なぜアクセス解析にユーザー理解が必要なのか

池田 朋弘

UXリサーチを専業とする株式会社ポップインサイト代表取締役および株式会社メンバーズ執行役員。2008年に株式会社ビービットに入社しユーザーテストを数百人実施、2012年に日本初のリモートユーザーテストサービスを立ち上げ5,000調査以上を実施。

UX MILK特派員のポップインサイト池田(@pop_ikeda)です。UXの第一線で活躍されている方々へインタビュー&対談し、最新のノウハウをお届けする「UXリサーチ最前線」。今回は人工知能を使ったアクセス解析サービス「AIアナリスト」を提供する株式会社WACULの垣内取締役CIO(@yuikakiuchi)にお話を伺いました。

垣内さんはエクスペリエンスデザインで有名なbeBit出身で、UXリサーチへの造詣も非常に深い方です。アクセス解析とUXリサーチの両方の経験が豊富な垣内さんのご経験から「アクセス解析とUXリサーチをどう使い分けるべきか」「UXリサーチは必要なのか」などを教えていただきたいと思います。

AIアナリストはユーザー理解に基づいた改善提案が価値

池田:はじめに株式会社WACULとAIアナリストの特長を教えてください。

垣内:株式会社WACULは「テクノロジーで、ビジネスの相棒を一人一人に」をビジョンに掲げ、中小企業を中心にこれまでデータドリブンなマーケティングができなかったみなさんのビジネスの相棒として、課題を解決していこうとしている会社です。当社の主なプロダクトである「AIアナリスト」は、人工知能がアクセス解析データを中心としたビッグデータの分析を行い、そこから改善提案を行うSaaSツールです。2019年5月時点で28,000サイト以上に導入されています。

また、オプションでその改善提案の実行のアドバイスをコンサルタントから行わせていただくオプションサービスもあります。オプションサービスを導入頂いたお客様には1.5ヶ月毎に定例会を行い、コンサルタントがAIによる改善提案結果をご説明しつつ、具体的な改善施策のアドバイスまで行っています。

池田:AIアナリストやコンサルタントはどのように改善案を出しているんですか?

垣内:AIアナリストを導入頂いている2.8万サイト以上から得られる月間42億セッションのアクセス解析データやWeb上にあるオープンデータの分析や、当社が過去に行ったコンサルティング事例・成果から抽出した「業界別の勝ちパターン」を踏まえて改善提案をしています。

マーケターの仕事の本質は、顧客を理解し、優れたサービスやプロダクトを生み出したり、企画を作ることです。「Webサイトをどう設計するか」は、マーケティングの本質ではなくテクニックだと思っています。

当社は「知を創集し道具にする」というミッションを掲げ、誰にでもデータドリブンマーケティングを可能とするようなツールを提供しています。「AIアナリスト」は当社がこれまでに蓄積した「勝ちパターン」をプロダクトに込め、利用者の方々に最短で「80点のWebサイト」を実現するためのサービスです。

ユーザー理解がアクセスデータの解釈を助ける

池田:アクセス解析で「できること」と「できないこと」はどのように整理されていますか?

垣内:基本的な話になりますが、アクセス解析は「行動した事実の全データ」を得ることができます。しかし、「行動の理由」まではわかりません。

「あるページのPVが多い」という事実があったとしても、「コンテンツに興味を持ったからPVが多い」のか「迷っている時にたまたま開きやすいからPVが多い」のかでは、まったく意味が異なります。

アクセス解析データを解釈し改善提案に繋げるには、「どんなユーザーが、どういう行動をどんな理由でとっているか」というユーザー理解が必要です。ユーザーを理解した上でアクセス解析を見れば課題や改善案がすぐに分かりますが、ユーザーが分からないサイトでアクセス解析を見ても何が課題かわかりません。

池田:「ユーザー理解をするとアクセス解析の結果を解釈できる」という話について、具体的な例を教えてもらえますか?

垣内:最近の例で、とある小売チェーンの通販サイトのアクセス解析をしたときのことです。この企業は、店舗での売上が圧倒的に大きく、通販サイトの売上は小さかったため、上層部から「Webサイトに投資する意味がないのではないか」という声が上がりました。ところが、売上はないものの、Webサイトの閲覧数はかなりの規模がありました。

そこで、サイトの会員に対して「なぜ閲覧するのに購入しないのか」を知るためのユーザー行動観察を行いました。すると、ユーザー全員が、非常に特徴的な行動を取りました。
Webサイトを開くと、まず新商品をすべて見ます。その中で気になった商品があれば、商品詳細ページを見て、店舗に在庫があるかを確認します。その後Webサイトは閉じます。欲しい商品があったら、その後に店舗に買いに行くのです。

このユーザー行動が理解できれば、Webサイトでの売上は少なくても、Webサイトの店舗売上への貢献効果は明確にあり、投資してもよい、ということがすぐに分かります。また、このユーザー理解を踏まえれば、アクセス解析として見るべきポイントが、新商品ページの閲覧数や商品詳細・在庫確認ページの閲覧数であることもすぐに分かります。

池田:わかりやすい例をありがとうございます。また「コンバージョンがそもそも不明確」なサイトも多いと思いますが、そういった時にはどうアクセス解析をするべきでしょうか?

垣内:Webサイトのコンバージョンが不明確な場合、ユーザー理解を踏まえて「Webサイトがどんなビジネス貢献をしているか」を知ることが重要です。

某メーカーの電化消耗品のWebサイトでは、消耗品の詳細スペックを提供しており、アクセス数も一定数あるのですが、どんなユーザーが何のために来ているのかがわかりませんでした。

そこで同サイトに訪問経験がある人を調査しました。すると、家電ショップの店員が、店舗でお客さんから「競合製品と比べてどう違うのか」という質問に答えるために、サイトに来ていることがわかりました。

このようにユーザー像が明らかになると「競合との違いが説明できるようになってもらう」というようにWebサイトの目的も明確にできますし、「競合との比較ページを閲覧した状態」をコンバージョンとして定義することもできます。

ユーザー調査は年に1回は行うべき

池田:ユーザー行動観察調査のようなユーザー調査は、どのぐらいの頻度で行うべきだと思いますか?

垣内:いつでもユーザーと触れられる状態を作っているベネッセさんのような形が理想ですね。ベネッセさんは、社内にインタビュールームがあり、モノづくりの過程に必ずユーザーを巻き込んでいます。そういう状況が作れると理想的だと思います。

ただ、ほとんどの企業では、そこまでの状況は作れないと思います。まずは年に1回程度、ユーザーをしっかり見る機会を持つといいのではないでしょうか。

元本田技研のWeb統括をしており、今では当社のテクノロジー&マーケティングラボのメンバーの1人である渡辺春樹も、必ず年に1度はユーザー調査を行っていたとのことです。ユーザーを直接見ることで思い込みや固定観点を払拭できますし、1年も経つとユーザーの行動パターンに変化も出て新しい発見もあり、またメンバーが増えた場合にはユーザー視点を養う場にもなります。

先ほども話した通り、ユーザーを理解することができれば、アクセス解析でどの数値を見るべきかも自ずとわかります。アクセス解析と徹底的に向き合う中で、最近改めてユーザー調査の重要性を感じています。

まとめ

「アクセス解析にはユーザー理解が必要」というシンプルな指摘は、UXリサーチとアクセス解析の両方に向きあった垣内さんならではの強烈な説得力がありました。

私自身も、ユーザーテストの必要性を伝える際には、コンビニ店舗の話をよく例に出します。コンビニ店舗をよくするには、まず店舗にくるお客さんがどのように買い物をしているかを見ます。そうすると「棚が高すぎて商品が取れない」「商品が目立たず気づかれない」その上でPOSデータ等の定量データを見ると、改善に繋がる分析ができます。

ところがWebサイトになると、アクセスログ等の定量データは簡単に得られますが、逆に1人1人のユーザーの動きを見たことがある人がほとんどいません。大量にデータがあっても、ユーザーの行動がイメージできず、分析ができない。なので少ない人数でもいいので、具体的にユーザーをイメージできる状態になるのが重要です。

・定量データも定性データも、プロダクトを良くするための手段! どちらかに偏らず、必要に応じて両方取り入れよう!
・中長期的な方針検討や定量データで捉えることの難しい多層的な要因把握に、定性リサーチは特に有効
・定量データを分析するにも、ユーザー理解(仮説)が不可欠

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