あなたが友人のために夕食をつくっているとしましょう。レシピを検索しておいしそうなジャンバラヤ料理をみつけ、必要な材料を買い行き、時間をかけて料理をしました。ところが、友人はその料理を2、3口食べるとおもむろに立ち上がり、外に出かけて行ってしまいました。しばらくすると、その友人はテイクアウトの料理を手に戻ってきたのです。
これと同じようなことは、UXライター、コンテンツデザイナーやコンテンツストラテジストの多くが経験しています。彼らがものを書く、修正する、あるいは編集するといった作業をしたあと、クライアントやステークホルダー、プロダクトオーナーが、フィードバックを返してくれる代わりに、「こういう別のやり方はどうだろうか?」と言いだします。彼らはその助言が有益だと考えています。おそらく、時間の節約につながるとも思っているでしょう。
しかし実際にはそのどちらでもないのです。
なぜこのようなことが起きるのか?
適切なフィードバックを返す代わりに、直接書き換えようとしてしまう背景には、主に3つの理由があると考えています。UXライターの役割についての誤解、正しくフィードバックを行うのが面倒だと考える人々、プロセス自体の問題(またはこれら3つの組み合わせ)です。
1. UXライティングの仕事が理解も尊重もされていない
もしかしたら、あなたがUXライティングの独創的な挑戦を理解してくれる素晴らしいチームに属する機会があるかもしれません。しかし実際には、UXライターが自らの役割を見いだせず、評価もされないチームにいるという場合がほとんどかもしれません。クライアントやステークホルダーといった人々であれば、特にそうだと言えるでしょう。
人々は自分がよくわからないことついては、即座に反応して拙速な判断をしてしまいがちです。UXライターの専門性をまったく重視していない人が、あなたとの仕事に敬意をもって取り組むことは難しいでしょう。
おそらく、従来のクリエイティブ制作会社とのやりとりに慣れているチームやクライアントと仕事をすることが多いでしょう。彼らが慣れている相手はコピーライターです。もしかしたらあなたが、チームにおける初めての、あるいは唯一のUXライターであるかもしれません。人々があなたの専門分野をあまりよく理解していない場合、意見の食い違いが生じる可能性が高く、フィードバックや対話をスキップして、あなたの専門領域を踏み荒らしてくるようなことになりがちです。
2. よいフィードバックが何であるかが理解されていない
フィードバックは、反応的、指導的、批評的の3種類のタイプに分類されます(反応的、規範的、記述的と表現されることもあります)。それぞれのタイプについて要点をまとめていきましょう。これらは、Don Norman氏の『Design of Everyday Things 』(邦題『誰のためのデザイン? ― 認知科学者のデザイン原論 』)(55-56)で議論されている3段階のプロセスとおおよそ対応するものと考えています。
フィードバックの |
感情の処理レベル | フィードバックの例 |
---|---|---|
反応的 |
直感的 |
「あの見出しは好きじゃない」「このコピーは素晴らしい!」 |
規範的 (または指導的) |
行動的 | 「あのコピーをぶっ壊して、こんな風に書いてくれ」 |
記述的 (または批評的) |
思慮深い | 「この機能は若い層向けのものだから、『ロジスティクス』や『必須条件』などといった単語はこの層にピンとこないかもしれない」 |
人々がフィードバックに悪戦苦闘するのは、いくつかの理由があるようです。どのようなものが適切なフィードバックなのかを理解していない、ということがその理由の一つですが、それ以外にも次のような理由がありそうです。
自分がなにを気に入らないのかを理解していない
彼らはただ反応するのみです。「これは違う」と考えますが、それがなぜ受け入れらないのかという理由を明確に示すことができません。その代わりに自分の好みに合わせて書く、あるいは誰かに自分の好みのものを書いてくれるよう依頼するのです。これは反応的なフィードバックの一つの形です。他にも「見出しだけ変えることはできますか?」とか「本文が気に入らない」といった言い方も、反応的なフィードバックの一つと考えられます。
自分が望むものを理解はしているが、そのコピーがなぜ期待値に達していないのかを説明することができない
この場合も同様に、コピーがなぜ機能しないのかを明確に説明するよりも、それをただ書き換えるか別のものに差し替えてしまいます。これは規範的なフィードバックの例です。彼らはコピーがなぜいけないかを説明することなく、まったく別のもの、つまり新しいコピーを提案してくるのです。
3. チーム内のプロセスに問題がある
クライアントやチームメイトがコピーを書き換えるもう一つの主な理由は、プロセスの改善が必要な状態であるということです。
ライターがクライアントと仕事をしていて、新しいコピーをつけたデザインをメールで送信したとします。クライアントが、通常デザインレビューとは関係のない第三者(別のステークホルダーなど)にそれを転送すると、その第三者が返信で、代替オプションを提案するのです。
この第三者は、UXデザインのプロセスや、適切なフィードバックの経験、一般的なクリエイティブのフィードバックにあまり精通していないかもしれません。すると彼らはおそらくコピーの大部分を書き直すことになるでしょう。なぜなら、彼らは自分が感じた修正すべき点を明確にできないからです。
ほとんどのプロダクトオーナーは、このような状況を避けるべきだとわかっており、またチームもこの方法が生産的ではないということを理解しているかもしれません。しかし外部の関係者はそのことに気づいていない場合があります。
UXコピーを書き換えをするのが同僚であれ、クライアントであれ、クライアントチームのメンバーであれ、あるいは第三者であれ、UXコピーの手綱を握っているのは誰であるか、UXライターはどのようにコントロールしたらよいでしょうか?
UXコピーの書き換えにどう対応するか
あなたの置かれている状況が、役割の尊重の問題であれ、フィードバックの品質の問題であれ、チームの力学の問題であれ、あるいはそれらの組み合わせであれ、どうようなものであっても、以下の点に留意すべきです。
この問題を事前に予測する
業務やクライアントとの関係の初期段階で、相手からのフィードバックを頼りに相手の立ち位置をそれとなく探ってみましょう。彼らは豊富な経験に基づいたフィードバックを返してくれるでしょうか? こちらからなにか指導をした方がよさそうでしょうか? もし必要であれば指導してもいいですが、フィードバックについての基本原則は明確に設定すべきです。フィードバックのやり取りの方法(時間差のあるやり取りよりも望ましいリアルタイムでのやり取りの方法や、オンラインでのフィードバックのやり方)についても話しておきましょう。また、どのようなフィードバックが望ましいかについても確認しましょう。(たとえば「コピーの長さやトーン、正確さについてのフィードバックが必要」といったことです。)
ブランドのガイドラインとスタイルのガイドには、誰もがアクセスできるようにする
そしてこれらのガイドがどのように機能し適用されるのか、全員がしっかりと理解しているべきです。これらのガイドラインを正しく適用するには、一定のスキルが必要とされるでしょう。
独りよがりにならないように気をつける
つねに完璧なコピーライターは存在しません。自分のUXコピーを書き換えられるのは気にさわるとは思いますが、フィードバックには正当な理由があるかもしれません。ライターは善意を前提とした心がけが大事です。
フィードバックをより明確化する
できることなら承認者が迅速にフィードバックを送ってくれれば、ライターがさらに探索したり改善する時間を得ることができます。探索や明確化とは、たとえば次のようなものです。
「ワッフルメーカーのランディングページ部分のタイトルに代替案をご提案いただきありがとうございます。もとの提案についてもご感想を共有いただければ幸いです。なにか問題となりそうな単語や言い回しがありましたでしょうか? 違和感のあるトーンはありませんでしたか? クリスマスセールでワッフルメーカーの売り上げを伸ばすために、なにか必要なことがあれば教えてください。」
UXライターの役割がリスペクトされていないと感じたら
UXライターとしてのあなたの仕事が十分に評価されていないと感じるのはあなただけではないでしょう。UXライターの役割とその立場を確立するための方法について書かれた素晴らしい記事がありますので、ここで簡単にご紹介しましょう。
自分自身とチームメイトを紹介する
ただの挨拶で終わるのではなく、あなたの役割と、作業にどのように関与するかを説明しましょう。コピーライターやテクニカルライターと、UXライター(または関連する役割)の違いをわかってもらえるよう、説明しましょう。
自身の仕事について簡単なプレゼンテーションを行う
内部での批評の機会やデザインレビューの一部を利用して、あなたがやっていること、あなたの仕事がデザインにどのように統合されるのかについてちょっとしたワークショップを開催しましょう。あなたがもっている知識をチームメンバーやクライアントと共有しましょう。
あなたの仕事のプロセスを説明する
仕事のプロセスを説明すれば、あなたの考え方や仕事を説明するのに役立つかもしれません。あなたがなにを目標とし、どのようなものをベストプラクティスと考え、なにが課題と感じているのか。複雑なことをシンプルに整理する作業を可視化して見せることは簡単ではありませんが、あなたの仕事における目標や課題、制約やガイドラインについて話し合うためのいい機会となるでしょう。
ミーティングに参加する
ミーティングに参加したいということをアピールし、どのミーティングに参加したいのかを伝えるのです。周囲の人にしっかりと印象づけ、ミーティングへの参加が実現するように綿密に計画を立てましょう。ミーティングへの招待を支持してもらえるよう、プロダクトオーナーやチームメンバーに協力してもらいましょう。
デザインミーティングで発表する
企業や組織ごとにそのやり方が異なります。自身の作品を発表していないのであれば、この方法を試してみてください。そうすることで、ただ後ろの方の目立たない席に座っている人ではなく、プレゼンテーションを主導する側となるのです。あなたは専門家なのですから、チームの主導権を握ることができるのです。デザインチームの他のメンバーと同じように、自分の仕事やその根拠を示したり、特定のフィードバックを求めることもできるでしょう。(あなたはいまやデザイナーとなったのですから。)
不適切なフィードバックの習慣が問題である場合
相手の期待感を伺う、スタイルガイドを用意する、自身のエゴを捨てる、またはフィードバックを明確化することが、チームのフィードバック文化の醸成という長い道のりを押し進めてくれます。しかし悪質なフィードバックを改善していくには、さらに多くの労力が必要になるかもしれません。
ペアでのライティングを試す
明確さを生み出し、コミュニケーションを改善し、UXライティングのプロセスへのリスペクトを高める一つの方法は、誰かと一緒に行うことです。この方法は、広告代理店のチームとしてクライアント側のプロダクトオーナーと仕事をする場合よりも、ライターがチームメイトまたはクライアントと直接仕事している場合に非常に有効です。一緒に作業することで、ライターがパートナーの話に耳を傾けていることが伝わり、またパートナーはライターに対してブランドのガイドラインとスタイルガイドをどのように適用するかを示すことができます。
1対1で問題を指摘する
フィードバックを明確化できたあとには、次のような会話が交わされるでしょう。
「ワッフルメーカーのセクションタイトルについてさらに明確にしていただき、ありがとうございました。とても役に立ちました。
ところで、最初の返信の際に、修正されたコピーをお送りいただきましたが、ご希望に沿えた点、沿えなかった点、なぜ、そしてどのように今回の目的に合っていたのか、合っていなかったのかについてのフィードバックをいただけませんでした。
もちろん、アドバイスとしての意図は十分に理解しています。ですが、ライターの立場としては次のような理由であまり助けになるものではありませんでした。
1. あなたにとって時間的なロスが生じます。コピーをつくるのには時間がかかります。コピーが短いほど、その代替え案をみつけるのに時間がかかるものです。
2. 私の時間的なロスも生じます。UXコピーの作成は、文面が短いことから簡単な作業だと思われがちですが、さまざまな要素を考慮しています。そのため、フィードバックを頂く代わりに、他の方が書き換えることになると、多くの場合、新しいコピーの裏にある意図を明確にした上で、そのコピーを整えていかなければなりません。書き換えられた量によっては、新たなコピーを修正するのに多くの時間を要することもあります。
3. フィードバックを頂く代わりに書き換えてしまうことで、あなたが純粋で良質なフィードバックを返すスキルを発揮する機会を失うことになります。よいフィードバックができるようになるには練習が必要なのです。そして私も、書き換えられたものではなく、思慮深いフィードバックをいただくことで、よりよいライターになっていきたいと考えています。」
コピーの書き換えがプロセスの問題に起因している場合
コピーを書き換えてフィードバックを提供する人物が、重要なステークホルダーである(つまり、その人物の意見がなによりも重要である)と仮定して、その場合には次のことをおすすめします。
プロセスの問題に対してデザイン担当チームと共に取り組むか、専門家の助けを得る
- 適切な順番や流れは、チームの構成にもよります。インハウスチームの場合、UXライターはチームメイトか、プロダクトオーナーやUXの責任者などの直属の上司やに相談することができます。クライアントチームとの協業の場合には、プロダクトオーナーがクライアント側のプロダクトオーナーと話し合い、クライアント側で適切なメッセージを発信できるように一部の人々の傾向についての警告を発するとともに、それを積極的に注視していきます。(場合によって、小規模の企業やチームである場合は、ライターが第三者に直接アプローチできる可能性もあり得るでしょう。)
- 途中からフィードバックのプロセスに参加する人物については、プロダクトオーナーに相談しましょう。途中からいきなり参加する人物のために、これまでの経緯や背景についての簡単な説明をすることで、彼らの突然の介入が理解できるものになるかもしれません。フィードバックのプロセスに突然、新しい人物を投入することはよくあることで、その人物は過去のフィードバックの過程についてはなにも知識をもち合わせていません。たとえば「このような過程を経て、いまはこの作業中であり、このようなフィードバックが我々が求めているものである。」というような口頭での簡単なオリエンテーションを取り入れるのもよいですし、ちょっとした概要を書面で渡すのもよいでしょう。あるデザイナーが、過去のバージョンをすべて記録したアートボードのスクラップブックを作成した、というケースもありました。誰かが新しくチームに投入されたときに、(またはそのフィードバックが思い出されないときに)たとえば「Xをやってみるのはどうでしょうか」と聞かれたら、用意しておいたアートボードを取り出して「それはバージョン16ですでにやってみました」と答えることができるのです。
- 最終決定権をもつ人物が誰であるかを考慮しましょう。作業を始める段階で、主要なステークホルダーとお互いの意思確認をすることは重要です。解決すべき問題はなんでしょうか? 最終目標はなんでしょうか? 最終的な決定権をもつのは誰でしょうか? 意見を述べる人であふれている中、最終的な決定を行うのは誰でしょうか? ひょっとすると、コピーの書き換えをするライターやそのフィードバックは優先順位が低かったり、最終目標と一致していない場合もあるかもしれません。
- 書き換えるライターの個人的な視点を考慮しましょう。書き換えを担当するライターはマーケティング業界の人物でしょうか? それともビジネスアナリストでしょうか? 彼らの視点が同じではないかもしれないため、あなたはそれらの視点の違いに折り合いをつける必要があります。たとえば「この機能については、なにが起きているのかをわかりやすい表現で説明する必要があります。一方ここは企業として積極的に『売り込み』たい部分ではありません。」などというわけです。
振り返ってプロセスの問題に取り組む
ライターが社内で働いている場合、この悪い慣習について呼びかけ、議論することにより人々に共通の理解をもたせることができるでしょう。もし、ライターがクライアントチームと仕事をしているケースでは、クライアント内での旧来のやり方として議題に挙げることで、全員が新しい気持ちで適切な批評を行い、通常のデザインチームと相談先の第三者側の両方にいる同僚たちに、この慣習に対してつねに注意を払うよう促すことができるでしょう。決して個人に向けた批判であってはならず、チームの改善のための専門的な提案として提示されるべきです。
まとめ
デザインとライティングは可能な限り協同して行う必要があります。これは個人的なやり取りだけでなく、チーム全体のプロセスについてもいえることです。
ライターはその分野の専門知識がない限り、誰かの手によってつくられた視覚的なデザインに変更を加えようとは思いません(デザイナー自身も、批評に対応するためだけにデザインし直すべきではありません)。UXライターと一緒に作業する人たちにとっても同じことが言えるでしょう。さまざまな専門スキルを尊重し、明確なフィードバックを提供し、必要なことでわからないことがあれば質問するべきです。
冒頭の例でいえば、せっかく料理をつくったのにも関わらず、それぞれ自分の好きなものを持ち込んでくるという経験は、UXライター、コンテンツデザイナー、またはコンテンツストラテジストならば誰でも経験したことのあることではないでしょうか。これは実際に起きうることです。忍耐強く、寛大に、積極的で、協力的に対応しましょう。このような状況は、チーム全体を改善するチャンスにもなり得るのです。そしてそれが、よりよいコンテンツや体験、サービス、プロダクトにつながっていくのです。