UX MILK特派員のポップインサイト池田です。「UXリサーチ最前線」第3弾として、今回はA/Bテスト等を用いたCRO(Conversion Rate Optimization)に長年取り組んで来られたDLPO株式会社の作左部さんに、デジタルマーケティングの成果改善におけるUXリサーチ活用方法をお伺いしました。
DLPOとは
池田:本日はよろしくお願いします。まず初めに、DLPOさんのお仕事について教えてください。
作左部:はい。DLPO株式会社は、A/Bテストなどを通して各ユーザーに最適なページを出しCVRを改善する「DLPO」という国産のSaaSツールを提供する会社です。会社の設立は2018年と最近ですが、ツール自体は10年以上前から提供しています。
池田:「DLPO」はWebサイト向けのサービスになるのですか?
作左部:Webサイトだけではなく、アプリ向けにもサービスを提供しています。
サーバーサイドにDLPOを導入しDMP(Data Management Platform)とCMSを繋ぐことで、ユーザーに合ったコンテンツを出しわけることができますので、アプリでもWebサイトのA/Bテストと似た形で利用していただけます。
CROにおける最近のトレンド
池田:10年以上この業界にいらっしゃる作左部さんですが、最近のトレンドや、過去からの変化を感じるところはありますか?
作左部:この業界の最近のトレンドは2つあると思います。
1つ目に、セグメント別のコミュニケーション最適化が求められていることです。DMPなどのデータ基盤が整い、さらにAIによる自動分析テクノロジーが進化して、ユーザーのセグメント化が非常に精緻にできるようになってきました。
そのためA/BテストやCROを考える際にも、セグメントごとに最適化したコミュニケーションを考えていこう、という流れがあります。
池田:ユーザーごとに体験を最適化することが求められてきているのですね。2つ目のトレンドは何ですか?
作左部:2つ目に、全体の流れの中でのユーザー体験最適化が重要になってきています。以前は、広告→LPというシンプルな行動パターンが多く、A/Bテストで改善する対象も「LP1枚だけ」ということがほとんどでした。
ところが最近では、ソーシャルメディアやコンテンツマーケティングの流行などもあり、ユーザーの流入経路も多様化し、LPを直せばいいという状況ではなくなっています。様々なユーザー行動を想定し、A/Bテストをしながら「サイト全体」の体験を改善していくという動きが増えています。
A/Bテストを用いてどう体験を最適化するのか
池田:LP1枚だけでなくサイト全体の体験を改善するときは、様々なページがある中でどのようにA/Bテストをしていくのですか?
作左部:サイトの主要導線を明らかにした上で、その導線内にあるページを改善していきます。たとえば求人ポータルサイトであれば、トップ→一覧→詳細→フォームといった主要な流れに沿って、A/Bテストを試していきます。
池田:ページ改善の仕方としては、「各ページごと」「全体の流れをセットで」改善する方法の2つがあると思います。それぞれ一長一短あると思いますが、どちらを行うことが多いのですか?
作左部:目的に応じて、方法を使い分けています。
ボタン位置やレイアウト、コンテンツ量などのUI的な改善を行う場合は、各ページごとに個別にA/Bテストしていくことが多いです。
一方でコンテンツ内容やコミュニケーションを改善する場合は、複数ページの組合せを1パターンとして「全体の流れをセットで」A/Bテストしていますね。
池田:各ページをそれぞれ改善していくのはイメージがつきやすいんですが、「全体の流れをセットで」複数ページを組み合わせてA/Bテストするときは、どのように実施するのですか?
作左部:ユーザーに合わせて、それぞれのページ内のテスト要素を統一します。たとえばユーザーがエンジニアのときは、一覧ページ・詳細ページ・フォームのそれぞれでエンジニア向けの訴求を一貫して提示するといった形です。
池田:なるほど。ユーザーの属性に合わせて一貫した訴求を提示していくのですね。
作左部:ネット広告の世界では、広告のクリエイティブに合わせてLPのファーストビューを変えることがよく行われていましたが、それをサイト内でも行うイメージです。専門的には「レレバンシー(関連性)を繋げる」という言い方もします。
池田:広告→LPで内容を合わせるのと同じようなもの、というのはわかりやすいですね。
コミュニケーションの最適化が行きつく先
池田:ユーザーに合わせてテスト要素を分け、コミュニケーションを最適化するとのお話でしたが、そのユーザーの属性はどのように判定しているのですか?
作左部:行動ログや会員データから判定しています。
たとえば先ほどのエンジニアの例でいうと、「エンジニア向け求人を見た」という行動ログや、「会員登録時にエンジニアを選んだ」という会員データから判断します。
池田:なるほど。セグメントのそれぞれで別のコミュニケーションを考えるのは工数的に非常に大変かと思います。実務として、このあたりはどのように取り組んでいるのですか?
作左部:確かに難しい問題ですね。現状は、工数の問題もあり、いくつかの重要なセグメントを最初に決めて対応範囲を絞ることが多いですね。
ただ最近は、AIが自動的にクリエイティブを作るツールなども出てきており、将来的にはセグメント定義から、セグメント毎のコミュニケーションまでをAIが自動で作る時代がくると思います。
A/Bテストの仮説出しにはユーザーテストが効率的
池田:A/Bテストの成功には、良質な仮説が必要だとよく言われますが、その仮説出しには利用者の肌感をつかめるユーザーテストが有効ですよね。
私がポップインサイトを創業した2013年頃から「仮説出しのユーザーテスト、仮説検証のA/Bテスト」というセットでずっとご一緒させてもらっていますが、最近はこの組み合わせにおける変化はありますか?
作左部:やはりユーザーテストとA/Bテストは相性がとてもよいですよね。最近は、LPだけでなくサイト全体で考える必要が出てきたので、なおさら相性が増していると思います。
最近公開したワタベウェディング様の事例でもユーザーテストを実施しましたが、想定外の仮説も色々と見つかったりと、その重要性を感じましたね。
また改善提案の納得感も、ユーザーテストをするかどうかで変わってきます。
我々も長年の知見やノウハウを元に提案するのですが、どうしても「ベンダーが言っているだけ」だと捉えられがちです。ユーザーテストを根拠に提案をすると、ユーザーの生の声を聞ける分、クライアントにも納得いただけることが多いです。
池田:個人的な感覚だと、ユーザーテスト→A/Bテストというプロセスは、2013年時点である意味完成されており、7年立った今でもあまり変わっていないように思います(笑)。
今後A/BテストやCROなどの文脈の中で、ユーザーテストやUXリサーチの活用方法が変化していくことはあるのでしょうか?
作左部:セグメント別のコミュニケーションを考える材料として、セグメント毎のユーザーテストやアンケートをするような取り組みが今後増えてくると思います。
DMPやアクセス解析などの定量的なアプローチももちろん有意義ですが、これらを分析しても、インサイトや心理まではなかなか分からないんです。そのため定量データを懸命に分析するよりも、ユーザーテストを1度実施して定性データから考えた方が、費用対効果は高いと思います。
将来的には、AIが自動的にユーザーに合ったコミュニケーションを設計すると話しましたが、現時点ではまだまだ先の話です。マーケターが自らコミュニケーションを設計するためにも、ユーザーテストやUXリサーチの必要性はますます高まってくるのではないでしょうか。
これから市場価値が高まる人材とは
池田:A/Bテストは競合ツールも多くかなりの激戦市場だと思いますが、そのような中でDLPOはどのように価値を発揮しているのですか?
作左部:大きく2つあります。
1つめは自社開発の国産ツールなため、導入時に手厚いサポートができる点です。他社のA/Bテストツールの失敗原因として、単純に実装が上手くできていなかったケースが結構あるんです。
特に最近はLPなどの単純なページでなく、「各ページの組合せを1つのパターンとして、サイト全体の流れをセットでテストする」といった高度なテストが増えているので、設定が余計に複雑化しています。その実装方法などを手厚くサポートできるのは強みですね。
池田:A/Bテストをやる上で、実装やシステム面の環境を整えるのはとても大事ですよね。
ある大手企業と話した際にも、A/Bテスト実施のために1回1,000万円単位でシステムの改修が必要なため、なかなか実施に進まないと聞いたことがあります。実装面のサポートがあると嬉しい企業は多そうですね。
作左部:2つめにツール提供だけでなく、改善施策までセットで提案できる点です。13年間で培った様々な知見やテスト実施時のノウハウに加え、外部パートナーと連携してユーザーテストなどの調査まで実施して改善施策の提案ができるのは、我々の強みですね。
池田:ユーザーテストなどの調査を元に課題や仮説を出し、さらに具体的な改善提案までできる人材は、今後市場価値がとても高まりそうですね。
本日の学び
A/BテストやCROは、UXやUXリサーチとは別文脈で語られることが多いですが、作左部さんのように両方を使いこなすことができると、格段にビジネス価値があがりそうですね。今回の個人的な学びをまとめます。
- A/BテストはLPにとどまらず、サイト全体に広げていこう!
- A/Bテストの改善案を作るには、定量データの分析だけに時間をかけすぎず、ユーザーテストを行うのが効率的!
- データ基盤とAIの進化に伴い、セグメント別コミュニケーションが求められる中で、UXリサーチによりそれぞれのコミュニケーション設計ができると強い!
次回は、UXデザイン×事業作りで10年の実績を持つ、えそらLLCの喜多さんに最新のUXデザインやリサーチの取り組みをお伺いしたいと思います。お楽しみに!
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