想像したよりも早く、AIプロダクトは私たちの時代に入り込み始めています。様々な業界にAIはその居場所を見つけたのです。スパムフィルターから飛行機の自動操縦まで、AIはいたるところに偏在し、私たちの生活の中で想像し得なかった場面にも影響を及ぼしています。
UXデザインも例外ではありません。AIがこの業界に入ってきたことによって、AIデザインというコンセプトが生まれました。
Wiredマガジンはこれを「AIドリブンデザイン」と呼ぶ一方で、「アルゴリズムドリブンデザイン」と呼ぶ人もいれば「デザインインテリジェンス」と呼ぶ人もいます。さまざまな名前がありますが、本質的に意味することは同じで、人間の目にそれらしく映るようなクリエイティブな成果物を生み出すことができる人工の知性、ということです。
その目的と力に対する誤解や疑問に取り巻かれながらも、よく知られている倫理的・哲学的な問題は別として、AIは偉大なユーザー体験のための触媒になり得る ―Joel van Bodegraven氏、Adyenのプロダクトデザイナー
実際、AIは私たちクリエイターに新たな可能性を示し続けています。AIドリブンのユーザー体験とインターフェイスは未来から、今日(こんにち)の私たちのドアをノックしているのです。しかしながら、それに追いつくにはまだ相当時間がかかります。
Tim Urban氏によれば、AIの発達には3つの段階があります。
- 特化型人工知能(弱いAI):AIの発達が極めて複雑なタスク(たとえば、クリエイティブなUXの仕事)をこなすまでには至っていない段階です。
- 汎用人工知能(強いAI):少なくとも、私たちがよりクリエイティブなタスクをこなせるマシンを作ることができる段階です。この段階で、AIと人間の知能は同等となります。
- 超人工知能:この段階のAIは人間の知能をも超越します。
ここに簡単には答えが出せない問題があります。AIの発達が3番目の段階に達したら何が起こるでしょうか? エキサイティングで、感情に働きかける知性を持ったユーザー体験をより簡単に作れるような、調和のとれた人と機械の関係ができあがるのでしょうか? もしくは、機械が人間の場所を奪うというだけで、人々は仕事を失うことになるのでしょうか? 誰もが前者を望むでしょうが、今の段階では推測の域を出ません。
AIはデザイナーの敵か、友か?
私たちは何も、機械が自分の意志を持ち、ターミネーターの映画に登場するスカイネットのように人間が機械の代わりになるということを実現すると言っているわけではありません。しかし、多くのAIが将来UXの仕事を奪うことになるというのはあながち大げさでもないでしょう。なぜAIがデザイナーの友となるのか、あるいは敵となるのかという議論には、コインの裏表のような側面があります。
AIは友である―新たな時代が始まる
AIシステムはブランドとオーディエンスの間により深い繋がりを作り、その関係を強化することができます。AIのおかげで、人間のニーズと欲求を満たすプロダクトをデザインするための大量のデータを集め、分析することができるようになります。
AIは消費者と企業のユーザー体験に対する考え方を変えつつあります。AIはよりイノベーティブな気づき、より緊密なエンゲージメント、より具体的な文脈、より高速な処理、そしてより直観的なインターフェイスをもたらします。AIはユーザーインターフェイスを、個々人の好みに絞った専用のものにし、従来型のインタラクションに挑戦し、声のような新たなチャネルを追加します。
AIは敵である―世界の終わりは近い
ロボットは現在人間が持っている仕事の一定量を奪うでしょう。長い目で見た場合、AIはデザインとアプリ開発にどのような影響を与えるのでしょうか?
少なくとも近い将来においては、ロボットがデザイナーとモバイルアプリの開発者に取って代わることはありません。70億人の人間に、アルゴリズムが下した決断を信用するように説得する方法など誰も知らないのです。
人間は、デザインに文脈を与え、他のユーザーに共感させるという特異な能力を持っています。
- アプリのメニューにおいて、、表示するべきかハンバーガーに隠すべきかをその有無で決定しているわけではありません。
- Webデザイナーは、画面に表示されたイメージのサイズと量だけによって、グリッドを2列にするか3列にするか決定しているわけではありません。
- そしてもちろん、ほとんどのデザイナーは「心理学的に効果的な色」に基づいてフォントの色を決定しているわけではありません。
AIは、私たちが待ち望んでいるUXの実現を後押しする
AIドリブンデザインは本質的に、AIと消費者体験の間に新たなレベルの関係性を作ります。機械学習に基づいたユーザー体験は、UXデザイナーにとって信じられないほど自由なフィールドなのです。こうしたユーザー体験は技術と人間両方に課題を突きつけ、UXデザインをデジタル体験の新たな段階へ持って行くことを約束するものです。
UXデザインの裏にあるものとしてのAIを想像してみましょう。それは、ユーザーのリクエストに対して自動的に直観的なレスポンスを返すことでユーザー体験を強化するかもしれません。AIには、ユーザーに素早く反応する膨大な数のデザインを作る能力があります。ユーザーの振る舞いを変えさせるために細分化された情報を使って、AIに基づいたアルゴリズムは自然発生的なユーザー体験のプロセスを単純化するかもしれません。
AIのメリットはさらに深いところまで及びます。UXデザインにAIをもっと多く使えば、いわゆる「遊びの部分」を増やすことができ、ユーザーは音声入力や態度による意思表示やボタン入力に手いっぱいにならずに済むようになるでしょう。
最近のAdobeが実施したサーベイの結果によると、デザイナーの62%がAIおよびAIがクリエイティブなプロセスに付加できるメリットに興味を持っています。AIと機械学習は間違いなく、アプリとプロダクトにおけるクリエイティビティに民主化効果をもたらすでしょう。
AIは新たなUIである。機械学習はよりスマートなデザインを作るためにどのように役立つだろうか
AIと未来のデザインが今よりも密接に繋がっていく世界に向けて、UIデザインは今も確固たる道を築いています。
デザイナーと開発者のコミュニティは、ユニークなモバイルアプリを作り出す過程にAIユーザー体験を取り入れ始めています。AIはすでに1つのデザインになっているようであり、モバイルアプリ開発のトレンドとして2019年に知名度を上げています。
デザイナーは、AIに基づいた翻訳の力を借りて、デザインを地域に合ったものに変え始めています。AIはまた、どのエレメントにユーザーが反応し、どのエレメントに注意を引く必要があるかという気づきを得るために助けになっています。
今や、イメージのリサイズや色の調整といった作業はロボットに任せられるようになっており、これによってデザイナーの生産性は大きく向上しています。
AIドリブンのUIの最たる例はAirbnbによって発表されているものです。これは、デザインのスケッチを読み取り、それをリアルタイムコードに変換することができるものです。こうすれば、デザイナーはプロダクトについての戦略的な決断を下すための時間をより多く得ることができます。これは、コンピュータが学ぶには少なくとも10年はかかる機能です。
全体として
AIのおかげで繰り返しの仕事を自動化することができ、デザインのより戦略的な面に集中するための時間を空けることができます。間違いなく、AIと機械学習のおかげでより個人に合った、関連性の高い、スマートで効果的な体験をユーザーのためにデザインすることができるようになります。
今こそ、テクノロジーに敵対するのではなく、恐れるのでもなく、テクノロジーと共に働くことと向き合い始めるときなのです。