ここ数年、UXの重要性が認識される中、デザイン部門の手綱を握る役割はビジュアルデザインやUXデザインチームから選ばれてきました。その一方、ポストの空きとデザイン部門をリードする能力の両面から、リサーチャーは「ガラスの天井」に突き当たることがしばしばでした。デザイナーがリサーチスキルを身に付けたり、リサーチが一般化されたことでその知識がデザイナーに過小評価され、リサーチャーは度々、デザインチームで補助的なメンバーとみなされてきました。UXはリサーチなしにUXたり得ないという記事を書く人がいる一方で、多くのリサーチチームは人手不足が続き、人員削減の際は真っ先に削減対象にされ、度々リサーチャーのポジションはデザイナーの下に配置されてきました(デザインチームがリサーチチームの下につくことはレアケースです)。
このような役割の変更や統合の結果、組織内のリサーチチームの小規模化や、リサーチは「時間があるとき」に限られるといった事態が起きます。当然、このようなデザインチームの中のリサーチの役割の変化には多くの要素が絡んでいますが、デザイン部門のリーダーという役割にリサーチャーを含めないという傾向は変化していないようです。
組織の中でデザイン部門のリーダーとしての役割が大きくなっているにもかかわらず、デザイン出身者がリーダーの役割を担う多くの場合、不運なことにそのあとのデザイン部門のリーダーシップを拡大するような理想的な結果にはならないことが多いようです。Jony Iveのように、デザイン部門のリーダーが単にクリエイティブな性格をもつだけではないと解れば、企業はデザインリサーチャーにリーダーの役割を与えることで望む結果を得ることができると考えるかもしれません。
私の定義するデザインリーダーシップ
全てのデザイナーがリーダーとしてのスキルやパッションを持ち合わせていないように、リサーチャーも皆がデザイン部門をリードできるスキルをもっているわけではありません。たとえデザイナーとしてキャリアを始め、リサーチャーにシフトをしていたとしてもです。数え上げればキリがありませんが、以下が私が考えるデザイン部門リーダーが必ず取り入れるべき行動です。
才能を伸ばすコーチング
それぞれの長所、短所、目標の理解を深め、その知識を用いてキャリアを積む手助けをします。もし社内でチャンスがあるのであれば彼らを後押ししたり、彼らの興味や成長に適した組織が外にあれば紹介してあげます。
デザインチームのカルチャーを導く
デザインチームはクリエイティブの炎が大きく燃え続けるようコンスタントなメンテナンスが必要です。モダンな組織はしばしば、あえて従業員に不安の種を投げ、対応するように促します。デザインリーダーはつねにチームのカルチャーをフレッシュに保ち、チームに適したレベルの挑戦を与え、縦割りの組織になったり目の前のプロジェクトだけに没頭することを防がなければなりません。
デザインに関する決断を擁護する
たとえ定量調査/定数調査によって十分に裏付けられていても、デザインに関する決断には物議や反対意見が付き物です。無駄な仕事や修正、チームのモラル的な問題を避けるために下した決断についてチームが理解ができるよう、デザイン部門のリーダーはメンバーとの関係を築かなければいけません。
デザイナーの発言権を守るため、エンジニアや商品開発チームに影響力をもつ
デザインが経営幹部に入り込めるような幸運な組織にいたとしても、デザインに影響を与える重要な決断において同等以上の力をもつエンジニアや商品部門の経営幹部もいることでしょう。ただほとんどの場合、デザイン部門は別部門の下に付いており、デザインを考えながらも他部門のニーズとの妥協点を探す必要性はより高いものとなります。
予算内に収めながらデザインの価値を示す
社内のコンサル的な役割を担うにしろ他のチームに組み込まれるにしろ、スプレッドシートと顔を付け合わせながら、デザイン予算(もしくはより多くのデザイナー職)を確保するために奔走するのは、デザイン部門のリーダーであれば誰しも担う役割です。
デザイントレンドを推し進める
デザイン部門のリーダーシップに役立つリサーチスキル
デザイン部門のリーダーに必要なスキルのいくつかは、リサーチャーがより高い専門性をもち、より上位の役割をこなすために自然に身に付けるスキルです。リサーチャーがリーダーの役割を担う上で行使できるもっとも重要なスキルには、以下のものが含まれます。
共感を抱く
優れたリサーチャーとなるためには、デザインの使用者に共感を抱くだけでなく、ビジネスパートナーやステークホルダーに共感することも非常に重要な条件です。デザイン部門のリーダーは効果的な指導をするために個々のチームメンバーに共感を抱くだけではなく、商品部門やエンジニア部門などのリーダーと生産性のあるパートナーシップを築く必要もあります。リサーチャーはしばしば、他者に共感的な態度をとりサポートすることが自然にできているものです。
より客観的なデザイン基準のために個人的な意見を抑える
デザインリサーチは特定の立場に立ち、必ずしも客観的ではありませんが、リサーチャーは自身の観点や意見ではなく第三者の視点で結果報告することが絶対です。リサーチャーは新しい対象を研究していく中で自身の観点が誤っていたことを証明され、意見を変えることに慣れていますし、自分ではなく商品を使う人のために正しいことを追い求めるチームです。デザイン部門のリーダーはリサーチの結果や新しいデザイナー、トレンドによってもたらされたフレッシュな観点に触れて自身の意見を変更することに柔軟である必要があります。リサーチャーは、好奇心と新しい観点を学ぶ意欲によってキャリアを切り開いていくため、「強い意見をゆるくもつ」というスタンスの達人なのです。
リサーチ結果に基づいて変更をかけるために、エンジニア/デザイン/商品開発などの部門を説得する
リサーチチームにリーダー職が設けられているケースでも、彼らは一般的にデザインチームのリーダーと同じ立場ではありません。なぜなら、リサーチを基にアクションを起こしてもらえるかどうかは、相手を説得して感化することができるかに懸かっているためです。デザイン部門のリーダーはこれを大きな規模で実施できなければいけませんが、リサーチャーはキャリアの中でこの習慣を身に着けているため、特に適任と言えます。
リサーチ予算やプロジェクトリサーチ予算を切り盛りする
リサーチャーがリサーチチームを運営していて予算全体を管理しているにしろ、プロジェクトのリサーチ部分だけを引き受けているにせよ、リサーチャーは調査参加者のリクルートや謝礼にかかるコストやツール購入などの費用が予算に収まるよう切り盛りすることを学ばなければいけません。こうした予算は限られていることが多く、予算内で最大の効果を得るためにクリエイティブな方法を探します。デザイン部門のリーダーになったリサーチャーはこの知識を適用し、デザインチームの運営を改善し、財政的な責任を果たすことができるでしょう。
デザイナーのリーダーとリサーチャーのリーダーの特徴を比較
ここまではリサーチャーがデザインチームの理想に近いリーダーであるように語ってきましたが、公平を期すため、リサーチャーが苦手とする分野や、デザイナーの方がリーダーとして適しているであろうチーム/組織、そしてその逆(リサーチャーの方が適したチーム/組織)についても話していきたいと思います。
チームのリーダーに昇格したデザイナーは、デザイナー達の情熱やクラフトマンシップをより引き出す傾向があります。彼らはまた、素早い決断につながるデザイン的観点を取るという特徴があります。これは、より広い見解を取り入れた包括的なリーダーシップを発揮するリサーチャーとは対照的です。また、多くのリサーチャーは、データによって裏付けられていない立場を取ることをためらう傾向があります。ただこのことは、経験を積んで決断スピードの改善がなされるか、物事を先に進めるためとりあえず行動を起こすということに慣れることで改善されるでしょう。
上述の特徴から、UXデザインチームにブランディングやマーケティング、デザイン寄りの強い意見を求める組織はデザイナー出身のリーダーが適しているかもしれません。反対に、デザイナー達の意見を取りまとめて最大化したり、デザインチームと別チームとの緊密な連携を期待したり、デザインにおける意思決定に関して裏付けを求めるのであれば、リサーチャーがより適しているでしょう。リサーチャーは、定量データによってデザインの価値を組織に示すことに優れているのです。
このことはまた、デザイナーは創成期のデザインチームに適しており、リサーチャーは確立したデザイン慣習をもち、組織全体を考慮できるリーダーとなることを示しています。
まとめ
リサーチャーとデザイナーは両者とも、組織の抱える異なる課題に適した貴重な視点をもったリーダーとなりえます。
もし次のデザイン部門のリーダーを探す際、部署間の緊密な連携やデザインの価値を示すこと、個々のデザイナーの声にスポットライトを当てることを期待するのであれば、いつも候補に挙がるデザイナー職だけではなく、リサーチャーも考慮した方がよいでしょう。
リサーチャー自身も、自らをリーダー候補を降りない方がよいでしょう。優れたデザイン部門リーダーとは、自身はよいデザイナーではないかもしれませんが、分析的思考、情熱的好奇心、優れたストーリーテラーの素養を併せ持つ必要があり、リサーチャーはそれらを自然と習得しているものだからです。
また本記事では触れていませんが、優れたリーダーシップをもつ人が元々組織内で過小評価されているグループ出身だったり、自己主張が弱かったりすることもあるため、マネジメントやリーダーの候補を探す際は視野を広げてみることが重要です。