ユーザビリティテスト専用ラボの作り方ガイド

Jeff Sauro

統計とユーザビリティのコンサルティングを行っている会社、MeasuringUの創始者です。20以上の記事、統計とユーザーエクスペリエンスに関する5冊の本の著者です。

この記事はMeasuring Uからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

HOW TO BUILD A DEDICATED USABILITY LAB

ユーザビリティテストを行うための専用ラボは必ずしも必要ではありません。

しかし、恐らく必要に迫られて個人や組織でユーザビリティテストを行う頻度が高い場合、専用ユーザビリティラボの設置を検討したいと思うかもしれません。

高度なUXを提供する組織にとって、ユーザビリティテスト用の専用スペースを設けることはとても重要です。高度なUXを提供するとされる組織が専用ユーザビリティスペースを設けている割合は、その他の組織に比べほぼ2倍に及んでいます。ユーザビリティラボ内でマジックミラーを使用している割合も、高度なUXを提供する組織は、その他の3倍に及びます。

図1 高度なUXを提供する組織がユーザビリティラボ内でマジックミラー、ビデオ配信システム、コミュニケーションツールを使用する傾向は高くなっている。(the UX Maturity Report提供)

「ラボ」とは、言うまでもなくオフィスや部屋のことをお洒落に表現した言葉です。この言葉から連想されるような薬品や電気ショックを使うラボではありません。

ユーザビリティテストを毎週行うと、月に何百人もの参加者がラボに来ます。この規模のユーザビリティ評価を行うためには専用のスペースや確かな技術が必要です。

この記事では、コロラド州デンバーのオフィスに2つのラボを新設した経験を基に、いくつかの悩みを解消する方法をお伝えします。

技術や多くの配線を敷いてカスタマイズできるスペースのために一定以上の予算を確保すべきでしょう。そのためには、計画と即時対応のどちらも必要です。

部屋

まず2~3人が入ることが出来るラボを用意します。隣には観察室(オプションでマジックミラーを設置した)として使用できる別室の2部屋が必要です。

観察室は、ラボと同じかそれ以上の広さを確保し、5~10人の観察者が入れる広さを確保する必要があります。用意できるスペースは限られるかもしれませんが、ご参考に、私たちが使用しているラボの大きさは12×14フィート(=約19㎡)、観察室は12×10フィート(=約108㎡)~16×10フィート(=約174㎡)の大きさです(図2参照)。

図2 ラボと、隣接する観察室のルームプラン

設備

ユーザビリティラボにはモデレーターと参加者と書記が座る心地よい椅子を置きましょう(終日座っていることになります!)。リモコンやテレビなどのモバイルや物的なプロダクトをテストする場合は、心地よいソファーを置くことも考えましょう。(図3a参照)

図3a ラボ用設備

私たちはテスト内容に合わせて容易に配置換えできるモジュラーデスクも置いています。デスクはラボにお決まりのワイヤーやケーブルを隠すのにも便利です(図3b参照)。

図3b 自由にレイアウトを変えられるモジュラー設備

カーテン

これまでに私が見た多くのユーザビリティラボは、地下室や窓のない内部空間に設置されていました。これらは参加者のための防音や出入りのしやすさに効果的です。しかし、ラボで多くの時間を過ごすと、拘置所(あるいは独居房)にいるような気分になるかもしれません。私たちのように窓のあるラボを設置する場合には、遮光カーテン(または二重カーテン)を用意し、眩しさを制御しましょう。幸運にも、かすかな自然光は人を元気づけ、研究の妨げにもならないことがわかりました。

図4 観察室の遮光カーテン

遮光カーテンは窓のある観察室には特に重要です(図4参照)。観察室からの光が、マジックミラーを通してラボに差し込むからです。

電子機器

ラボと観察室にはたくさんのコンセントが必要です。天井カメラを設置したい場合には、外部電源を要することが多いので、天井に電源を引かなくてはなりません。

防音材

一般的なオフィスは、天井の防音タイルを石膏ボードの壁で囲っています。電灯や防音タイルの天井の上は空間になっており、別室との区切りはありません。そのため声は容易に響きます。これを防ぐため、天井に防音材(「ハードデック」と呼ばれます)を設置する必要があります。容易で安価な方法だとは言い切れませんが、防音材を設置することにより、(特にマジックミラーのある場合には)音声を減らす大きな効果を得られます。

マジックミラー

旧来のユーザビリティラボの定番イメージといえば、観察者だけが見ることができ、参加者は中を見ることができないマジックミラーの存在でしょう。

マジックミラーは、大抵は反射フィルムが貼られた特注のガラスです。防音効果に優れ、高品質の二枚ガラスが良いでしょう。私たちのラボはその防音効果のおかげで、ミラー越しに話をするには叫ばなくてはなりません。より効果的に会話をするには、叫ぶ代わりにオーディオ機器を使用します。

図5 観察室からマジックミラー越しにラボを見る光景

参加者のためのスペース

医師のオフィスのように、参加者がユーザビリティラボに入室し、『診察』される機会は稀です。ラボから離れた待合室のようなものがあれば便利でしょう。

特に日に多くの参加者を迎えるラボでは、早く来る参加者もあれば、遅く来る参加者もあり、また、セッションが長引くなることもあるので、このような部屋があると便利です。私たちは、雑誌、飲料水、軽食を置いた参加者のための待合所で待ってもらっています(長時間は待たせません)。日に50人もの参加者を迎えるので、この待合スペースは欠かせません。

図6 参加者が座って待つ椅子

スペースの予算

設備や家具によって以下のような予算感で考えるといいでしょう。

低予算:1,000米ドル 安価で設備を抑えた設備、観察室なし、ミラーなし。

高予算:75,000米ドル 良質な椅子、ソファー、カーテン、観察室、マジックミラーあり。

オーディオ

高性能のユーザビリティラボでは、参加者の発言とファシリテーターの発言のどちらも拾わなくてはなりません。そのためには、多数のマイクと周辺機器が必要です。

マイク

様々な指向性マイクと机上マイクを試した結果、高感度でありながら分離型の天井マイクと机上のバウンダリーマイクが有効であるとわかりました。これを使うと、モデレーター(あるいはコントローラー)がオーディオ機器の音量を上げずに、もの静かな参加者の声も拾うことができます。

図7 天井設置マイク

プッシュ・トゥ・トーク/天の声

観察室にいる人はラボにいる人と対話をしなくてはなりません。特にファシリテーターが観察室にいる場合は必要です(最近ではあまり人気のない手法ですが)。電源が入りっぱなしにならず、話しかけるにはボタンを押して話す必要があるようなマイクが最適です。参加者が観察者たちの会話をきいてしまう、いわゆる「ホットマイク」事故を起こす心配がなくなります。

図8 単信通信マイク、スピーカー、天井カメラ装置

スピーカーとミキサー

観察室からオーディオを聞くにはオーディオミキサーとアンプを搭載した(電源付きの)スピーカーが必要です。これらは音響専門の技術者にそれぞれ別々のオーディオラックを組んでもらう必要があり、コストも高額になりがちです。

2つの独立した電源スピーカーをそれぞれアンプにつなぐのが、低コストながら効果的な方法です。私たちは最新の技術に通じていますが、装置に不慣れな観察者には、物理的なつまみで容易に音量調節ができる(または素早く音量を減らせる)ものが良いでしょう。とても安価なので、モニタリングに小さいモニターを使う人もいるようです。小さいモニターに関しては試してはいませんが、安すぎるインターコムなどは室間のコミュニケーションには不十分でした。

ハウリングに注意

注意すべき点は、マイクとスピーカーを近づかせすぎるとハウリングが起こりやすいということです。高性能の機器にはエコー・フィードバック制御機能が搭載されていますが、音響技師に環境設定をしてもらうためのコストが発生します。セッションの途中に迷惑なハウリング音が聞こえてくるのはできる限り避けたいものです。実行前にオーディオ機器をテストしておきましょう。

オーディオの予算

低予算:2,000米ドル 電源スピーカー、アンプ・ミキサー、良質のマイク

高予算:20,000米ドル エコー制御付きのプログラム可能な バイアンプ、プログラミング、デジタルオーディオまたはCrestron社製コントロール

ビデオ

高品質デジタルカメラとそうでないカメラの違いは歴然としています。解像度が高く、フォーカスとズーム機能の付いたものを選びましょう。

モバイルまたはハードウェア調査には参加者を鳥瞰できる天井カメラを設置するのがよいでしょう。その際、手に乗る小型機器の詳細もわかるように、10倍以上のズームやフォーカスコントロール機能の付いたカメラを選びましょう。

図9 ラボの天井カメラ

カメラコントロール

技術の追求に終わりはありません。天井カメラを設置するのなら、それらをコントロールしなくてはなりません。(モバイルデバイスなどに)フォーカスしたりズームしたりするためのPTZ (Pan Tilt Zoom)カメラがいりますが、多くのPTZカメラには独自のリモートコントロール機能が付いています。

こなれた人は、VISTA controlと呼ばれるカメラを使っています。このカメラは手におさまる、操縦桿のようなレバーで操作します(上記図8参照)。PTZカメラは外部電源を必要とすることが多いので、天井タイルを通る電気系統があるかの確認が必要です(またはインターネットカメラに搭載できる、より高価な電源を検討してください。)

ビデオの予算

低予算:100米ドル 高解像度カメラ

高予算:10,000米ドル カメラ、コントロールケーブル、設置費用

コンピュータとソフトウェア

十分な電源を確保してすべてのカメラ機器をコンピュータにつなげなくてはなりません。そのため大容量のRAMとストレージと高品質のグラフィックカードを搭載したタワーPCを使っています。ゲームなどに使うタイプのものです。

画面の保存とミラーリング:CamtasiaやMoraeは、人気の商用プログラムで参加者の画面を保存できます。 私たちはOpen Broadcaster Softwareと呼ばれるソフトウェアを利用していますが、こちらはオープンソースで柔軟性に優れています。

ストリーミングと対話:観察者が別室(または別の場所)から、セッションをライブで観る場合、GoToMeeting、Zoom、WebExなどのインターネット会議ソフトを契約しましょう。こういったプログラムを使うことでファシリテーターとチャットができます。参加者の画面に観察者のメッセージが突然現れないような設定を必ずしましょう。

ストリーミングサービスのチャットでも十分に機能しますが、私達はファシリテーターが観察者のメッセージを一字一句確認できるよう、参加者とのものとは別のリアルタイムチャットソフトを使っています。ユーザビリティテストのセッションは高速で進行するので、観察者がメッセージを入力する間に、ファシリテーターは先に進んでいることもあるからです。

インターネット

動作の不安定なWi-Fiの使用は避けましょう。ラボに高速な回線を接続するようにし、参加者のモバイル機器や周辺機器用のWi-Fiも用意しましょう。

コンピュータの予算

低予算:1,000米ドル 良質なノートPC、ミラーリングと画面共有が自由にできるソフトウェア

高予算:10,000米ドル 商用ソフトウェアと画面共有・チャット機能を搭載した強力なタワーPC

総費用と所要時間

以上に上げた主要コストに加えて、配線や設置費用、石膏ボードの改装などの追加コストを見積もる必要があります。技術の過程などをマニュアル化して、リサーチャーが容易に利用でき、トラブル(音声、オーディオ、画面共有などの消失など)に対処できるようにしましょう。

低予算:5,000米ドル 基本仕様のカメラ、コンピューター、オーディオ

高予算:150,000米ドル マジックミラー、最高仕様のオプション機器

まとめ

すべての企業が専用ユーザビリティラボの設置と運営に必ずしもコストを投じる必要はありません。ユーザビリティテストの一部またはすべてをMeasuringUなどの企業にアウトソーシングする組織が多いのはそのためです。

こうした外部企業に求人、専用ラボの供給、設置のサポートを依頼することで、業務に追われる研究チームの効率を上げることができます。テストをアウトソーシングするからと言って、開発に至る必要なタスクのすべてや、株主に株の買戻しをさせたり、研究結果が有効であることの保証までアウトソースしないように!

図10 ラボ2のマジックミラーから見た観察室

私たちの友人、Optum社のDean Barker氏とそのチームが、ラボ設置の経験に基づき所見を述べてくれたことに感謝します。


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