最近ではデザイナーとエンジニアの職種間の境界線がなくなってきており、エンジニアリングのわかるデザイナーや、デザインの経験を持つエンジニアの価値が高まっています。
今回は「エンジニアがデザインやUXを学ぶ意義」をテーマに、デジタルハリウッド専門スクール(以下:デジハリ)という社会人向け学校の卒業生であるソニーモバイルの三森さんにお話を伺ってきました。
登場人物
ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社 三森 亮 氏
エンジニアとしてデザインを学んで周囲と差別化を図る
── 三森さんは昨年デジハリを卒業されたとのことですが、まずは簡単な経歴を教えてください。
三森:新卒でエンジニアとしてソニー株式会社に入社し、PlayMemories Camera Appsというカメラ向けアプリケーションを作るチーム、組み込みエンジニアリングのチームを経験してきました。現在はソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社でXperiaスマートフォン向けのアプリケーション「MovieCreator」の開発に携わっています。現在社会人8年目です。
── どのようなきっかけがあって、デザインを学ぼうと思ったのですか?
三森:過去にカメラ向けアプリ制作のチームにいたときに、制作物に対してわかりやすくユーザーの反応が返ってくる点が面白いと感じたことがきっかけです。そこから自分の今後のキャリアを考えたときに、エンジニアリングだけでなくアプリなどのユーザーの目に直接触れる部分のデザインもやりたいと思いました。
あとは社内の人たちは皆エンジニアリングのスキルが非常に高いので、僕がそこでエンジニアリングを頑張っても追い越せないのですが、今自分が持っているエンジニアリングのスキルにデザインのスキルを足せば、周囲と差別化して違うベクトルから彼らと戦えるのかなとも考えました。
── 学校に通ってデザインを学ぼう、というのは以前から決めていたのですか?
三森:成果としてなにが正しく評価されるかを考えたときに、学んだことが証明できる学校が良いのかなと漠然と思っていました。あとは好きにデザインを学ぶだけだと飽きてやらなくなると思って。学費を払って学校に通うことで、自分を追い込んでいく側面もありましたね。
現場のプロの指導を受けつつ、実践的に学べる環境が魅力
── それでは次に、デジハリでの実際の授業について聞いていきたいと思います。三森さんはどちらのコースに通っていたのですか?
三森:僕は本科デジタルデザイン専攻(現UI/UXD専攻)に、働きながらパラレルで通っていました。週に2回、水曜日の夜7時半から2時間と、日曜日の朝11時から夕方以降までの授業でした。日曜日はデザインの基本と実践、水曜日はデザインの幅を広げる日として、動画やインタラクティブコンテンツなどさまざまな媒体に触れる形でした。
── 期間はどのくらいだったのですか?
三森:僕は1年間通っていました。半年コースもあるのですが、1年コースの方が学べる内容もフォローも多く、最後に外部企業も参加する成果発表会に挑戦したい気持ちもあったのでガッツリ1年間通いました。大変で死ぬかと思いましたね(笑)。
── 仕事しながらですもんね(笑)。授業はどういう風に進んでいくのですか?
三森:授業の半分が座学、半分が実際に制作するような形でした。座学では、Adobe Photoshopの操作方法などの基本だけではなく、現場で使える考え方を教わることが多かったです。
教えてくれる先生は、大手外資と家具メーカーでデザインをしている方、外注でWebサイトを作っている方、自分で広告の会社を起こしている方など、現場感の強い方が多いです。毎週課題が出て大変でしたが、良いトレーニングになりましたね。
── たとえばどのような課題があったのですか?
三森:課題の種類はポスターやロゴ、アプリからキャッチコピー作りまでさまざまでしたね。たとえば電車に貼るポスターづくりなどがありました。
生徒には初めてデザインをする人から、ある程度デザインに触れたことのある人までさまざまなレベル感の人がいましたが、幅広くフォローしてくれていたと思います。
── 実践も伴いつつ基礎から教えてくれるのですね。授業では、デザインの基礎スキルを学んだ後どのあたりからUX的な内容が増えてくるのですか?
三森:全体としては、入学から半年ほどたって卒業制作を意識し始めるあたりから増えてきたと思います。ただ現場感のある授業が多かった水曜日は最初からUX的な内容も含まれていました。
たとえばこのアプリはターゲットが誰だからUIの形や色はこうなっているだとか、ユーザーがボタンを押すまでに頭の中でなにを考えているのかなど、デザインの背景にどのようなロジックがあるかを説明してくれました。
教わったロジックに対して、ときには僕なりの考えをぶつけて議論させて貰うこともありましたね。
── 教わるだけでなく議論までできるのは良いですね。
三森:授業でも課題でも、制作物に対してレビューを貰ったときになぜそうなるのかを食いついて聞いていました。たとえばアイコンデザインでは遠目からの見え方も意識する必要があるなど、自分にはなかった観点を現場で実際にデザインしている先生から教われたのは貴重でしたね。
── 環境を最大限活用されてますね。先ほど卒業制作について触れられましたが、デジハリの卒業制作はどのような形で行われるのですか?
三森:デジハリの卒業制作は、コンセプトづくりから実際の制作、サービス内容のプレゼンテーションまで行います。デザイン全般を学んだことを証明する立ち位置のものでもあるので、基本的に1人で制作します。
まずはどのようなことをやりたいかを、先生と話しながら深めるところから始めました。
── 制作の上流から下流までひと通り取り組むのですね。それでは三森さんの制作した卒業制作について教えてください。
三森:子育てをする人たちにとって育児がもっと楽しく安心できるようになるサービス「Liffy」というものを作りました。ターゲットは0歳から2歳児の子供を持つ親でかつデジタルに対するリテラシーの高い方です。
具体的には「Liffy」では、両親が赤ちゃんをずっと見ていなくてもアプリを使って状態を把握できるサービスになっています。赤ちゃんにリストバンドのような形のウェアラブルデバイスをつけて生体反応を採り、そこから今の状態を分類してアプリ表示させる形です。
── 三森さんの世代は子育ての時期の方も多いですしね。「Liffy」の制作物としてはどのようなものを作ったのですか?
三森:ウェアラブルデバイスの大きさや素材感の設計から、サービスの購入サイト制作、サービスと連携するアプリケーションのデザインとAndroidでの実装をしました。デバイスを3D CADで設計したり、サイトは今流行りのレスポンシブデザインを取り入れたりと工夫しています。
── 制作物の幅が広いですね。卒業制作も含めて1年間のデジハリでの授業を通して、もっとも学びになったことはなんでしたか?
三森:ものづくりのHOWを知れたことが1番の学びでしたね。現場感の強い先生方にフィードバックして貰える機会がたくさんあったので、デザインのロジックを知り、自分がなにか制作するときに、確かな考えや情報を元に作れるようになったのは良かったと思っています。
エンジニアとデザイナーを繋ぐインターフェイスになりたい
── それでは次に、デジハリ卒業後のお話を伺いたいと思います。卒業後、普段のお仕事で変わったことはありましたか?
三森:デジハリ卒業後にソニーグループ内でXperiaスマートフォンのカメラ関係のアプリケーションを作るチームに異動したのは1つの変化です。デジハリに通う中で、やはりエンジニアリングだけではなくデザインもやりたいと明確になったため異動しました。
異動してからはエンジニアリングだけでなく、誰になにを届けるかというUXデザインの部分にも関わるようになりました。
── チームを異動してから、学んだことはどう活きていますか?
三森:まず、学校を卒業してちゃんとデザインの勉強をした証明がある分、ゲットできる仕事が増えた印象があります。デザインをやりたいと主張しやすくなりましたし、デザインのロジックを学んだ分、自分の中で確証を持って制作できる点が強みになっています。
── デザインを学んだ証拠も実践経験も両方ありますしね。それでは最後に、三森さんの今後の展望を教えていただけますか?
三森:エンジニアとデザイナーや企画などを繋ぐインターフェイスをやりたいと思っています。デザイナーの言葉を翻訳してエンジニアに伝えたり、逆にエンジニアの言葉をデザイナーに伝えたり。繋ぎ役なら三森だね、と言われるようになりたいです。
── 今話題にもなっている、デザインエンジニアですね。
三森:そうですね。社内にもデザイナーと会話したいけれどポジションの問題等からできていないエンジニアの方もいらっしゃるので、彼らとデザイナーの繋ぎ役にもなれたらと。
一方でまだ社内でデザインエンジニアという言葉の存在感は薄くて、デザインとエンジニアリング両方できるけれどもどちらも中途半端だとも見られがちなので、ポジションとして認められていくと良いなと思います。
── 以前よりもデジタルを活用したものづくりが当たり前になっていますし、デザインエンジニアが増えていくと、デザイナーとエンジニアの間のコミュニケーションが活性化してものづくりがますます面白くなっていきそうですね! 今日はありがとうございました。
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企画制作:UX MILK編集部