次の話は、現在のIT企業ではよくある場面です。
マーケターのMaryには新プロダクトの案がありました。このプロダクトは大成功を収めると考えたMaryは、技術部にシステム構築を依頼しに行きました。開発者のDianeは、Maryの案を聞いてシステム構築をはじめると言いました。Dianeは機能を作り上げていくうちに、ある部分を組み合わせてほかを除けば、もっと効率の良いプロダクトになると気がつきました。
プロダクトシステムの構築を終えたDianeは、次に制作部のChrisにそれを渡しました。ChrisはMaryと会ってプロダクトのUIについて話し合い、Maryは自分のアイデアを説明しました。そのあとChrisは仕事を始めました。ChrisはMaryの案を取り入れ始めましたが、すぐにより優れた面白いUIのコンセプトが思い浮かび、最終的にそのコンセプトに合わせてプロダクトを完成させました。
プロジェクトが完了すると、Maryは動揺しました。できあがったプロダクトにはMaryの望んでいた機能がないばかりか、そのUIではユーザーを適切に誘導することができないのです。3つの部署は揃ってデザイン段階に戻り、プロダクトを作り替えました。こうしてかなりの時間とお金が無駄になってしまったのです。
この状況は1人の責任で起きたのではありません。
- MaryはDianeとChrisにプロダクトの明確な最終目標を説明し、その目標を念頭に置いて作成してもらうべきでした。
- DianeとChrisは、Maryが何かの目的があって具体的な機能とUIを求めていることを理解すべきでした。つまり3人で協力して、全員が理解できるコンセプトを作るべきだったのです。
これらの問題を解決するために使うべきだったツールが、ストーリーボードです。
ストーリーボードとは
ストーリーボードはいくつかのセルの集まりで、それぞれのセルに図を描き、全体でストーリーやユーザージャーニーを説明します。
歴史的にストーリーボードはメディアや映像制作の分野でもっとも広く用いられていましたが、今ではプロダクト開発者も開発プロセスにストーリーボードを導入するようになりました。ストーリーボードを作ることで、プロダクト開発者は自然と開発プロセスを段階的に考えるようになり、合理的なユーザー体験をデザインできるようになります。
なぜストーリーボードを使うのか
伝統的にストーリーボードは、メディアや映画において、実際の作品に時間やリソースを投入する前にビデオ映像の計画を練る目的で使われてきました。プロダクト開発でストーリーボードを使用するのとUXデザインで使用するのとで、大きな違いはありません。
ストーリーボードを使うことで、プロダクトデザイナーはプロダクトのビジョンやカスタマージャーニーマップ、プロダクトのUXフローを簡単かつ安価にテストし、明快なプロダクトデザインが完成して、すべての部署にそれを理解してもらうまでテストを繰り返すことができます。
ストーリーボードの作成は、プロダクトのビジョンから始めます。プロダクトのビジョンとは、プロダクトをどのように機能させたいのか、プロダクトを通してどのような目標を達成したいのかについてのシンプルな文章やストーリー、事例です。プロダクトのビジョンがあれば、開発者はプロダクトを操作するユーザージャーニーを理解し、ユーザーのニーズに近いプロダクトをデザインしやすくなります。
プロダクトのビジョンをいくつか作り、部署を超えてコミュニケーションをするのは、プロダクト開発における大事なはじめの一歩です。この段階で開発チームにプロダクトの目標を伝えて、機能開発と市場公開までの現実的な期間を考えましょう。ストーリーボードを使えば、プロダクトをどのように構築するつもりなのか最初の段階からはっきり理解することができ、開発プロセスでの伝達ミスを最小限に抑えることができます。
次に、ストーリーボードを用いて、ターゲットペルソナのカスタマージャーニーマップを作りましょう。忘れてはならないのは、「プロダクトのユーザー」と「プロダクトの購入者」は同じではない可能性もあることです。したがって、どのオーディエンスに届けようとしているのかによっては、プロダクトデザインとマーケティングとで別々に応じなければならないでしょう。
チームと一緒に、重要な購入者のペルソナを数人にまで絞り込みましょう。ペルソナが抱えている問題に気づいたとき、解決策を探しているとき、プロダクトを購入しようとしているとき、プロダクトを導入することで肯定的な結果が得られたときに、彼らのプロセスが段階ごとにどのようになっているのか、ペルソナの視点から分析してください。カスタマージャーニーマップのストーリーボードを作ることで、開発者はプロダクトを発見するプロセスと購入するプロセスを体験できます。結果的に、コンバージョン率を最大化することができるでしょう。
最後に、プロダクトの実際のUXやUIを掘り下げる段階が来ます。プロダクトの機能とフローを開発する際、自動的に行われるとみなして重要なステップを忘れるか、反対にユーザーに余分なアクションを求めるものを作ってしまいがちです。
ストーリーボードを作ることで、開発者はユーザーの体験を段階的に一つずつ確認することができます。これを実践することで、ユーザーがプロセスで迷子になったり無駄なステップを踏んだりしてコンバージョン率が下がってしまうような、見逃しと問題を特定しましょう。
ストーリーボードはコストが低いので、同僚やユーザーテストからのフィードバックを基に反復し、修正し、方向転換しやすいです。いくつかのUXの事例を作り、プロダクトデザインチームと共にもっとも簡単で、合理的で、できる限りコンバージョン率の高いものを決めやすくなります。
ストーリーボードの始め方
プロダクト開発における3つの重要な基点それぞれに対して、参考になる質問を以下に載せます。
プロダクトのビジョンを作る
- ターゲットのユーザーは現在どのような問題を抱えているのか?
- 何がその問題を緩和するのに役立つのか?
- プロダクトがその手助けをどのように提供するのか?
- 満足度の高いユーザーはどのような人か?
重要なユーザーペルソナのカスタマージャーニーマップを作る
- 誰が自分のプロダクトを買うだろうか? 彼らは何歳で、どのような職業的なバックグラウンドを持ち、(個人的にも仕事上でも)どのような動機を持っているのだろうか?
- 現在購入者はどのような問題を抱えているのか?
- 購入者はどのような経緯で自分のプロダクトを解決策として選んだのか?
- 購入者がプロダクトを購入しようとするときや、ビジネスに実装しようとするときに、どのような問題に直面するだろうか?
- プロダクトから得られる成果は、購入者の視点からはどのように見えているか?
ユーザー体験のフローを作る
- デザイナーはユーザーがどこに訪れることを望むのか?
- ユーザーの直帰率を下げるための「フック」は何か?
- 異なるタイプのユーザーのために、異なるランディングページが必要か?
- 販売チームが見込み客を補助できるようにユーザーの連絡先情報を得るにはどうすれば良いか?
- すべての段階が必要か? フローの無駄をなくしてコンバージョン率を上げるために、削れる段階はあるか?
- ユーザーがプロダクトを簡単にわかりやすく購入する方法はあるか?
これらの質問を念頭に置いて、いよいよ作成し始めましょう。最初からストーリーボードを作り上げてもいいですし、以下のような既存のテンプレートを使って始めるのもいいでしょう。さまざまなアイデアを試し、部署の垣根を超えて同僚と議論しましょう。
全員の意見が一致し、全員がプロダクト開発プロセスを始めるためにすべきことを明確に理解できるまで、ストーリーボードを何度も反復してください。ストーリーボードは持ち運べるようにし、デザインプロセスが終わるまでずっと更新し続けるようにしましょう。アイデアが変化し成長するにつれて、ストーリーボードも変化し成長するべきなのです。