ディズニーワールドの体験から考えるUXのあるべき姿

Amy Grace Wells

Amy Grace氏は10upのコンテンツストラテジスト兼UXデザイナーです。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Experience at the Expense of Usability: 5 UX Lessons from Disney World

私はディズニーワールドリゾート(ディズニーワールド)に行くのが大好きです。私なりの現実世界をシャットアウトできる方法であり、連休などにはちょっとした小旅行としてもぴったりです。私は幼い頃から、必死に兄や姉についていていき、毎回大きな乗り物の身長制限に引っかからないように祈っているようなディズニーのファンでした。

ディズニーは「魔法」、「卓越性」、「イノベーション」の代名詞です。私くらいのファンにもなると、ディズニーには狂喜乱舞するような特定の体験があり、UXの観点で見てもとても興味深いものです。ディズニーワールドのユーザー体験の長所と課題を学ぶことで、UXチームや文化づくりの一助になればと思います。

ディズニーリゾートは、没頭できる体験を目指しています。キャストメンバーのユニフォームはパーク内のあちこちで変わり、たとえばスターウォーズをテーマとした「ギャラクシーズエッジ」では、その世界観の言葉を話しています。この没入感がディズニーワールドを魔法が起こる場所にしています。しかし没入感に焦点を合わせてしまい、目的地までの経路案内は十分に機能していないという問題があります。たとえばマジックキングダム内の標識を探してみてください。

私は特にディズニーリゾートホテルでわかりやすい経路案内の必要性を感じました。ホテルの駐車場の周りを車で回ったり、間違った階段を降りたりして、中庭や駐車場の海の中で標識を見つけるのに苦労したことが何度もありました。

コロナドスプリングスリゾートのCasitas、Ranchos、Cabanasの違いは何? 1番の建物はどこにあるの? そもそも建物は何棟あるの? (ちなみにこの1つのディズニーリゾートホテルだけで2,000近い部屋があるそうです)

公平を期すために言っておくと、ディズニーはオンラインチェックインが完了したら、テキスト、アプリの通知、そして部屋番号を知らせるメールを送ってくれます。そして、通常現地でチェックインした際にもらえるリゾートマップと同じもののPDFのリンクを送ってくれます。このような体験の分断が起こるのは、PDFがモバイルでの体験、特に運転中の人のために作られていないためです。自分がCasita1かCasita5のどちらの近くにいるのかを理解するために、駐車場にある方向標識やバナーに翻弄されてしまいます。

このPDFは、運転中のモバイル機器にはあまり役に立ちません。

ディズニーリゾートホテルでの没入感のある体験に私は感謝しつつ、苦労もしています。しかしパーク内での長い1日や6時間のドライブのあと、私は看板を探して歩き回るのです。オンラインチェックインを使用してフロントデスクをスキップしたら、リゾートマップとオリエンテーションの経験が失われただけでした。

これはまさに「エンパシーマッピング」を行うべきタイミングです。ユーザーはどのように感じ、聞いて、見て、考えるのでしょうか? ディズニーでの一連のジャーニーマップにおいて、おそらくこれはユーザーが提供される体験以前にネガティブな感情を持ちうる瞬間の一つです。一日中旅行をしている人や、パーク内で何マイルも歩いて足を痛めた人は、忍耐力と発見意欲のレベルが低下します。たとえ旅行が楽しかったとしても、到着した瞬間にはパークに行ったり、休暇が始まる興奮で満たされていましたが、忍耐力の基準値は低下するのです。

パフォーマンスよりも機能

MVP(実用最小限のプロダクト)をユーザーに強要すると、ユーザーの不満を招くことにつながります。これは、ビジネス目標が最優先され、ユーザーが二の次となってしまうケースです。ディズニーワールドでは、これによりWebサイトとモバイルアプリで多くのパフォーマンスの問題が発生しています。

私は前述の「ギャラクシーズエッジ」が新しくオープンするタイミングの週末に来園しました。アプリのホーム画面には大きな吹き出しが表示され、詳細や待ち時間などが表示されていました。これは一か所にまとまっていると便利な情報でしたが、パフォーマンスのバグがありました。待ち時間はパーク内のこの特定のエリアでの1つ乗り物のみを示しており、すべての乗り物の待ち時間を確認するためには、アプリを強制終了して再起動をする必要がありました。

バグは1カ月以上たってもまだ残っています。

Webサイトにも何ヶ月も放置されている既知のバグがあります。来園のたびに毎回新しいマジックバンド(編注:ディズニーワールドで採用されている腕につけるデバイス)が提供されるのですが、何ヶ月もマジックバンドのカスタマイズページでエラーが表示されていました。最終的にあきらめてカスタマーサービスに問い合わせたところ、シークレットウィンドウで試してみる必要があると即座に言われました。このバグがかなり前から存在していたことは明らかで、第一線の顧客サービス担当者はこのバグの存在と回避策を知っていました。既知の問題である場合、なぜ修正されていないのでしょうか?

ユーザーの主なタスクの多くは、退屈であり、簡単に見つけることができません。勤務先の同僚と毎年恒例の社員旅行でディズニーワールドに行きましたが、多くの人が予約したホテルとチケットを連携させる機能を見つけるのに苦労しました。この特定のタスクは、タイル状のメインメニューや広告の下、しかも「Property Rules(マナーやモラルのお願い等)」のリンクの更に下に隠されています。

「Link to Account(アカウントへのリンク)」から予約画面にアクセスできますが、隠されています。

このパフォーマンスの低さからくるフラストレーションは、UXと開発チームが達成しようと努力してきた魔法や喜びを水の泡にしてしまいます。

チームの状況が悪かったり締め切りが迫っていたりする場合でも、ユーザーの抱える問題点や重要なニーズを考慮したテストを行うことができるように、強力なユーザーリサーチの文化を構築することが重要です。迅速かつ定期的なユーザビリティテストによって、問題を特定することができます。

デジタル化の先にあるもの

上記のような欠点はあるにせよ、総じてディズニーワールドアプリのおかげで私の訪問体験は大幅に改善し、より計画性を持って遊ぶことができるようになりました。パーク全体の待ち時間や全ての予約内容を手のひらの上で見ることができるのは、非常に便利です。しかし実際のところ、ディズニーでの体験のほとんどはアナログです。

来場者はテーマパーク全体の紙の地図が必要ですが、もし入口のスペースシップアースの象徴的なドームに気を取られ、地図を取り逃がしてしまったら、パーク全体の地図をあとから見つけるのは困難になります。モバイル端末でフードの注文をする場合でも、正しいカウンターに取りに行き、空いている席を探す必要があります。

テクノロジーはゲストにとってもディズニーの経営者にとっても効率的ではありますが、このデジタルへの移行は実際の物理的な体験を減少させる可能性があります。パークでは長い行列が避けられない場合もありますが、「ホーンテッドマンション」や「七人のこびとのマイントレイン」の待機中には、インタラクティブ要素を含んだ遊び心のあるオブジェクトがあり、子供だけでなく大人までもが驚かされます。これらはPlay Disneyアプリ内のデジタルゲームと共有できるようになりました。

この楽しくインタラクティブなウォーター機能は、私たちを行列に並ばせてくれます。Creative Commonsのkatsuhiro7110による写真。

世界中にあるディズニー「ランド」ではマジックバンドは採用されておらず、同僚がパークに入るときの体験の違いについて皮肉を言ったことがあります。

ディズニーランドでは、有形のチケットがあり、キャストメンバーとやり取りをし、回転改札機を通してパークに入ります。対照的にフロリダのディズニーワールドでは、そのような儀式や来訪を祝うような体験は一切ない、と彼は言います。

ディズニーワールドが1971年にオープンしたときと同じような体験をするべきだというわけではありませんが、ユーザーがここまではるばる来た理由をもっと理解するべきです。世界中からゲストが訪れ、パークを体験し、子ども時代に感じた不思議さや驚きを楽しみます。

デジタル体験と物理的体験にまたがる私たちのプロジェクトでは、テクノロジーがどこで役立つのか、そしてユーザーが望む結果をどこで奪うのかを理解することが重要です。民俗学の研究、ダイアリースタディ、およびユーザーの物理的環境、注意散漫、および期待感を理解するための没入型のインタビューは、注意をそらしたり妨げたりしない方法でデジタルでの解決策を組み合わせる方法をよりよく理解するのに役立ちます。

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総じて私の苦情のリストに関しては、ディズニーがゲストに提供する卓越したサービスと体験に比べたら、小さなものです。

人間は間違いを犯すことを理解する

ディズニーの顧客サービスモデルで十分に言及されていない要素の一つは、ユーザーエラーに対する寛容さです。彼らはめったに人為的なミスに悩まされないようです。彼らはそれ自体をシステムに組み込み、それらを受け入れるよう従業員を訓練します。

最近の旅行で、その日の最初のバスに乗り遅れたので、ファストパスの時間帯を逃してしまいました。猶予期間の噂を聞いたことはありましたが、20分遅れたので希望が持てませんでした。私の状況を素早く説明したあと、キャストメンバーは躊躇せず、私が失効したパスを使うことを許してくれました。到着が遅かったりアイスクリームコーンを落としたりしても、ミスを犯したことに辱めや恥を感ることはありません。

ユーザーのミスに目をつぶったり、同僚と冗談を言ったりすることは簡単です。私たちは「私たちは私たちの相手しているユーザーにはなれない」という呪文を覚え、私たちの製品には常にユーザーエラーの要素があることを理解しなければなりません。ディズニーは、この必然性を素直に受け入れ、それに喜んで対応し、顧客への忠誠心を高める方法を示してくれます。

喜びの達人から何を学ぶか

「Delight(喜び)」は、少なくとも10年にわたってUXを定義してきたバズワードです。企業はそれを中心にデザイン精神を構築し、シンプルなGoogle検索によって、数多くの記事、講演、ワークショップなどを発見してきます。ディズニーよりもこのコンセプトを概念をよく理解している人はほとんどいません。

トイストーリーランドには、グリーンアーミーメン(緑のおもちゃの兵隊)と同じような気分にさせる大きな足跡があり、レストランではミッキーがテーブルに誕生日カードを届けるような特別な工夫が施されており、ゲストは細部に至るまで楽しむことができます。真の喜びは、従業員一人ひとりがUXチームの重要な一員であるという文化の上に築かれています。

ディズニーがマジックバンドを通じて行えることは、刺激的であると同時に不気味なことでもあります。彼らの敷地内を移動している間、私はどれだけのデータを提供しているのでしょうか。しかし、それを否定することはできないですし、楽しいことも起きているし、いつも「イッツ・ア・スモールワールド」から降りる準備をしているときには畏敬の念を抱き、さようならの画面に出てくる自分の名前を見ています。

私たちの多くはディズニーワールドのような規模で活動していませんが、私たちは彼らの強みと挑戦から学ぶことで、より強固で、よりわかりやすく楽しい体験を私たちのユーザーに提供することができるはずです。


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