民主主義とUX:ユーザーの声をどうデザインに活かす?

Roxanne Abercrombie

Roxanneはライブチャットやビジネスプロセス自動化を専門とする英国に本拠を置くソフトウェアハウスであるParker Softwareのオンラインコンテンツマネージャです。

この記事はUsabilityGeekからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Democracy And User Experience

民主主義とユーザー体験は滅多に重複しません。ユーザーには影響力があるかもしれませんが、彼らが購入した製品やサービスに対して意見を述べられる機会はほとんどありません。

そこで、フィードバックシステムによって、ユーザーの意思決定が反映されているような体裁をつくることができます。典型的には、私たちはユーザーが意見を表明するプラットフォームを、アンケートやフォーラム、リクエストなどによって提供しています。しかし、こうした外部への働きかけがあるからといって、結果が保証されているわけではありません。ユーザーは自由にフィードバックを提供できますが、彼らの意見が一貫して権力を持ち、重視されるわけではないのです。

しかし、こうした風潮は変わりつつあります。現在ではユーザー中心主義が主流になりつつあります。すでにMicrosoftのような大企業は、エンドユーザーが投票する機能をアプリに内蔵するテストを行っています。では、できる限り最高のユーザー体験を提供するために、民主主義をUXに取り入れるべきでしょうか?

ユーザーの声

近年ユーザーの権力は増してきています。UX革命、つまりユーザー中心デザインの人気の急騰によって、私たちはこれまで以上にユーザーを考慮するようになりました。ユーザーリサーチャーだけでなく、デザイナーから開発者までチームの全員がユーザーに集中し、ユーザーのニーズに最大限応えようとしています。

ユーザーは王様で、すべてのUX部門はユーザーの下僕に過ぎません。ユーザーはそのことを理解しています。手頃な値段の製品やデジタルサービスは飽和しており、誰もが労力のかからないユーザビリティと洗練されたデザインを競う中、ユーザーの悪い体験に対する耐性は失われてきています。Jonathan Courtney氏の言葉を借りれば、「ユーザーは、もはや行き詰まったことを自分の責任に感じることはなく、作った会社の責任に感じる」のです。

私たちはユーザーの作業をより簡単にするために、ひたすら作業し続けています。操作の途中にあるわずかな障壁さえ取り除き、今まで以上に便利で使いやすい、楽しい製品をデザインしようとしています。ユーザーには、これ以上ないほど価値と注意が向けられているでしょう。しかし実際には、ユーザーの意見はそれほど重視されてはいません。

スポットライトはあたっているがマイクがない

確かにユーザーは舞台の中心にいるかもしれませんが、だからと言って彼らがマイクを持っているわけではありません。リクエストの10%しか考慮されていないのが現実です。フィードバックはそのまま「マネージャーに届けられ」るか、顧客のコメントをまとめたフォルダの中で何もされずに終わってしまいます。専用の投稿フォーラムでさえ、投稿が多すぎて見過ごされてしまいます。ユーザーの意見は決して決定的な影響力を持ちません。

もしかしたら、このような状況はまだ理解できるかもしれません。ユーザーの提言を共有してもらうチャネルを設けること自体は簡単です。しかし、フィードバックをフレーミングして分析し、それに基づいて行動を起こすのは簡単な作業ではありません。民主的なデザインを達成するのはなおさら大変です。

ここで疑問が浮かんできます。私たちはユーザーの意見で行動を変えることは滅多にないのに、なぜわざわざ関心を示すのでしょうか? 私たちはフィードバックを集めることは不可欠だと思っています。また、顧客の批判に耳を傾けるのは一般的に良いことで、それを無視することは悪いことだと知っています。

しかし、ここで難問に突き当たります。つまり、私たちはユーザーのコメントに基づいて行動するのは実現可能でも効果的でもないことが多いと理解しているのです。UXに民主主義を取り入れるのは、理論的には素晴らしいアイデアである一方で、実践的には障害になるでしょう。

自動車のパラダイム

ここで、Ford Motor Companyの創始者であるHenry Ford氏の皮肉を引用しましょう(本当に言ったかは疑わしいですが)。

私が人々に欲しいものを尋ねていたら、彼らはより速い馬を望んだだろう

現在ではこのような傲慢な考え方が支持されることはほとんどありませんが、論理の要素は真実味があります。

イノベーションが専門家の仕事であるのは事実です。革新的なアイデアを生み出すという重荷をユーザーに課してはいけません。しかし、イノベーションは確実にユーザーからのインプットに基づいて始められます。

ユーザーは常に自分が望むものを認識しています。確かにユーザーは、ニーズを詳細に細かく概念化して整理しているわけではありません。むしろ、なぜユーザーがそれらを考える必要があるのでしょうか? 概念を考えるのは製作者の仕事です。製作者の仕事は行間を読むこと、つまりユーザーに共感し、彼らの行動やニーズ、フィードバックを分析することです。

このような視点から考えると、「より速い馬」とはより速い輸送手段がほしいという意味でしょう。ユーザーの好みに応じて行動するということは、必ずしも彼らの要求に正確にそのまま応えるということではありません。そうではなく、UXデザイナーの仕事は、ユーザーの要求を理解して実行し、自動車のように、より便利で楽しい体験になるよう改善することです。

ユーザーのフィードバックは決して無駄ではありません。完璧な計画図ではありませんが、それでも彼らが表明した根本的なニーズとペインポイントはインサイトに溢れています。では、ユーザーの意見に価値があるからといって、より民主的なユーザー体験を作る必要があるのでしょうか?

民主主義をデザインする

民主主義をユーザー体験に直接組み込むのは簡単ではありません。第1に、純粋なデザインの部分では、周辺的なインターフェイス要素を追加するのは常に困難です。 ほとんどのユーザーは、できるだけインターフェイスが整頓されているほうが望ましいと思っています。効率的にAをBにする作業において必要でない要素を組み込むことは、一般的に得策ではありません。

2に、より面倒なこととして、焦点が絞られていて、製品の文脈に合ったフィードバックのフレームワークを作成するという問題です。ユーザーに自分の意見を投稿してもらいながら、同時にその意見を調整できるような魅力的なシステムを作るのが簡単であるはずがありません。

UXデザイナーは慎重に作業を進めなければなりません。ユーザーや彼らの動機を理解することはもちろん必要です。加えて、その考えをまとめて注意深く解釈しなければなりません。ユーザーは自分の領域に関してはとても詳しいですが、デザインに詳しいわけではありません。したがって、機能や製品デザインにユーザーの意見を明確に反映することは思ったよりも簡単ではありません。

現在の投票方法

現在のデジタル製品とサービスには、フィードバックシステムが組み込まれることが増えてきました。実際、意見を投稿する機能を含んでいるものもありますが、その意見が後にどの程度実現されるのかは判然としません。もっとも一般的に見られるのは、以下の方法です。

  • ユーザーフォーラム:ユーザーフォーラムは古典的なフィードバックツールです。 これにより、製品管理者はユーザーのコメントを大量に収集し、関心のあるユーザーがアイデアを共有するコミュニティを構築できます。 一方で残念なことに、コメントが無秩序に蓄積されていくことにもなりかねません。ユーザーからの投稿は非常に多い一方で、会社はあまり時間をかけないため、フォーラムは徐々にユーザーが不満を放出するだけのプラットフォームになる可能性があります。

  • レーティング、レビューシステム:レーティングやレビューシステムは内容によって価値が異なります。たとえば、星やスマイル絵文字を用いたレーティングシステムはユーザーにとっては簡単ですが、UXデザイナーにとっては必ずしもインサイトのある情報ではありません。一方で、オープンレビューには多くの情報が含まれていますが、目的に見合った特定のトピックについては書かれていないかもしれません。

  • 従来の調査ツール:ユーザーにアンケートを取るのは、興味のある分野に関連する意見を集めるには優れた方法です。しかし、時間がかかり、達成するのが難しい場合があります。 また、アンケートは製品やサービスの開発とは別に実施されるため、必ずしもスムーズに実行されるとは限りません。
  • アプリ内フィードバック:アプリ内フィードバックは専用の場所でユーザーに提供されることもあります。しかし最近では、ツールを使用して特定の視覚要素(ボタン、画像、指示)を指摘し、そこに直接フィードバックを与えることもできます。したがって、アプリ内フィードバックは、進行中のフィードバックと指向的なフィードバックの両方を得られるでしょう。

  • アプリ内投票:Microsoft Outlookのユーザーは、Microsoftが最近行ったユーザー体験のアップデートでアプリ内投票を見たことがあるかもしれません。この例では、ユーザーにオンライン上で投票してもらい、予定されている変更が役に立つと思うかどうか尋ねていました。このアイデアは、有用な機能に賛成票を投じたり、バグの多い機能や無駄な機能に反対票を投じたり、製品ロードマップや機能リクエストに関しては採用しなかったりするなど応用ができるでしょう。

フィードバックの方法に意味を与える

これらのうち1つかそれ以上の方法を使ってユーザーの意見を集めようとすることはすべて効果的です。しかし、その意見を使って何をするつもりでしょうか Bruce Temkin氏は次のように述べています。

顧客の意見を基に行動を起こす準備ができていないのなら、顧客に質問して無駄な時間を使わせてはいけません。

意見を集めようと生半可に動いても、利益どころか損害をもたらすでしょう。フィードバックの手法が製品に肯定的な変化をもたらすためではなく、ユーザーに見せかけの権力を与えるためだけに存在するのなら、ユーザーはすぐに離れていき、間違いなく幻滅してしまいます。

重要なのは、ユーザーのモチベーションを理解するために時間と努力を費やさなければ、ユーザーの意見を基に行動を起こすことはできないということです。特定の目標に対してユーザーにフィードバックをうながす質問を作らなければ、意見を取り入れることはできません。ユーザーに肯定的な返事しかしないのは、答えになっていないのです。ユーザーを巻き込むためにユーザーに投票権を与えても、投票システムはいつまでも注目されず、無駄になってしまうでしょう。

つねに自分の目的に立ち返ってください。1つ残らずすべてのリクエストに従うのではなく、ユーザーの意見に耳を傾け、根底にあるモチベーションを解釈するようにしてください。そうすることではじめて、ユーザーの意見から最大の価値を引きだすことができるでしょう。

民主化するべきか、しないべきか

私たちがデザインするサービスや体験は、ますますユーザー中心デザインを目指すようになってきています。したがって、フィードバックシステムやユーザーリスニングが増加していることは理に適っていると言えるでしょう。しかし、UXに民主主義を取り入れることは、進歩なのでしょうか、それとも退化なのでしょうか?

答えは、定義と実行方法によります。すべてのユーザーがすべての問題に投票する真の民主主義であれば、実践でたくさんの複雑な問題が生まれるだけでしょう。しかし、製品の目的を達成するために、焦点を絞ってユーザーに意見を募る方法であれば、有意義でユーザー中心の変化をうながすことができます。

したがって、ユーザーのために民主主義を機能させるには、その限界に注意を向ける必要があります。自分の投票が明確に反映されているのかわからないシステムはやめましょう。ユーザーを理解し、意見に耳を傾け、リクエストを1つか2つ上層に抽象化することは、オンライン投票を行うよりも強力であり、思いやりに溢れているでしょう。


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