airClosetの開発現場でUXが当たり前になっている理由

池田 朋弘

UXリサーチを専業とする株式会社ポップインサイト代表取締役および株式会社メンバーズ執行役員。2008年に株式会社ビービットに入社しユーザーテストを数百人実施、2012年に日本初のリモートユーザーテストサービスを立ち上げ5,000調査以上を実施。

UX MILK特派員のポップインサイト池田(@pop_ikeda)です。UXの第一線で活躍されている方々へインタビュー&対談し、最新のノウハウをお届けする「UXリサーチ最前線」。
今回は、プロのスタイリストがコーディネートした洋服を届ける月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」等を運営されている、株式会社エアークローゼットの天沼さんにお話をお伺いしました。

創業当初から「お客様の感動が第一」を行動指針に掲げ「UXを最重視し、全社員がUXを当たり前のように意識している」と語る天沼さんに、どのようにその考え方を浸透させているかをお伺いしたいと思います。

創業時からメンバー全員がUXを最重視

池田:貴社は創業時点からUXを重視しているというお話がありましたが、なぜそのような考えになったかを教えてください。

天沼:株式会社エアークローゼット は2014年に3人で創業しましたが、最初から「日常の中でワクワクする体験を提供したい」と考えていました。当社ビジョンも「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」と定めています。

ですので、必然的にお客様の体験=UXが事業の真ん中にあり、そこからすべてがスタートしています。

池田:なるほど。会社によっては「UXってそもそも何?」というところで議論がつまづいてしまうケースもあるようなのですが、どのように定義されてますか?

天沼:シンプルに「UXとは、お客様の体験すべて」と語っています。いろいろな定義があることは知っていますが、あえて堅苦しい定義はしていません。
プロダクトやマーケティングだけではなく、バックオフィス等のすべての業務をUXに結びつけて考えています。

たとえば、倉庫での洋服管理やクリーニングなどの仕事においても、最終的にはお客様の体験に結びつくものでありUXの構成要素の一つです。当社のメンバーは、職種に限らず全員が「UXをよくするにはどうすればよいか」という軸で議論をしています。

入社時には、全員がお客様インタビューを自分で実施

池田:UXへの意識を社内で高める上で、どのような取り組みや工夫をされているかを教えてください。

天沼:入社時の研修としては、職種に限らずに、自分でお客様へのインタビューを企画・実施しています。ちょうど先日も、入社したばかりのメンバーが4名のお客様に対してインタビューを実施していました。
お客様にダイレクトに接することで、どんな方に当社のサービスを利用していただいているかがよくわかりますし、仮説検証もスムーズに行えます。

また、当日のお客様へのおもてなしをどのようにするかを考えること自体が、UXを意識する一つの訓練にもなっていると思います。人によっては手書きの案内状を作ったり、お客様向けに手作りのクッキーを用意するメンバーもいます。

池田:マーケターに限らず、全員がインタビューを自ら実施するという取り組みは初めて聞きましたが素晴らしいですね。実際にサービスを使っているお客様に接することで社員のサービス愛もすごく高まりそうですね。

天沼:新入社員研修に限らず、部門ごとのインタビューも月に1~2回という高い頻度で実施しています。インタビュー予定は全社公開していますし場所も社内で行いますので、希望者は誰でもインタビューに同席できます。

またZoomやappear.inで様子を中継しているので、執務スペースで仕事をしながらインタビューの様子を見ることもできます。

リリース判定でのUXチェックを通じて共通理解を醸成

池田:お客様の満足度をどのようにモニタリングしていますか?

天沼:定量的な視点では、毎月洋服をお届けした後に満足度を確認しています。満足度については、全体の傾向だけではなく、洋服のブランド別・スタイリスト別など、様々な軸で分析しています。

また数ヶ月に1回程度、NPS(ネットプロモータースコア)を確認しており、定点的に状況もウォッチしています。

池田:レーティングやNPSだと、サービス全体の満足度を追うことはできても、たとえばアプリのUI変更などの細かな施策の良し悪しは判断が難しいと思うのですが、それはどのように判断していますか?

天沼:プロダクトを変更・改善する際には、私自身がUX目線で徹底的にチェックしリリース判定を行います。内容に少しでも違和感があればその理由を徹底的に確認し、納得できない場合はリリースしません。

サービス全体を通じたUXの判断は集合知や合議制ではなく、特定の誰かがジャッジするものだと思っています。本来この役割は、社長というよりはアートディレクターとしての仕事ですが現状は私が兼務している状態です。

池田:現場からすると、最終チェックでひっくり返ってしまうと大変だと思いますが意識されていることはありますか?

天沼:きちんと理由を説明することが重要です。ここでの議論を通じてUXに対する考え方・視点を共有していくことができるので、手間や時間はかかったとしても重要な場だと思っています。

また全社会議や年2回の合宿などの社内イベントでもUXは必ずテーマにあげ、常に自分の言葉でUXの重要性を語り続けています。

社員は当然のこと、社員のパートナーにも自社サービスを利用してもらう

池田:ここまで組織のUX意識を高めるための取り組みについてお伺いしましたが、天沼さんご自身がお客様理解を深める上でどのような取り組みをされていますか?

天沼:実際にサービスを使って頂いている方の直接の声に多く触れるようにしています。たとえば当社の社員は全員に『airCloset』を使ってもらい、利用中のリアルな意見を直接聞いています。

現状のサービスは女性向けなので、男性社員は奥様などのパートナーに利用してもらっています。パートナーからの意見だとより生々しい声が聞けることも多く、とても参考にしています。

また当社のカスタマーサポートには、1日に数百件程度のメールが届きますがすべて自分宛に転送し、かつすべてに目を通しています。この習慣はサービス立ち上げからずっと継続しており今後も続けるつもりです。

池田:カスタマーサポートへの声は良いものだけでなくクレーム等もあると思うのですが、どのように受け取っていますか?

天沼:色々なご意見や声があがってくるので「数万分の一の声である」ということは注意するようにしています。

また当然ですが、お客様の意見がすべてではないので、しっかりと受け止めた上でどのように改善に活かしていくかは別途考えています。

UXを意識して業務ができる環境

池田:ここまで色々な取り組みをお伺いしましたが、UXへの意識が高い組織を作る上で、最も重要と思うポイントを改めて教えてください。

天沼:UXを当たり前に意識するカルチャー作りが大切です。

当社ではどの部門の人間でも「UXをどう高めるか」という議論を行いますし「UXを高める」というテーマであれば誰でも手を上げて色々なプロジェクトを立ち上げることができます。

エンジニアであっても設計・開発・保守運用のすべてのフェーズにおいてUXを意識して取り組みができる、という環境は他にないのではと思います。

当社の行動指針「9Hearts」は「お客様の感動が第一」で始まります。単なる満足ではなく「感動」を提供するために、全メンバーが一丸となってUXを高めていきたいと思っています。

池田:貴社のカルチャーや取り組みに刺激を受けて、同様にUXに徹底的にこだわるサービスやプロダクトをどんどん作っていくような世の中になるととても素敵ですね。

まとめ

実は私の妻も『airCloset』の愛用者で、サービス内容だけでなく企業としてのスタンスがとても好きだということをインタビュー前に話していました。今回のインタビューを通じて、改めてその「企業としてのスタンス」の魅力を知ることができたと感じます。

特に「部署に限らず、全社員がインタビューを自分で企画し、ダイレクトにお客様に接する」という取り組みは、最近話題の従業員満足(エンプロイー・エクスペリエンス)という視点でも、とても参考になりました。

組織のカルチャーは、社長・経営者が創り上げていくものです。現場レベルでエアークローゼットさんのような高いUX意識を浸透させることは容易ではありませんが、ここまでの高いレベルでUXを意識している会社があることが世の中に伝わっていくことでUXへの取り組みが加速したらいいなと強く思います。

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