2017年にテレビゲーム市場は1,000億ドルの規模にまで発展しました。Amazonは2014年にTwitchを10億ドルで買収した後、最近さらに別のテレビゲーム企業Curseを買収しました。
テレビゲームは、eスポーツが世界中のスタジアムを埋め尽くすのと同じように、一種のスポーツのような現象を巻き起こしています。Entertainment Software Association(ESA)は、昨年の時点で、アメリカ国内の世帯の65%で、少なくとも1人あたり週に3時間以上のテレビゲームに時間を費やしているとしています。
ゲームデザイナーが人々を魅了するテレビゲーム体験をデザインできるとしたら、プロダクトデザイナーはより優れたデジタルプロダクトをつくり出すために、これらのゲームデザインのコンセプトからなにを学ぶことができるでしょうか?
Toptal Design Blogで最近公開されたガイドで、デザイナーがゲーミフィケーションの技術がもつパワーをどのように活用できるかについてご紹介しました。そのコンセプトをまとめて、ここではデジタルプロダクトのデザインに適用できる5つの便利なゲームデザインのコンセプトをご紹介します。
1. 意味のある選択の作成
ゲームには「意味のある選択肢」という考え方があり、その多くは、The Witcher、Skyrim、Final FantasyなどのRPG(ロールプレイングゲーム)でみられます。これらの意味のある選択肢は、ゲームの中で永続的な結果につながるもので、一般的には道徳または社会的ジレンマと隣り合わせです。これは、プレイヤーとゲームの間に感情的なつながりを生み出すものでもあります。
意味のある選択肢は、魅力的なユーザー体験を生み出すものだと言えます。たとえば次のようなものです。
Airbnbの共同創立者であるJoe Gebbia氏は、「Designing for Trust」TEDトークで、自身のビジネスアイデアは新しいものでも、革新的なものでもなかったことを認めています。その理由としては当時、他企業が似たようなサービスをすでに展開していたからです。しかし、Gebbia氏が自身の最大の財産だと考えているものは、そのプラットフォームとブランドが、お金にまつわる経済的な部分ではなく、人々が中心になるべきであることを理解したことでした。
Airbnbは、UXデザインのリーダーであるCharlie Aufmann氏の記事「Designing for Trust」において、「有意義な体験を可能にするプロダクト」として、「ユーザーがお互いを理解できるようなプロダクトの構築」を目指すとしています。ゲストとして滞在するホストの家を探しているユーザーに対して、Airbnbの「自己紹介」欄には、ゲスト自身に関する簡単な情報とともに、シンプルな質問事項を含めることで、その答えを引き出すような工夫がしてあります。質問は、たとえば「アトランタを訪問する目的は何ですか?」というようなものです。
業界のアイコンとも言えるブランドを目指すというミッションのもと、Airbnbは「ブランドのパワーは感情に訴えかけるものである」という強い信念をもっています。そのため、デザインの原則はその信念に基づいているのです。より個人的で意味のあるデータを提供するよう、ユーザーを促すことで、Airbnbはゲストとホスト間だけでなく、ユーザーとブランドの間にも感情的なつながりをつくり出すことに成功しています。
2. ユーザーに挑む
ゲームを魅力的にする要因の1つは、ゲームを楽しむためのデザインです。ただし、「楽しさ」を達成するかどうかは、他の要素と同様、ゲームにそれなりのむずかしさが備わっているかにも関わってきます。ゲームが簡単すぎるとユーザーが退屈し、逆に難しすぎる場合にはプレイヤーはイライラするでしょう。
UXデザイナーたちは、プロダクトはできる限り使いやすくデザインするべきだと考えています。ただし、ユーザーに若干の難解さを提供することで、実際のエンゲージメントは向上するのです。
Tinderの例をみてみましょう。
オンラインの出会い系サービスは20年以上にわたって存在しています。恋愛の目的でインターネットを利用するというコンセプトは人々にとって、特に異質なものではないことから、Airbnbと同様にTinderの成功は、まったく新しい発明によるものだとは言えないでしょう。実際のところ、Tinderは「マッチング」を導入したことから人気を博したのです。
ほとんどの出会い系サイトでは、ユーザーがお互いにメッセージを簡単に送信できますが、Tinderは、両方のユーザーがお互いを右にスワイプしたときにのみチャットが可能にすることで、少々難易度を高めています。 ユーザーには、「マッチング」をもたらす魅力的なプロフィールを作成することが求められるのです。また、アプリ内での交流が少ない程、希望とは異なるメッセージが届くという側面も注意する必要があるでしょう。これは多くの場合、楽しみの正反対の結果につながるものです。
3. ユーザーをエンゲージメントのループにつなぎとめる
ゲーマーが時間を忘れて何時間もプレイに没頭する理由の1つは、プレイヤーを夢中にさせるようにデザインされているということがあります。ゲームデザイナーは、エンゲージメントループと呼ばれるものを作成することでこれを可能にします。
エンゲージメントループは、シンプルな3段階のサイクル(動機、アクション、フィードバック)に沿ったもので、このコンセプトは想像以上に多くのUXデザインに適用されています。
Facebookの中毒性が、エンゲージメントループにどのように関連しているかをみてみましょう。
上記のFacebookの例では、エンゲージメントループを次のように説明できます。
- 動機:ユーザーの興味を引きそうな記事を誰かが共有します。そしてこれはユーザーが興味をもつトピックであることから、コメント付けの動機となります。
- アクション:ユーザーはFacebookの投稿にコメントします。
- フィードバック:誰かがユーザーのコメントに返信し、同意する、同意しない、またはなにか新しいものを追加します。つまり、エンゲージメントループを繰り返すための感情的な反応につながるのです。
一般的にUXデザインのベストプラクティスは、エンゲージメントのフローがユーザーに過剰な通知を送信することでオーバーなループにしないようにすることです。現在、ほとんどのソーシャルネットワークでは、関連する通知をグループ化することでこれを回避しています。
4. モチベーションを高める、ユーザーへの報酬
もっとも魅力的なゲームは、本質的にやる気を起こさせるタスクを完了することで、プレイヤーに報酬を与えるゲームだと言えるでしょう(たとえば、プレイヤーへのごほうびとしてのコイン、ツール、武器、アップグレードなど、ゲーム内で利用できる報酬)。これらの報酬は、プレイヤーがナチュラルに完了を目指すことを楽しむタスクだと言えるでしょう。
Steven Reiss氏は、本質的な動機付けを取り巻く独自のアイデアで有名なアメリカの心理学者であり、人間の脳の生物学的報酬システムを活性化するものを理解していました。Reiss氏とそのチームは、世界中の6,000人以上にのぼる人々に広範なインタビューを行い、「Reissの16の基本的欲求」を提唱しています。
- 承認:認められたい
- 好奇心:知識を得たい
- 食:食べたい
- 家族:こどもを育てたい
- 誇り:伝統的なモラルを守る
- 理想:社会をよりよくしたい
- 独立:自立したい
- 秩序:きちんと整えること
- 運動:体を動かしたい
- 力:他者に影響を及ぼす
- ロマンス:セックスや愛を求める
- 貯蓄:ものを収集する
- 交流:人とふれあいたい
- 地位:社会的地位を得る
- 安心:心穏やかでいたい
- 復讐:仕返しをしたい
このリストは、ペルソナと共感マップの作成過程でユーザーにインタビューする際に参照できる素晴らしい財産になるものです。Twitterがはっきりと実証しているように、ユーザーの動機をはっきりと特定することは、より効率的な報酬・システムをデザインするためのすばらしい方法だと言えます。
Twitterは、ツイートに対するいいね!、リツイート、および返信の数を表示することでユーザーに報酬を提供します。
Twitterは、テレビゲームで2つのもっとも一般的な、内的動機に基づいた報酬システムをうまく導入しています。それは、「パワー」と「ステータス」です。「いいね」、リツイート、フォロワーの数を使用して、プラットフォームに対するユーザーの影響を測定しているのです。Twitterは、ユーザーがどれぐらいのポイントを獲得しているかを、ビジュアル的なフィードバックとしてわかりやすく表示しています。
5. ユーザーにプロダクトをすばやくマスターさせる
『ゲームデザインの楽しさの理論』という書籍で、ゲームデザイナーであるRaph Koster氏は、「楽しさは学習の単なる別の言葉である」と断言しています。彼が主に言おうとしていることは、楽しみはなにかをマスターするための道のりだということです。したがって、ゲームが目新しいことを提供してくれなかったり、新しい可能性を提示してくれなくなった時点で、楽しさは感じられなくなるということです。
人気のあるゲームは、早い段階から基本的なゲーム操作をマスターできるようにつくられているため、プレーヤーをすばやく惹きつけます。ゲームコンセプトとしてこれは「チュートリアル」と呼ばれますが、UXデザインではこれを「オンボーディング」と呼びます。このゲームデザインコンセプトは、テレビゲームやゲーミフィケーション・システムに限ったことではありません。たとえば、Slackはオンボーディングのフローがスムーズだということでよく知られています。
Slackは、作業チーム向けのクラウドベースのメッセージングおよびコラボレーションツールです。Slackは、オンボーディングプロセス中にツールチップを使用して、単純なタスク(チームメイトに直接メッセージを送信するなど)を実行する方法をユーザーに示します。また、フレンドリーなツアーガイドとしてアプリをユーザーに案内する「スラックボット」も備えています。これは操作をマスターするための最初のステップです。間違いを恐れることなく、基本を学ぶことができるのです。
ユーザーがSlackの基本機能に慣れたら、次にはSlackbotとともにプロファイルをカスタマイズしたり、絵文字を使ったり、タスクを自動化するなどの方法をマスターすることができます。ユーザーがこのレベルに到達すると、Slackの使い方の40%程度をマスターしたことになります。Slackは、ユーザーがSlack APIを使いこなすことでさらに使いやすいものになります。これにより、ユーザーは自分のボットを作成してトレーニングするだけでなく、誰でも使用できるパブリックチャンネルを作成できるのです。
レベルアップに利用できるのは、この方法のみです。アプリケーションを習慣的に利用するようにするために、Slackとテレビゲームの両方がコンテキスト化されたチュートリアルを巧みに利用し、オンボーディングプロセスを簡単なものにしているからです。ユーザーとプレーヤーがこれらの規則的なことに慣れてきたら、次のレベルに進むことを試みようとするでしょう。これにより、エンゲージメントはさらに促進されるのです。
ビギナーとヘビーユーザーの両方がそれぞれのやり方でプロダクトをマスターし、そのユーザー体験をカスタマイズできるようにするSlackのようなプロダクトをUXデザイナーがデザインすることで、ユーザーのアンインストールや退会が減少し、記憶に残るプロダクトが生まれるでしょう。
最後に
要約してみましょう。5つのセクションのそれぞれを、プロダクトデザイナーがアイデアやコンセプトをブレインストーミングするときに参考にできる質問に分けてみました。ゲーミフィケーション技術からインスピレーションを得て魅力的なユーザー体験を作成するために役立つものとなるでしょう。
1. 意味のある選択肢を作成する
- ユーザーがプロダクトや体験との感情的なつながりをどのようにして感じることができるでしょうか?
- プロダクトが提供できる意味のあるデータとはどのようなものでしょうか?
2. ユーザーに挑む
- ユーザーの投資を増やすために、プロダクトを本質的に挑むものにするにはどのような方法があるでしょうか?
- ユーザーにとって有益な「追加のステップ」はどのようなものでしょうか?
3. ユーザーをエンゲージメントループに留まらせる
- プロダクトはどのようにして、ユーザーを夢中にさせることできるでしょうか?
- プロダクトのエンゲージメントループはどのようなものになるでしょうか?
4. モチベーションを高めるためのユーザーへの報酬
- ユーザーのモチベーションを高めるものは何でしょうか?
- ユーザーの動機をターゲットとして、報酬システムをどのようにデザインしますか?
5. ユーザーがすばやくマスターできるプロダクト
- ビギナーでも簡単にマスターできて、同時にヘビーユーザーが退屈しないプロダクトはどのようなものでしょうか?
ゲームデザインのコンセプトについて学び、UXやプロダクトデザイナーとしての知識を活用するということは、必ずしもデザインするプロダクトにバッジ、ポイント、ランキングなどのゲーム用のエレメントを含めるべきだということではありません。現在、世界でもっとも人気のあるいくつかのプロダクトは、ユーザー心理学を取り入れ、ゲームUXのコンセプトのもとで成功的なエンゲージメントを実現しています。