企業が顧客よりも自社商品の理解度が高いのは当然です。そこで働く人たちは、毎週40時間以上も商品の詳細や問題対策に打ち込んでいるため、ほかの一般人よりも詳しくなるはずです。
これはとても素晴らしいことです。こうして彼らは専門家になります。
しかし、彼らは商品を製品化するときに「盲点」も生み出します。業界固有の知識は、会議や製造現場ではとても役に立ちますが、顧客には通用せず困惑させる結果を招いてしまうこともあります。
この状況をWebでよく見かけるでしょう。
たとえば、丈夫な防水加工の時計を購入したいとします。目をつけているブランドのサイトへ行くと、何のことだかわからないモデルナンバーがプルダウンリストに羅列されています。ユーザーにとって、モデルナンバーが何の役に立つのでしょうか。
Webサイトを社内ドキュメントのように構築してしまうと、顧客には理解できない(もしくはポイントがずれた)商品の分類や業界用語が使われ、余計な摩擦を引き起こします。直帰率は上がり、コンバージョンは下がります。結果、ユーザーは探しているものをあきらめてしまいます。
カードソーティングとは
顧客の「知識」「理解していると思う知識」「情報の優先順位」(別名:メンタルモデル)について把握する調査方法があります。
カードソーティングは、ユーザーにトピックをグループ分類させ、ユーザーのメンタルモデルを割り出すUX調査方法です。
デザイナーはカードソーティングのデータを用いることで、ユーザーがコンテンツを探したり、タスクを解決することに影響を与えるデザイン要素であるアプリ上やWebサイト上の情報アーキテクチャを改善します。
カードソーティングには、計り知れない利点が存在します。顧客が頭の中で考えるコンテンツの構成や分類を反映したUXを実現します。
カードソーティングのやり方
UX調査はさまざまな手法で実施されます。カードソーティングにも、以下のバリエーションがあります。
- オープンとクローズ:ユーザーが自由にカテゴリー名をつけるか(オープン)、カテゴリー名があらかじめ決められているか(クローズ)
- モデレーションありとモデレーションなし:カードソーティングは、対面か(モデレーションあり)、個人で行うか(モデレーションなし)
- ペーパーとデジタル:トピックはインデックスカードに書かれているか(ペーパー)、コンピュータでモデル化されたものか(デジタル)
カテゴリーやサブカテゴリーが定義されているカードを、トップダウン方式で分類するというリバースカードソート(ツリーテスト)の方法もあります。
通常、カードソーティングはステップを踏んで進行されます。正確な結果を導くためには、15人~30人がベストです。30人以上になってしまうと、メンタルモデルの明確なイメージが十分に抽出できなくなります。
ステップ1:トピックの選出
- アプリやサイトコンテンツに関連する、30~70個のトピックセットを作成します。
- 1つのカードに1つずつトピックを書きます。
- トピックは大まかでも細かくてもOKですが、同じ言葉を使うのはNGです。そういうトピックは同じグループに分類される傾向があるためです。
ステップ2:思考発話法
- ユーザーにカードソーティングの間ずっと、考えを声に出してもらいます。
- 思考発話法は、ユーザーのトピック分類にある背景を、より明らかにします。
ステップ3:グループ作成
- シャッフルしたカードを、トピックごとにグループ分けしてもらいます。
- グループは大きくても小さくてもよく、ユーザーが好きなだけグループを作れます。
- 「わからない」グループを作り、分類するのが難しいカードを置くことができます。
- ユーザーが勝手にカードを置かないよう気をつけ、気が変わっても大丈夫ということをユーザーに認識づけます。
- カードを移動させたり、グループをまとめたりすることは自由です。
ステップ4:名前づけ
- ユーザーがグループ分けを完全に終えてから、各グループに名前をつけてもらいます。
- ユーザーがトピックをどう頭の中で分類しているか理解できるように行いますが、必ずしもアプリやサイトに明確なラベルをつける必要はありません。
ステップ5:質疑応答
- ユーザーに、グループ分けの論理的な根拠を説明してもらいます。配置が困難だったトピックや2つ以上のグループに属すトピックはあったか聞いてみます。
- 「わからない」グループに残ったトピックについて理由を聞いてみます。
ステップ6:グループの再仕分け(任意)
- 1~5すべてのステップを終えたあと、グループをさらに細かいサブグループに分けてもらいます。もしくはその逆に、大きなグループにまとめてもらいます。
データの分析
ここからが面白いところです。収集されたすべてのデータを解析し、報告書にまとめ、デザイナーやプロジェクトステークホルダーと情報共有します。
報告書は、テストコンテンツについてのユーザーの連想性や思い込みを割り出します。さらに、理解されにくい、あるいは、将来性があるワードやトピックを強調します。すべてのデータはアプリやサイトの情報アーキテクチャの改良に有効活用できるでしょう。
ステップ1:データの整理・保存
- カードソーティングで得たデータをドキュメント化し整理します。
- ユーザーが定義したカテゴリー名に加え、参加者のメモや記録もすべて保存します。
- メモなども含むすべてをデジタル化し、アクセス可能な状態にします。
ステップ2:定性情報と定量情報の評価
カードソーティングの結果から、2種類の情報が抽出できます。
- 定性情報:ユーザーがなぜそう思うのかがコメントから発見できます(「思考発話法」を用いる利点のひとつです)。
- 定量情報:どれだけの頻度で同じカードが同じグループに分類されるか、何人のユーザーが同じカテゴリー名をつけたかなど数値的な情報が得られます。
ステップ3:メモと記録のレビュー
- インサイトを掘り出すには、メモや記録を取ることがカギとなります。
- 1人のユーザーでは見えなくても、何人かのメモや記録を比較すると、思いもよらないテーマが浮上してきます。
ステップ4:デジタル分析と可視化
- カードソーティングのデータをデジタルプログラムに落として分析すると格段に効率が高まります(Excelやスプレッドシートが一般的です)。
- さらに上を行くならば、OptimalSortやUserZoomなどのカードソーティングのサイトを使用すると、標準化グリッド、類似性マトリックス、樹形図などの図表でデータを可視化できます。
- 図形に表すと、重要な関係性やパターンが明白になります。
- ただし、データ可視化ツールの使用を誤ると、間違った結論を引き出してしまいますので注意が必要です。
ステップ5:報告書の作成
- すべての分析ステップを終えたら、報告書にまとめます。
- 報告書はわかりやすく作成し、難しいコンセプトを補足する状況説明も簡単に加えるといいでしょう。
- UX調査に詳しくない人が読んでも、すぐに理解できる報告書を心がけます。
カードソーティングは情報アーキテクチャの最高峰
サイトを訪れる人たちは、煩わしい検索、解読、解釈をせずに、求めるものをいち早く手にしたいはずです。カードソーティングは、ユーザーメンタルモデルの構造を照らし出すという、ほかのUX調査にはない利点があります。低コストで手軽にでき、比較的直観的なのでユーザーが参加しやすいのも特徴です。
滑らかなUXの提供は、以下のような大きな質問の上に成り立ちます。
- 顧客がサイトのコンテンツを見て、どのように受け取るか?
- 社内的に意味をなしても、顧客には理解しにくいコンテンツはないか?
- 顧客がサイトを訪問するとき何を求めているか、どのようなルートで目的へ導いてほしいか?
カードソーティングはUX向上の宝の山を発掘し、デザイナーが思い込みではなく確信をもって情報アーキテクチャの促進が図れるよう後押しします。