意思決定を裏付ける「データドリブンデザイン」の始め方

Cameron Chapman

Cameronはデザインに造詣が深く、『Color for Web Design』、『The Smashing Idea Book』という2つのWebデザインの本を出版しています。

この記事はToptalからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Strength in Numbers – An Overview of Data-driven Design

デザインは科学ではなく芸術だと見なされることが多いです。しかし、実際は両方の要素を兼ね備えています。デザインの芸術性は、科学的なデータや情報に基づいているべきです。データを収集して分析することは、優れたデザインとユーザー体験を生み出す鍵になります。

データに慣れ親しんでいないデザイナーには、データドリブンなデザインは縁遠く感じられるでしょう。中にはデータが必要な理由にさえ気づいていなかったり、偏見でデータの使用を制限していたりするデザイナーもいます。プロセスを理解することで、デザイナーはその偏見を克服し、さまざまな体験において活用できるようになるでしょう。

デザインプロセスでデータを使用すべき理由

ユーザーリサーチを1度もしなくても、ユーザーが望むものを理解できると考えているデザイナーは多いです。このようなデザイナーは、自身のデザインに夢中になる傾向があります。しかしほとんどの場合において、デザイナー自身は自分たちの対象とするユーザーではありません。最高のユーザー体験を作成するにあたって、意思決定を裏付けるデータがなければ、デザイナーは文字通り闇雲に突き進むしかありません。

データはデザイナーにインサイトを与えてくれます。それによって、製品を実際に使うユーザーのために最高のデザインを作り上げることができるでしょう。これらのデータは1次情報や2次情報といった多様な形式で得られます。デザイナーにとって重要なのは、どのデータがデザインに取り込む価値があり、どのデータが無視すべきものかを判断することです。

使用するデータ

データドリブンなUIデザインでは、最適なユーザー体験を実現するためにさまざまな種類のデータが必要になります。たとえば、既存のWebサイトやアプリを反復して得られるアナリティクス、ユーザーインタビュー、A/Bテストや多変量検定の結果、行動フローといったUXリサーチなどが重要です。

データドリブンなUIデザインでは、アナログツールとデジタルツールの両方を使うべきです。

デザイナーが事前により多くのデータを集めるほど、デザインを早期から上手に反復できます。たしかに、データ収集法の種類(A/Bテストや多変量検定など)によっては、プロトタイプが必要になるでしょう。しかし、それらの初期のプロトタイプでさえ、業界のデータや類似したプロジェクトからのデータを参考にするべきです。この点でケーススタディはとても貴重な情報源になります。

デザインアナリティクス

アナリティクスは、デザイナーにとってもっともデータが豊富なソースの1つです。 サイトやアプリをいちからデザインするのではなく修正する場合、デザイナーは既存の分析情報を活用して、機能しているものとそうでないものを判断することができます。

データ分析のダッシュボードを使用すると、デザイナーやステークホルダーが大きなデータセットを理解しやすくなります。

人気のあるページや平均滞在時間が長いページ、直帰率が低いページを確認することは、何が機能しているかを把握するのに有効です。一方で離脱率や直帰率が高く、ページの平均所要時間が短いページには、何らかの手直しが必要だというインサイトが得られます。

離脱率や直帰率が高いのは、ページにアクセスした人の探している情報が、そのページに存在しなかったからかもしれません。あるいは、情報が存在しても、検索や理解が難しかったからかもしれません。

デザインを変更する際にUXアナリティクスに注意を払うことも重要です。修正する前からページが上手く機能していたとしても、デザインを修正したあとも同じように機能するのか注意する必要があります。改善が見られたのなら修正は功を奏しており、その逆も同じです。

最後に、業界分析のベンチマークを見れば、同じ業界のサイトやアプリと比べて、自分の製品がどれほど機能しているのかという重要な情報が入手できます。1ページに平均2分間滞在しているのが良いことなのか悪いことなのかは、ページ単体で見ても判断しにくいことが多いです。

しかし、それを比較して、平均滞在時間が3分であることを確認できれば、現在のサイトデザインやコンテンツを改善すべきだと判断できます。Google Analyticsには、業界平均と比較したサイトの状況を簡単に確認できるベンチマークツールが組み込まれています。

A/Bテスト、多変量検定の結果を利用する

A/Bテストと多変量検定は、異なる種類のWebサイトやアプリが互いにどのように機能しているのか確認する点で密接に関連しています。これらを実施すれば、ユーザー体験とユーザーの行動を大幅に改善することができます。

A/Bテストでは、2つのバージョンの間でデザイン要素(ボタンの色や見出しのテキストなど)を1つ変更して、どちらがより優れているかを確認します。一方で多変量検定では、複数の要素を変更します(ヘッダー全体、ページ上のすべてのコピーなど)。どちらのテストでも、サイトまたはアプリへの訪問者には無作為に異なるページを表示して、分析データを記録します。

A/Bテストや多変量解析を継続的に実行してデザインを改善すれば、デザインのコンバージョン率は大幅に改善できるでしょう。たとえば37Signalsは、最適なデザインを決定するためにトップページでさまざまなA/Bテストを実行しています(2つのバージョン同士がまったく似ていない場合もあります)。

行動フローのデータ

行動フローとは、ユーザーが最初にアクセスしたページからサイトを離れるまでの間に、ユーザーがサイトを移動する流れです。ほとんどの場合、UXの専門家はユーザーを誘導するプロセスを事前に構築しています。そのプロセスが実際の行動フローと大きく異なるのなら、ユーザー体験に問題があるということです。

Google Analyticsには、ユーザーの行動フローを調べるための既存のツールがあります。実際のフローのデータを分析して、UXデザイナーがプロジェクトのために作成した理想的な行動フローと比較することで、デザインがユーザー体験や行動の目標を達成しているかどうかについて、貴重なインサイトが得られます。

ユーザーリサーチ

データを集めて優れたユーザー体験を生み出し、ユーザーの行動フローを改善するために、デザイナーはさまざまなユーザーリサーチの方法を用いることができます。

ユーザーインタビューは、データドリブンなデザインのために情報を収集する1つの方法です。

たとえば、カードソートや実際のユーザーへのコンテキストインタビュー、フォーカスグループ、アンケートやヒューリスティック分析といった方法が存在します。 ユーザーリサーチには、ペルソナや使用事例の作成なども含まれます。

ユーザーリサーチは、データ収集方法の中ではリソースが重いものの1つですが、既存のデータソースが存在しない新しいプロジェクトや製品ではもっとも付加価値の高い方法です。ユーザー調査を効果的に実施するにはさまざまな方法があり、それぞれから独自の価値を得ることができます。

ユーザーテストは、ユーザーリサーチプロセスの一部です。このプロセスには、前述のA/Bテストや多変量検定だけでなく、ユーザビリティテストも含まれます。 費用対効果の高いユーザーテストはデザインプロセスにおいて重要なので、プロセスの各ステップで実行する必要があります。

データを分析する方法

データ収集は、データドリブンデザインのプロセスの一部に過ぎません。デザインやUXアナリティクスといった定量データは不可欠ですが、ユーザーインタビューなどから収集された定性データも同様に重要です。

定量データから、デザイナーはWebサイトやアプリで何が起こっているのか知ることができます。しかし、ユーザーがなぜその行動をしたのかを明らかにするには、定性的なデータが必要です。ユーザーがなぜ特定の行動をしたのか理解することは、UX理論やデザイン心理学の根幹にあたります。

定性データと定量データの両方が収集できたら、デザイナーはデータの傾向と外れ値を調べる必要があります。外れ値からは、ユーザーが遭遇するかもしれない潜在的な問題へのインサイトが得られます。記録された外れ値の数が増えれば、問題はより重大でしょう。

データを可視化すれば、大規模なデータセットが扱いやすくなります。単純なチャートやグラフがあるだけでも、情報を分析しやすくなるでしょう。Google Analyticsを含むほとんどの分析プログラムが、単なるローデータではなく視覚的なデータを表示しているのはこれが理由です。

新しいデータが収集されても、データは一貫した基準で分析される必要があります。デザインやコンテンツの変更、検索エンジンのアルゴリズムの変更といった開発はすべてユーザー体験とユーザーの行動に影響を与える可能性があります。デザイナーはこのデータを分析することで、製品を継続的に改善し、新しく反復することができるでしょう。

ステークホルダーにデータを示す

データの分析に加えて、プロジェクトのステークホルダーに結果を提示することも、最善のソリューションを認めてもらうには必要です。データを可視化することは、情報を提示するもっとも優れた方法の1つです。

チャートやグラフを用いてスライドを作成すれば、各段階で反発を受けることなく、クライアントやマネージャーにプロジェクトを承認してもらえるでしょう。データは適切な意思決定をする上で、デザイナーの「直感」を裏付けることができます。

データに基づいた最終決定

データのもっとも優れた点の1つは、限りなく収集し続けられる点です。データドリブンなデザインの意思決定プロセスは循環的です。デザイナーはデータを収集して分析し、それに基づいて意志決定を行い、さらに多くのデータを収集して分析することで意思決定をテストします。

直感や予想ではなく、データに基づいて改善した製品のデザインを何度も新しく反復し続けることで、製品を使用している人々にとってより良い経験を生み出すことができます。 利用可能なデータを常に把握することで、ユーザー体験や行動変化で発生した問題点を、収益に影響を及ぼす前に解消することができるでしょう。

まとめ

データドリブンなデザインプロセスを理解することは、デザイナーにとって重要なキャリアスキルです。ユーザーリサーチとテストのプロセスを詳しく調べ、データ分析がどのように機能するかを理解することで、デザイナーは自分のアイデアを裏付けるツールを増やすことができます。また、自分の主張を裏付けるデータを利用して、可能な限り優れた製品を作成することもできるでしょう。

データドリブンなUIデザインは芸術と科学という両側面を持っています。データを収集して分析する方法を理解し、データに基づいてデザインを実装するスキルは、初心者とっても熟練者にとっても重要です。


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