スマートフォンは他者との相互関係を代表するきわめて個人的なデバイスです。同時に、技術がどれほど深く私たちの日常生活に溶け込んでいるかを象徴するものでもあります。現在では、スマートフォンが「人間との」インタラクションに取って代わることも多いです。
ところが、モバイルユーザーは今でも人間らしさやパーソナリティが欲しいと思っています。現代では、人々は技術によってかつてないほど他者と密接につながっています。それでも多くのモバイルUXデザイナーやプロダクトマネージャーにとって共通の課題は、人間らしくないものを人間らしくみせること、技術的なものを人間のように明示することです。結局、ロボットらしいロボットを欲している人は誰もいません。
問題は、どのようにすれば「人間らしさ」を実現し、モバイルユーザーと真につながることができるのかですが、これは至難の業です。ユーザーペルソナは確かにアプリ開発の初期段階では役に立ちますが、アプリが世界に公開されたらペルソナはあまり関係がなくなるのではないでしょうか。この記事では、果たしてペルソナが役に立つのか検証していきます。
アプリ開発段階でのユーザーペルソナ
ユーザー中心のデザインを実現するには、ユーザーのニーズを理解し共感することで、ニーズに訴えかけるしかありません。そのため、リリース前の段階においてアプリUXのためにストーリーテリングとペルソナを考慮するのは、理にかなった手法といえます。
この段階では、仮説のシナリオやユーザーペルソナを作成することで、まだ実在しない仮想のユーザーが見る人間らしい視点を構築できるでしょう。
ユーザーペルソナがソフトウェアデザインに導入されたのは、プログラマーが将来のユーザーと自分たちの仕事を関連付けることが苦手だからです。覚えておくべきこととして、ユーザーペルソナはユーザーを表現したものですが、決して理想的な世界における架空のキャラクターではありません。ペルソナを想像と推定だけで作り上げることは、スプレッドシートに嘘の数字を並べて、「リサーチ結果」として報告するようなものです。ユーザーペルソナは、ユーザーリサーチの段階で複数の人々から集められた実際のデータから構築されなければいけません。
見込みユーザーから多くの有益なデータ集められたら、ペルソナを設定する工程をスキップしたくなるかもしれません。多くの場合こういった衝動が起こる理由は、ペルソナの作成とはユーザーリサーチ結果を擬人化することではなく、単なる「資料」を作ることだと認識しているからです。
実際は、何百というデータポイントを考察するときにもっとも有効な方法は、リサーチ結果を1人の人物にまとめ上げることです。さまざまなタイプのペルソナについての要約や、リリース前段階でペルソナを作るのに必要なステップについてはInteraction Design Foundationの素晴らしい記事をお読みください。
アプリのリリース後:ユーザーペルソナから実際の行動に移す
ユーザー中心のデザインの根幹にある信条の1つは、ユーザーを知れば知るほど製品は向上していくということです。
アプリがリリースされると、もはや仮説の組み立てに縛られたり、ユーザーがある行動をすると言ったにもかかわらず実際は別の行動をとったような言動の不一致に悩んだりすることはなくなります。これは非常に大切なことです。長期的な成功を達成するためには、公開したアプリが市場にフィットしているか継続的にチェックし、実際のユーザーの行動についてより深く学び、自分たちの解決策が実世界でどれだけ問題を解決するのに役立ったかを測る必要があります。
かつてはインタビューや長期的な日次調査、顧客調査などの定性調査を定量データと組みあわせるのが累積的なUXを評価する最適な手法だとされていました。しかし、ここ10年の間にアプリの定性分析の人気が高まり、2019年には上位のアプリの60%以上が定性分析を利用しています。
以前は1人のユーザーに対して「深く」分析するツールが主流でした。しかし現在では、セッションリプレイやヒートマップなどのツールにより、なぜユーザーがある行動を決断したのかを定性分析によって示せるようになりました。上の事例のように、分析技術を使えば、スクリーン上のどの部分にユーザーがもっとも興味をもっているか、どの機能があまり活用されていないかが可視化され、間違った部分をタッチしている実例が理解できます。これらのツールは、どのようなUXデザイナーやUIデザイナーにとっても心強いものです。
「行動主義」のプロダクトマネージャーになる
定性分析は今では多くの人にとって難しいものではなくなりました。こうした変化から、製品のデザインに行動科学の手法を取り入れる行動主義のプロダクトマネージャーが増えてきています。アプリの世界において、従来のプロダクトマネージャーと行動主義のプロダクトマネージャーの決定的な違いは、前者がユーザーペルソナや理想的な顧客を想定して制作するのに対し、後者は実際のユーザー行動を判断基準とする点です。
ペルソナを設定すると、リリース前の段階でもユーザーを理解しやすくなりますが、ペルソナは長期的に一面的ではないユーザーの行動を説明することはできません。実世界でのユーザーの使用事例を把握すると、データが面倒になりすぎて、それらをまとめて個々のユーザーペルソナに落とし込むことができなくなるのです。
実際のユーザーでアプリを検証する段階に入ったら、初期段階で予測していたユーザーの機会と行動の目標に、行動分析マトリクスを組み合わせるアプローチのほうがはるかに効果的です。行動分析マトリックスの作成方法についてはこちらをご覧ください。
途切れたつながりを関連付ける
最近まで、ほとんどのアプリ分析プラットフォームは、ユーザーの行動のセッションデータをユーザーレベルで関連付ける手段を提供していませんでした。ユーザーが一般的にどのようにインタラクションするかを分析することは可能でしたが、一定期間のユーザーの行動パターンを見ることはできませんでした。その結果、似たようなタイプのユーザーを分類するときにも膨大な量の推定が必要になり、正確にターゲットを絞り込むのが難しかったのです。
この問題を解決したのがユーザー分析とクエリの構築です。2019年には、クエリや観察、そして視覚的なアプリのセッションデータから問題提起し、観察し、学習することを可能にする解決策があります。セッションデータには、あらゆるユーザーやユーザーグループが行ってきたすべてのインタラクションが記録されています。
アプリの中でユーザーがどのような行動を取っているのかを視覚化できるだけでなく、興味のあるシナリオに基づいてどのような瞬間の行動もフィルタリングできると想像してみてください。現在ではアプリのユーザーについてかなり複雑な質問を投下して、これまでのユーザーの経験についてのインサイトを獲得することができるのです。
ゲームアプリなら、先週アプリにログインしたすべてのユーザーや、前月に次のレベルに進むために100ドル以上払ったすべてのユーザーにクエリを実行できます。また、小売業界のアプリでは、過去30日間にiOS デバイスを使って商品をカートに入れたアメリカとカナダのユーザーのセッションをふるい分けることもできます。このようなセッションに関する部分の記録を調査することで、ユーザーの行動パターンを特定したり、UXの改善点を発見したりするのがこれまでになく簡単になりました。
ユーザーの行動についてインサイトを獲得するにあたっては、ユーザー分析が面倒な仕事の大部分を担ってくれます。したがって、ユーザーを理解するために絶えずユーザーペルソナに後戻りすることはほとんど意味がないようです。2019年ではユーザー分析ツールを利用すればユーザーを表現しなくても、彼らは目の前に存在するのです。
まとめ
アプリをリリースする前の段階では、実在のユーザー調査に基づいて「架空の」ユーザーの原型を作ることで、モバイルアプリの制作チームはターゲットの人間の視点を作成し、共有することができます。
しかし、現在のモバイルアプリユーザーはきわめて複雑で、満足させるのが難しいです。彼らは期待値が高く知識が豊富で、アプリで不具合がたくさん発生すると、すぐにほかのアプリに乗り換えることを繰り返すでしょう。もしアプリを長期的に成長させて、顧客のライフタイムバリューを向上させたいなら、アプリが公開されて世界中で使われるようになった時点で、仮説を立てる段階から知識を検証する段階に移行しなければなりません。
そのためには、実世界のシナリオや、製品とのインタラクションを把握して、初期段階でのユーザーペルソナの設定から脱却する必要があります。2019年時点では、定性分析にユーザー分析とクエリ構築を組み合わせることが、ユーザーの行動についてインサイトを得る最善の方法です。それによって、将来的にアプリが提供できる中でもっとも「人間らしい」体験を実現することができるでしょう。