Alexaなど音声アシストの風変りな名称に慣れた人も多いでしょう。これは過去数年間で音声UIが伸びてきたという証です。
テクノロジーはさらに高度になり、いままで以上にデジタルエコシステムに浸透していくことになるでしょう。
音声UIとは?
音声ユーザーインターフェイス(VUI)とは、ユーザーがデバイスに対して話しかけるとその発言を理解して、ユーザーの命令に応じて動作する機能を意味します。
朝5時に目覚ましをセットするようSiriに頼むことから、Amazon Primeでお気に入りの番組を再生するようAlexaに頼むことまで、タイピングの代わりに音声コマンドを使用することは、ユーザーにとってますます自然になっています。
音声の台頭
音声の台頭は、主にAIとクラウドコンピューティングの進化によるものと言えます。機械学習と自然言語処理能力における飛躍によって、いまや人間の発言をリアルタイムでより正確に理解できるようになりました。また、個々のユーザーの発言傾向を記憶して、そこから学習することもできます。
全米民生技術協会のShawn DuBravac氏によると、過去30カ月におけるVUIの発展は、過去30年間におけるVUIの発展をしのぐそうです。また最終的には、音声コンピューターが従来的な画像UIの代替になるだろうとも発言しています。
Webデザインにおける音声の影響
VUIはここ数年で飛躍的に発展したにも関わらず、まだ初期段階であるのが現実です。VUI自体は徐々に利用されるようになってきていますが、デバイスとのインタラクション方法として音声がパラダイムシフトになるかはまだ不確かです。
しかし、マルチモーダル型のインターフェイスへの移行は明らかです。音声だけのインターフェイス(Amazon EchoやGoogle Homeなど)と比較すると、マルチモーダルは画面上に情報が表示されるという付加価値があります。そして、次のステップはよりフリクションの少ないインタラクションをデザインすることです。
Webデザイナーにとっては、以下の3つのポイントを意識することが重要です。
言葉の重要性
やはり、言葉は重要です。
近年、Webデザインは、ユーザーの関心を引くビジュアル要素にますます依存するようになりました。しかし、音声とビジュアルの統合は避けることができないことであり、再び言語の細部まで注意を払う必要が生じるでしょう。
そのほかにも、音声UXに基づいてサイトナビゲーションや情報アーキテクチャを再考することも必要でしょう。
たとえば、ECサイトで前回購入したものをもう一度注文したいと思ったとき、VUIにおいても従来のタブをクリックして注文するのと同じプロセスを行うことをユーザーは望みません。「前回買った商品をもう一度注文する」とそのユーザーが言うとしたら、Webデザイナーはそれを実行できるようにプログラムする必要があります。
このとき、標準化されたコマンドやキーワードが存在すると理想的です。長々としたコマンドをユーザーが覚える必要があると、VUIの目的は失われてしまうでしょう。
加えて、コンテキストによって異なる意味をもつ言葉も理解しなければなりません。これは現実世界により近いものです。
ユーザーの意図を理解する
ビジュアルと音声インターフェイスにおいてコマンドを安定して解釈することは、UXデザインにおける重要項目です。
デザイナーができることは、ユーザーの過去の行動に基づいた予測会話の提案です。会話のさまざまな部分から、ユーザーの意図を予測することが不可欠です。
たとえば、あるユーザーがホテルのWebサイトを訪問してすぐに「ギャラリーを表示する」ように命令したとします。そのとき、サイトは画面上に表示されている写真の部屋を予約したいか尋ねることができるでしょう。また、Airbnbでシカゴでの予約状況を知りたいとき、いつの日付が良いかを尋ねることができます。そしてシカゴエリアの部屋の、日付のフィルターがかかった検索結果を表示します。
しかし、いつもこのように単純ではないでしょう。そのためデザイナーは、ユーザーから適切な反応を引き出すために、正しいタイミングで適切な質問をユーザーにすることが重要です。そして最終的に、音声によるサイトナビゲーションをできる限りシームレスにするのです。
エンゲージメントとパーソナライズ
VUIのデジタルエコシステムが発展すると、音声インタラクションの目新しさが薄れる可能性があります。Webデザイナーにとって、これはユーザーのエンゲージメントを維持するための挑戦であり、好機でもあります。
ユーザーが慣れ親しんだサイトを何も考えずにブラウジングする代わりに、デザイナーは音声によって体験に変化を加え、ユーザーをエンゲージメントすることができます。たとえば、エラーメッセージの不快さは音声によって軽減することができ、それだけでなくユーザーを正しい手順に誘導することもできるでしょう。また、ほかの選択肢を提示できるかもしれません。
さらに、ユーザーから十分なデータを得られたら、データに基づいてパーソナライズされた音声UXを提供することもできるでしょう。たとえば、ユーザーの話し方や好みをデータとして収集することが考えられます。
さらなる挑戦
正確さ
最初にSiriが登場して以来、音声起動型システムは長い道のりを歩んできました。音声アシストは、いまでは90%以上の正確性を持っているという説もあります。しかし、音声入力を正しく理解できても、依然として適切な結果を導くことはできていません。
Social Media Todayの記載によると、「医者が必要です」といった平凡なクエリであっても、近くの医者リストを表示することもあれば、Wikipediaの医者のページを表示することもあるそうです。そのため、より複雑なクエリの場合は、さらに悲惨になることが予想されます。
もちろん音声UXをともなうマルチモーダル型インターフェイスには、混乱をある程度取り除くという利点があります。しかし、音声UXが導入されることによって、以前よりも多くのフリクションが生じてしまうのであれば、ユーザーはうんざりしてしまうでしょう。
言語サポート
現在の発展段階において、人気のクラウド音声サービスがサポートする言語数は大変限られています。UXにおいて、音声は革新し続けていくものです。そのため、世界レベルでシームレスな音声UXを提供するという野心があるデザイナーは、言語サポートに対処する必要があります。
覚えておくべきこと
現在、VUIはよりフリクションの少ないインタラクションを目指す過渡期にあります。そして、フリクションの少ないインタラクションの実現のために、さまざまなテクノロジーが新しく登場しています。
しかし、今後何年すると音声が一般的に使われるようになると推測される一方で、VUIの限界については未だに不確かです。VUIの目新しさは薄れてしまうのでしょうか? テクノロジーは今後さらに改善できるのでしょうか?
この前途有望なテクノロジーには、多くの疑問がついてまわります。しかし、テクノロジーが進化するのを待っていれば良いということではありません。企業は望ましくないインタラクションを導入してしまうリスクを避けなかればなりません。
すべての人が行動に移すべきであるというわけではないですが、音声UXを取り巻く発展に、デザイナーは十分な注意を払うべきです。UXはつねに現実世界と同じようなインタラクションを生み出すためにデザインされてきました。そして、音声もインタラクションを現実のことのようにする可能性を秘めています。