私が担当したあるクライアントのWebサイトはめちゃくちゃでした。
クライアントの組織が変わるたびに、Webサイトも拡張に拡張を重ねてきましたが、無駄なリンクの削除や整理整頓はまったくされていませんでした。新しいプロジェクトが始まるときは、新しいセクションを追加するだけでした。
私は11のセクションに分かれた新しいサイトマップを作って、クライアントに提案しました。すると、彼らはいくつか漏れていると言い、トップカテゴリーが24個もあるサイトマップを渡してきたのです。
クライアントの情報アーキテクチャ(IA)には、階層が存在しませんでした。ただ情報が無秩序に絡まり合っているだけです。ユーザーフローを描き出そうとしても、こんがらがった絵にしかなりません。
ユーザーの混乱はアナリティクスにも表れています。ユーザーは目的を果たそうとページをさまよった挙句諦めていました。
こうしたサイトの混乱がどれほど悪影響を与えているかクライアントに説明すると、彼らはうなずきました。問題があることは理解していたようです。
しかし彼らは、はっきりした解決策は見出せていませんでした。サイトが無秩序にからまっている状況を、どのようしたら改善できるのかはわからなかったのです。加えて、既存のコンテンツをすべて捨てて1からやり直すことは望んでいませんでした。クライアントの「ソートリーダーシップ(thought leadership)」は、サイトのコンテンツの種類の多さと量に大きく依存していからです。
編注:ソートリーダーシップとは、課題に対して企業が独自の理念を掲げ、解決の主導者になること。
そこで私は、ルネサンス期に発明された絵画の手法である「一点透視図法」について話し始めました。
一点透視図法を用いて目的を見つける
西洋美術で「消失点」が周知されるようになったのは、一点透視図法が考案されてからです。この手法によって、絵画は広場に敷き詰められたタイルが遠方の1点に収束していくような3次元の錯覚を描けるようになりました。
その後、一点透視図法は単なる消失点の表現だけではなくなりました。というのも芸術家は、一点透視図法を用いて宗教画の図像を際立たせようとしたからです。
私はクライアントへのプレゼンテーションで、ヘントの祭壇画から『神秘の子羊の礼拝』と呼ばれる挿絵を紹介しました。イエス=キリストの象徴である神の子羊が野原の中心にいて、その周りを12使徒や聖人たちが囲んでいます。実はこの絵は、視線が神の子羊へと向かうようにすべてが描かれているのです。
私はクライアントに言いました。「コンテンツとデザインが連動したサイトはこの絵のようになります。あらゆる要素がユーザーの信念や目標へと誘導しているので、ユーザーは自然とそちらに惹きつけられるのです。」
加えて、その誘導は非常にわかりやすく、かつさり気ないとも指摘しました。絵の中の人々は子羊のほうを見ていますが、矢印や指で指し示してるわけではありません。遠近法によって遠くが小さく描かれているので、観客はまるで子羊のところに導く線があるかのように惹き込まれます。同時に、太陽の光と祭壇の下にある「命の泉」は、さりげなく子羊を指し示しています。
これこそが優れたUXデザインの姿だと私は伝えました。中心となる目的と目標があり、ユーザー体験も含めすべてのものが、ときに明白に、ときにさり気なくその目標を指し示すのです。その目標に到達するには、堅固で効果的な体験アーキテクチャが必要です。そしてそれを構築するためには、Webサイトを使うユーザーの目標とWebサイトを作る組織の目標を深く理解していなければなりません。
つまり、ユーザーの目標とWebサイトの目標を結ぶ線を引く必要があるのです。見た目からIA、マイクロコピーまであらゆるものが、その線に沿ってユーザーを誘導するという目的に適っていなければなりません。この線は、どんなに混乱したIAにも存在しています。もっともそれは、つる草の茂みをなたで切り拓こうとしてできた獣道のような線です。UXデザイナーの仕事は、ユーザーにとって便利で、はっきりと見える適切な線を引くことです。
ユーザーの目標や達成すべき課題(JTBD)からページに掲載する画像まで、すべてが目的に寄与している必要があります。無関係な要素があってはいけません。それこそが優れたUXです。
そして、それこそが優れたコンテンツ戦略でもあります。
デザインとしてのコンテンツ戦略
コンテンツ戦略が「画期的なもの」として注目され出した2010年頃、Webの世界ではそれを嘲笑する声をよく聞きました。コンテンツマーケティングの名前を変えただけだ、エディトリアルカレンダーを体裁良く言っただけだと不満を述べていたものです。
しかし、私はコンテンツ戦略家と話をすればするほど、彼らが自分たちの仕事をデザイナーと同じように説明していることがわかってきました。コンテンツ戦略は、目標やユーザー、実態、ユーザーフローなどを見極めることから始まります。そう聞くと、まるでデザイン思考で実践されていることのようです。
この偶然は目新しい発見ではありません。UXデザインとコンテンツデザインの関連性について示唆する人もここ数年いました。実際、プロセスが似ているあまり、まったく独自の概念であるにもかかわらず、コンテンツ戦略をUXの一部と見なしている人もいます。
目標を見つけ、道筋を定める
あるテック企業が新製品のオンボーディングを変更したいと考えているとします。何かを変更するのには、大きな会議室で長い議論をする必要があります。
私はコンサルタントとして、UXチームと若手デザイナーを代表しています。マーケティング部門は動画プロデューサー、メールマーケター、海外マーケティング担当から成る精鋭チームを連れてきました。技術文書チーム、いわゆる「ライター」チームに至っては全員がやってきました。
このような会議から想像できるとおり、問題を解決できるほど十分な時間、全員が同じ考えを共有し続けることはできません。
業を煮やした私はプロジェクターのケーブルを奪い取ってExcelを開き、製品やユーザー、目標、関係する体験の部分(メール、デザイン、ビデオなど)への指摘といった項目を並べたExcelシートを作りました。
私はユーザーと目標、そしてそれぞれ体験の部分が具体的にどのようにユーザーを助けるのかをExcelに記入するよう出席者にお願いしました。つまり、次のようなことを考えてほしかったのです。オンボーディングの動画で伝えるメッセージはどこに重点を置くべきでしょうか? リブランディングした製品の違いはどのように伝えられるでしょうか? 全体としての目標は何でしょうか? どうすればユーザーが目標を達成するのを助けられるでしょうか?
これらは決して難解な問いではありません。このスプレッドシートはコンテンツ戦略家が要素を定義するときに利用するものと同じシートです。情報アーキテクチャを考えるときに使うシートとも似ているかもしれません。
その表を基に考え始めたら、会議室の全員の思考が変わりました。達成したかどうかをどのように判断するのかについて話し始めたのです。最終的に核となる目標が確認できましたし、ユーザーが目標に到達するために必要な道筋と線について話し合うこともできました。
このような議論ができたのは、根本的には私たちは皆、自分なりの方法で同じ質問に答えようとしていると知っていたからです。
- ユーザーは誰か(問題を抱えているのは誰か)?
- ユーザーの目標は何か(どのような状態が成功なのか)?
- 問題は何か?
- ユーザーの問題をどのように解決できるのか?
- 解決できたことはどうすれば判断できるのか?
デザイナーは課題に着手するときに頭の片隅でこのような問いを考えています。デザインを評価する際、私はまずすべてのデザイナーに1番目から3番目の質問(ユーザー、目標、問題)に答えてもらいます。次に、彼らのデザインがどのように問題を解決するのか(4番目の質問)を見せてもらいます。こうすることで、デザイン評価チームは解決策ありきではなく、問題を第一に考えることができるのです。
そして、これこそがコンテンツ戦略の仕事なのです。Margot Bloomstein氏はコンテンツ戦略を「製作計画を立てて、情報を収集、伝達し、有効で使いやすく適切なコンテンツを管理すること」と定義しました。この定義によれば、コンテンツ戦略家はUXデザイナーと同じ問いに答えようとしているようです。
UXの世界で働く私たちをやる気にさせるのは、ユーザー、目標、目的です。Webサイトが何の目的も持っていないなら一新しましょう。すでに目的があれば、より大きな目的に繋げましょう。私たちは、欲しいものがある場所をユーザーに教える必要がありますが、このとき彼らには進みたい道を自由に進ませてください。ユーザーが目標に到達するのを手助けしましょう。邪魔をしてはいけません。それこそがUXであり、コンテンツ戦略であり、優れたデザインなのです。
UXデザインとコンテンツ戦略は同じものを求めています。私たちは皆、最高の体験をデザインするという共通の視点に集中しようとしているのです。そのため、ユーザーが探しているものを見つけられるよう、協力してWebサイトにユーザーを導く線を描きましょう。