本当に誰もがユーザーリサーチをするべきか?

Ellen S. Carey

Ellenはユーザビリティの伝道者であり、ユーザーに寄り添うリサーチャーです。ニュース、テレビ、テクノロジー企業のデジタル体験向上に活躍しています。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Not Just Anybody Should Do User Research

受け入れにくいかもしれませんが、UX業界とリサーチコミュニティが合意に至るときが近づいています。体験のリサーチがUXにとって非常に重要であることが広く認知された一方で、いまだに多くの初心者や経験者が「誰でも」ユーザーリサーチを実施できると考えています。

私が伝えたいのは、顧客に共感する作業はデザインプロセスの一部に含めなければならず、チームの全員が何らかの形で参加するべきだということです。顧客からのフィードバックは重要ですが、リサーチャーでない人の手に渡ったら、消費者は注意しなければなりません。

ユーザーリサーチに対する思い込み

現在、ユーザーリサーチ業界は岐路に立っています。ユーザーリサーチの必要性を理解する企業が増え続ける一方で、一部の役員や人事マネージャー、UXの専門家が抱く、ユーザーリサーチに対する4つの思い込みが存在するからです。

思い込み1:ユーザーリサーチには膨大な時間とコストがかかる

ユーザーリサーチが単純か複雑かはプロジェクトチーム次第で決まります。調査の対象が理解される前にプロジェクトのスケジュールや予算を決定すると、モチベーションやリソースが不足してしまうでしょう。何よりも重要なのは、プロジェクトの最初からユーザーを理解し共感することで、不必要な機能や望まれない機能を削除できるので、プロジェクトの大部分を簡略化できることです。

成果よりも実装した機能の量を評価されるようなオーナーにとっては、ユーザーリサーチに基づいて機能を取り除くことに賛成しづらいかもしれません。しかし、企業の利益のためにも努力する価値はあるでしょう。往々にしてリサーチャーは問題が起きてから対策を講じるために呼ばれ、開発チームは使いにくい体験をデザインし直すことになります。これでは膨大な時間とコストが無駄になります。このような結果を招く原因は、ユーザーリサーチの実施が現実的かどうかではなく、ユーザビリティの「政治」であることが多いようです。

思い込み2:ユーザーリサーチは誰でも実施できる

サードパーティーのユーザーリサーチプラットフォームが過去数年間で急激に増加し、遠隔調査の分野を拡大しています。これらのサービスのマーケティングメッセージは「誰でも簡単にユーザーリサーチが実施できる」というものです。

しかし調査は、テストを2、3個設定して実行するだけではありません。インタビューや分析、整理には、専門知識が必要です。率直に適切な質問をすることや、脳がどのように機能するか理解する心理学などは、必要な知識のほんの一部にすぎません。人々が行動や意思決定に至った理由を把握することは、決して簡単なことではないのです。

Margaret Mead氏の有名な言葉によれば、人間の言動と行動はまったく異なります。データの収集は、有益で価値のあるインサイトを手に入れる第一歩に過ぎません。データは誰でも収集できると言われますが、どのようにデータを収集し、活用し、効果的な実装に向けて結果をまとめるべきか知ることは難しいものです。

思い込み3:どのようなユーザーリサーチでもないよりはましだ

確固とした調査計画を作らなかったり、解決したい問題点を把握しなかったり、適切なユーザーと話さなかったりすると、デザインや開発チームを間違った方向に導いてしまいます。自己申告の調査や一方的な観点だけに基づく偏ったデータは時間と労力の無駄であり、UXリサーチャーが事実に基づいた正確なユーザーのニーズや期待、行動を表面化し普及させる妨げになります。

思い込み4:ユーザーリサーチはデザイナーや開発者が片手間でできる

人間は自分が創作するものに執着しやすいもので、デザイナーや開発者は制作物が現実的に通用しないと批判を受けても聞く耳をもたないでしょう。一方で、経験豊富なリサーチャーは、調査対象に直接執着したり投資したりせず注力できる程度の客観性や中立性を持ちます。

組織でデザイナーや開発者がリサーチャーの役割を兼ねるしかないなら、調査する人が妥協できないよう境界線を明確に定めなければなりません。

ユーザーリサーチはどの場面で重要になるのか

活発な議論はとても有効ですが、UXリサーチ部門は事業を進められるようビジョンを提供するべきです。ここ数年で関心が高まったことで、ユーザーリサーチを生まれたばかりの分野だと考えている人もいます。しかし、多くの企業で補足や苦肉の策として用いられてきたものの、UXリサーチは何十年も前から存在しています。

プランニングや開発の段階ではユーザーリサーチに費やす時間やコストがかけられない一方で、公開したあと新商品を使用できないことが判明すると、突然時間とコストが用意され、最善のプロダクトが使えない「理由」を企業は死にものぐるいで追求するのが通例です。

ユーザーリサーチが重要視され、今では誰も却下する人はいなくなったものの、誰もが調査をできる、調査すべきだという主張は広がり続けています。素晴らしい考えではあるものの、プロジェクトチームの大半はユーザーリサーチに意欲や興味があっても、偏見のない実用的で実践的な調査を運営するのに必要な訓練を受けていません。

UX企業自身も、コストに敏感な人事マネージャーや執行役、プロダクトディレクターがUXとUIの違いも知らないまま、ましてや共感することの意味など理解しないままメッセージを考えて送り続けています。

このような人たちは、UXリサーチャーをチームメンバーが顧客とやりとりする際の障害物と見なす傾向にあります。その原因の一端はUXリサーチャーにもあるでしょう。これまでのところ、リサーチャーはほかのメンバーがプロセスにどのように関わるべきか十分に伝えておらず、アカデミックなリサーチや、定性調査か定量調査かを採用することが多いです。このような状態は解決につながりません。

UXリサーチャーの重要性は認められてきましたが、Steve Krug氏が著書『Don’t Make Me Think』の中で「宗教論争」と呼んだものはいまだ続いているようです。 

Webチームが直面する問題の1つは、チームメンバーは皆ユーザーとしてたくさんの個人的な体験をしてきているため、優れたサイトとは何かについて、それぞれに確信を持っていることです。

Steve Krug氏 2005年、BoxesAndArrowsでのインタビュー

「その結果、ほとんどのデザインの意思決定では、事実に見せかけた強力な個人の意見ばかりが蔓延してしまいます。確固たる答えを求めて頼れる人がいることは非常に魅力的です。ただ奇妙なことに、決定的な答えはあまり存在せず、単に効果的なガイドラインがいくつかあるだけだと説明するのにページのほとんどを割いた本を書いたことがあるのです」

2019年の現在も、宗教論争は世界中の会議室や役員室で続いていると、Jonathan Deesing氏は5月に書かれた『User Research May Be the Most Important Role in Your Company』(→ UX MILK記事:ユーザーリサーチをスムーズに導入するための3つのステップ)という記事で指摘しています。Deesing氏の話によれば、ボタンのテキストについて不毛な議論が延々と繰り返され、ユーザーリサーチが提案されて初めて事態が収まったそうです。UXのデザインや開発に携わった方なら、現実世界でもデジタルでも、このような場面に遭遇したことが一度はあるでしょう。

ユーザーリサーチはまだ存在しなかったり、定着していなかったりする重要な役割を担うかもしれません。ユーザーリサーチを上手く実行するには、スキルやトレーニング、実践、粘り強さを併せ持つことが必要です。経験のある人を見つけるのも解決策ですが、難しいかもしれません。どのようなリサーチャーでもいたほうが良いという考えは、ユーザーリサーチに悪影響を与え、潜在的な価値を損ないます。

J9Arts Research創立者で、UXリサーチャーとして10年以上の経歴を持ち、たくさんの顧客を抱えているJanine Coover氏は次のように言います。

リサーチの原則に忠実ならば、特定の分野で有益になる十分なフィードバックを得られます。しかし、どのようなフィードバックでも有益であるわけではありません。偏見や仮設が含まれていないか常に確認しましょう。さらに話を広げるなら、質問を適切な位置づけることが重要です。私たちは、すでに知っていることではなく、思いもよらない何かを発見するためにリサーチを実施するのです。私はどのようなセッションでも、新しい何かを見つけるという意識で臨んでいます。

Photo by Helloquence via Unsplash

ユーザーリサーチを規律として活用する

ユーザーリサーチを実施するためにユーザーリサーチャーになる必要はないという主張は、率直で問題ないように思えます。しかし、この論理を別の場面に適用すると、「コードを書くためにエンジニアになる必要はない」という主張や、「ピクセルを知らなくてもデザインできる」という主張も正しくなります。これらの主張は誰も真面目にとらえないでしょう。だからと言って、Deesing氏の記事で例えられていたように、ユーザーリサーチャーを妖怪のように考えるわけではありません。リサーチャー以外の人とは異なる調査の専門家や経験者として考えるべきなのです。

ユーザビリティ調査はロケットを修理するような難しいことではないと言ったKrug氏は間違っていません。Deesing氏が指摘しているように、ユーザーリサーチが扱う課題のほとんどは、一般常識や意思決定者同士の衝突によります。自分の制作物を評価したいと思い、あらゆる反対意見を無視したいと思う人間の基本的な傾向を企業は認識し、私が「ユーザビリティの政治」と呼ぶものを理解すべきです。

ここ数年、UXの宗教論争の議論が続いたとき、デザインの前にメンバーが持っている顧客に対する知識を頼りに意思決定するのではなく、最終手段として「ユーザーリサーチャーに聞いてみよう」という結論に至ることが多くなってきました。データはありふれており、どのように扱うべきかわからないチームもたくさんあるでしょう。ユーザーリサーチには検証すべき仮説が必要であり、法的尋問のように一人では実施しません。リサーチャーが参加しない会議が続くと、会議は、ユーザーについてもニーズについても理解していない、あるいは認めないマーケターやデザイナー、開発者の集まりになってしまいます。

デザインを考える際のマインドセットとして、ユーザーのニーズ、ビジネスの条件、技術の実現性という3つは、個別ではなく統一して考えなければなりません。そのため、ビジネスパートナーには要求事項よりも前提条件を提供するよう依頼するべきです。前提条件のなかには、ユーザーによるインプットが必要なものもあるでしょう。

顧客からのフィードバックは重要です。自分たちのプロダクトを使う人間に共感できるように、チームの全員がなんらかの形で調査に関わる必要があります。しかし、ユーザーリサーチの実行責任は、たくさんのスキルを有するリサーチャーに与えましょう。従来通り、顧客と会話したり、アンケートの送信したり、顧客とつながったりすることは続けてください。ただ、これらはユーザーリサーチではなく別の名称で呼ぶべき行為です。顧客からのすべてのフィードバックを「ユーザーリサーチ」として特徴づけることは、UXリサーチがあらゆる開発プロジェクトにも適用すべき規則として扱われるために必要不可欠です。


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