アップルの創設者Steve Jobs氏の伝記の中で、彼が珍しく激しい気性を忘れ、心優しい側面を見せたときのことを著者Walter Isaacson氏が書き記しています。Jobs氏は、ひとりの子供が直感に従いながら簡単にiPadの操作に慣れていくのを驚きながら観察していたのです。
Jobs氏は何よりもまずシンプルであることに熱意を注いでいました。ですから、彼の創造したiPadを子供が使っている様子を見ることは、自分の思い描いていたビジョンが現実化したということだったのです。それは成功を完璧に証明していました。子供が使えるほどシンプルだということです。
現代の子供たちは、以前よりも早く幼い段階からデジタルデバイスのユーザーになります。それは読む、話す、あるいは長期記憶などの重要な認知スキルを身につけるよりもずっと前にです(このことは、Steve Jobs氏とBill Gates氏が二人とも自分たちの子供をテクノロジーの無い環境で育てた理由のひとつかもしれません)。
しかし、 現代の子供たちは否が応でも最初からデジタルネイティブとして育っています。私たちにとっては全く別世界のことである一方、UXデザイナーにとっては好奇心をそそられるケーススタディでもあるのです。
子供がユーザー体験に接する様子を観察するということは、何のバイアスも期待も持たないユーザーを観察することなのです。
そこで子供のための体験をデザインしたことのあるUXデザイナーの何人かに、そのことから学んだもっとも重要なことはなにかを質問してみました。
本記事が子供向けデザインをガイドするわけではないですが、どのオーディエンス向けのUXデザインにでも簡単に応用できる大切な教えはいくつか得られるでしょう。
ユーザーを適切に分類する
子供向けのプラットフォームをデザインしたことがあるなら、デザインプロセスの早い段階で刺激的な課題が現れることを知っているでしょう。普通は順風満帆であるはずの箇所、ユーザーのペルソナ作りです。
私たちのプロダクトにおいての有用なペルソナ作りは、人口統計学に大きく依存します。例えば25歳から35歳、または40歳から65歳を代表するペルソナを持っているかもしれません。20歳と30歳の間には(少なくともデザインの視点からは)大きな違いはないと考えているので、このおおまかなグルーピングでも意味があるのです。
しかし、4歳と7歳の違いは圧倒的です。彼らは認知能力と運動技能において全く異なっていて、デザイナーにとっては非常に大きな意味を持ちます。UXデザイナーにとっては、子供向けのデザインをする場合は、経験則から、3歳から5歳、6歳から8歳、9歳から12歳の3つのグループに分類できそうです。
さらに、子供向けのデザインから、もっと広範囲なユーザー体験デザインへ変換できる知恵が得られました。それは、プラットフォームのオーディエンスをカテゴリー分けするためのもっと賢明な方法です。ユーザーセグメントをもっと細かくすると、多くの情報に基づいたデザイン決定ができるのです。当然バランスの問題はあるので、すべての人それぞれのためのデザインをすることはできません。ですが10年以上の長い期間でユーザーをまとめるよりも、細かなセグメントのデザインの方が複雑になります。自分たちが思っている以上に私たちは異なった存在なのです。
まずはフィードバック
子供がiPadを操作しているのを見ることが、Steve Jobs氏をそれほど喜ばせた理由のひとつは、誰にも頼らずに使い方を発見したからです。子供は自分自身で学ぶことが大好きです。実際に子供に何かを身につけさせるには、それが最適な方法であることを示している研究調査がいくつかあります。
この発見をサポートするような学習スタイル(ニールセンのヒューリスティックデザイン原理とは別のものです)は、ユーザー体験を設計する中でフィードバックを通すことでもっともうまく実行されます。子供はあらゆることにフィードバックを必要としています。そのようにして、子供は周りの世界について学び、成長するのです。
フィードバックは、ユーザビリティデザインの中で絶対的に必要なものです。ユーザーへの視覚的や聴覚的なフィードバックは体験の全てのタスクとプロセスに組み込まれるべきです。フォームの送信確認、プログレスバー、ポップアップなど、どのような仕組みであれ、あらゆるステップをユーザーに確認するために必要です。
クリエイティビティよりも一貫性
子供向けの体験を作るときにUXデザイナーが犯す最大の間違いは、インターフェイスを派手にし過ぎたり、詰め込み過ぎたりすることです。子供は気が散りやすいので、飽きて興味を失わないように、注意を引くデザインにしなければならないと考えているのです。
しかし実際は、けばけばしい色や派手なアニメーションでぎゅうぎゅう詰めのデザインよりも、一貫性のあるデザインの方が効果があり子供を惹きつけます。過剰な詰め込みは本当は子供の経験を損なう可能性があるのです。
下記はDebra Gelman氏の著書『Designing for Kids: Digital Products for Playing and Learning』からの引用です。
画面上のあらゆるものが動いていて、色が派手で、どれも同じレベルで騒いでいたら、インタラクティブな要素がどれなのか、子供も大人も混乱してしまい、そのWebサイトやアプリはとても使いづらいものになります。
Gelmanの説は大人にも当てはまるように聞こえます。ユーザー体験の設計におけるクリエティビティを超えた慣例のまた別の教訓です。デザインは、クリエイティブで、キュートで、奇抜であり過ぎる必要はないのです。シンプルで、わかりやすく、一貫性を保ってください。
まとめ
良い教師の特性のひとつが生徒から学ぶことであるように、すぐれたデザイナーは、子供も例外とせずに、ユーザーから学びます。
子供のためにデザインすることで、UXデザイン、さらにユーザビリティ自体の性質に関して興味深く有用な学びが得られます。そこには、ユーザーを正しいセグメントに分けることや、豊富なフィードバックを得ること、デザインの一貫性を確実に保つことなどが含まれます。