パンデミックが生んだニューノーマルなUXとは

Aaron Chichioco氏

Aaron Chichioco氏はDesign Doxaのチーフコンテンツオフィサーでありwebデザイナーです。 。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Quarantine UX: The “New Normal”

デジタル革命は何年にも渡って続いてきましたが、パンデミックがその変化を加速しました。MicrosoftのCEOであるSatya Nadella氏によると、「私たちは2年分のデジタルトランスフォーメーションが2か月で起こっている瞬間を目撃している」そうです。

ニューノーマルの時代に生き残るだけでなく、ビジネスが成長するためのカギとなるのは、ユーザー体験を重視したアプローチに切り替えることです。

パンデミックによるビジネスの変化

パンデミック以前、Starbucksのような企業は店舗内での顧客体験を重視していました。タブレットPOSシステムやインタラクティブな店舗内キオスクによって、オムニチャネルな購買体験を提供していました。その間、AirbnbやUberのようなシェアを軸としたビジネスモデルが流行しました。

しかし、このようなイノベーションはパンデミックの状況下ではもはや便利でもなければ求められてもいません。たとえば消費者は、店舗のタッチスクリーン・タブレットを使うことや赤の他人と同じ車に乗ることは、ニーズに沿わないばかりでなく、危険なことだと感じているかもしれません。

消費者にとって、以前とは異なるものが「必要不可欠」となっています。Amazon、Walmart、Targetといったブランドが提供する当日配達サービスは当初、贅沢なオプションと位置付けられていました。そうしたサービスはいま、年齢や経済状況、居住地やその他の属性に関わらず、ほぼ全ての消費者にとってマストだと考えられています。

この難しい時期に、消費者は利便性を優先しています。リスクを冒して実店舗で買い物をするよりも、クリック&コレクトや宅配といった接触のないオプションに喜んでプレミアム料金を支払うのです。

現在の状況において、利便性は贅沢ではなく必須なのだということを、ビジネスオーナーやステークホルダーは理解しなければなりません。接触に頼った実店舗での体験から考え方をシフトし、オンラインで効率的に、手早く、簡単にソリューションを提供することに注力するべきです。サプライチェーンやロジスティクスの信頼性を向上することとは別に、企業は顧客のニーズに応えるためにWebサイトのUXを改善する必要があるでしょう。

企業はまた、オンラインチャネルから流入する顧客から利益を得ようとする他社との激化する競争に勝ち抜かなければなりません。

実店舗でのみビジネスを行ってきた企業は、オンラインサービスに対する需要の高まりに恩恵を受けています。彼らはオンラインで獲得した新しい顧客を囲い込むため、新商品発売やロイヤリティプログラム、プロモーションなど、できることはなんでもやります。また、消費者は価格比較やレビューサイトに手軽にアクセスし、購入の参考にすることができます。これらの結果として、激化するECをめぐる競争をリードすることは難しくなっています。

UXデザイナーもまたパンデミックに影響を受けています。リモートワークによる課題と闘わなければならないのです。テストの参加者に接触が許されないこと、オンラインで調査を実施しなければいけないこと、チームメンバーと連携するために適切なツールの準備がないことなどが課題に含まれます。ビジネスオーナーは、商品開発の目的を達成するため、UXチームとコミュニケーションを取りながら協力するための新しい手段を取り入れなければいけません。

危機的状況の際には、多くの企業が商品開発を後回しにします。しかし、実はその逆が利益を最大化します。パンデミックの結果、イノベーションの必要性が巻き起こりました。買い物、学習、仕事が簡単にできるようデザインされた新しい商品やサービスの必要性です。各企業は、UXに配慮したデザインが、Webサイトのユーザビリティ・利便性・好ましさに繋がっているというマインドセットをもたなければいけません。

新型コロナウイルスのインパクトとUXの好機

オンラインでのユーザーの行動はこの半年間で大きく変化しており、ユーザー体験への注目は増しています。

  • 個別にカスタマイズされたオンライン購入体験が提供される場合、消費者は約48%多く出費する。
  • 79%の消費者がモバイルデバイスを使って買い物をしている。
  • ほぼ半数の消費者がデジタル決済を好む。
  • 2020年の最初の3か月で1,580万人がNetflixアカウントを作成した。

オンラインでの注文は146%の成長を見せ、オンラインで注文し店舗で受け取る(BOPIS)形式の注文は、新型コロナ感染症のピークで563%の驚異的な伸びを記録しました。

パンデミックの中でのビジネスは、以下のステージのいずれかに分類できます。

  • 生き残り:パンデミックを乗り越え、さらなる損失を出さずにサービス提供を存続することに注力している状態。
  • 順応:ニューノーマルに順応し、利益を出している状態。
  • 成長:業界のリーダーになり、生き残りや順応状態を乗り越え、成長している状態。

どのステージに置かれているかに関わらず、成功のカギは新型コロナウイルスによってもたらされた危機に対してUX戦略を適応させる能力にあります。以下に紹介するのは、顧客の新しいニーズに応え、ニューノーマルの中で顧客との強い関係性を築いたUXのベストプラクティスです。

オンラインカスタマージャーニーの改訂

カスタマージャーニーとは、目標(商品購入、支払い完了、etc.)達成までのユーザーとのすべてのやり取りで構成されます。そのプロセスにおけるすべてのチャネルとデバイスが含まれ、やり取りが複数回に渡る場合もあります。

カスタマージャーニーのほとんどがオンラインで始まりオンラインで終わる場合、デジタルタッチポイントのすべてに渡るシームレスな遷移を意識しなければいけません。消費者は商品の購入までに、複数のデバイスから複数のチャネルを利用するかもしれません。そのため、Webサイトはデスクトップとモバイル端末の両方に最適化され、そこから伝わるメッセージは一貫していなければいけません。各ブランドや小売店は、顧客のオンラインでの購買をアシストしたり、ロイヤルティプログラムやリワードプログラムで顧客を囲い込むためのより一層の努力が必要になります。

シームレスなUXは顧客との接触をシンプルにし、情報収集ステージから購入ステージまで押し上げる時間と労力を削減してくれます。また、顧客のニーズをできる限り早く満たすことにも役立ちます。カスタマージャーニー全体における全デバイスに渡る魅力的で便利なUXは、購入体験全体を向上させるのです。

ユニバーサルアクセスに注力する

素晴らしいユーザー体験のカギとなるのは、利便性・シンプルなアクセス・使いやすさです。企業はこれを念頭にECサイトをリデザインし、ユーザビリティの課題をあぶり出すため定期的にUX監査を実施するとよいでしょう。

サービスを提供するうえでの中断時間を抑え、ECサイトの読み込み時間を最適化し、スムーズな支払いプロセスをデザインするのは最低ラインです。また、デジタルに精通した人だけでなく、EC初心者やアクセシビリティ機能を必要とする人(年配のユーザーや特別な補助を必要とする人を含む)にも買い物がしやすいようなUX機能を追加するべきでしょう。

特別な補助を必要とする人が使いやすいようWebサイト改善をしない会社は、痛い目をみるでしょう。Mintelの調査によると、短期~中期的にみると、高齢者がECの成長を推し進めるだろうとのことです。また、アメリカ人障がい者の年間裁量支出は$2,000億を超える金額なのです。

ユーザーからのフィードバックを隔離時代のUXデザインに役立てる

国際的なペンキブランドであるDuluxは、ペンキの売上に苦心していました。ほとんどの顧客はペンキを購入する前に、壁に塗るとどのように見えるかを知りたいと考えていたからです。DuluxはWebcredibleという独立系デザイン会社にソリューションを依頼しました。彼らは、カスタマージャーニーマップ作成、テスト、調査という過程を踏み、ARを使ってペンキの色を確認できるアプリを開発しました。結果は目覚ましいものでした。お試し用ペンキの売上が65%アップし、仕入れ業者からの検索が92%アップしました。

UXテストによって得られるデータは、実行まで落とし込めるインサイトをもたらしてくれます。ユーザーに評価され、収益を押し上げるデジタル体験戦略構築の助けになるのです。

AIを活用してより個別にカスタマイズされたユーザー体験を提供する

消費者はパーソナライズされたデジタル体験を好みます。Accentureの調査によると、適切なレコメンド、適切なオファー、その他の個別にカスタマイズされた購買体験と引き換えであれば、行動データを提供してもよいと約83%の人が回答しています。

AIにより、ユーザー体験の個別カスタマイズや個々に合わせたコンテンツのキュレーションが簡単に手早くできるため、より高精度なパーソナリゼーションを実現できます。AIパーソナリゼーションは異なる顧客データセットをカテゴリ分けし、そこから価値の高いインサイトを抽出します。そのデータは自動化エンジンを通して、人の手を介さずに特定のアクションを実行します。また、顧客の行動を収集した情報を用いて、企業はWebサイトや商品、サービスに適切な改善を加えることができるのです。

対話式AIチャットボットをメッセージサービスに埋め込み、顧客がもっともアシストを必要とするチャネルに設置することで、個別化された情報とサポートを24時間365日提供することが可能となります。消費者データのモニタリング、インサイトの収集、カスタムソリューションの提供とは別に、チャットボットはデジタルチャネルでの継続的なサービス提供と漏れのないリードのフォローを保証してくれます。

ニューノーマルに向けた隔離時代のUX

新型コロナウイルスのパンデミックは、消費者行動からビジネスオペレーションまであらゆるものに深刻な影響を与えています。生命と生活の危機は不確実性を強め、各企業は生き残りと適応のために辛い選択を強いられています。

短期的な戦略は生き残りに必須ですが、人々の働き方・学び方・買い方・テクノロジー活用の変化は、パンデミックが終わったあとも長く続くことは明白です。そのため、新しい戦略を検討する際は、長期的なゴールに貢献できる戦略であるかも見極めなければいけません。

同時に、短期目標を達成するため、イノベーションへの寛容性と常識にとらわれない思考を取り入れる必要もあります。いまの小さな成功がこの危機的状況とその後の成功に向けた大きな一歩となるかもしれないためです。

パンデミックのために、利便性は贅沢ではなく必須となりました。かつてECの巨大企業の領域であった接触なしの購入や発送・宅配といったサービスは、今やあらゆる規模、あらゆる業界のビジネスに求められるものとなりました。ワクチンが開発され、外に出ることが「安全」となってからも、消費者はオンラインで働き、オンラインで学び、オンラインで発送し続けることでしょう。

この嵐を乗り切りたい企業にとって、消費者のトレンドに乗り続けることはマストです。フットワークが軽く、UXの改善に投資し、消費者の新しいニーズや行動に応じたUX戦略を立てられる企業は、現在の危機的状況に順応するばかりでなく、それ以上の成果を出すでしょう。彼らは成長を続け、大きな市場シェアを獲得し、パンデミックの後も業界のリーダーとなることでしょう。


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