エシカルデザインをどのように実践すべきか(後編)

Lennart Overkamp

Lennart Overkampはインサイトに基づいたインタラクションおよびサービスデザイナーとして、アクティブリスニングのパワーを強く信じ、人々の生活に真の価値をもたらすプロダクトやサービスをデザインするという、道徳的な責任を全うすることに力を注いでいます。

この記事はA List Apartからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Daily Ethical Design

この記事は前編と後編に分かれています。
エシカルデザインの定義やその重要性についての前編はこちら。
エシカルデザインをどのように実践すべきか(前編)

エシカルデザインをどのように日常で実践するか

ここで、倫理をデザインプロセスに構造的に統合するにはどうすればよいのか、という疑問にたどり着きます。日常的に下すデザインの決定が、きちんとユーザビリティやアクセシビリティに優れたプロダクトとして落とし込まれているのか、どのように確信できるのでしょう? 人々のプライバシーや企業、集中の度合いは守られているでしょうか? また、社会と自然界の双方に利益をもたらしていますか?

いまの時点で私が考えるベストプラクティスと、私が所属するMirabeau社での最近のプロジェクトで、それをどのように適用したかを紹介したいと思います。このプロジェクトの目標は、電気シェーバー工場の従業員たちに、生産材料のリアルタイムな在庫の見通しを提供するWebアプリケーションを構築することでした。

組織のミッションと価値につなげる

デザインを企業のミッションと価値に結びつけることで、戦略的に且つ倫理的にデザインの技術を使うことができます。企業がそのミッションを本当の意味で追求できるのかを試し、それを成し遂げるためにサポートすることができるのです。ただし、これにはあなたが企業の価値を十分に認識し、それをあなた自身の価値と比較する必要があります。

以前、今回例に挙げている企業と仕事をしたとき、私はその企業は社員を大切にし、よりよい社会環境をつくることに力を注いでいる企業であることを認識していました。キックオフの段階で、この企業のミッションと価値を構築し、プロジェクトを成功させるための要因について意見を合わせるために、戦略ピラミッドを使用しました。顧客向けのブランドガイドラインを、組織の本質を保持した社員向けのデザイン原則に変換したのです。

仮説の跡をたどる

デザインのプロセス全体を通して、私たちは各段階で下す決定に対して仮説を立てます。これらの仮説を構造的にたどることで、デザインが生み出す制限と、ユーザー、プロジェクト、企業、そして社会に与える有害な影響に関する潜在的なリスクがどこに潜んでいるのかを把握することができます。

今回の例では、アプリケーションの各ページにおけるユーザーの目的、コンテンツ、および機能についての仮説をリストにまとめました。エンドユーザーの価値、またはユーザーの目的の正確性について確信が持てない場合は、「価値仮説」と記しました。

また、データを利用できるかどうかわからない場合、これを「データ(実行性)仮説」としました。ある機能がその製造者のビジネスを向上させるかどうかがわからない場合は「スコープ仮説」として記録したのです。

毎週、ユーザーテストとスプリントレビューを通じて、エンドユーザーと取引先の関係者で仮説についてテストをおこないました。こうしてデザインを繰り返すことで、その翌週に取り組むべき新たな課題と仮説が見えてくるのです。

間違いを積極的に探し出す

私たちの仮説が「認識された不明点」である一方、私たちが気づいていない、しかし仕事の質と影響にとって大きなリスクとなり得る「認識されていない不明点」もつねに存在します。これらを特定する唯一の方法は、反証可能性と呼ばれる科学的原理を適用することです。

つまり、積極的に間違いを探し出すのです。プロジェクトに関わっていない人だけが、個人またはチームとして犯しているミスを指摘することができます。私たちが毎週おこなったユーザーテストには、コンセプトを崩しかねないエッジケースを特定するために、異なる分野、部門、環境で働く工場の従業員やステークホルダーにも参加してもらいました。

あるとき、これは私たちのコンセプト全体を再考させるきっかけになりました。もっと改善の余地はあったのです。というのも、他の工場へのスケーラビリティは重要な成功要因の一つでしたが、プロジェクト進行中にそれらの工場からインプットを得ることはできませんでした。私たちに残された唯一の選択肢は、これをリスク(「スケーラビリティの制限」)として記録することでした。

チェックリストの有効利用

私たちは誰もが物事を忘れてしまいます。ここでチェックリストが役に立ちます。チェックリストさえあれば、私たちは簡単に溢れかえってしまいそうな記憶の海の中で何かを探し出そうとする必要もありません。シンプルでありながらパワフルなチェックリストは、日常的なエシカルデザインをこなすのに不可欠なツールです。

今回の例のプロジェクトではユーザーテストに対する質問と仮説の概要をまとめるためにチェックリストを使い、デザインの原則が正しく作られているか、また、クライアントの価値、デザイン原則、成功要因の同意を遵守できているかを確かめました。あとから考えてみると、コンセプトの段階で少し時間を取ってデザイン倫理のフォーカスすべき点のリストを見直したり、アクセシビリティガイドラインをチェックするためにもっと構造的なアプローチをとることもできたかもしれません。

エシカルデザインを日常的に実践するための課題

倫理面でフォーカスすべき点のほとんどは非常に具体的であり、デザインも多くの場合は即座に目に見える形で反映されます。それ自体は確かに難しいことですが、とりわけ経験豊富なデザイナーたちにとっては、日常的な実践に比較的簡単に取り入れることができるでしょう。

しかしながら「社会」と「環境」は、もっと抽象的な存在だと言えます。これらの分野で私たちの仕事が与えるインパクトは遠く、不確実です。Airbnbが最初に考案されたとき、創業者は住宅市場への破壊的ともいえるインパクトの大きさを認識していなかったと断言できます。Instagramについても同じことがいえます。ファストファッションの需要を生み出す役割を果たすことになろうとは、予想できなかったことでしょう。

それを考えることは非常に難しいですが、決して不可能ではありません。では、どのようにしてこの課題を克服し、社会や環境に与える影響をより迅速で「日常的な」ものに変えることができるのでしょうか?

ダークリアリティセッションの実施

古代ギリシャの哲学者であるソクラテスは、人々の信念の無効性を少しずつ明らかにするために一連の質問を実施しました。これと非常によく似た方法で、私たちは「ダークリアリティ」セッションでコンセプトの仮説と悲惨な結果に繋がる可能性を明らかにすることができます。これは、難しい質問から成るコンセプトの負荷テストに焦点を当てたスペキュラティブデザインの一形式です。

まずは自分に問いかけてみましょう。チーム以外の誰かから問いかけてもらうのはさらに効果的です。質問はたとえば、次のようなものです。

  • 自分のプロダクトの寿命はどれぐらいですか?
  • ユーザーベースが数百万人になった場合でも対処できますか?
  • 経済、社会、環境に、長期的にどのような影響を及ぼすでしょうか?
  • あなたのデザインの恩恵を受けるのはどのような人たちでしょうか?
  • 損をする人は誰でしょうか?
  • 対象から除外される人はどのような人たちでしょうか?
  • あなたのデザインが悪用されるとしたらどのように使われるでしょうか?

(さらに詳しい質問については、Alan Cooper氏がInteraction 18上で、素晴らしいリストを提供しています)

ダークリアリティセッションのQ&Aのやり取りは、コンセプトの弱点と潜在的な結果を考え、特定するのに役立ちます。チームでの取り組みなので、それは議論を起こし、チームメンバーの倫理的価値観の違いを明白にしてくれるでしょう。さらに、このセッションで、潜在的なユーザーと特定領域の専門家にテストしてもらえる質問と仮説のリストが生成されます。

航空管制センターのプロジェクトでは、自動化における人間の役割と、デジタルインターフェイスが人間の能力をサポートし続ける方法(ただ置き換えるのではなく)、そして未来の社会における空港の役割についてより深く考えることになりました。

ダークリアリティセッションは、ダブルダイヤモンドの収束部分でもっとも頻繁におこなわれます。ここが現実的なアイデアに絞るデザインの段階であるためです。セッションには、高い質問スキルを備え、回答にもそう簡単に納得しない質問者をチームの外部から迎え入れることが重要となります。Tarot Cards of Techや、これらの倫理的ツールは、セッションの構築に役立ちます。

前に進むために、一歩引いてみる

デザイナーは、本来は楽観的な性格です。懸命に努力すれば、すべては体系的かつ創造的に解決できる問題であると考えるため、しっかりやろうと心がけます。しかし、単に善いおこないを心がけるというだけでは、十分ではありません。

特に日々の制約というプレッシャーのもと、私たちの考え方には悲惨な結果を招く可能性の落とし穴があり、それを見逃してしまっているかもしれません。そのため、定期的かつ体系的に一歩引いて、私たちの仕事が将来与える影響を冷静に考える必要があるのです。

この記事で紹介した、倫理に対する実践的で構造的な考え方が、デザインのより高いスタンダードを作り上げることに役立つよう願っています。


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