BtoBマーケで「顧客理解の解像度」を上げるために取り組むべき4つのこと

池田 朋弘

UXリサーチを専業とする株式会社ポップインサイト代表取締役および株式会社メンバーズ執行役員。2008年に株式会社ビービットに入社しユーザーテストを数百人実施、2012年に日本初のリモートユーザーテストサービスを立ち上げ5,000調査以上を実施。

UX MILK特派員のポップインサイト池田(@pop_ikeda)です。UXの第一線で活躍されている方々へインタビュー&対談し、最新のノウハウをお届けする「UXリサーチ最前線」。今回は、BtoB専門のマーケティング・コンサルティング会社として有名な株式会社才流栗原さん(@kotakurihara)にお話を伺ってきました。

栗原さんご自身は「UX」「UXリサーチ」という言葉を使われてはいませんが、マーケティングを考える上で行われているユーザ理解の様々な取組みは、UXリサーチをこれから学びたい人にとってとても有益です。ぜひ参考にしてください。

才流は、BtoBマーケティングのメソッド開発カンパニー

栗原:才流(サイル)は、BtoBマーケティングにおける「ドーナツ化現象」を解決する会社です。

ドーナツ化現象とは、下図のようにツールや手法などの周辺サービスは増えているのに、中心にあるべきマーケティングの戦略・体制づくりを支援するサービスが欠けている状態を言います。

才流は、マーケティングコンサルティング・研修の2つのサービス提供を通して、ドーナツの中心を埋めるための支援をしています。

池田:栗原さんの情報発信力もあり、才流さんへの依頼は非常に増えていると思うんですが、会社としては今後どんな方向性を考えているんですか?

栗原:本質的には、「メソッド開発カンパニー」でありたいと思っています。コンサルティング会社でもっとも成功しているのはマッキンゼーやボストンコンサルティンググループだと思いますが、彼らもコンサルティングの中で様々なメソッドを編み出し、それを広げることによってブランドを確立し、今の地位を築いています。

才流も同様に、理論だけではなく、コンサルティングを通じて実務にも密接に携わりながらさまざまなメソッドを開発し、それらをメディアや研修を通じて発信することで、世の中に広く貢献していきたいです。

会社としてのKPIも、売上や従業員数ではなく「メソッドをどれだけ開発・普及できたか」が重要だと思っています。

メソッドを広げていくために、今年は外部向けの研修やセミナーを強化する予定です。これまでの研修は1社1社に個別提供するだけでしたが、今年の7月から何十社かを集めた「サイルアカデミー」という集合研修を提供しています。

「顧客理解の解像度を上げる」4つの手法

池田:栗原さんのMarkeZine(マーケジン)の連載の中で、BtoBマーケティングの成功を決める5つのポイントを紹介されていて、その中のひとつに「顧客理解の解像度を上げる」がありました。これは「UXリサーチ」と本質的には同じ取組みだと思っているのですが、才流さんが実際にどのようなことを行っているかを教えていただけますか。

栗原:はい。才流のコンサルティングでは、大きく4つのことを行っています。

1つ目は、クライアントの代表やトップセールスから「顧客になりきって、営業説明を受ける」ことです。売れる営業マンは、顧客の課題やニーズをしっかり把握した上で説明してくれるので、顧客になりきることで、どんな課題やニーズがあるかという理解を深められます。

2つ目は、クライアントの「営業に同行」することです。営業マンの横で、顧客の反応を観察し、どんなメッセージや内容が刺さるかを把握しています。

3つ目は、クライアントのサービスを「自分で実際に売ってみる」ことです。自分が営業マンとして顧客に説明し、質問を受けることで、顧客をさらに理解することができます。説明の途中でWebサイトを見せて、ユーザーテストのようなものを同時に行うこともあります。

4つ目は、ビザスクやbosyuなどを使い「お金を払ってインタビューする」ことです。ここまでの3つの方法は営業フェーズに入った以降の顧客理解には繋がりますが、マーケティング施策を改善するためには、顧客が購買プロセスの前段階でどんな情報収集をし、どう検討しているのかも知る必要があります。

謝礼は1万円程度になることが多いですが、お金を払って聞くことで、営業に入る前段階の細かなプロセスをしっかりと聞き出すことができます。

池田:営業マンから顧客として説明を受けたり、営業同行をするのは、パンフレットやサービス資料をもらって読み込むこととは違いますか?

栗原:できる営業マンは、サービス資料に頼らず、自分の言葉で補足していることが多いんです。実際に営業を見ないとわからないことが多くあります。

池田:たしかにそうですね。また「自分で売ってみる」というのは、とても新鮮な取組みでした。

栗原:実際の取り組みとして、過去に「Shirofune」というリスティング/ディスプレイ広告の運用自動化ツールのマーケティング支援をした際には、たまたま自社のクライアントがツールのターゲット層であったこともあり、会うたびにツールを紹介していました。

1ヶ月ぐらい自分で営業した後にWebサイトを作りましたが、顧客に刺さるメッセージがわかっているので、CVRは非常に高い水準になっています。

『カタセル』という手紙を活用したキーマン商談の獲得サービスの支援をした際も、自分で何度も営業をした後に、Webサイトのワイヤーを作りました。こちらでも同様に大きな成果が出ています。

なぜBtoBマーケターは顧客に会いにいかないのか?

池田:先ほどの4つの方法は、BtoBのマーケター全員が当たり前にやるべきものだと思いますが、実際にはほとんどやっていない印象があります。それはなぜなんでしょうか?

栗原:最初に話した「ドーナツ化現象」が原因の1つだと思います。マーケターの情報源は、本・セミナー・メディアなどさまざまですが、そこでは「各論」についてのテクニックや情報に終始してしまっています。一方で、顧客の解像度を上げる取組みは、ドーナツの真ん中のさらに真ん中のマーケティングの戦略や体制づくりの部分で行うものなので、あまり話題にする人がいないのではないでしょうか。

またデジタルマーケティングでは、データが取れすぎてしまうのも問題のひとつです。アクセス解析や広告運用などのデータを1度見ると、「このデータを分析しよう」という発想になってしまい、本質である「顧客理解」という方向になりづらいと感じます。

前職で後輩を育てるときにも、いきなりSEOやコンテンツマーケティングなどの各論に入らず、まずドーナツの中心(顧客理解やマーケティング戦略、計画策定、体制作り)から話すように意識していました。

池田:データを見すぎて「お腹いっぱい」な状態になってしまうわけですね。

栗原:また「顧客を知ることの価値」を体験したことがないので、他の業務と比べて優先度が下がってしまっていることもありそうです。

実は前職でマーケティング担当だった時代には、僕自身も顧客を知る価値に気づいていない時期がありました。同じチームにいたソニー出身のエンジニアが「ユーザテストをした方がいいよ」と言ってくれていましたが、「忙しいし」と半年ぐらいスルーしていました(笑)。

ところが、たまたまサービス開発の途中で自分のタスクが少ないときがあり、自分で顧客を呼んでユーザーテストをしてみたら、気づきが非常に多く、ものすごい衝撃がありました。

顧客に会ったり顧客の様子を見ることで得られる価値は、やる前よりも、やった後の印象では10倍ぐらい高まりましたね。

顧客理解のリサーチ予算はクライアントからおりづらいので、才流では自主的にリサーチを実施して、まず結果を持っていってしまうことが多いですね。

なぜ栗原さんは、質の高い情報発信を継続できるのか

池田:栗原さんは「マーケティングは継続することが大事」だと主張されています。そして実際に、栗原さん自身がTwitterやブログで質の高い情報発信を継続されており、凄いなといつも思っています。栗原さんのように継続していくには、コツはあるのでしょうか?

栗原:まず、あまり短期的なビジネス成果は気にしないようにしています。リード数や問い合わせ数を気にしても、すぐに数が伸びるわけではないので、そこを気にしすぎるとモチベーションが下がってしまいます。

では、私自身が何を継続のモチベーションにしているかというと、普遍性はないかもしれませんが、2つあります。

1つは、情報発信するためには思考を言葉にまとめる必要がありますが、その過程で「こんなに面白いことを思いついた」というアハ体験が日々あります。これがとても楽しいです。

2つめは、人に会うときに「栗原さんの情報を見て、実際に成果がでました!」と言ってもらえることです。情報発信が、誰かの行動や成果に貢献できていることが嬉しいです。こういう喜びが「メソッドをもっと広げていきたい」という想いにも繋がっています。

またTwitterに関しては、「誰かに伝えよう」というスタンスではなく、「自分の考えをメモしておこう」というスタンスで使うとよいと思います。私の中では、Twitterは日記や日報に近い存在です。

また、こういった「自分用のメモ」というスタンスで発信していると、ネガティブなレスポンスが少なく、モチベーションが下がりにくいという利点もあります。

池田:なるほど。短期的な成果に囚われすぎず、モチベーションを見つけて継続していっているのですね。今日はいろいろなお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

まとめ

実は、栗原さんに最初にインタビューを打診した際には「UXリサーチに関して話せることはないんだけど…」と言われたのですが、お話を伺ってみると、UXリサーチという言葉は使っていなくても、リサーチャー以上にさまざまな取組みを試されておりました。

また非常に共感したのは「ユーザ理解の取組みは、やってみないと価値がわからない」「なので、自主的に実施してしまう」という部分で、ユーザテスト等の取組みも全く同じ構造があると思います。最初は予算をかけずに実施し、そこで価値を伝えた上で予算化していく・習慣化していくのが重要だなと感じています。

・BtoBマーケティングでは「ドーナツの中心(顧客理解、戦略、体制)」を最初にやろう!
・顧客の解像度を上げるための4つの取組みを、できる範囲で今すぐ始めよう!
・情報発信は、短期成果に囚われすぎず、自分なりのモチベーション要因を見つけて、継続しよう!

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