UXリサーチを社内に広めるための3つのポイント

池田 朋弘

UXリサーチを専業とする株式会社ポップインサイト代表取締役および株式会社メンバーズ執行役員。2008年に株式会社ビービットに入社しユーザーテストを数百人実施、2012年に日本初のリモートユーザーテストサービスを立ち上げ5,000調査以上を実施。

UX MILK特派員のポップインサイト池田(@pop_ikeda)です。UXの第一線で活躍されている方々へのインタビュー&対談し、最新のノウハウをお届けする「UXリサーチ最前線」。今回は全世界で携帯電話の補償サービス、アフターサービスを提供するアシュリオンジャパン・ホールディングス合同会社の中橋さんにお話を伺いました。

中橋さんは、デザイナーとしてキャリアをスタートした後に、リサーチ専門会社でUXリサーチャとして経験を積み、元々UXの土壌がなかった同社内でUXの取組みを広げています。「どのように組織の中でUXリサーチ及び人間中心設計を定着させていったのか」を教えていただきたいと思います。

プロダクト開発に一気通貫で携わるために事業会社に転職

池田:まずは、会社の事業内容と、中橋さんの業務内容を教えてください。

中橋:当社は、クライアント企業様に対し、携帯電話の補償サービスとアフターサービスを提供しています。米国を筆頭に、グローバルでは1万人以上の従業員がおり、日本でも数百人の体制があります。

その中で私は、社内、関係会社向けのCRMシステム・ナレッジシェアシステム等のプロダクトマネジメントを担当しています。また米国本社発の新しいサービスの日本向けローカライズを行うこともあります。

池田:どのようなキャリアを経てUXリサーチに関わるようになったのですか?

中橋:最初はコンピュータグラフィックスの会社でデザイナーとしてキャリアをスタートしたのですが、その会社で、グローバル向けの有形プロダクトのデザイン調査を担当するようになり、世界各地で製品CGを見せながらのユーザーインタビューを行うようになったのが始まりです。

その後は、メディア事業やリサーチ事業を行っているUXコンサルに転職し、デジタルプロダクトを中心にUXリサーチを実施していました。

UXコンサルではベンダーとしてクライアント向けの単発の調査案件を行っていましたが「スポットで関わるのではなく、もっと上流からプロダクトデザインに関わりたい」と思うようになり、自分でプロダクトに責任を持てる事業会社への転職を決意し、現在に至っています。

ポイント1. 「数値で語れる実績」を作る

池田:アシュリオン社では、最初からUXリサーチの取組みを行われていたんですか?

中橋:当時、米国本社では盛んに取組まれていましたが、日本リージョンでは人間中心設計に理解を示す人はあまりいませんでした。今でこそ関心を持つ人も多くなり、社内勉強会なども頻繁に行われていますが、この状態になるまでは数年を要しています。

社内で孤軍奮闘されている方も多いと思いますので、どのように社内でUXデザインやリサーチの重要性を広げていったかについて、失敗談も踏まえつつお話します。

私の場合、最初の取組みとして、海外プロダクトを日本向けにローカライズするプロジェクトでユーザーテストを実施しました。ユーザーテストでの課題発見や改善を行ったのですが、周囲のメンバーから期待した反応はあまり得られませんでした。原因の1つは、KPIベースで語る必要のある組織において、「組織が掲げるKPIに対し、貢献を数値成果として明確に示す」ことが出来ていなかったからです。

この反省を踏まえ、次はKPIへの貢献が明確になりやすいプロジェクトで、ペルソナ策定やカスタマージャーニー整理に取り組み、数値に直結する施策を打ち出しました。その結果、マネジメント層からも評価を得ることができました。

企業内で人間中心設計やUXリサーチの取組みの有用性を伝えるためには、当然、「その取組みがいかに成果に繋がるのか」を説明する必要があります。その説明時に、数値でインパクトを説明できるかできないかは大きな違いがあります。

この経験から、人間中心設計導入初期段階の組織においては、「数値成果が出やすい」領域をしっかり選ぶことが重要だと学びました。

池田:UXデザインやリサーチには、短期的に成果を測定しづらい取組みも多々ありますが、その場合はどうすべきでしょうか?

中橋:一度社内に人間中心設計の有用性がしっかり伝わった後であれば、短期成果にこだわらなくてもよいと思います。私の場合も、KPI貢献が伝わった後は、割りとスムーズにプロトタイピングやユーザーテスト等に領域を広げていくことができました。

「そもそも人間中心設計やUXリサーチをやる必要があるの?」と、社内での理解がこれからというフェーズでは、できるだけ明確な成果が出やすい領域を選ぶ必要があると思います。

ポイント2. 関係者全員をリサーチ・デザイン過程に巻き込む

池田:社内でUXデザインやリサーチを広める上で、「KPIへの貢献を示す」以外に重要なポイントはありますか?

中橋:人間中心設計やUXリサーチを、自分1人の活動にせず、いかに周りのメンバーを巻き込むか、も重要なポイントです。

また私の失敗談ですが、最初に行ったユーザーテストでは、私が1人で設計、実施し、結果もまとめ、改善提案をしていました。前職での経験もあったので、アウトプット自体は悪くなかったと思いますが、あまり社内に広がりませんでした。

その理由として、自分1人でリサーチやデザインを進めてしまうと、周りの人は「報告を受けるだけ」で済んでしまい、その結果「他人事」になってしまいます。

その後は、できるだけ関係者をプロジェクトの過程に巻き込むようにしました。たとえばインタビューやユーザーテストを行う時には、チームメンバーはもちろん、関係者は全員同席してもらいました。また、ペルソナやカスタマージャーニーを整理する際は、ステークホルダーもワークショップに呼び、意思決定に参加してもらいました。

もちろん最初から全員が参加してくれるわけではないので、草の根的に仲間を増やしていき、そこから更に参加者を増やしていくのが肝心です。

ポイント3. 一度の失敗で諦めない

池田:社内でUXデザインやリサーチを広げていきたい人に、アドバイスがあればぜひお願いします。

中橋:最初から全員をうまく巻き込むことは難しいと思います。ですが、一度の失敗であきらめずに色々アプローチを変えてみながら、何が刺さるのかを辛抱強く探ってみることをオススメします。

個人的にはデザインをひとりの担当者が行う時代は終わったと思っています。いまやみんながデザイナーの役割を演じなければいけません。合言葉は「デザインはみんなのもの」。

同じような状況がある人がいたら、ぜひ情報交換しつつ、頑張っていきましょう!

まとめ

最近、UXリサーチ界隈でお話をしていると、「UXデザインやリサーチ専門会社から事業会社に転職し、UXの取組みを行おうとしたが、社内で理解を得られずに取組みができない」「また専門会社に出戻り転職した」といった話を聞くケースがちらほらあります。

そんな話を聞くと、UXリサーチを行う文化がない状態から、UXリサーチを当たり前に実施する状態を作るのがいかに難しいかを痛感しています。

中橋さんからの最後の激励の言葉にもありましたが、同業界の人間で課題を共有・共感しながら、自社以外の成功事例やプラクティスを結集し、業界全体を盛り上げていけるといいなと思っています。

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