どのツールを使うかはさほど重要ではない4つの理由

Yu Siang Teo

Yu Siangは、Interaction Design Foundationのプロダクトデザイナーです。

この記事はInteraction Design Foundationからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

UX Tools Matter Less Than You Think

私たちUXデザイナーはツールが大好きです。実際、毎年新しいUXツールがリリースされ、毎日ツールについての記事が山のように公開されているので、最新のツールに無関心でいることは難しいでしょう。私たちInteraction Design Foundationにも、新人デザイナーから使うべきツールについてたくさんの質問が寄せられています。

しかし、どのツールを使うかは人々が想像しているより大した問題ではありません。たしかにデザインプロセスの中で一定の役割は果たすでしょうが、注意を向けるべきもっとも重要な問題ではないのです。私たちがこのように主張するのには、4つの明白な理由があります。ツールの選択にこだわる代わりに、何にどのように注意するべきなのか、UXの専門家や採用担当者がこの主張に納得できるのか説明していきます。

UXツールには多くの関心が寄せられていますが、ノイズを排除して正しい情報をとらえなければなりません。繰り返しますが、どのツールを選ぶかはそれほど大きな問題ではありません。ツールについて学ぶべきではない、ツールは必要ないと言っているわけではなく、ツールがキャリアの中で果たす役割を考える際には、適切なマインドセットを持つ必要があるのです。

これから、ツールにこだわるべきでない理由を見ていきましょう。

理由1. どれを使うかより何をするかのほうが重要

UXデザイナーにとっては、どのツールを使うのか知っていることよりも、何を成し遂げたいのか知っていることのほうが重要です。

UX関係の仕事に応募したとき、採否を決めるのは使っているツールではなく、考え方と知識です。言い換えれば、UXデザインはデザインについての知識と、それを応用して優れた成果を生み出す方法にかかっています。知識を応用するために使うツールは大きな問題ではありません。

この主張を実証する具体的なシナリオを考えてみましょう。たとえば、モバイルアプリにおいてサインアップ、ログイン画面を作りたいとします。この課題を上手く達成するには、デザイナーは何をすればいいのか、それによってどのような結果が生まれるのか知っている必要があります。名前やメールアドレスのフィールド、パスワードのフィールドは必要でしょうか? サインアップのフローにはいくつのステップを配置すべきでしょうか? 何より、これらの問いに対して提示した解答の根拠は何でしょうか? これらがまず初めに考慮すべき重要事項です。

SketchやAdobe XDといった、使いたいツールから考え始めてしまったら、広い視野を失ってしまうでしょう。ユーザーの役に立つものより、流行に沿ったものを作ることになります。

たとえば、Sourabh Barua氏がDribbbleに投稿した次のサインアップ、ログイン画面は美しいデザインです。しかし、この画面はUXのベストプラクティスを満たしていないため、本当に優れたデザインではありません。

Sourabh氏によるログイン画面のデザインは美しいですが、UXの原則に基づくと改善の余地が大いにあります。作者・著作権者 : Sourabh Barua、著作権の利用 : フェアユース

このデザインには、次のような問題があります。

  • 「Login Now」と「Create Account」のボタンの両方が目立っていて、ユーザーを混乱させてしまいます。「Login Now」のボタンは、ユーザーが最初に注目すべき要素であることを示すために明るい色が使われています。一方で、「Create Account」のボタンにはドロップシャドウが使われていて、ページから浮かび上がって見えます。そのため、こちらも重要性を訴えていることになります。では、どちらがより重要なのでしょうか?
  • 2ページ目の「Keep Connected(繋がっていましょう)」というタイトルでは、ページの目的をユーザーが理解できません。なぜなら、このタイトルはページのログイン機能とまったく関係がないからです。
  • 2ページ目の「Get Login(ログインを取得する)」というボタンもわかりにくいです。なぜなら、アカウントにログインすることは何かを「取得する」行為ではないからです。このような間違ったメタファーによって、ユーザーの頭の中に間違った心理状態が作られ、サイトが使いにくくなっています。
  • 2ページ目では緑色のチェックアイコンが二度異なる場面で使われています。そのため、ユーザーは頭の中で、同じアイコンが持つ2つの意味を切り替えなければなりません。メールのフィールドでは、アイコンはアドレスの形式が正しいことを教える静的なフィードバックとして使われています。一方で、その下のパスワードのフィールドでは、「Remember Me」を選択するインタラクティブな要素として同じアイコンが使われています。こちらはインタラクティブなのに、メールでのアイコンはインタラクティブではないため、ユーザーをさらに混乱させてしまうでしょう。

対照的に、以下のFacebookのログイン画面は直感的で、使いやすいです。格別に美しいわけではありませんが、そもそも美しい必要はありません。

Facebookのログイン画面はそれほど美しいわけではありませんが、圧倒的に使いやすいです。作者・著作権者 : Facebook、著作権の利用 : フェアユース

重要なUXの考慮事項から始めなければ、どのようなツールを活用しようと優れたソリューションは作れません。しかし、達成すべき課題から着手すれば、たとえ鉛筆と紙しか持っていなくても素晴らしいソリューションを生み出すことができるでしょう。

理由2. ツールは変わり続ける

ツールは急速に変化していきます。たとえば、有名なプロトタイピングツールであるSketchは毎月アップデートされていますし、ほかのUXツールも同様です。新しいツールや、既存のツールに対するサードパーティのアドオンもつねに公開され続けています。

Sketchのブログ記事によれば、Sketchは2018年に12個の機能をリリースしました。つまり、平均して月に1回のアップデートがあったということです。作者・著作権者 : Sketch、著作権の利用 : フェアユース

つまり、ツールに気を取られていると視野が近視的になります。UXデザイナーとしてしっかりと足場を固めるためには、新しく人気のツールより先へと目を向ける必要があります。さもなくば、いつまでも最新のアップデートを追い続けることになるでしょう。そのうち追いかけること自体に必死になり、自分のデザインを本当に差別化できるようなUXの原則を見失ってしまいます。

ツールにフォーカスしていては、抜きん出た存在にはなれません。しかし、不変のデザインの原則にフォーカスすればそうなれるのです。10年も経てば、あなたはまったく別のツールを使っていることでしょう。対照的に、あなたが用いる心理学の知識やデザインの原則は変わりません。なぜなら、それを使う動機はどれだけ時間が経っても変わらないからです。後者にフォーカスすれば、長い期間における、かつ将来も変わることのないアドバンテージを得ることができます。

理由3. 会社が違えば使うツールも違う

UXツールだけに期待を絞っていても、参加する企業では異なるツールセットを使っているかもしれません。ある会社では、忠実度の高いプロトタイプを作るのにAdobe XDを使い、インタラクションやアニメーションを追加するためにInVisionにエクスポートしているかもしれません。別の会社ではワイヤーフレームにBalsamiqを、プロトタイプにはSketchを使い、デザインを開発者に提示するのにZeplinを使っているかもしれません。

そして5年も経てば、彼らが使うツールは変わっているでしょう。

つまり、特定のツールを使う能力よりも、ツールに慣れ、適応する能力のほうが重要なのです。UXデザイナーには唯一にして最高のツールがあるという考えは捨てましょう。ツールは変化し続けるものであり、交換し得るものだと認識してください。新しい会社に入れば、あるいは働いている会社が方針を変えるだけでも、自分が作りたいものを作れる新しいツールについて学ぶ必要性が生まれます。

理由4. UXの専門家や採用担当者もそう言っている

さらに強力な論拠が必要でしたら、私たちと同じ意見を持つUXの専門家や採用担当者の発言を引用しましょう。

Dan Rosenberg氏は、世界最大級のソフトウェア会社であるOracleとSAPにおいて、18年間以上UXデザインの責任者として、すべてのプロダクトを通じて世界規模のUXを制作を牽引してきた人物です。

彼は、UXデザイナーが持つべきハードスキルについて次のように述べています。彼自身、UX業界で35年以上のキャリアがあり、1,000人以上のデザイナーを採用してきました。

Dan氏によれば、インタラクティブなプロトタイプやワイヤーフレーム、ジャーニーマップといった、UXデザイナーが作成するものは、作成に使ったツールより重要なのです。

Frank Chimero氏も私たちと同意見です。Frank氏はデザイナーとして15年以上のキャリアがある、SketchのコラボレーションツールAbstractの共同創業者です。

クリエイターは自分のツールを美化する傾向にあります。自分のアイデアを表現するもの、自分の作品を具現化するものとして中心に据えてしまうのです。しかし、クリエイターは全員、優れたツールを使えば優れたデザイナーになれるわけではないことも、優れたデザイナーに最高級の特別なツールは必要ないことも信じていると思います。―Frank Chimero氏、Abstractの共同創業者

最後に、有名な配車サービス企業LyftのプロダクトデザイナーであるTanner Christensen氏の言葉を紹介します。

私は、使っているツールのおかげで仕事を獲得できたデザイナーを見たことがありません。ツールには、私たちがそれを使う理由や手法と同じ価値しかないのです。―Tanner Christensen氏、Lyftのプロダクトデザイナー

ツールではなく、自分がデザインする

以上より、UXツールがポートフォリオを輝かせるのに特別必要なものではないと理解できたのではないでしょうか。少なくとも、頭では理解していただけたでしょう。この知見に基づけば、偉大なUXデザイナーに至る道をたどることができます。

不朽不変のデザインの原則に注目し、デザインの意思決定に活用しましょう。UXツールは、自分のデザインに何が必要なのか慎重に考慮したあとに意識して使えばよいのです。

ペイントブラシを上手く扱える人ではなく、芸術家になりましょう。鉛筆が使える人ではなく、詩人になりましょう。

まとめ

UXツールは非常に便利なものです。しかし、ツールはデザインやポートフォリオを自ら激変させるもっとも重要な要素ではありません。世の中の風潮とは反対に、ツールは人々が考えているほど重要なものではありません。


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