事実を教えてくだされば、私はそれを学びます。真実を教えてくだされば、私はそれを信じます。物語を教えてくだされば、それは私の心に永遠に残るでしょう
―Ed Sabol氏(映像作家)
ケーススタディやプロジェクトストーリーあるいはその他の仕事をまとめることは非常に退屈な宿題のように感じられます。そもそも仕事に集中して取り組もうと思えば不必要な重荷にも感じます。素晴らしいケーススタディを作成するのは困難な作業ですが、しかし仕事ぶりを見せなければ、自分やチーム、組織から功績を認められないことも、私たちはよく知っています。
最終デザインのスクリーンショットを数枚挿入して、その周りにいくつかテキストを加えるだけで提出したい衝動にも駆られますが、それでは映画の最後に流れるスタッフロールのようです。たしかに閲覧者は映画の終わり方を知ることができますが、すべての物語を体験したり、理解したりはできません。
あなたが好きであろうとなかろうと、魅力的で説得力があるケーススタディの制作は、UXの専門家にとって重要な要素です。たとえば新しい仕事に志願したら、以前のプロジェクトで取り組んだ仕事をまとめる必要があるかもしれません。あるいは、会社にUXを浸透させるためにケーススタディを作成したり、代理店やフリーランサーとしてUXサービスを売り込んだりする必要があるかもしれません。ケーススタディのポートフォリオは、UXの専門家やUXチームの質を判断する標準的な指標です。自分が何ができるのか示す最善の方法は、自分がこれまで取り組んできたことを見せることでしょう。
しかし、説得力のあるケーススタディを用いて過去の仕事を役立てなければ、自分やチームが貢献できることをクライアントに示すことはできないでしょう。優れたケーススタディがあれば、需要の高い仕事や望んでいた大きなプロジェクトを獲得することができます。しかし凡庸なケーススタディだと、自分やチームはいつまでも「却下」のトレーに置かれ続けるかもしれません。これは私が長年にわたって無数のUXのケーススタディをまとめる中で得た教訓です。
ケーススタディを考える
目標と閲覧者について考える
ケーススタディの内容を考える以前に、自分が何を実現しようとしているのか、誰がケーススタディを見るのかについて考えましょう。ケーススタディを作成するのは、新しい職に就くためですか? もしフリーランサーとして新しい契約を得るためなら、自分のスキルを示してプロジェクトに反映させることが非常に重要です。マネージャーや経営者に向けて作成しているなら、指標やROIといった、ビジネスに携わる人が興奮するような事柄に焦点を当てるべきかもしれません。最初に目標と閲覧者について考えることで、重要なメッセージや、もっとも閲覧者の心に響く可能性が高いものを踏まえることができます。
次のステップを考える
目標や閲覧者とともに、ケーススタディを読んだ人に何をして欲しいかについても明らかにしましょう。彼らと契約したいのですか? 仕事に携わるUXチームについて詳しく知ってほしいのですか? それとも関連するケーススタディも見てほしいのですか? ケーススタディの中に明確なコールトゥーアクション(CTA)を必ず設けましょう。そのため、あなたが望むアクションと、人々にそのアクションを取らせる方法を特定することが重要です。
量より質を重視する
ケーススタディでは、常に量よりも質を重視しましょう。1つの強力なケーススタディは、必ず3、4つの並みのケーススタディに勝ります。過去の仕事の中から最高の事例を見つけましょう。説得力のあるストーリーが作れないのなら、具体的な結果について話せないような平凡なプロジェクトや途中で煮詰まっているプロジェクトについては忘れてしまいましょう。
さまざまなフォーマットを用意する
サイズやデジタルの媒体、物理的な媒体を変えることで、ケーススタディにさまざまなフォーマットを持たせましょう。私は基本的には、印刷や保存がローカルでできるPDFのオンラインケーススタディをおすすめします。1ページの要約版と、詳細を掘り下げたい人のために長い形式を提供するのもいいでしょう。
ケーススタディは自足的になっているのが理想です。そのため、私はスライドベースのケーススタディが個人的に好きではありません。スライド資料は、プレゼンテーションと一緒でなければ意味をなさないからです。資料のケーススタディと一緒にオンラインセミナー形式のプレゼンテーションを録音するのでなければ、PowerPointやKeynoteの使用は避けるべきです。
UXデザインスキルを活用する
自分たちのUXの仕事を示す機会を探しているなら、UXデザイナーや、少なくともUXデザインのスキルを持つ人、あるいはそのような人がチームにいるといいでしょう。ケーススタディのUXデザインを考える際に、自分たちのUXスキルを活用してください。いくつかのレイアウトを描いたり、チーム内で協力してデザインするワークショップを開き、いくつかのコンセプトを素早く作成したりしましょう。また、外出して数人の友人や同僚と会い、もっとも便利だと思うケーススタディについて話し合うのもいいでしょう。
ベストプラクティスのケーススタディを取り入れる
特定の問題に対してほかの人がどのように取り組んだかを知ることは必ず効果的です。批評家になったつもりで似たケーススタディをいくつか探し出し、参考にできる優れた要素を分析しましょう。以下の場所から始めるといいでしょう。
- Webcredible case studies – イギリスを拠点にする顧客体験のコンサルタント会社
- ClearLeft case studies – イギリスを拠点にするデジタル代理店
- CXPartners case studies – イギリスを拠点にするUXデザインのコンサルタント会社
- Case studies from Foolproof – イギリスを拠点にするUXデザインの代理店
一貫したフレームワークを使う
ケーススタディのフレームワークは、コンテンツを考える際に役立ち、ケーススタディに一貫性を持たせることができます。フレームワークに固執する必要はありません。しかし、すべてのケーススタディを自由に並べては、読者は少し混乱してしまうでしょう。私が過去に使用し上手く機能したフレームワークは次の通りです。
- 概要:ケーススタディの要約
- 課題:課題を紹介し仕事のコンテキストをまとめるセクション
- アプローチ:実行したアプローチと、ソリューションまでのプロセスをまとめるセクション
- ソリューション:デザインであれリサーチの提案であれ、最終的なソリューションを考察するセクション
- 結果:ROIなど、一連の結果をまとめるセクション
また、プロジェクトの段階ごとのフレームワークを使用してもいいでしょう。たとえば次のようなものです。
- 発見:リサーチとインサイトをまとめるセクション
- デザイン:コンセプトとデザインワークをまとめるセクション
- 知見:知見と結果をまとめるセクション
ケーススタディの書き方
最初から最後まで優れたストーリーを語る
優れたケーススタディならば優れたストーリーを作れるはずです。ケーススタディには明確な序破急をつけ、ストーリーを生き生きとさせるのに十分な詳細情報を含めなければなりません。できるだけ具体的なものにし、挙げられるのなら関係する会社名や役名を挙げましょう。プロジェクトのストーリーをどのように同僚に伝えるか、閲覧者にとってより説得力があり魅力的なストーリーにするために何ができるかを考えてみましょう。
作品を示す
完成した記事だけ表示して、ソリューションに到った行程を示さないケーススタディはあまりに多く見受けられます。UXにおいて、プロセスは結果と同じくらい重要です。したがって、常に作業の進展を示し、取り組んでいる活動をまとめましょう。
たとえば、デザインを提示するのであれば、スケッチの段階から、忠実度の低いプロトタイプ、そして最終的な忠実度の高いデザインまで提示しましょう。そのために、プロジェクトのすべての段階を熱心に記録してください。写真をたくさん撮り、初期のプロトタイプやコンセプトを保存し、プロジェクトにおける主な意思決定や業務のすべてを記録することさえ考慮に入れましょう。ケーススタディをまとめる際に、記録しておいたことに感謝するはずです。
制作物だけでなくその理由も入れる
ケーススタディでは、何をしたのかまとめるだけでなく、なぜそれをしたのかまとめることが重要です。なぜ特定のアプローチを採用したのでしょうか? 数ある中からなぜこのコンセプトを選んだのでしょうか? デザインの理論的根拠をまとめることで、読者がデザインだけでなく、デザインに込められた思考も理解できるようにしましょう。
他人の作品を自分の手柄にしない
ケーススタディでは自分に正直になることが大切です。プロジェクトがいつもスムーズに進むとは限りませんし、結果がいつも望んでいた通りになるとも限りません。もちろん優れたストーリーが望ましいでしょうが、ケーススタディは嘘ではなく事実に基づいて作成すべきです。他人の仕事を自分の手柄にするのはやめましょう。少なくとも、誰が何をしたのかについて読者に明かさないのはやめるべきです。他人がしたことを把握し、自分やチームがプロジェクトで果たした役割を明確にしましょう。
専門語は使わない
ケーススタディはシンプルで読みやすくなければいけません。ワイヤーフレームやペルソナ、KPIといった専門用語など、UXを経験したことがない人には理解できない言葉は避けるか、少なくとも説明しましょう。
流し読みできるようにする
多くの閲覧者がケーススタディを流し読みするでしょう。これは個人的な性格の問題ではなく、特にオンラインで読むときは誰でも少し怠けるものです。そのため、流し読みできるようにすることは重要です。叙述的で目を惹く見出しを考え、引用文や重要なインサイトを加えましょう。ビジュアルを多く使用してください。要約を提供することで、短く要領を得た文章を保ちましょう。
可能な限り実際の数値を示す
達成したことの証拠を示すために、できる限り常に実際の数値を提示しましょう。たとえばコンバージョン、製品の売り上げの増加、ユーザー数やユーザー満足度といったKPIの変化は示す必要があります。確かにデザインした制作物が肯定的な印象を与えるのは事実です。しかしそれは、ケーススタディを確固たる事実と数値で証明できることとはまったく異なります。
写真と動画を多く加える
ことわざにあるように、百聞は一見に如かずです。写真や動画を使えば、ケーススタディを鮮明に表すことができます。ワークショップの写真やスケッチ、シナリオマップ、親和性マップ、さらにはインタビューや観察といったリサーチの写真も載せるといいでしょう。あるいは、初期のプロトタイプのスクリーンショット、デザインの進捗を示すモックアップを載せてもいいです。作業するときには、将来の成功のためにいつも記録しておきましょう。
このように過去の仕事の写真をたくさん撮って視覚的に振り返られるようにすると、ケーススタディのほかにも、仕事をチームやクライアントに提示するときや、キャンプ旅行で友人や家族を楽しませるときにさえも役立ちます。
写真と共に、動画もまたデザインやプロトタイプを紹介する素晴らしい方法です。Techsmith Camtasiaなどを使ってWebサイトやアプリケーションを紹介するビデオを簡単に作ることができます。いまやPowerPointにも録画機能が備わっていますし、AndroidベースのDU RecorderやAZ screenrecorder、iPhoneやiPadと繋げた QuickTime playerなどを使ってスマートフォンでも録画できます。動画は短くて的を射たものにしてください。2、3分で終わるものにし、迫力のあるテクノビートのサウンドトラックなどを加えるのはやめましょう。
引用文をできる限り挿入する
引用文や推薦状は、ケーススタディに権威を加え、信用を築き、信憑性を与えることができます。満足しているユーザーやクライアント、ステークホルダー、チームメンバーの言葉を引用するといいでしょう。引用文は短いものにして、本人たちに引用しても平気かどうかよく確認してください。
ケーススタディのユーザーテスト
コンセプトやデザインをユーザーでテストしているのなら、ケーススタディもテストするべきです。何人かの知人にフィードバックを頼みましょう。それだけでなく、ケーススタディで簡単なユーザーテストを実施してみましょう。何人かのターゲットにケーススタディを見てもらい、どう思うかを聞いてください。情報は十分でしょうか? それとも多すぎるでしょうか? より説得力のあるケーススタディにするにはどうすればいいでしょうか? 知る必要がある重要な情報はほかにあるでしょうか?
ユーザーテストなどのセッションは、対面でも、SkypeやWebexを利用してリモートで実施してもいいでしょう。対面の場合、1つのケーススタディにつき10分以上かけるべきではありません。あるいは、usertesting.com 、whatsuersdoなどを使ってモデレーターのいない短いユーザーテストを実施し、その動画を流している中でフィードバックを集めることもできます。
ケーススタディを活用する
ケーススタディをオンラインで入手可能にする
ケーススタディを自分だけに留めておくのはやめましょう。閲覧者が入手できるようにしてください。PDFやWordのドキュメントと違い、オンラインのケーススタディならとても自由に閲覧できます。もちろん、ケーススタディをダウンロード可能なPDFやPowerPointにするのも構いません。しかし、第一にケーススタディはWebページ形式であるべきで、当然デスクトップやタブレット、スマートフォンで同じ様に機能する必要があります。
自分やチームでブログやWebサイトを持っているならば素晴らしいことです。持っていないならBehanceやDribbbleといったポートフォリオサイト、あるいはMedium、WordPress.comといったブログ制作サイトを利用してもいいでしょう。LinkedInもケーススタディを公開するのに便利です。LinkedInには、職業プロフィールも美しく載せましょう。
ケーススタディのパフォーマンスを追跡する
ケーススタディがオンラインで入手可能で、運良く豊富なパフォーマンスデータを収集できたとします。もっとも人気があるものはどれだったでしょうか? もっとも問い合わせが来たものはどれでしょうか? 直帰率がもっとも高かったのはどれでしょうか? ケーススタディのパフォーマンスを記録することで、それらのパフォーマンスに加えて、パフォーマンスを改善するには何が重要かを理解することができます。
まとめ
ケーススタディを考案し、作成し、活発に宣伝活動をするのはとても面倒な作業です。しかし、自分やチーム、あるいは会社が実施したUXの仕事を提示することができるきわめて重要なものでもあります。以上のヒントやアドバイスを利用すれば、UXの仕事を活性化できるだけでなく、上手く機能すれば次の仕事やプロジェクトを得られることでしょう。Thomas Edison氏も次のように述べています。
天才とは、宿題をする才能の持ち主にすぎない
―Thomas Edison氏
どこかの側面でUXの天才と思われたいのなら、ケーススタディの宿題を始めるべきでしょう。