株式会社メルペイでUXリサーチャーをしている松薗です。
2019年9月に開催されたUX MILK Fest 2019にて、「アジャイルUXリサーチ」という、弊社のUXリサーチの取り組みについてお話をしました。UXリサーチのマニアックな話にどれだけ興味を持っていただけるかドキドキしていましたが、当日は会場後ろで立ち見が出るほど多くの方にご参加いただきました。
今回は登壇の際、お話した内容を記事に再編集してご紹介します。
メルペイについて
まずはじめに簡単にメルペイについてご紹介させてください。メルペイは、日本最大のフリマアプリを提供する株式会社メルカリのグループ会社である、株式会社メルペイが運営するスマホ決済サービスです。
使わなくなったものをメルカリで売って得た売上金や、銀行口座からチャージしたお金、また「メルペイスマート払い」を利用して、メルカリ内のお買い物や全国170万か所のメルペイ加盟店でのお支払いにご利用いただけます。
メルペイUXリサーチチームについて
メルペイには業界でもまだ珍しいインハウスのUXリサーチチームがあり、「そもそもなぜUXリサーチャーという職種が確立されたのか?」というご質問をよくいただくのですが、先駆者がいたというのが大きいです。
もともとメルカリではお客さまのことを深く理解しより良いサービスを作るために、プロダクトマネージャーが中心になって訪問調査を行ったり、毎週お客さまをオフィスにお呼びしてインタビューやユーザビリティテストを行ったりとUXリサーチを大切にする文化がありました。
そして、メルペイを立ち上げるにあたり、メルカリから異動してきたメンバーが当然のようにUXリサーチを開発プロセスに取り込んだのです。
しかし、プロダクトマネージャーの業務範囲は幅広く、サービス立ち上げにまつわる様々な業務を推進をしながらもUXリサーチのオペレーションから実行までを行うのは非常に大変です。また、メルペイは金融領域のため法律など領域的な専門知識も求められます。
そこで、専任のUXリサーチャーを採用しようということになり2018年11月にUXリサーチチームが発足し、現在は2名体制となりました。メルペイのUXリサーチチームは全社横断のデザイン組織配下にいるというのが一つ特徴で、お客さま、デザイナー、プロダクトマネージャーなど様々なステークホルダーと協働しながらも、サービス全体を見渡し中立的であることを大事にしています。
アジャイルUXリサーチとは?
ここから本題のアジャイルUXリサーチについてですが、私は「アジャイルなデザインプロセスを支えるUXリサーチ」と定義しています。
具体的には毎週4名のお客さまに対してコンセプト評価やユーザビリティテストなどのUXリサーチを行っています。毎週というと「そんなに頻度高く!?」ととても驚かれるのですが、メルペイではリリース前から現在までここ1年半ほど案件が尽きることなく継続して行っています。
もう少し詳しくサイクルをご説明していきます。以下のように1日目にUXリサーチャーが案件を募集し、対象者の選定から確定までのリクルーティング全般、リサーチの設計を行います。その傍らでデザイナーはプロトタイプの作成をし、5日目にリサーチ当日を迎えます。
そしてリサーチ翌日にはUXリサーチャーがレポートをまとめ、改善点を活かしながら次回のリサーチに向けてまた同じように動いていきます。このようにUXリサーチのプロセスを週次で高速にまわすのがアジャイルUXリサーチです。
アジャイルUXリサーチのメリットとして、コストとデリバリーの観点が大きいと考えています。
メルペイではリサーチ対象者のリクルーティング業務をリサーチ会社に協力をお願いしていますが、月初にリクルーティングをまとめて行うことで予算やオペレーションの人的コストの削減ができます。
「リサーチしたい」と思ってからリクルーティングに動き出すと数週間かかってしまうこともありますが、あらかじめ曜日を固定しリサーチできる枠を用意しておくことでデリバリーが早くなります。
eKYCのケーススタディ
このアジャイルUXリサーチを活かしたケーススタディとして、eKYC(electronic Know Your Customer)の事例をご紹介します。eKYCとは本人確認をオンラインで行う機能になります。
下の写真のように免許証を手に持ち顔を同時に写しながら、指示に従って顔を動かしたり、免許証自体を動かしたりしていただくことで本人確認の精度を高めるもので、この機能は日本で初めてメルペイがリリースしました。
eKYCはお客さまにとってこれまでに見たことのないような本人確認の体験となります。そのため、リリース前に14週間にわたって56名に綿密なリサーチを行いました。
リリースまでのスケジュールとしてまず2018年11月にeKYC関連の法改正があり、日本でも実施可能になりました。そこから急いで検討を進め、2019年1月からプロトタイプを作成し、リサーチを開始しました。2019年3月から開発環境でのユーザビリティテストを毎週積み重ね、無事2019年4月にリリースすることができました。
このプロジェクトを通してアジャイル UXリサーチは小さく失敗しリスクを回避できることを体感しました。
eKYCのように日本で初めて出す機能で正解がなく、不確実性の高い全く新しい体験であっても、毎週のアジャイルUXリサーチを通してファクトベースで意思決定を小さく積み重ねて改善していきました。
初期のプロトタイプでのタスク完了率は1/4でしたが、リリース直前には4/4まで達するときも増えてきて、プロダクトチーム内でもある程度自信をもってリリースすることができました。
よく聞かれること
最後によく聞かれることとして、皆さんの現場で取り入れるためのアドバイスをご紹介します。
これからUXリサーチを始める方
まずはじめにつまづくのは、UXリサーチにかけられる予算がないということかと思います。その場合、まず社内で協力者を募って小さく社内UXリサーチをやってみましょう! 社員のご家族やご友人などを対象者として紹介いただくのも一つの手です。
UXリサーチの必要性を理解してもらい組織に文化を作っていくには時間もかかるので、ぜひリサーチプロセスに巻き込んで、効果を体感してもらいながら推進しましょう。
すでに実践しているがもっとアジャイルにしていきたい方
アジャイルUXリサーチではオペレーションがとても大変です。できるだけルーティーン化の工夫をして、一人で抱え込まずにときには外部パートナーの力を借りながら推進しましょう。
メルペイの場合は上述のとおり、リサーチ会社にリクルーティングをお願いしている他、リサーチアシスタントに細かなオペレーションのサポートをお願いしているおかげで成り立っています。
ぜひアジャイルUXリサーチを取り入れて、より良いサービスをつくっていきましょう!
参考: