UXデザイナーがキャリアを進むにしたがって、新たな挑戦を目指すようになるのは自然なことです。
成長する機会を追い続けることで、デザイナーは専門分野に精通し、利発でいることができます。毎日UXデザインのタスクをこなす地位から、スケールの大きな問題解決に焦点を当てる役割に移ることも考えられるでしょう。
会社の視点からみれば、デザイナーは「UX統括責任者」とか「UXディレクター」といった肩書をもつリーダー職に昇進します。より小さな事業者や代理店においては、経験を積んだデザイナーが「リーダー」になって、UXチーム全体を監督することもよくあります。
最近では、「UXコンサルタント」という肩書が人気を博していますが、この役職は具体的になにをするのでしょうか? デザイン業界において、「コンサルタント」という言葉は不当に高い対価を要求する助言者や、自分ではなにもしないのにやたら提案を持ち込んでくる人を想起させます。
そのような人がUXコンサルタントなのでしょうか?
UXコンサルタントという神話
不満があるからこそ成長があります。不満のおかげでデザイナーは自分を省みることができ、変化によって前進しようと真剣に考えるようになります。しかし同時に、不満のせいで現実を直視しなくなったり、新たな環境で得られる利益を過剰に考えてしまったりもします。
隣の芝はいつでも青くみえるものです。
UXデザインはときとして単調な仕事でもあります。時間がかかりますし、重要とはいえタスクは反復的です。せっかちなステークホルダーにデザインの専門家としての意識や意義をじわじわと奪われることもあります。
キャリアを変える必要に迫られたとき、デザイナーはUXコンサルタントの仕事について間違った想像をしてしまうかもしれません。そこで、よくある誤解を解いていきましょう。
1. UXコンサルタントはUXデータから離れて活動することはありませんし、少なくともすべきではありません。UXの方法論を無視した直感や意見によって報酬を得ているわけでもありません。
2. UXコンサルタントは、UXデザイナーより知的な業務を担当するわけではありません。コンサルタントはデザイナーとは異なる種類の責任を負いますが、専門的に優れているわけではありません。
3. UXコンサルタントに特別な権威があるわけではありません。他人の考えを馬鹿にしたり、軽視したり、排除したりするために雇われるわけではありません。
4. UXコンサルタントは、決して独りでプロダクトの問題を調査して解決策をつくり出すような一匹狼ではありません。
5. UXコンサルタントはただの「アイデアマン」ではありません。自分がみつけた知見と提案をレポートにまとめ、多くの場合は実際にデジタルプロダクトのデザインや修正にまで関わります。
フリーランスのUXコンサルタントの仕事
まずは、当たり前のことでも決して見過ごすべきではないポイントから始めましょう。UXコンサルタントはアプリやSaaSプロダクト、WebサイトのUXを向上させるために企業に雇われます。簡単なことだと思うなら、それは間違いです。
人間の体と同様に、デジタルプロダクトも驚くほど複雑です。不安定になることも、病気になることさえあります。会社がコンサルタントに連絡を取るとき、彼らは往々にして症状に気づいてはいるものの、治療の方法がわかりません。彼らは専門家による診断と対処法を求めています。
システムを1ヶ所変更すると、ほかのあらゆる部分に影響を与えます。UXコンサルタントは個々の問題に順番に対処するのではなく、デザインの「病気」を治すために総合的なアプローチを取らなければなりません。
では、総合的なアプローチとはどのようなものでしょうか?
クライアントが誰で、なにを求めているかの理解を助ける
独りで大規模なユーザーリサーチのプロジェクトを管轄することは難しいですし、ほとんど不可能です。したがって、UXコンサルタントはクライアントが自分たちの顧客についてどこまで知っているのか理解しなければなりません。それには、往々にして会社の経営陣とじっくり話して、重要なインサイトを引き出す必要があります。
この段階においては、コンサルタントはユーザーインタビューを実施したり、アンケートを企画して集めたり、顧客が会社のプロダクトをどのように使っているかに関わるあらゆる既存の定量的なデータを評価したりします。
アプリ、SaaS、Webサイトの監査を実施する
同じプロジェクトは一つとしてありませんが、UXコンサルタントは何年もの経験で一定のパターンを見出すものです。うまくいかないことが、驚くほど明確にみえます。なぜなら、信頼できるデザインの原則と戦略を把握しているからです。
アプリやSaaS、Webサイトを監査するために雇われたコンサルタントは、過去の経験とインターフェイスデザインについての豊富な知識に基づいて、悪いデザインの特徴を強調したレポートをつくり上げます。
監査を行えばあらゆる問題点を明らかにできますが、簡単に改善できる問題ばかり強調してしまう傾向があります。たとえば、以下のような報告をしがちです。
この画像と膨大なテキストのかたまりを取り除いて、わかりやすいコールトゥアクション(CTA)ボタンを置けば、すぐに顧客のコンバージョンを達成できるだろう。
プロトタイプをつくり、ユーザビリティテストを実施する
監査によって隠れたUXの問題(情報設計が弱いなど)が明らかになったら、簡単な修正では効果がないので、コンサルタントは包括的な手当を施行しなければなりません。そのためにはプロトタイプをデザインして、テストし、反復する必要があります。
プロジェクトに応じて、コンサルタントがどれほど細かい部分まで追求するべきかは異なります。しかしほとんどの場合、機能的なワイヤーフレームと手ごろな数のターゲットユーザー(5~7人)が揃えば、デジタルプロダクトのユーザビリティについて明確な全体像が得られるでしょう。
UX戦略を立案する
デジタルとの接点は日々進化しています。ハードウェアやフトウェア、プラットフォーム、そして社会の期待値は流動的に変わります。もし事業が今日(こんにち)の技術だけを前提に計画されたら、あっという間に時代遅れになってしまうでしょう。そのため、徹底的にユーザーに注目した戦略的な計画をもとに運営するべきです。
- ユーザーはなにを望んでいるのか
- ユーザーはなにを必要としているのか
- ユーザーはなにに時間を使っているのか
- ユーザーの行動や技術が変化したとしても、世界最先端のUXを提供し続けるにはどうすればよいのか
これらは大きな問題です。UXコンサルタントはデザインについて包括的で俯瞰的に理解できるので、企業がデジタル業界で生き残っていくために必要な解決策のフレームワークを提供する資質を備えています。
継続的に方向性を示し、UXの有効性を計測する手段を提供する
コンサルタントは単発のレポートを書くだけではなく、問題が発生したときにクライアントを放置することもありません。戦略がつねに想定通りに実行されるとは限りませんし、提案は見直す必要があるかもしれません。
多くのコンサルタントは企業が提供するUXが健全な状態を保つためのアドバイスを包括的な目線から与え続けるために、何度も雇われたり、常勤として働いたりします。
主要なスタッフから信頼されて、彼らを教育する
コンサルタントはほかのスタッフがもっているような社内の経験を共有していません。多くの場面において、コンサルタントは部外者です。
UXコンサルタントができるもっとも重要な仕事の一つは、スタッフ達をプロセスに巻き込み、必ず成し遂げなければならない変化に向かってモチベーションを高める理由を与えることです。必要に応じて、彼らに教育を施すこともあるでしょう。「次のように変更します」と宣言するだけではなく、「変更しなければならない理由があり、次のような方法でUXを改善していきます」と説明しましょう。
このような活動を怠った場合、スタッフがコンサルタントに敵対的な姿勢を強めてしまう可能性があります。
UXデザイナーとUXコンサルタントの重要な違い
普段の仕事について、デザイナーとコンサルタントには確かに重なっている部分があります。しかし、重要な相違点も同時に存在します。UXコンサルタントは、クライアントからの一連の期待に応えるために業務を行います。そのため、優先順位とマインドセットにそれぞれ違いがみられます。
それぞれの主な役割の特徴をみてみましょう。
UXコンサルタント
1. ユーザーリサーチの必要性を強調し、関連性が高く適切な調査活動を通じてクライアントを率いる
2. 企業のデジタルプロダクトについて相対的な評価と監査を提供する
3. 包括的なプロトタイプとユーザーテストを実施する
4. UXやコンテンツの戦略を立案し、実装する
5. ステークホルダーとスタッフに、UXのベストプラクティスについて効果的な情報を提供する
6. スタッフを教育し、巻き込み、起こそうとしている変化に対してモチベーションを上げてもらうことで、組織の成長とスタッフからの信頼感を高める
7. トップダウンで専門的な観点から会社全体のUXへの取り組みを導き、影響を与える
8. UXの向上を計測するための手法とツールを提案する
UXデザイナー
1. UXプロセス内の特定のタスクに対して、専門家として取り組むことに注力する
2. 企業のリーダーの指示のもとで働く
3. デジタルプロダクトにおけるUXの一部分を担当する
4. デザイン原則や、それがUXデザインプロセスに与える影響についての有用な知識を保有する
5. UXデータとリサーチから得た知見を解釈し、デザインに導入する
6. プロダクトのデザインを何度も反復し、改善する
7. プロダクトのあらゆる問題やニーズについて、企業のリーダーやステークホルダーと共有し続ける
UXコンサルタントになる2つの道
UXコンサルタントの仕事について知ることと、どのようにUXコンサルタントになるのかを知ることは別の話です。
フリーランスのUXデザイナーであれば、もともと起業家のようなライフスタイルを送っているので、普段の仕事の中にUXコンサルタントになる道はあるでしょう。組織のリーダーを捕まえたり、クライアントに売り込んだり、自分でプロジェクトを管理したりする作業は、フリーランスにとってすでに日常的なものです。コンサルタントを志向するフリーランスのUXデザイナーにとって最大の課題は、自分のサービスの性質を変えなければならないことです。旧知のクライアントに変更を説明し、新たなクライアントに売り込む方法を学び直す時間が必要でしょう。
完全なフリーランスを経験したことがないUXデザイナーにとっては、安定した仕事を辞めていきなりコンサルタントに挑戦するよりも、はるかに合理的な方法が2つあります。
方法1. コンサルティングファームで実際のUXコンサルタントから学ぶ
コンサルティングに興味はあるものの自営業の世界に少し心配を感じる人は、コンサルティングファームで働いてみるのもよいでしょう。有名なUXのコンサルティングファームには、Accenture Interactive、Boston Consulting Group、McKinsey、Forrester、IDEO、Frog Design、Fjordなどがあります。
コンサルティングファームで仕事をすれば、さまざまな業界のプロジェクトに触れられるだけでなく、UXコンサルティングプロセスの一部始終を学べる機会も得られます。組織によっては、デザイナーであってもプロジェクトについての意見を見積もったり、プレゼンテーションへの参加や、クライアントへのアイデアを提案を求められることもあります。
コンサルティングファームで働くという経験を最大限に活かすために、デザイナーはつねに観察を怠らず、UXのビジネスとしての側面を学び、慣れない役割に挑戦しなければなりません。そうでなければ、長い間に染み付いてしまった「従業員」というマインドセットを捨てることは難しいでしょう。
方法2. 本業を続けながら、有償の小さなプロジェクトから始める
安定したUXの仕事をしながらコンサルタントを目指したいなら、本業を続けつつ、対価が得られるプロジェクトも少しずつ増やすことを考慮してください。
UXの改善から恩恵を受けるかもしれない信頼できる人々と、個人的な関係を築くことから始めましょう。かつての雇用主、中小企業の経営者、地域組織のリーダーなども有力な選択肢です。将来的な見込み客や、完璧な売り込み方法について憂慮してはいけません。営業スキルは、成長するのに時間がかかります。誠実さや謙虚さ、話を聞こうとする姿勢が、クライアントを獲得する最大の要因です。
仕事を3つか5つこなしたら、新しいコンサルタントも、仕事のプロセスやコミュニケーションのスタイル、こなせる最大限の量のプロジェクトを受け続ける方法を深く理解できるでしょう。
もう一つ重要なことがあります。無償の仕事や、サービスとして行うプロジェクトは引き受けないようにしましょう。こういった仕事にはあらゆる問題がともないますし、クライアントからの期待もまともではありません。割引料金を提示することは構いませんが、価格を見積もり、クライアントから資金を集める作業から学ぶべきことは多くあります。
UXコンサルタントになるには思考の変化が必要
UXデザインの分野には驚くほどさまざまな機会があります。どのような業界も、解決を待ち望んでいる困難な問題や、1人のコンサルタントの知識を統合しても足りないような問題を抱えています。
UXコンサルタントとは、デザイナーがキャリアを通して経験するさまざまな役割の一つにすぎません。
コンサルタントになることを検討している人は、次の言葉を覚えておいてください。
肩書きを得たからと言って、自動的に満足感が得られるわけではありません。
もっとも幸せな労働者については、次のような調査結果が何度も示されています。
- 自分の能力に見合った仕事をする
- 自分のスキルを他人のために使う
- 自分を信用し、サポートしてくれる人や組織と協力する
UXコンサルタントになることは、地位を固めるために必ずしも必要なわけではありません。単なる新しい挑戦の一つです。正しいマインドセットと洗練されたスキルセットをもっているデザイナーにとって、UXデザイナーからUXコンサルタントに変わることは、デザインの世界で生きる挑戦とやりがいに満ちていて、あらゆる面で不確実な出来事に驚かされるでしょう。