新しいプロダクトのデザインを始めるときに、そのプロダクトが市場に適合しているかを確かめることは不可欠です。また市場において他プロダクトよりも競争優位性を持たなければなりません。
ではその競争優位性はどのように評価すればよいのでしょうか。それは効果的な競合分析を用いて行うのです。
競合分析とは以下のように定義されます。
競合を特定し、自社のプロダクトやサービスと比較して競合の強みと弱みを明らかにするために競合の戦略を評価すること
問題を明らかにして競合分析するプロダクトを探す
ビジネスチャンスになり得る問題を特定したら、最初の一歩として、ターゲット顧客が同じ問題を解決するのに現在どのようなプロダクトやサービスを利用しているかをリサーチします。
同等のプロダクトやサービスは存在するのでしょうか。代替的に利用されているソリューションで、品質的には事足りるけれど完璧とは言えないものはあるでしょうか。たとえば、絆創膏はビタミン剤(あると便利だが本質的な問題解決には役立たないもの)ではあるけれど、ペインキラー(本質的な問題解決に役立つもの)とは言えないのではないでしょうか。
ターゲット市場で上位3~5位の競合を特定し、彼らがうまくやっている点を見つけてみてください。ユーザー体験と一体化したサービスデザインやプロダクトはどれほど優れているでしょうか。通常、プロダクトの性能よりも全般的なサービス体験がはるかに優位性を持ちます。
競合を特定できたら、このリストを表にしてみましょう。
競合の比較表は通常、このような項目を含みます。
- 競合の名前
- 競合のURL
- ユーザー/ダウンロード数:主にプラットフォームの効果を明確にするため
- プラットフォームやプロダクトの使用年数(オプション)
- 競合が提供する主な機能
- サービス/プロダクトの費用
- 追記事項
競合分析を行う際には以下の5つのステップを踏みましょう。
1. 競合を把握し、リサーチする
どの会社やプロダクトも差し迫った問題を解決する目的から立ち上げられます。そしてかなりの市場およびユーザーのリサーチが行われます。成功し(続け)ている会社はプロダクトとサービス全般、いわばプロダクトのUXを絶えず改善・改良しているのです。
競合を深く理解することは、プロダクトやクライアントに向けてより優れたデザイン戦略を立てるのに役立ちます。競合分析におけるベストプラクティスにおいて重要なことは、競合プロダクトの背後にあるなぜ、何、どのように、の3点を見つけることです。
なぜ市場でこの問題が存在するのか。なぜ競合はこの方法で行っているのか。なぜ人々は競合プロダクトを信頼し、使用しているのか。市場上位3〜5位の競合プロダクトはその他のプロダクトとどこが異なるのか。「Why(なぜ)を5回問いかけてみる」、これは80年以上も前に日本の技術革新の父によって提唱された考え方です。「5つのWhy」戦略は問題の本質を見つけ出すための簡単で効果的なツールなのです。
こうした問いかけは競合を成功に導いた源を明らかにする助けとなるのです。
競合がエンドユーザーに提供している「ペインキラー」のソリューションとなっているのは何か。競合が解決している問題の本質とは何か。解決するためのステップとは何か。エンドユーザーとやりとりするためには何のデバイスやプラットフォームを利用しているか。問題を解決するためにデザインされた競合プロダクトの特性とは何か。
このような質問を問うことによって自社のプロダクトやアイデアよりも競合が優れている点、そして競合よりも自社が優れている点を特定するのに役立ちます。
どのように競合は競争優位性を維持しているのか。技術的な立場から、どのように競合はプラットフォームのインフラ管理をしているのか。競合はUXに影響するプロダクトの外観と操作感覚をどのようにデザインしたのか。どのように価格構造が決められているか。
このような問いかけをすることによって競合がたどるプロセスを特定し、理解する助けとなります。またこうした問いかけは、自社のプラットフォームやプロダクトが埋めることができるかもしれない競合の全般的なサービスデザインの不足部分を特定するのに役立ちます。
2. 競合プロダクトを使用する
オンライン・オフラインでの競合のプレゼンスを調査することで、競合についての基本的理解を深めることができます。しかし競合のサービスデザインを本当に理解したければ、実際に競合のプロダクトを使ってみなければなりません。
具体的な方法とは、
- 可能なら無料お試し登録をする(もしくは短期間登録する)。
- 競合プロダクトを使用し、ユーザージャーニーやタスクフローがどのようにデザインされているかを分析する。おおまかなユーザージャーニーマップを描く(購入手続きを完了させるなど)。UXも分析する。
- タスクを完了するのは簡単なのか、それとも面倒なのかを調査する。
- 問題を解決するのにどれだけ優れているか、また改善の余地はあるかを分析する。
- EメールやTwitter、Facebook、電話等で競合のカスタマーサービスに連絡を取り、彼らがどのようにインタラクションを行ったかをメモする。
- 競合のプロダクトやサービスの見つけやすさは一般的にどの程度かを調査する。また、彼らのマーケティングおよび成長戦略を理解し、SEO、Alexaランク、ソーシャルプレゼンスを分析する。
- 競合の価格戦略を分析する。自社プロダクトの機能が他社と似通っていても、すぐれた価格戦略によって優位性を持つことは可能です。
3. 競合プロダクトにおけるUXの問題点を挙げる
どのようなプラットフォームやプロダクトも特定のタイプのユーザーやターゲット層を想定してデザインされています。
通常、さまざまなローンチ後の分析やユーザーリサーチ、テスティングを踏まえてデザインを何度も繰り返しデザインを行います。それでも、プロダクトデザインによっては推定、仮説、ステークホルダーの意見のみに基づき、完璧と言い難いものに仕上がる場合が多くあります。
競合の抱える問題や、競合プロダクトの総合的なUX について未解決の課題を明らかにすることで他者の誤りから学ぶことができるのです。
UXの問題を特定するのに役立つアイデア
- ユーザーオンボーディングのプロセスのように、競合プロダクトのさまざまなタスクフローと特徴を調査・研究しましょう。ステップはいくつ存在するのでしょうか。そしてプロセスは簡単でしょうか、それとも複雑で時間がかかりすぎるでしょうか。
- 競合プロダクトは基本的なユーザビリティやヒューリスティックのガイドライン、インタラクションデザインの原則を満たしているでしょうか。
- 競合がどのようにユーザーフローを最適化したかを見てみましょう。改善の余地はあるでしょうか。競合プロダクトを利用するのに5つのステップを踏み、購入完了まで1分以上かかる場合、もっと時間を短縮できないか考えてみましょう。
- 競合が見落としたかもしれない重要な機能を特定しましょう。もしひとつも見当たらなければ、どこか全体的に改善できる箇所はないでしょうか。
- 競合のサービスデザインはどのくらい優れているでしょうか。メールでのコミュニケーションやシステムではどのような言葉が用いられているでしょうか。
- 競合の情報設計はどのようにデザインされているでしょうか。サイトマップを研究してみましょう。
4. 競合プロダクトのビジュアルデザインにおける欠点を明らかにする
カラーパレットやタイポグラフィ、イコノグラフィー(図像学)、ビジュアル言語など、競合プロダクトのビジュアルデザイン(UI)を研究し、なぜ特にその方法で行ったのか、そしてより良い方法が存在するのかを吟味しましょう。
ビジュアルデザインを評価するためのアイデア
- 競合のランディングページのビジュアル構成、そしてどのようにしてサインアップとプロダクトの購入をユーザーに促しているかを解明しましょう。
- どのようなカラースキームを使用しているでしょうか。そして使用色はどのような理由から選択されたのでしょうか。
- コールトゥアクション(CTA)は明確でしょうか。
- プラットフォームはモバイルやタブレットでも使いやすいでしょうか。
- 競合のプラットフォームからさまざまな画面のスクリーンショットを集めて吟味し、良い点と問題点について全てレポートにまとめましょう。
5. 競合分析レポートを作成する
典型的な競合分析レポートは最終的に選ばれた競合の他社に対する緻密な調査から成ります。レポートは競合が成功した点とともに、重要でありながら見逃している点にハイライトを当てます。
競合分析に含むべき項目
- それぞれの競合プロダクトに対する緻密な分析
- それぞれの競合プロダクトの機能やUXフローについての詳細説明を注記したスクリーンショット
- それぞれの競合においてプラットフォームやプロダクトの機能リストおよびおおまかなサイトマップ
- 分析対象の競合プロダクトそれぞれにおける強みと改善点
- プロダクトの機能を記した欄およびそれぞれのプロダクト名を記した競合分析マトリックス
競合分析マトリックスの構成例
競合分析マトリックスによく含まれる項目
1. 構築するプラットフォームにおける機能やソリューション
2. 競合が同じ機能やソリューションを持っているか否かの確認
3. プロダクト機能それぞれに、重要度によってスコア(ポイント数)を付けていきます。たとえば上のマトリックスであれば、chat は10ポイント、storiesは5ポイントというように付けていき、全てのポイントを足して機能の数で割った数が競合のスコアを割合で表したものとなります。
ビジュアルデザイン、総合的なユーザー体験、それぞれのプラットフォームにおけるパフォーマンスの分析結果もマトリックスに含まれることがあります。
おわりに
競合分析のプロセスは一般的に時間のかかるものですが、簡潔にまとめることで早く終わらせることもできます。
- 3~5社の競合に特定して分析し、彼らのプロダクトと市場ポジションを確定する。
- 競合のプロダクトやサービスを使ってみて競合のビジネスのしくみを見極める。
- 競合のプロダクトが持つUXにおける問題があればそれを特定し、リストを作ってまとめる。他者の間違いから学ぶのに役立ちます。
- UXにおける問題を特定したら、ビジュアルデザインにおける欠点がないか探してみましょう。たとえばどれだけ効果的にCTAがデザインされているか、どのようなカラーパレットを使っているかなどを分析することにより、プロダクトのより素晴らしいビジュアル体験をデザインするのに役立ちます。
- 最後に、全ての競合とそのプロダクトや機能を記した競合分析マトリックスは必ず作成しましょう。このレポートは競合を俯瞰的にとらえるのに役立つでしょう。
正しい方法で実施されれば、競合分析は競合と差別化をはかり、顧客満足度やコンバージョン率を飛躍的に向上させることができるでしょう。さあ、あとは実践あるのみです。