私が1人暮らしを始めたとき、最初に買ったものは最新式の充実した工具セットでした。さっそく家に戻って家具を組み立てようと、新品の工具セットを開け、ピカピカのドリルドライバーを握りしめました。しかしすぐに、ドレッサーのねじを潰して修復不可能にしてしまいました。
最新式の道具を使用していたかどうかは問題ではありません。道具の適切な扱い方を知らなかったために、私が扱っていた製品は被害に遭うことになったのです。
優秀なUXデザイナーは単に人を惹きつける体験を作り出すことに必要なタスクや、試作、技術を実行する方法を知っているだけでなく、抱えているプロジェクトに合わせて最適なものを選ぶ方法を知っているものです。
優秀なUXデザイナーは、仕事のための最適なツールを知っています。
UIを構築するには、スタイルガイドやブランドコンセプト、スタイルタイルやガイドラインまでと、さまざまな種類のデザインのタスクや成果物が必要になります。UXのデザインエージェンシーであるCodal社で働いた経験から、私はUIデザイナーの同僚たちと一緒に、どのツールを実行するのが適切かを選ぶのは、顧客、具体的にいうと顧客の持つ既存のブランドにもっとも左右されると結論づけました。
この記事では、異なるブランドニーズを持つ顧客のそれぞれに対して、ふさわしいUIデザインのタスクについてお話します。ゼロからデザインを起こす場合はどのツールがふさわしいか、厳密なブランドガイドラインに沿ってデザインをする場合はどのツールを使用すべきか、もしくはどの状況にも最適なツールは何かについてディスカッションしていきます。
ディスカッションを始める前にひとつお伝えしておきたいことがあります。ここで扱おうとしているタスクや成果物の多くは、異なるさまざまな名称をもっています。ここでは、私の会社が呼んでいる名称を使用しますが、あなたの会社では他の名称で呼ばれているかもしれません。
ブランドコンセプト
ブランドコンセプトは、ボタンやテキストスタイル、ラベル、入力欄、その他重要なビジュアルデザインのコンポーネントなどの要素を新しく定義して、さまざまな画面のおおまかなモップアップや、UIのページの参照として使うものです。これらの大部分は、最終的なUIの基礎的要素となります。
ブランドコンセプトをUXやUIデザインの段階で構築することは、ブランドを立ち上げていない顧客や、ブランドの見た目のアイデアやそのイメージが定まっていない顧客にとって最適でしょう。いくつか試してみたいアイデアを持つ企業にとっても、優れた実践の機会になるでしょう。
多くの場合、ブランドコンセプトを使用するのはスタートアップ企業に対してだけですが、新しく垂直市場に着手したり新しい市場に参入するときであれば、大企業に対しても我々はブランドコンセプトの作成を手掛けたことがあります。通常はまずブランドコンセプトを複数作成して、顧客に見せてフィードバックや承認をもらいます。顧客が決断を下したあとで、コンセプトを肉付けし、正式なブランドガイドラインに落とし込むことができます。
ブランドコンセプトは何もないところから構築するので、徹底的なユーザー調査とマーケット調査が必要になります。顧客のエンドユーザーがブランドに何を求めているのか情報収集することがコンセプトのデザインを選ぶ上で役立つでしょう。
スタイルガイド
ブランドコンセプトと同様に、スタイルガイドもブランドの明確な慣習が作られていない企業にとって理想的なツールです。どちらを使うべきかの違いは顧客のブランドがすでにどのくらいできあがっているかによります。ブランドコンセプトはゼロからの構築ですが、スタイルガイドは基本的な色彩設計やタイポグラフィなど、ある程度コンポーネントをもっている企業に適しています。
スタイルガイドはブランドコンセプトに似ており、同様に正式なガイドラインにも結びつきます。ですが、スタイルガイドは既存の美学を担っているため(定義されていないとしても)、ブランドコンセプトよりもさらに的が絞られており、専門的で、詳細です。スタイルガイドの構築は、出発点が明確である一方で、クリエイティブの柔軟性も充分にあるため、UXデザイナーにとってちょうどバランスの取れている媒体です。
スタイルタイル
スタイルタイルもまた、人気のあるUIデザインの成果物のひとつです。特に中規模から大規模な企業の顧客の間で人気です。ブランドの慣習がしっかりと確立された企業にとって、スタイルタイルは理想的なツールでしょう。一方で、UIデザイナーにとってクリエイティブの自由度はそれほどありません。
既存のガイドラインの厳格さにもよりますが、デザイナーはラジオボタンの余白のような細かい要素までもに従わなければいけません。しかしまったく応用が利かないわけではありません。スタイルタイルは、ブランドガイドラインに定義された範囲内で、UIデザインのさまざまな方向性を披露する手段なのです。
UIコンポーネントをゼロから作る必要がないことから、スタイルタイルは本格的なガイドよりも詳細なものではありません。多くの場合、スタイルタイルは具体的なページやインターフェイスのモックアップでさえもなく、そのブランドに沿って作られた新しいコンセプトを並べたコレクションであることが多いです。
UIキット
ここまでに紹介してきたUIデザイン成果物はすべて、顧客が持つブランドガイドライン、具体的には、それらがどのくらいできあがっているかによって、どれを提供すべきかが左右されるものでした。
しかしUIキットは違います。もし顧客が予算を持っているならば、あなたが取り組んでいる他の体験と同じように制作することができます。UIキットはエレメント、コンポーネント、さらにインターフェイスを含む見た目や、それを実現するフロントエンドやコードのすべてを含み、詳細に記載した包括的なドキュメントです。
そのため、UIキット作成には膨大な時間と費用がかかります。UIキットはデザイナーやマーケターだけではなく、開発者にとっても参考になるものです。プロジェクトの取り組みが完了した顧客は、未来の仕事に向けて、UIキットを前進させることができるでしょう。
UIデザイン成果物のまとめ
工具セットから適切なツールを選ぶように、プロジェクトごとに適切なデザインタスクや成果物を選ぶことは、プロジェクトの成功を左右します。要点をまとめるとこちらです。
- ブランドコンセプトはブランドのガイドラインや慣習がなく、ブランドの一貫性があまりない顧客にとって理想的なツールです。スタートアップ企業に最適でしょう。
- スタイルガイドはいくつかのブランド資産はあるが、公式化や詳細な定義をしていない顧客にとって最適なツールです。
- スタイルタイルはブランドの慣習がしっかりと定まっている顧客向けのものです。
- UIキットはどの顧客にも適しており、デザイナーと開発者の両方にとって参考になるものです。
ここで述べたことはあくまでも経験則であり、あくまであなたがUXデザインをする段階で、十分な情報に基づいた判断をするのを助けるガイドラインであるということを忘れないでください。このガイドラインに当てはまらない場合は、培った経験に基づいてよりよい決断をしてください。