メールマーケティング絶頂期だった2005年には、ほとんどの人がお気に入りの出版社やブランドからのメールを楽しんでいました。しかし、数か月以上受信していると、受信フォルダからあふれたメールを削除しなければなりませんでした。
そして次のようなことが起こりました。
確定申告ソフトが雰囲気を明るくしようとするのは好ましいことです。しかし、ポップカルチャーを引用すると、必死さや、ユーザーに羞恥心を植え付けようとする思惑が伝わってしまいます。
メールマガジンを解約しようとすると、立ち去ろうとするユーザーに罪悪感を与えるようなページに飛ばされます。
「行かないでください」
「あなたがいなくなると寂しいです」
「お得な情報を逃すことになります」
10数年が経過した現在、この手法はマーケターにとても人気な手法になりました。この必死の嘆願が始まるきっかけは、メールの解約だけではありません。購読を求めるWebサイトや、販促キャンペーンや割引のメールを送ってほしいか尋ねるサイトでも、似たようなメッセージを目にします。10%割引きを受ける代わりにメールを登録しないなら、「私は定価で支払うのが好きなまぬけなので、結構です」というラベルのついたキャンセルボタンをクリックすることになるでしょう。
このような羞恥心を植え付ける手法は小売業界で人気を博し、定価で払うのが好きだと断定することでポップアップを閉じたいユーザーを惨めな思いにさせてきたのです。
つまりメールマガジンの圧力に屈しない決心をするだけでも一仕事なのに、その上、自分が少し悪いことをした気分になるのです。
ネガティブなオプトアウト
購読者を引き止めるこのような方法は、ネガティブなオプトアウト(negative opt-out)として知られています。ネガティブなオプトアウトは、ユーザーの罪悪感を利用します。必ずしも侮辱的だったり、必死だったり、懇願していたりするわけではありませんが、通常はこれらを組み合わせて作られます。また、これらは「マニピュリンク(manipulinks)」や「コンファームシェイミング(confirmshaming = 羞恥心の植え付け)」とも呼ばれます。とても広く浸透しているので、Tumblrで一般的なダークパターンを集めたブログを開設している人もいます。
UXデザインの文脈におけるダークパターンとは、コンバージョンを上げる目的などで訪問者や見込み客をだまして、彼らが意図しないような行動をさせようとする、怪しく不透明な手法のことを指します。
ダークパターンは新しいものではありません。2016年にViceが自身のテックメディア「Motherboard」で、コンファームシェイミングを取り上げています。
記事の著者Julianne Tveten氏は次のように述べています。
「技術が洗練され、(特にアドブロックを利用している)消費者がWebマーケティングの戦術に用心深くなっているため、広告業者は彼らの注意を引く方法を見つけ、素早くユーザーのデータを集めなければなりません。」
Tumblrでコンファームシェイミングの事例まとめているDan Bruno氏は、Tveten氏の記事の中で次のように提言しています。
「(こんなことが起きる)一端として、インターネット広告業界自体が無法地帯になっている現状があります。広告業者はユーザーの注意を広告に向けるためにあらゆることをするのです。」
ダークパターンは広く知られています。では、心理学的な圧力を与える手法に対して批判が集まっているのにも関わらず、なぜWebデザイナーやマーケターは使い続けるのでしょうか。
それは、ダークパターンが効果的だからです。
なぜ羞恥心を利用するのか
羞恥心は難解な感情で、現代社会ではほとんどいけない感情と見なされています。羞恥心は心理的な重荷に感じるものですが、人間は自らを恥じていることを滅多に認めようとしません。
心理学者で作家のMargaret Paul氏は以下のように述べます。
「基本的に、羞恥心は自分に非があるという感情です。罪悪感は何か悪いことをしたときに感じるものですが、羞恥心はそもそも自分が根本的に間違っていると感じるものです。」
羞恥心に対して、私たちは「何らかの行動」を起こすことで影響を打ち消そうとします。このことから、メールの解約や魅力的な特別セールを拒絶することが難しい理由がわかるでしょう。
本当は効果のないコンファームシェイミング
コンファームシェイミングを採用する人は、その戦略がNielsen Norman Groupの調査で明らかになった理屈と同じだから有効であると主張します。すなわち、意思決定を下す前に「ユーザーに考える時間を与えている」からだと言うのです。
しかし『Stop Shaming Your Users for Micro Conversions(日本語はこちら)』の著者であるNielsen Norman GroupのKate Moran氏とKim Flahery氏は、コンファームシェイミングやネガティブなオプトアウトが生まれてしまう理由は3つあると言及しており、それらは必ずしも悪意によるものではありません。
- 意図のないデザインミス:デザイナーやコンテンツライターが使った言葉の影響をあまり考えなかったり、しかるべきテストを実施しなかったり、人々に共感されないものを偶然作ってしまったりしたから。
- 繰り返し見るうちに体験が悪化:たとえば同じアニメーションを繰り返し見るとしつこいと感じるように、最初は快適だったデザインが不快になったから。これはNielsen Norman Groupが「感情のデザイン」と定義するものと密接かもしれません。
- 意図的なあおりや挑発:コンバージョンを向上させるために、デザイナーやコンテンツライターがユーザーのネガティブな感情を喚起しようとしているから。
もしコンファームシェイミングが効果を発揮しないとしたら、それは人々が罪悪感を感じたり、自分が愚かだと感じたりすることを好まないからです。いくつものブランドやWebサイトが競い合い、訪問者の注意やクリック、コンバージョンを追い求めているインターネットでは、このような方法は意図の有無にかかわらず、発生してしまうものです。しかし、これらに遭遇する頻度が増すにつれ、人々はバナーブラインドネス(広告バナーに見慣れてしまってないものとして扱ってしまうこと)のように、次第に何とも思わなくなっていくでしょう。
また、フランクな会話口調でパーソナルなブランドの雰囲気を形成しようとするあまり、コンファームシェイミングな体験になってしまっていることもあります。
Cosmopolitan誌はメールマガジンに登録する際、ギリギリのカジュアルすぎるトーンを使用していますが、この2つの選択肢は非常に侮辱的です。
会話口調のパーソナルな手法は、適切に用いればほとんどのコピーで効果を発揮します。しかし、プロダクトやその目的に対してカジュアル過ぎると、まったく効果がないか、見下されているようにも感じられます。
個人的な話ですが、私が好きなレシピサイトは、かつてコンファームシェイミングを用いていました。「×」をクリックすれば問題なくポップアップを閉じることはできますが、ネガティブなオプトアウトを促していたのです。幸いなことに、最近そのレシピサイトはポップアップのコピーをユーザーフレンドリーな形に改善していました。
マイクロコンバージョンで羞恥心を感じさせない方法
ダークパターンを避けるには、マイクロコンバージョンとマイクロインタラクションの価値と機能を理解することが重要です。価値と機能には以下のようなものが挙げられます。
- タスクの完了を助ける
- ユーザーがその行動のあとのフローやプロセスを想起できるようにする
- カスタマージャーニーを通してブランドのボイスやトーンを一貫させ、強固にする
UIデザイナーのJeremiah Lam氏は以下のように述べています。
「マイクロインタラクションが効果的なのは、ユーザーの自然な承認欲求に訴求しているからです。ユーザーは自分の行動が受け入れられたと即座にわかり、視覚的な報酬を得ることで満足したいのです。」
言い換えれば、マイクロコンバージョンとは、ブランドとユーザーの間をつなぐ感情的な体験の一部です。この役割を担うマイクロコピーは見落とされることが多いですが、そのボイスやスタイルによって体験全体を形成することができます。
スタイルガイドから始める
デザインを裏付けるために、スタイルガイドが必要です。スタイルガイドは、ブランドのコピーやコンテンツについての基準やフォーマット、規則をまとめたものです。ここにはボイスやトーンも含まれます。
あなたの企業やブランドはどういうものなのか、どのようになりたいのかなどを、ボイスやトーンの基盤として盛り込みましょう。ボイスが決められていないと、UIに意図せずダークパターンが発生する確率が上がります。
そのため、スタイルガイドを作成したり見直したりするときには、以下の3つを必ず実行する必要があります。
- ブランドが誰に語りかけているのか特定する:ターゲットユーザーの欲求、ニーズ、目標を知ることで、利用者の人となりを描くことができます。ペルソナを使えば、コンテンツを作成してからデザインを実装するまで、具体的なシナリオとニーズを頭に置いておくことができるため、全員がもっとも効率的で効果的なアプローチに集中できます。
- 既存のコンテンツを見直す:コンテンツの監査は大変な労力が必要になります。しかし、ブランドのボイスやトーンに即したコピーを作ることが目標なら、監査がもっとも有効です。この機会を活かして、コンテンツの専門家にブランドコピーのすべての文章、フレーズ、文字の一貫性について考えてもらいましょう。
- ブランドのボイスを3語で定義する:Content Marketing Instituteは、「専門的だが、横柄ではない(Professional, not patronizing)」、「口語的だが、カジュアルではない(Conversational, not casual)」のようにボイスやトーンを3語だけで表現することをすすめています。しかし、定義するだけでなく、ブランドのボイスをもっとも代表しているコピーやマイクロコピーのサンプル集を作りましょう。ブランドのボイスにクリエイティブチームが慣れるのに役立ちます。
スタイルガイドを初めて作ったとしても、いったん完成して組織内に公開され浸透したら、スタイルガイドが古くならないよう注意してください。何度もスタイルガイドを見直しましょう。特に、競合相手やプロダクト、サービスが変化したり成長したりするときは必ず点検してください。
もちろん、ブログでもマイクロコピーでも一貫したボイスやトーンを届けられるよう、新しいライターには必ずスタイルガイドを示すべきです。
透明性を高める
スタイルガイドを設定するときは、どれだけシンプルで直接的なコンテンツにできるか考えてください。万人のためのインクルーシブデザインが急速に受け入れられている現在では、洒落やジョークといったユーモアを意図したことが、ユーザーのバックグラウンドや個人的体験、言語によっては逆効果になる可能性があります。
要素の中でユーザーに行動してもらう必要があるときには特に、率直で直接的なコピーにしましょう。巧みさより明晰さを重視してください。
スクリーンリーダーを使ってでも、声に出してコピーを読む
あらゆるライターや編集者が同意することとして、書いたものを声を出して読むのは、間違いを見つけ出す素晴らしい方法です。コピー内の構造や文法の間違いを発見できるだけではなく、コピーやマイクロコピーの語感がユーザージャーニーやスタイルガイドに即しているかどうかも調べられます。
声にして読むもう一つの方法は、スクリーンリーダーを使うことです。スクリーンリーダーは視覚障害を持つWebユーザーだけではなく、音声だけの機能を好むマルチタスクな人々にとっても効果的な方法になりつつあります。
もしあなたの書いたマイクロコピーが皮肉交じりで面白く感じられたとしても、声に出したりスクリーンリーダーを使ったりして心地悪いと感じた場合は、ユーザーにとってふさわしいコピーに書き直すべきでしょう。
A/Bテストに引き継ぐ
コンテンツストラテジストやデザイナー、開発者、デジタルマーケターといったUXの専門家チームは、コンファームシェイミングやネガティブなオプトアウトを見抜くべきです。しかし、デザインに議論の余地がある要素を試したい強い希望がある場合は、まずA/Bテストで調査してみましょう。このテストではトラフィックを2つのグループに分け、それぞれに異なる体験をしてもらいます。
A/Bテストは、どのようなプロダクトチームにも多岐にわたる恩恵をもたらします。有効な意思決定の導出からコンバージョン率の最適化まで、A/Bテストはターゲットユーザーにとって、究極的にはコンバージョンにとって、何が有効で何が有効でないかを判断する確実な方法です。
A/Bテストを準備する前に、チームは以下のことを確実に理解してください。
- テストの条件:何をテストするのか、テストを実施する核心的な理由は何か、何を証明しようとしているのか?
- テストの長さ:適切な量のデータを手にいれるのに、A/Bテストをどれだけ続ける必要があるか?
- 指標の設定:どの行動を記録するのか、ボタンクリック以外の指標も含めるのか(たとえばユーザーはフォームを入力する必要があるのか)?
- テストのフォーマット:PCでタスクの成功を記録するだけで十分か、それともタブレットやスマートフォンも追跡するべきか?
チームがA/Bテストを実施してデータ分析を始めると、どのコンバージョンやマイクロコピーの体験が影響していて、どれが影響していないかといった、人々の嗜好がはっきりと見えるようになります。その結果から、効果が裏付けられたものを実装しましょう。
善いデザインを実践する
もちろん、ユーザー体験はマイクロコピーを制作し、マニピュリンクやコンファームシェイミングを回避するだけではありません。デザインスタイルはブランドのユーザー体験に大きな影響を与えます。
インクルーシブデザインの方法や人気のある効果的なデザイントレンドを理解し、実装するすべてのデザイン要素とともに検討しましょう。ベストプラクティスを理解することも推奨されがちですが、決して依存してはいけません。
『Making and Breaking UX Best Practices』という記事の中で、UXデザイナーでデジタルストラテジストのBrenden Cornwell氏は次のように述べています。
「ツールや技術、ベストプラクティスよりも大切なのは、ユーザー体験の制作者が貢献できること、つまりシステムのユーザーに共感することです。そして、ベストプラクティスやパターン、テンプレートは貴重なガイドラインですが、規則ではないと知っていることです。」