モバイルアプリにおけるユーザー体験のクオリティは、できるだけ多く繰り返し起動してもらうために、ユーザーの興味を引くことと密接に関係しています。Interaction Design FoundationはモバイルUXはユーザーに喜びを与えるものでなければならないと主張していますが、筆者もこの考えに賛成です。
ですが、実はこのような明確な考えこそが、モバイルアプリデザイナー全員にとって課題となることもあります。幸運にも、スマートフォン市場はその成功例と失敗例を学べるほどに長く存在しています。この記事では、論理的かつ効果的なアプリUXの概要をお伝えするために、もっとも優れたモバイルUXの実例を見ていきたいと思います。
ベストプラクティスは必ず成功するとは限らないと考えることが重要です。Googleのような大企業でも間違いを犯すこともあるのです。Android Dev Summit 2018で、Googleは明るい白を基調としたマテリアルデザインはエネルギー消費が激しいと認めました。アプリがバッテリーの寿命に及ぼす影響は、この記事で触れる視覚的な特性やアクセシビリティ、その他の要素と同じくらいUXにとって重要なのです。ユーザー体験とは、開発者が心理学と統計学の知識だけでなく、非常に重要なアプリデザインのルールも理解しているということをはっきりと示すものなのです。
アプリ市場は競争が激しく、開発者はほとんどの時間せわしなくテストと修復をおこなっているので、アプリを起動する時間をとれないのです。
アプリのパフォーマンスがUXに与える影響
アプリのパフォーマンスは2つの基本的な測定値の合計となります。最初の測定値はCPU負荷のピーク時に行ったコマンドに対するアプリの平均レスポンスタイムです。このレスポンスタイムはできる限り早くなければなりません。なぜなら、レスポンスが遅い、というのがアプリを拒否する理由のトップにあがっているからです。アプリを起動させるときは、ダウンロードのプロセスでユーザーをイライラさせてはいけません。
ここで2つ目の測定値が重要になってきます。開発者はアプリ起動、さらに操作にかかる処理能力の合計値を測定するべきです。WWDC2018のセッション407でApple Xcodeのエンジニア、John Hess氏はまさにこの点を指摘しました。そして彼はアプリ開発のあらゆる段階において測定を行うべきだとも主張しました。
Hess氏によると、パフォーマンスを向上させるためにはいくつかの段階が存在します。最初の段階はデバッギングです。Appleではプロファイラ(性能測定ソフトウェア)を利用し、アプリを再コード化することによってこれを実行します。その結果、アプリから余計なコードの大部分が削除されます。この作業はプロファイラーがパフォーマンスの望ましい成長を探知するまで繰り返さなければなりません。
おそらく、劇的な変化に気づくのはユーザーではなくスマートフォンのハードウェアの方でしょう。最大負荷に必要な容量が少なければ少ないほど、減速やフリーズせずに同時進行できるタスクの数が多くなるのです。
効果的なオンボーディングフローの原則
これはユーザーが新しいアプリに慣れるかどうかを決める極めて重要な段階です。もちろんすべてのアプリには特定のオンボーディングのステップが必要となりますが、その目的はみな同じです。どのアプリもできるだけ早くユーザーを勧誘し、データを集め、アプリの機能を紹介しなければいけません。さっそく例をあげたいと思います。
このアプリはネットワークについての簡単な紹介文を新しいユーザーに見せます。ユーザーがネットワークについてすでに分かっている場合に紹介文をスキップすることができるようにしたのは優れた判断でした。
次の段階で、ユーザーは個人情報を入力するよう求められます。興味のあるグループやオピニオンリーダー、隣接分野のプロフェッショナル、そしてよく知られている有名人をその場でサジェストできるように、必要なデータすべてをFacebookやメールの連絡先から探っていきます。
こうしてLinkedInは時間のかかるリサーチプロセスをユーザーが関与することなく瞬時に完了させるのです。
これはユニークなフローの例ですが、Flipboardは最初に起動したときからユーザーをあっと驚かせるようにデザインされています。6年経った現在でも、筆者は初めて起動したときのことを覚えています。
このアプリは紙の雑誌をめくるようにページをフリップするユニークなナビゲーション機能を搭載しています。説明がなければそのロジックを理解することは不可能でしょう。これがイントロダクションで新しいユーザーにアプリの使い方を教える理由です。さらにユーザーの興味についての情報収集も行います。イントロダクションから受けるちょっとしたカルチャーショックによって、ユーザーはそのあとに待つ少々退屈な登録プロセスも完了したくなるでしょう。
Duolingo
このアプリは多様な文化を持つユーザーが新しい言語を学ぶ手助けをするためにデザインされています。Duolingoのオンボーディングフローにはいくつかの段階があります。
ユーザーがサインイン画面にたどり着く前に、学びたい言語を選択し、短いテストに合格し、目標と学習内容を選び、その上初回のレッスンも完了しなければなりません。こうしてDuolingoは新規ユーザーのレベルや目的を把握すると同時に、新規ユーザーがアプリのミッションについて知っておくべきすべてのことを伝えるのです。
公平であるために、筆者は多くの言語学習アプリをテストしましたが、Duolingoがもっとも効果があるとは言えませんでした。しかしながら、人気は一番高いのです。つまり、DuolingoはUXのクオリティによって急速に広まったのです。さらに、そのUXによってユーザーは、Duolingoなら新しい言語を学ぶことは他のアプリで学ぶよりも簡単だと確信しているのです。
・・・
おわかりのように、これらのアプリはまったく異なったサービスを提供していますが、どれも似通ったルールを守っているのです。どんなアプリかを素早く記述的に紹介し、ユーザーにアプリの適切な使用方法を伝え、アプリを使う喜びを提供しなければならないのです。
適切なUXパーソナライゼーション事例
当然ながら、ユーザー自身に欲しいものを探させて選ばせる方がずっと簡単ですが、ユーザーのそうした作業の手助けができないアプリは必要とされないのです。それと同時にユーザーはスパイされているかのような感覚を嫌います。こういった状況から、UXパーソナライゼーションはもっとさりげなく、そして効果的であるべきなのです。下記の事例についてより詳しく知りたい方はこちらのパーソナライゼーションのコツをお読みください。
NetflixとYouTube
どちらのビデオストリーミングサービスもフィードの自動パーソナライゼーションを提供しています。過去に視聴して評価した動画を利用して関連コンテンツをサジェストします。YouTubeでは同様のアルゴリズムが使用され、現在視聴している動画のすぐ下に関連動画が表示されます。そのうえ、この両方の機能を利用するためにYouTubeアカウントを作る必要はありません。
このソーシャルネットワーキングアプリの各投稿には、ユーザーが後日似たような投稿の閲覧を希望するかどうかの意思を伝えるボタンが表示されます。また、ユーザーは特定の連絡先やグループのための通知を設定することができます。同時に、このアプリは新規ユーザーや興味のあるコミュニティを自動的にサジェストする機能も搭載しています。
・・・
ということで、結果は明らかです。ユーザーの活動に基づく自動パーソナライゼーションとマニュアルコントロールとを上手く両立させるのが賢明といえます。
マーケット調査戦略
モバイルアプリ市場で似たようなアプリが2つ存在するかもしれません。しかし、成功を収めた方のアプリはプロモーションをより活発に行っています。App StoreやPlay Marketのランキングで認知度は単純に高くなります。アプリを開発するより売る方がずっとコストが高くつく場合だってあるのです。優れた戦略とは、潜在ユーザーの関心を引くために下記のように必要なステップを踏んでいます。
リサーチ
この段階では、人々が何が必要としているのかを判断し、新しい方法でアプリを提供するために、開発者はターゲットとなる顧客や競合についてすべてを理解しなければなりません。
古き良きランディングページ
この分野では創造力が活かされます。このプロモーションツールにおいて完璧な方法を提案することは不可能です。明白なことだけを挙げるとすれば、ランディングページは必ず説明を含み、わくわくさせるようなキャッチーなもので、さらに欲求を刺激するものでなければなりません。
ASO(App Store最適化)
このタスクは単純に見えて魔法を要します。長年認識され続けるためには、アプリは唯一無二のアイコンとタイトルを持たなければなりません。また、わかりやすく解説的なスクリーンショットと説明文も必要です。
話題性の高い動画コンテンツ
動画マーケティングの統計データによると、動画コンテンツはもっとも効果的な広告手段のひとつです。人は生まれつき、読んだり聞いたりするよりも動画を見る方を好みます。したがって、この認知方法がもっとも効率があると言えます。
ソーシャルネットワーキング
スマートフォンユーザー全員がソーシャルネットワークのアカウントを持っていますが、すべてのソーシャルネットワークを活用する必要はありません。開発者はターゲット顧客の多くが利用しているネットワークを選べば良いのです。
UX最適化に終わりはない
すでに述べたように、アプリ開発者は間違いを犯している時間はありません。よって開発者は再利用可能なコードで新しいアプリを起動させ、すべてのコンポーネントを軽量化するためにできる限りの努力をしなければならないのです。
UX最適化というのは、実は果てしなく繰り返し続くタスクなのです。すべてのアプリはUXを改善させるために定期的なアップデートが必要になります。アップデートがリジェクトされることもあるかもしれませんが、競合に遅れをとらないだけの頻度を維持しなければなりません。ユーザーは外観しか見ていませんが、潜在的にはどんな些細な点も見逃しません。つまり、コードとデザインの改善には限りがないということです。
その他の事例
残念ながら記事の終わりにさしかかってきましたので、UXについての短いヒントをいくつかご提案します。
- さまざまなスクリーンサイズを考慮しましょう。多くのユーザーは上側両端まで指がなかなか届きません。
- 親指が大きいユーザーは小さなボタンを押すときに他のボタンも押してしまいがちです
- UXは右利きでも左利きでも同じように効果的でなければなりません。
- およそ15%のスマートフォンユーザーはアクセシビリティに関する問題を抱えています。幸いにも、彼らに快適なUXを提供するために包括的なガイドラインが公開されています。
本記事ではモバイルアプリUXを向上させる段階についてご説明し、このイメージがわきやすいように例も挙げました。
筆者のアドバイスとしては、開発プロセスに入る前にできるだけ多くのアプリを試すことをおすすめします。素晴らしいアイデアがどこからか沸き上がるかもしれません。基本的な原則は極めて当然のものばかりです。しかし悪魔は細部に宿るものなので、すべてのアプリに定期的な改善が求められるのです。