UXデザイナーに求められる2つの共感力

中井 潤

株式会社ニジボックス UI/UX制作室 UXグループ マネジャー 2016年リクルートの実証実験機関「Media Technology Lab.(現次世代事業開発室)」から分社化されて生まれた、ニジボックスにジョイン。

ニジボックスでUXデザイナーをしている中井と言います。

去る9月に行われたUX MILK Fest 2019で「職域から考えるUXデザイナーという職業」というタイトルで、定義があいまいになりがちな「UXデザイナー」という職業についてお話しさせて頂きましたので、今回はその内容を記事としてまとめさせていただきます。

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曖昧になりがちなUXデザイナーという職業

UXデザイナーという職業について「なんでもできる人」「スーパープレイヤー」と考える人がいます。一方で、なかなかそういう人を見つけるのは難しく、仮にそう定義すると、UXデザイナーを名乗れる人がかなり限られてしまいますし、現実的ではないと思います。

そこでまず、「UXデザインとは何か?」から説明します。

UXデザインとは?

UXとは、ユーザーエクスペリエンスのこと。

米国の認知科学者であり、Appleのヒューマンインターフェイスガイドラインの策定にも関わったDon Norman氏は、「UXはエンドユーザーが会社、サービス、製品と対話するすべての側面を網羅している」と語っています。つまり、UXデザイナーだけでなく、企業のあらゆる部署が一丸となってUX視点を持ち、サービスを運用していかなければならないわけです。

ですが、企業全体がUXの視点を持つのであれば、専門部署のUXデザイナーは何をすればいいのでしょうか?

ここで注目していただきたいのが「デザイン」という言葉。その中には「目的を持って具体的に立案・設計すること」という意味が含まれています。

このことから、UXデザイナーは、ユーザーが求める価値を生み出す「仕組み」を設計する役割があると言えます。

価値を生み出す仕組みはどのように設計できるのか

では、具体的にどのように設計をしていけばよいのでしょうか。理解を深めるために、サービス全体を時間軸で整理してみましょう。

ユーザー体験には「UXタイムスパン」「UXタイムライン」という2つの時間軸があると考えます。

UXタイムスパン

UXを「利用前」「利用中」「利用後」「利用時間全体」という4つの期間で捉えます。これは、UX白書で提唱されている考え方です。

uxタイムライン

引用:UX白書

ユーザーがサービスを使い始める前に「どういう体験ができるだろうか?」という予期から始まり、使っている最中ももちろん、使った後に「このサービス、良かったなぁ」と思い返すことも、
それら全てを含めてUXであるといえるのではないか? ということです。

UXタイムライン

こちらはbtraxという会社が提唱している考え方で、利用プロセスにおけるそれぞれの段階でユーザーが感じる体験全てがUXを構成している、というものです。

知ってもらって(Know)、買ってもらい(Trial & Buy)、使ってもらって(Use)、その後のサポート(Support)もUXを構成しています。

2つの時間軸を組み合わせる

UXタイムスパンとUXタイムラインを組み合わせてみると、予期的UXがマーケティングやチャネル、つまり知ってもらって買ってもらうまでの活動を、一時的UXがプロダクトの部分、エピソード的UXがカスタマーサービスに重なることがわかります。

2つの時間軸これは、前述した「企業のあらゆる部署がUXの視点を持ち、一丸となってサービスを運用してゆくこと」と合致します。なぜなら、マーケター、セールス、プロダクト開発、サポートなど、さまざまな部署がUXと関係しているからです。

一連の流れを設計するUXデザイナー

それぞれの部署が優れたUXを提供すべく、一丸となって協働しますが、その流れの仕組みを設計するのがUXデザイナーの仕事である、と私は考えます。

一連の流れを設計する先程の時間軸の概念に、各職業を当てはめたものを見ていただくと理解しやすいでしょう。

このように、社内にはサービスを作るプロダクトマネージャーやディレクター、デザイナーなどがおり、発売前にはマーケターやセールスが、発売後はカスタマーサポートの部署が活躍します。

プロジェクト全体を見通しながら、社内とユーザーの橋渡し役となり、理想のユーザー体験を設計するのがUXデザイナーの仕事です。

UXデザイナーに求められる2つの共感

ユーザーと会社の橋渡しをするということは、その双方のことを考える必要があります。つまり、ユーザーと事業会社の2つに共感することです。
2つの共感まず、ユーザーに共感して、その想いを受け取ります。その受け取った想いを今度は事業会社に届け、共感させる必要があります。

ユーザーに共感する

ユーザーに共感するためには、2つの力が必要になります。

  1. 1. 情報収集力
  2. 2. 分析力

情報を収集するためには、ユーザーインタビュー、エスノグラフィー調査、アンケート、ユーザーテストといった方法を駆使していきます。

これらの手法を、専門知識として有していることが大切です。ユーザーインタビュー結果の分析方法や、ユーザー調査の手法とその使い分け方については、下記参考記事をご参照ください。

参考記事
【事例で分かる!】より良いユーザーインタビュー分析の3つの条件とは?
どう使い分けるべき?UXデザインのためのユーザー調査手法

次いで、適切な情報を抽出し、演繹(えんえき)的推論、帰納的推論、アブダクション的推論を用いて分析していきます。

情報収集力や分析力は、UXデザインにおいてかなり重要であるにもかかわらず、勉強する機会が少なく、独学も大変です。情報収集や分析がきちんとできていないと、UXデザインは過小評価されてしまいがちですので、この力の底上げをどのようにしていけばいいのかが課題となっています。

事業会社を共感させる

ユーザーの想いに、事業会社のメンバーにも共感してもらうようにするにも、2つの力が必要です。

  1. 1. 定義力
  2. 2. 伝達力

これらは、誰でも理解できる共通認識を生み出す必要があるからです。そのために、このタイミングではビジネスモデルキャンバスやペルソナ、カスタマージャーニーマップといった可視化ツールを使います。

クライアントワークでの場合

では、受託制作の場合はどうでしょうか?

ここでも求められるのはユーザーへの共感と、その想いをクライアントにも共感させる2つの共感であり、そのバランスをとることがUXデザイナーの重要な仕事といえます。

クライアントワークでよくある失敗例としては以下が挙げられます。

  1. 1. ニーズのないプロダクトを作ってしまうこと
  2. 2. クライアントに忖度してしまうこと

ニーズのないプロダクトを作ってしまう

これは、ユーザーへのリサーチを怠ったため生じてしまう失敗です。
ユーザーリサーチをしない場合

クライアントに忖度してしまう

また、リサーチをしたにもかかわらず、クライアントを忖度(そんたく)した報告をしてしまい、結果としてユーザーにニーズのないプロダクトになってしまうこともあります。
クライアントに忖度全然ニーズが見られなかったのに、ポジティブに「イケます」と報告してしまうのでは意味がありません。

クライアントワークで失敗しないために

大切なのは、クライアントをチームとみなし、共創関係を創り出すことです。そのためには、ワークショップの開催や、人間同士のコミュニケーションを重視するなど、お互いに本音で話せるような関係構築が重要になります。こちらもUXデザイナーのクライアントワークでの重要な役割です。

まとめ

私たちの会社、ニジボックスではユーザーが求める価値を生み出す「仕組み」を設計する職業と考えています。

その仕組みづくりのため、UXデザイナーは2つの共感、つまりユーザーに共感し、その想いをチームに届けて共感させる役割を果たす必要があります。クライアントワークでは、ユーザーのニーズにマッチしたサービスやプロダクトを作り上げるため、お互いに本音で話せるような関係を構築する調整の役割も果たします。

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本記事に興味を持って頂けたら、ぜひ参照ください。


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