UXデザインには、それを支える理論的根拠や、すべての慎重な研究と推論を経たとしても、未だ見落とされがちな真実が残っています。それは、UXデザインは機能と同様に流行によっても左右されるということです。
ユーザーは流行の影響を受けています。つまり、気まぐれで斬新なデザインをしている最新の流行は、私たちが日常的に使うWebサイトや商品の方向性に大きく影響します。これは極めて当たり前のことですが、それは同時に流行によって、ユーザビリティという側面が揺らぐということを示しています。
私たちが目にするアプリやWebサイト、スマートフォンなどデジタル系のデザインは時に気まぐれです。UXデザインにおけるより体系的なメリットの評価ではなく、最新の流行と「最先端」でいるべきだという欲求に振り回されているからです。形態が機能よりも流行により従うことで、ユーザー体験はどう変化するでしょうか?
形態と機能
まず、形態と機能について、基本的なコンセプトを考えてみましょう。「形態は機能に従う」という考え方は、古典的なデザインの原理です。もともとは建築の要素を取り入れたコンセプトで、それは何かを構築してデザインするときに第一に優先すべきものは、その使用目的だという考えが根底にあります。デジタル系のデザインで言えば、プロダクトまたはWebサイトにおいてはまず、その使いやすさを優先し、それがインターフェイスのデザインを決定する出発点になるべきだということです。
UXの基本では、機能はユーザーが操作できないシステム的な部分だと言えます。これはアプリケーションが提供するサービスと、どのような機能を含んでいるかに関連します。一方、形態はフロントエンドのユーザーインターフェイスの要素に関連しています。全体的なユーザー体験のクオリティを決めるのは、形態と機能の両方の相互作用であると言えます。
とてもシンプルで、論理的にも何ら問題なく聞こえますが、機能を重視した形態を作り上げることは、現実には必ずしも容易であるとは言えません。どちらにおいても、流行的な側面を無視することができないからです。
現代における形態と機能の複雑な関係性
現代において形態と機能の関係性はますます混乱しています。さまざまなテクノロジーが膨大な機能を実行している高度なデジタル環境では、インターフェイスのデザインはより繊細で、洗練されたものに変化しています。
スマートフォンの例を見てみましょう。既存の固定電話は、明確な目的を持つ受話器とダイヤル部分という、形態と機能において線形の関係がありました。その形態を見ただけで、電話機の機能を明確に理解できると言えます。
スマートフォンは一目で電話とわかるような形態を持ち合わせていません。スリムでシンプルな長方形の形態で、それがどのような機能を持ち合わせているのか、一目見ただけでは見当がつきません。私たちのニーズを満たすために電話の機能が拡大したように、その形態も、その電子機器を扱う私たちの行動の変化に基づいて様変わりしたのです。
このように、「形態は機能によって決まる」という合言葉は時代遅れになりつつあります。今では、いくつもの成功しうる目安と、柔軟で直感的な目標の達成に基づいて設計する傾向にあります。機能のみを目的にして作られる形態はなくなりつつあるのです。デジタル系のデザインにおいて、流行はすでに切り離せないものになっています。
流行は基本的な要素
形態と機能がよりスマートに変化するほど混乱もついて回るものです。流行がその両方の面で果たす役割を理解する必要があります。流行は、デジタルサービスの外観だけでなく、その機能にも影響します。したがって流行は作り出す過程において、何を作るのかを決定する要因となり得るのです。
一般的には、流行はデザインに関するもので、主にスタイリッシュなインターフェイス要素に影響を与えるものと考えられていますが、現実にはもっと深いものがあります。ともすればその重大さを見落としがちですが、流行を取り入れることはすべてのデジタル開発の基礎と言えるでしょう。
たとえば、流行はプロダクトを作り出すときに、その言語に影響を与えます。そしてそれはコードの深部まで影響を与えると言っていいでしょう。数年前はRubyがトレンドでした。現在は、Swiftでのプログラムが主流です。来年にはまた新しい言語が流行の面で頂点を極めることがあるかもしれません。テクノロジーの世界にも流行の波が押し寄せているのです。
流行は、開発、デザイン、デプロイに使用するツールにも関係します。Karl Beecher氏の言葉に次のようなものがあります。「ツールBはツールAを追い抜こうとするが、もしその業界に精通した人々がツールBを最高のプロダクトだと認めたら、たとえそれに多大な費用がかかるとしても世間の人々はツールBに乗り換えるだろう。」
また、流行は私たちが働く環境と問題へのアプローチ方法の枠組みを整える役割も果たします。プロセスと方法論は、今現在のトレンドに基づいて形作られています。今日の「ベストプラクティス」が翌日には、厄介な二日酔いのように感じることもあります。
そのため、表層面のインターフェイスやグラフィック、またスタイルのガイドラインを掘り下げると、それぞれのプロダクトとサービスの中心の目的や目標に基づいた、流行を見つけ出すことができるのです。
流行とデザイン
フロントエンドにある、デザインに対する流行の影響はより顕著です。長年にわたる過去のUXデザインのトレンドを明確にトラックし、私たちが使っているプロダクトにどんな影響を及ぼしたかを確認できるでしょう。
スキューモーフィズムは、初期のコンピュータインターフェイスで見られたデザインの流行のスタイルでした。Mark Wheatley氏が言っているように、「昔は、Apple、Microsoft、そして最近ではGoogleなど、すべてのオペレーションシステムで、リアルな質感のあるスキューモーフィズムを取り入れていました。しかし時が経つにつれて、人々はこれに慣れてきた結果、今ではもはや過去のものとなりました。」
その次に、非常にシンプルなオペレーションシステムが台頭するようになります。クリーンでミニマリズムを体現する環境がトレンドとして出現し始めたのです。
そしてデザイナーたちはあれこれ混ぜ合わせることに楽しみを見出します。数年前は、カード、ジオメトリックエレメント、パララックススクロール、ハンバーガーメニューなどがトレンドで、デザインの最先端を行くものでした。
このように、過去のトレンドの多くが、今ではあまり人々に好まれないという事実は、流行の気まぐれな性質を表す完璧な例だと言えるでしょう。かつてUXデザインでもっともクールなものとして注目を浴びたものが、今では人々に見向きもされません。一方で、これらの過去の以前のトレンドの中で復活しつつあるものも多くあります。3Dグラフィックスやシュールなデザインなどは、現代の流行と肩を並べるものとなっています。
ここでポイントになるものは、デザインが大きな流行の渦とうまく連動しているかということです。作る側が、ユーザーにとってもっとも有益で扱いやすいものをつくるために、合理的な評価に基づいて開発とデザインを試みたとしても、トレンドを取り入れることはいつでも重要な課題として残るのです。
流行とユーザビリティ
UXデザインに流行を取り入れることは良いことです。実際、それは感動させるユーザー体験を作り出し、急速に変化する世界に乗り遅れないインターフェイスとなることは間違いないでしょう。
ただし、ただトレンドを追い、一貫性なく流行を重視した場合は、ユーザビリティに悪影響を及ぼす可能性があります。流行のみにこだわることはユーザーフレンドリーではない、偏った選択を導きだすこともあります。これは形態、機能、そしてその両方の開発全体に当てはまることです。
開発
基本レベルで、アプリケーションをプログラムするためにトレンドとなっている言語を使用するとします。これはエンドユーザーには無関係に見えますが、言語の選択はユーザー体験において目に見えない影響力があるものです。
たとえば、テクノロジーの業界で最先端と言われる言語でアプリを開発するとします。もし数年後にその言語が廃れ、新しい言語での開発が主流になった場合どうなるでしょうか? プロダクトに取り組む開発者を探し出すのに苦労するか、リファクタリングが必要な過去の遺物を前に、壁にぶち当たることになるでしょう。
一見バックエンドで解決可能に見えるこれらの問題は、すぐにその場では気づかない形でユーザーに影響を与えている可能性があります。おそらく、プログラムをはじめからやり直した際に、不便なアップグレードを実行する必要があるかもしれません。あるいはバグがあったり、パフォーマンスやセキュリティ上の問題がある低品質のプロダクトがユーザーの手に渡ることになるでしょう。いずれにしても、実績のあるツールよりもトレンドを選択することで、ユーザー体験が損なわれることに変わりはありません。
機能
プログラミングはさておき、機能的なプロダクトを作るうえで流行を重視するとどうなるでしょうか? たとえば数年前、ソーシャル共有ボタンを何から何まですべてのものに追加し、望ましい機能と見なされていました。それは「クール」で、推奨されるプラクティスだったのです。
残念ながら、調査によると99%のユーザーがソーシャル共有ボタンを活用していません。アプリ内に単純な共有機能を追加することは何の害にもならないと思いがちですが、その結果、残るものは無駄なノイズと乱雑さです。さらに、無駄に多すぎるボタンは(無視したとしても)気が散ってしまい、ユーザーにとって何の価値もないでしょう。
形態
次に、これはおそらくもっとも明白なことですが、流行は形態の使いやすさに影響するということです。つまり、フロントエンドにあるデザインとUIの要素に影響するとも言えるでしょう。
多くの人にこき下ろされているハンバーガーメニューから、スクロールジャック、ブルータリストデザイン、(さらに物議を醸している)フラットインターフェイスまで、流行を重視するあまり、使いやすさを損なっているデザインの選択例がいくつかあります。各デザインは、一時、世間の注目を浴びたものばかりです。にわか大々的に脚光を浴びた、時代のトレンドだったことは事実なのです。
人々はこれらのトレンドが、以前の多くの流行と同じように、使いやすさと全体のユーザー体験において欠けている部分があることに気づきました。ユーザビリティに目を向けている限り、流行の流れを取り入れるか、それとも従来の「退屈な」デザインを採用するかの論議は続くでしょう。
流行は敵か味方か?
UXデザインにおいては、流行は敵とも、味方であるとも言えません。進歩を促し、ユーザーの喜びを生み出すのに役立つものです。反面、短期間で流行し、Webサイトやプロダクトの使いやすさを損なう可能性を秘めています。
このようなことから、最新のトレンドを取り入れるには注意が必要です。取り入れようとしているトレンドは、ユーザーがより簡単に、かつ効率的に目標を達成するのに役立つのか、それとも単にクールで最新のものであるだけなのかを考えてみましょう。その価値は、想像を打ち勝つものであるべきです。
新しい機能を追加したりインターフェイスのアップグレードを検討するときと同じ注意力を持って、UXデザインに新たな流行を取り入れてみましょう。関連性を維持することは大切ですが、それはすべてのトレンドを取り入れるべきだという意味ではありません。
流行は消えていくものですが、究極的に、優れたユーザビリティは常にその中に残ると言えるでしょう。