言うまでもなく、UXの指標は記録するべきです。そもそもUXを測定しなければ、パフォーマンスを把握することも、デザインを変えたことで改善したかどうか判断することもできません。効果を測定できないとしたら、どのようにUXに対する投資が正しいと判断できるでしょうか?
実際、測定できるものは本当にたくさんあります。測定し得るUXの指標は、現在でも増え続けています。CXPartnersは、127個ものUXのKPIや指標をリストアップしています。ただ、彼らも明確に指摘している通り、127個の要因すべてを計測しようとするのは馬鹿げています。では、どの要因に注目すべきなのでしょうか? 測定の方針を判断する助けになるよう、私が重視すべきだと考える6つの主要なUXの指標を紹介します。
1. 顧客満足度
顧客満足度は、おそらくプロダクトやサービスが提供するユーザー体験のクオリティを判断する最善の尺度でしょう。結局、悪い体験から顧客満足につながる可能性は低いのです。特定の機能や当日の体験、もちろんすべての体験についても、どの程度満足しているかをユーザーに尋ねることができます。現実の世界では、人々は満足よりも不満を口にすることが多いので、ユーザーに自分の体験について、「非常に不満だった」から「非常に満足している」までの5段階または7段階の尺度で評価してもらいましょう。
サーベイは、アプリ内のフィードバックやWebサイト利用時のフィードバックと並んで、顧客満足度を把握する効果的な方法です。ほとんどの指標と同じように、評価の数字だけではなく、背後にある理由も理解することが重要です。そのためには、ユーザーが低い評価、または高い評価を選んだ際に説明を求めるべきでしょう。
2. レコメンデーション
満足度と同じように、レコメンデーション
もUXを測定する有効な尺度です。言うまでもなく、素晴らしい体験をしたユーザーはそのプロダクトやサービスを誰かにすすめる可能性が高いでしょう。したがって、レコメンデーションの可能性を測定することが、ビジネスの世界で流行しているのも驚くべきことではありません。レコメンデーションの測定には、主にネットプロモータースコア(NPS)が使われています。
NPSは非常にシンプルな方法です。のちに述べますが、シンプル過ぎるとさえ言えるでしよう。次のような1つの質問をすることで、NPSを計算することができます。これにより、顧客がどれだけプロダクトやサービスに強い愛着をもっているかを知ることができます。
このコンセプトは非常に魅力的に見えますが、Jared Spool氏が素晴らしい記事『NPSの弊害と、それに対してUXの専門家ができること』の中で指摘しているように、NPSは多くの人が思うほど万能ではありません。実際は、非常に危険で誤解を生みかねない解決策です。
他人に紹介したからといって、必ずしもその顧客が優れたユーザー体験をしたことにはなりません。そのユーザーが単にブランドの愛好家だった場合もあります。逆に言えば、優れた体験が絶対にレコメンデーションにつながるわけでもないのです。
ヨーロッパ最大の格安航空会社であるRyanairを例に考えてみましょう。Ryanairは、ここ数年でWebサイトとモバイルアプリのUXを目覚ましく向上させており、それらを使った搭乗も抵抗なく行えるようになりました。しかし、私は去年Ryanairの飛行機で素晴らしい体験をしましたが、友人や同僚に紹介しようとはまったく思いません。私は彼らが何年にも渡って、私はRyanairが顧客に対して劣悪な対応をしてきた過去をまだ許すことができないからです。どれだけ彼らが改善しようと、私は決して推奨しないでしょう。
プロダクトやサービスを他人に勧めるかどうか10段階で評価してほしいとユーザーに頼むことは、ユーザーに多くの疑問を生じさせることになります。評価2と評価3の違いは何でしょうか? 評価5と評価6はどう違うのでしょうか? 友人には勧めても同僚には勧めないとしたら、どうすればいいのでしょうか? あるシチュエーションでは勧めても、別のシチュエーションでは勧めないとしたら、何と答えればいいのでしょうか?
さらに悪いことに、NPSはユーザーの回答に応じて、彼らを単純な3つのグループにまとめてしまいます。評価0~6は「批判者」、7~8は「中立者」、9~10は「推奨者」というグループです。
NPSスコアは、推奨者の割合から批判者の割合を引いたものです。中立者は話題にすら上がりません。問題なのは、NPSが単純化した総計であることです。0という評価は6という評価よりもはるかに危険であるにもかかわらず、NPSはこの2つを一括りにまとめてしまいます。
したがって、UXの変更が必ずしもNPSスコアに反映されるわけでもありません。たとえば、以前はレコメンデーションの可能性を0と評価していたユーザーを、次の機会に6ポイントも改善できたとしても、彼らはまだ批判者のグループに分類されるため、スコアには何の影響もありません。
これらの理由から、私はJared Spool氏のように、推奨度を追跡するために標準的なNPSの質問を使用しないことを推奨しています。代わりに、以下のようなよりシンプルな質問を使用してください。
こちらの方法なら、ユーザーが悩むような選択肢が少なく、結果を分析することも簡単にできます。
もし会社や組織の要請でNPSを報告しなければならないなら、レコメンデーションの可能性をNPSのスコアだけで求めるのではなく、チャートやデータも用いて可視化することをおすすめします。
もしすでに利用されているプロダクトやサービスなら、過去に友人や同僚に勧めたことがあるか尋ねることができるでしょう。実際のレコメンデーションのほうが仮定の状況よりも効果的な尺度になります。
3. ユーザビリティ
ユーザビリティは昔ほど差別化要因にはなりませんが、依然としてプロダクトやサービスのUXにおいて非常に重要な要素です。使いにくいものから優れたユーザー体験は生まれません。
ユーザビリティの全体像を把握する優れた方法は、ユーザーに「非常に使いにくい」から「非常に使いやすい」までの段階で、プロダクトについて表現してもらう評価してもらうことです。
システムユーザビリティスケール(SUS)は、ユーザビリティを計測する一般的な方法です。SUSは10個の質問から構成されていて、ユーザビリティテストのあとに尋ねたり、プロダクトやサービスを使ったことのあるユーザーに投げかけたりします。質問は幅広いユーザビリティをカバーしていて、バイアスを排除するために順番はランダムに変えています。
usability.govのSUSテンプレートのようなテンプレートは、点数計算のメカニズムがあまり複雑ではないので最適です。スコアは1から100までの尺度で表され、点数が高いほどユーザビリティが優れていることを示します。
SUSのスコアはユーザビリティのベンチマーキングにもっとも有用です。変更前のプロダクトと比較したり、似ているプロダクトやサービスと比較したり、遡って測定することができます。
ただし、注意すべき点として、SUSのスコアは100点満点で表されるので、単位をパーセントだと誤解して、50というスコアは50%のユーザーがインターフェイスが使いやすいことを表していると考えてしまいがちです。よくある誤解ですが、SUSのスコアはパーセンテージではなく相対的な尺度です。そのため、SUSのスコアを紹介したり、説明したりする際には十分に気をつけてください。
4. レーティング
AmazonからAppleのApp storeまで、レーティングはネット上の至るところに存在します。プロダクトやサービスのクオリティを測る際にレーティングは非常に有効なので、これは必然の結果です。全体的な評価とともに、プロダクトやサービスのそれぞれの機能や側面に対する評価もユーザーに求めましょう。
尺度は5段階にすることを忘れないでください。また、可能ならレーティングだけでなく、背後にある理由も把握するようにしましょう。
5. ユーザーのタスク
タスクはUXの中核をなす要素です。というのも、ユーザーのタスクを支援できなければ最高のユーザー体験を提供することはできないからです。タスクに対する指標は、ユーザーがそのタスクを試行した直後に測定する必要があります。多くの場合ユーザビリティテストのあとか、ユーザーセッションの最中が該当するでしょう。
指標として「ユーザーのタスク」を測ると言っても、実際には注目すべきたくさんのタスクの指標が考えられるので、まとめて扱うのが少し強引なのは承知しています。たとえば次のような指標があります。
- 達成率:タスクを無事に完了できたユーザーの割合。
- エラー率:タスクの最中にエラーやミスを犯したユーザーの割合。たとえば、Web サイトの間違った場所に行ってしまった場合などがあります。
- 平均エラー数:タスクの中でユーザーが犯したエラーやミスの平均数。
- 所要時間:ユーザーがタスクを完了するまでにかかった時間。ユーザーの生産性に対する潜在的な影響を測定したいときには特に有効です。
- 達成難易度:タスクの達成しやすさ。これを把握するには一言で難易度を答える質問(SEQ)が最適です。
6. プロダクトの表現
あなたなら、下の写真のようなFerrariのスポーツカーをどのように表現しますか? 「ワクワクする」、「スリリング」、それとも「魅力的」でしょうか? では、トヨタの車ならどうでしょうか? 「実用的」、「信頼できる」、「さえない」などかもしれません。プロダクトやサービスを表現するのに使われる言葉はとても示唆的で、提供されるユーザー体験を理解する優れた方法です。
プロダクトがどのように表現されるのか知る最善の方法は、Microsoftのプロダクトリアクションカードを使うことです。以下の画像のように、ユーザーに形容詞のリストから、プロダクトやサービスを表していると思うものを5つ選んでもらいます。この手法は、ユーザーテストのあとや、もちろん実際のユーザーに対しても使うことができます。使い方の説明として、プロダクトリアクションカードを使ってどのようにユーザーのフィードバックを理解するのか示した私のガイドラインがあるので見てみてください。
どのUXの指標を使うべきか
注目すべき6つの重要なUXの指標を紹介してきましたが、これらがプロダクトやサービスを評価する際に使える指標のすべてではありません。では、どの指標を使うべきなのでしょうか? 残念ながら、難しい質問に対する回答としてよくあるように、「場合による」としか答えられません。どの指標を選ぶのかは目的次第です。また、なにを計測できてなにを計測できないのかにも依存しますし、どのような成功を求めるのかにもよります。
フレームワークは、適切な指標は何なのか特定するのに有効です。たとえば、GoogleのHEARTフレームワークは素晴らしいフレームワークです。レコメンデーションや満足度、レーティングといった主観的な指標だけでなく、コンバージョン率や売上、登録数といった客観的な指標も組み合わせて使わなければなりません。
値を把握するだけではなく、その理由を理解することも必要です。顧客満足度が過去30日間で下落したことを知るのも重要ですが、なぜ下落したのか知ることはさらに重要です。このような定性的な情報を得るためには、オープンエンドの質問や、もちろんユーザーとできるだけ頻繁に会話することも有効です。
最後に、求めなければならないのは結果であることを忘れないでください。UX指標を追いかけるあまり、本来の目的を見失ってはいけません。プロダクトやサービスのUXを向上させる必要は当然ありますが、最終的に事業にとって大切なのは売上や顧客の数です。BasecampのRyan Singer氏が述べたように、注目するべきなのは結果であり、UX自体ではなく、UXでなにをするのかが重要なのです。
あなたがUXを提唱することで人が聞く耳をもたなくなるなら、UXを提唱するのをやめなさい。UXによって良くなったものを探し、それを提唱しなさい。その変化によってどうマーケットフィットが変わったか、どうコンバージョンが上がったか、どう口コミが広がったか、どうコストは下がったか、など…